外患誘致罪(がいかんゆうちざい)とは?法定刑は死刑?定義や事例を紹介

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皆様、外患誘致罪(がいかんゆうちざい)という罪名を聞いたことはありますでしょうか。
これまで外患誘致罪が適用された実例はありませんので、ほとんどの方が耳にしたことはないかと思います。
決して身近な犯罪とはいえませんが、国家の独立と安全を守るために定められた重大な規定ですので、皆様に知っていただくべく、今回は外患誘致罪について解説します。
外患誘致罪(がいかんゆうちざい)とは何か
外患誘致罪(がいかんゆうちざい)とは、刑法第81条に規定されている犯罪です。
外国と通謀して日本に対する武力攻撃を引き起こす行為を処罰するものです。
国家の安全を脅かす極めて重大な犯罪とされ、刑罰は死刑のみです。
戦争や侵略を誘発する行為を防ぐために設けられており、実際の適用例はこれまで一度もありませんが、国家反逆罪に相当する重罪とされています。
法定刑
法定刑とは、ある犯罪に対して法律によって予め定められている刑罰のことをさします。
例えば、窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」と刑法に規定されており、このように刑の種類(懲役、禁固、罰金等)や量(年数や金額)が定められています。
そして、法定刑のうち最も重いものが「死刑」ですが、外患誘致罪の法定刑は「死刑」のみです。
すなわち、外患誘致罪を犯した者は、情状酌量等の刑の減軽事由がない限り、死刑になるしかないということです。
このように外患誘致罪は、現行法の刑法で最も重い罪といえます。
それほど、外患誘致罪は、国家の存立を根底から揺るがす重大な犯罪だということです。
外患誘致罪の定義
外患誘致罪は、刑法第81条に「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。」と規定されています。
以下、詳しく条文の定義等についてみていきましょう。
「外国」の意味
外患誘致罪における「外国」とは、日本以外の国家の政府、軍隊等の国家機関のことをいいます。
必ずしも、国際法上承認されている国家である必要はないとされており、例えば、国家と同様の組織的機能を持ち日本に対して武力を行使する能力と意思を有していれば「外国」とみなされる可能性はあります。
ただし、解釈には慎重を要し、実際の適用には個別具体的な判断が必要となります。
なお、外国人個人や私的団体、テロ組織は国家機関ではありませんので、「外国」には含まれません。
もちろん、テロに加担したのであれは、別途国際法等によって裁かれることになるでしょう。
「通謀して」の意味
外患誘致罪における「通謀して」とは、日本に対する武力行使を目的として、外国と意思の連絡を取り合い、共通の目的を持つことを意味します。
これは単なる情報提供では足りず、双方が合意や共謀の状態に至っている必要があります。
すなわち、外国側と具体的に「日本を攻撃する」という目的を共有し、その実現に向けて協力しようとする意思疎通があることが必要です。
「武力を行使させた」の意味
外患誘致罪における「武力を行使させた」とは、行為者が外国に働きかけ、日本に対して武力攻撃をさせることをいいます。
「武力」とは、必ずしも戦争を起こさせることまでは必要ではなく、外国軍による侵攻、ミサイル攻撃、またはそれに準ずる規模の軍事行動等があれば、武力行使とみなされます。
他方で、サイバー攻撃は武力行使には含まれません。
未遂であっても処罰される
外患誘致罪は、未遂であっても処罰の対象となります。
これは、刑法87条において、外患に関する罪の未遂は罰すると定められているためです。
外患誘致罪のような国家の存立にかかわる重大犯罪では、予防的な観点から未遂段階でも重く取り締まるべきだからです。
そのため、自衛隊が防衛するなどして日本に対する武力行使が未遂に終わった場合でも、未遂罪として処罰される可能性があるということです。
そして、未遂であっても既遂と同じ法定刑が適用されるため、裁判所の判断により、情状酌量がなされないと、死刑になる可能性があります。
外患誘致罪の事例
外患誘致罪が成立する可能性がある事例としては、日本人が、外国政府関係者に極秘に接触・共謀し、外国の軍隊が日本を侵略するような計画を練り、日本に武力攻撃を仕向けるという行為です。
「外国との共謀」と「日本に対する武力行使」が外患誘致罪の核心です。
外患誘致罪の裁判例はない
これまでに外患誘致罪が適用された裁判例は存在しません。
外患誘致罪の適用がこれまでない主な理由としては、以下の点が考えられます。
成立要件の厳格さ
罪の成立には、外国と通謀し、日本に対する武力行使を実際に引き起こすことが必要ですので、そのハードルは非常に高いと考えられています。
捜査機関や裁判所が慎重になるのでしょう。
法定刑の重さ
死刑のみのため、その適用には慎重な判断が求められるのでしょう。
適用が検討された事例
外患誘致罪が過去に検討された事例として、ゾルゲ事件(1941年)があります。
これは、旧ソ連のスパイ、リヒャルト・ゾルゲが日本国内で諜報活動を行い、当時の日本政府関係者と共に軍事機密をソ連に提供していたという事件です。
この事件では外患誘致罪での起訴が検討されましたが、最終的には治安維持法や国防保安法違反等で起訴され、外患誘致罪は適用されませんでした。
この事件は、外患誘致罪がいかに適用のハードルが高いかを示す例と言えるでしょう。
外患誘致罪に混同しやすい犯罪
次に、外患誘致罪に似た犯罪について解説します。
外患予備、陰謀罪
外患予備・陰謀罪は、刑法88条に規定されています。
外患誘致罪や次に述べる外患援助罪等の、重大な外患に関する犯罪を実行する前段階(準備・計画段階)で処罰するための犯罪です。
外患誘致罪は、武力行為を引き落としたまたは引き起こそうとした段階で成立しますが、外患予備・陰謀罪は、まだ実行していなくとも準備や計画を行った段階で成立します。
法定刑は、「1年以上10年以下の懲役」です。
外患援助罪
外患援助罪は、外患誘致罪の次、刑法82条に規定されています。
日本国に対する外国の武力行為に加担して、日本を攻撃する者を罰するというものです。
外患誘致罪は攻撃を“呼び込む”のに対し、外患援助罪は、既に行われている攻撃を“助ける”行為と考えるとイメージがつきやすいと思います。
法定刑は、「死刑または無期もしくは2年以上の懲役」です。
内乱罪
内乱罪は、刑法77条に規定されており、国家の統治機構を破壊・転覆することを目的として暴動を起こす犯罪です。
外患誘致罪は、外国の力を借りて日本を攻撃させる行為ですが、内乱罪は、日本国内で暴力的反乱などを起こす行為である点が異なります。
しかし、両罪とも国家の安定を揺るがす行為として、強く処罰される犯罪であることは共通しています。
内乱罪の法定刑は、暴動を行った者の立場で変わっています。
- 首謀者 死刑または無期懲役
- 謀議参与者、群衆を指揮した者 無期または3年以上の禁固
- 諸般の職務に従事した者 1年以上10年以下の禁固
- 付和随行する等、単に暴動に参加した者 3年以下の禁固
内乱予備・陰謀罪
内乱罪も外患誘致罪同様、内乱を実行する前段階(準備・計画段階)を処罰するための内乱予備・陰謀罪が定められています。
刑法88条に規定されており、法定刑は「1年以上10年以下の禁固」です。
武器の準備行為(予備)、複数人が内乱を起こすことを合意し計画を立てる行為(陰謀)が処罰の対象となります。
国家の案勢に対する高度な危険性を理由に、早期から処罰可能にしています。
内乱等幇助罪
内乱等幇助罪は、刑法79条に規定されています。
内乱を起こすための場所や資金、食料等を提供するなどし、内乱を幇助した場合は、内乱等幇助罪になります。
内乱予備・陰謀罪は、自ら内乱を起こす目的で準備や計画を行うのに対し、幇助は他人の内乱犯罪を手助けするという犯罪行為です。
法定刑は、「7年以下の懲役」です。
まとめ
今回は、外患誘致罪について、定義や事例、類似犯罪等について解説しました。
外患誘致罪は、国家の存在、そして多くの国民の生命を脅かす重大な犯罪ですので、今後も決して実際に起きてはならない犯罪です。
もちろん、外患誘致罪以外にも犯罪は多く存在します。
外患誘致罪は、一般の方にとってあまり身近な犯罪ではありませんが、刑事事件の加害者になってしまった場合には、早期に弁護士のアドバイスを受けるべきです。
東京スタートアップ法律事務所は、その他数多くの刑事事件を扱っております。
そのため、万一刑事事件の加害者になってしまった場合には、どのような事件でも構いませんので、まずはお気軽に東京スタートアップ法律事務所までご相談ください。
- 得意分野
- 一般民事
- プロフィール
- 名古屋大学法学部法律政治学科 卒業 名古屋大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内法律事務所 勤務 東京スタートアップ法律事務所 入所