業務上横領罪の初犯は実刑になる?判例をもとに刑期を解説
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「業務上横領とは、どのような犯罪かを知りたい」
「業務上横領で逮捕はされるの?」
「業務上横領は初犯で実刑になる?」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
業務上横領罪は、被害額によっては初犯でも実刑になる可能性のある犯罪です。
今回は、業務上横領罪の構成要件や単純横領罪などとの違い、刑期に影響を与える要素、実刑を避けるための方法などについて解説します。
業務上横領罪とは
業務上横領罪は、業務において自身が占有する他人の物を横領した場合に成立する犯罪です。
例えば、郵便局員が荷物を自分の物にしたり、会社の経理担当者が管理している金銭を着服したりした場合に業務上横領罪が成立します。
ここでは、業務上横領の構成要件と法定刑という基本的な事項と、区別が難しい単純横領罪や遺失物横領罪との違いを解説します。
1.業務上横領罪の構成要件・法定刑
業務上横領罪は、「業務上自己の占有する他人の物を横領」した場合に成立する犯罪です(刑法253条)。
「業務」とは、社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行われる事務のことをいいます。
例えば、会社や顧客の金銭や物品を管理する業務などが該当します。
「自己の占有する他人の物」とは、自分自身が他人の財物を支配・管理している状態をいいます。
会社の経理担当者は会社という他人の金銭を管理しているので、会社のお金は「自己の占有する他人の物」です。
「横領」とは、所有者でなければ許されない方法で処分することで、簡単に表現すると「自分のものにしてしまう」ことをいいます。
自己の占有する他人の物を勝手に売ってしまった場合も、所有者でなければできない方法での処分と言えるため、「横領」が成立します。
業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役です。
2.単純横領罪・遺失物等横領罪との違い
単純横領罪は、業務上横領罪から「業務上」の部分が除かれた犯罪です。
例えば、友人から借りた車を勝手に売却した場合や友人から借りたゲームを返さずに自分の物にした場合などに単純横領が成立します。
単純横領罪の法定刑は、5年以下の懲役です。業務で占有する物を横領する方が責任は重いため、業務上横領罪の方が法定刑は重くなっています。
遺失物横領罪は、他人の占有を離れた物を横領した場合に成立する犯罪です。
例えば、放置自転車や落とし物の財布を自分の物にした場合に遺失物横領が成立します。
遺失物横領罪の法定刑は、1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料です。
遺失物横領は占有を離れた物を対象とする犯罪なので、単純横領罪よりも軽い法定刑となっています。
3.横領と着服の違い
着服とは、他人の財産を勝手に持ち去る行為を指します。
具体的な例としては、勤務先の売上金を私的な目的で使う、会社の資金を不正に流用する、他人の財布からお金を盗むなどが挙げられます。
着服は、他人の財産を不正に占有することであり、所有権を侵害する行為です。
着服と横領は、どちらも他人の財産を不正に占有する行為で、日常的にはほぼ同じような意味で用いられています。
新聞やニュースなどの報道では、横領のことを「着服」と表現することも多いです。
両者の大きな違いは、横領は横領罪として刑法で規定されている犯罪であるのに対し、着服は刑法等に規定されている法律用語ではないという点です。
一般的に「着服」と呼ばれる行為は横領罪に該当することが多いですが、窃盗罪に該当するケースもあります。
業務上横領罪での刑期に影響を与える要素とは
業務上横領罪の裁判例を分析すると、刑期に影響を与える要素として以下の4点があげられます。
- 被害金額
- 加害者の社会的地位
- 犯行の態様・動機
- 被害弁償・示談の状況
判決では、それぞれの要素を総合的に判断して量刑が決められます。
被害金額が大きくても、被害弁償の状況によっては執行猶予判決となる可能性もあります。
ここでは、それぞれの要素について詳しく解説します。
1.被害金額
業務上横領罪の刑期に最も大きな影響を与える要素は被害金額です。
被害金額が100万円を超える事例では初犯でも実刑判決が下される可能性があります。
被害金額が1,000万円を下回る事案では、被害弁償が完了していれば執行猶予付きの判決となる可能性も十分にあります。
一方、被害金額が数千万円にも及ぶ事案では、たとえ被害弁償が完了していても実刑判決となる可能性が高いです。
2.加害者の社会的地位
加害者が弁護士や司法書士などの法律や司法制度に関わる職業に就いている場合、その行為は単なる犯罪行為以上に重く処罰される傾向にあります。
なぜなら、彼らは社会的な信用を持つ職業に就いており、その信用を損なう行為は社会的な影響が大きいとされるからです。
近年、弁護士や司法書士が業務上横領罪で摘発されるニュースをよく目にします。
これは、彼らが職務上の立場を悪用して金銭を横領したり、不正な取引を行ったりする行為です。
このような場合、初犯で実刑判決が下されるケースも少なくありません。
これは、法律や司法制度に関わる職業に就いている以上、法律の専門家としての職業倫理を守ることが求められるからです。
ただし、必ずしも実刑判決が下されるというわけではなく、個別の要素によって判決が異なることもあります。
3.犯行の態様・動機
横領の態様が計画的で巧妙な手口で行われていた場合には、稚拙な方法による場合よりも重く処罰される傾向にあります。
業務上横領罪では、犯行が繰り返し行われるケースも多く、その場合は、当然のことながら一度きりの犯行よりも重く処罰されます。
犯行の動機も、刑期に影響を与える要素の一つです。
犯行の動機にやむにやまれぬ事情がなく、安易な気持ちで私的な目的のために犯行に及んだ場合には重く処罰される傾向があります。
4.被害弁償・示談の状況
被害弁償や示談の状況は、実刑判決と執行猶予判決を分ける決定的な要素となる可能性があります。
早期に被害弁償や示談が完了しているケースでは、逮捕にすら至らないことも少なくありません。
業務上横領の被害金額が100万円を超えるケースで被害弁償を一切行わない場合には、初犯でも実刑判決が下される可能性が高いです。
加害者としては、被害額全てを弁償できなくても、少しでも被害弁償を行うことが重要といえるでしょう。
被害弁償や示談に時間がかかる場合も、控訴審の判決が下されるまでの事情は判決で考慮されます。
そのため、犯罪事実に争いがない場合でも、被害弁償の準備のために控訴審まで裁判を継続するケースもあります。
業務上横領罪の刑期は?3つの裁判例をもとに紹介
業務上横領の具体的な態様や判決をイメージするために、実際の裁判例を3つ紹介します。
- 郵便局員が切手を着服した事例
- 司法書士が相続財産を着服した事例
- 青年後見人が青年被後見人の財産を着服した事例
業務上横領の裁判では、被告人の立場や被害額が重視されて判決が下されるため、その点に着目して各裁判例を見ていきましょう。
1.郵便局員が切手を着服した事例
最初に紹介するのは、郵便局員が切手を着服し、懲役3年の実刑判決が言い渡された事例です。
- 被告人の立場:郵便局員
- 被害額:1億7600万円
- 判決:懲役3年
この事例は、郵便局の会計事務の総括、現金出納、資産管理などの業務を担当していた郵便局員が、164回にわたって約1億7,600万円分の郵便切手を他店に売却し、売却代金を着服した事例です。
被告人は会計事務の責任者としての立場を悪用し、切手の売却代金を自身の交際相手との関係維持のためなど個人的な目的で使用していました。
犯行の発覚後、被告人は1億7,000万円を弁償し、さらに200万円の弁償を申し出ていましたが、犯行の態様が悪質であったため懲役3年の実刑判決が言い渡されました。
参考URL:令和3年5月10日 東京地方裁判所刑事第6部宣告|裁判所
2.司法書士が相続財産を着服した事例
次に紹介するのは、司法書士が相続財産を着服し、懲役2年6月、執行猶予3年付きの判決が下された裁判例です。
- 被告人の立場:司法書士
- 被害額:約750万円
- 判決:懲役2年6月 執行猶予3年
司法書士や弁護士が依頼人から預かった相続財産を着服する事例はたびたび報道されて、社会的にも大きな問題となっています。
この事例では、遺言執行者となった司法書士が、相続財産として預かり保管していた預金のうち約750万円を自分名義の口座に振り込んで着服した事案です。
被告人は、相続財産を自身のために使用する目的はなかったとして犯罪の成立を否定していました。
しかし、裁判所では、以下のような事実から被告人が振込入金したのは自身のために使用する目的であったと認定しました。
・被告人が振込をした口座が個人的な用途で使用される口座であったこと
・他の金銭と区別していなかったこと
・口座残高が着服した金額を下回っても補填しなかったこと
最終的な判断では、被告人の犯罪は司法書士の社会的信用を失わせる責任の重いものと認定しましたが、以下のことから実刑判決ではなく執行猶予付きの判決が下されました。
・被害者との和解が成立して被害弁償を済ませたこと
・被告人が司法書士登録を取り消されて再犯の可能性がないこと
参考URL:平成26年9月2日判決宣告|裁判所
3.成年後見人が成年被後見人の財産を着服した事例
最後に紹介するのは、成年後見人が成年被後見人の財産を着服し、懲役1年10月の実刑判決が下された裁判例です。
- 被告人の立場:成年後見人
- 被害額:約3,800万円
- 判決:懲役1年10月
この事例は、叔父の成年後見人に選任された被告人が、成年後見人の財産を着服した事例です。
弁護士や司法書士だけでなく親族が成年後見人に選任されたケースでも、成年被後見人の財産が着服される事案は少なくありません。
被告人は叔父との関係性から、預金を自分のために使っても許してくれると考えて、生活費や遊興費として叔父の預金を着服しました。
本件の動機に酌量の余地はなく、被害額も多額で弁償の見込みもありませんでした。
一方で、被告人には心神耗弱という責任能力の点で問題があったため、懲役1年10月の判決が下されました。
本事例と同様の被害額でも、被告人の立場が弁護士や司法書士などの専門家で責任能力に問題がなければ、より重い判決が下されることは間違いないでしょう。
参考URL:平成21年3月24日宣告|裁判所
業務上横領罪で実刑判決を受けないための弁護活動
業務上横領罪における弁護活動は、被害者との示談交渉が中心となります。
業務上横領罪では、加害者が逮捕されるケースが多いです。弁護人は、自分では示談交渉を進めることができない加害者に代わって被害者との示談交渉を進めます。
逮捕から起訴されるまでの間に被害者との示談が成立した場合には、不起訴となる可能性もあります。
起訴されてしまった場合でも、被害者との示談が成立していれば執行猶予判決を受けられる可能性が高いです。
被害者が弁償に応じない場合や賠償金全額を用意できない場合でも、弁護人は諦めずに交渉を続け、最終的には供託するなどして少しでも加害者にとって有利な判決となるよう努めます。
業務上横領罪についてのよくある質問
最後に、業務上横領罪についてのよくある質問に回答します。
1.被害弁償をしても逮捕される可能性はありますか?
被害者への被害弁償を終えていても、犯罪自体は成立しています。
そのため、被害弁償をしていても逮捕される可能性はあります。
逮捕される可能性を減らすには、被害弁償と同時に被害者との間で加害者の処罰を求めない内容の示談書を交わすことが重要です。
被害者との示談交渉については、逮捕前であっても弁護士への相談をおすすめします。
2.逮捕から裁判までの流れはどうなりますか?
業務上横領罪で逮捕されると、逮捕から最大で23日以内に起訴されるか否かが判断されます。
この間に被害者との示談が成立した場合には、不起訴となる可能性もあるでしょう。
起訴後は、保釈の請求が可能です。業務上横領罪の場合、被害金額にもよりますが保釈は認められるケースが多いでしょう。
通常の事案では、起訴から1~2か月後から裁判が始まります。
3.起訴された後でも示談を成立させる意味はありますか?
起訴された後でも示談を成立させる意味はあります。
被害弁償や示談が済んでいるかは、裁判の量刑を決めるうえでの重要な要素です。
起訴された後でも控訴審の判決が下されるまでは、被害弁償や示談の状況をふまえて量刑が決まります。
示談を成立させられる見込みがあるのならば、示談交渉は起訴後も継続すべきです。
また、業務上横領での被害は、刑事裁判だけでなく民事裁判においても損害賠償請求の対象となります。
起訴された後や刑事裁判の判決が下された後でも、示談が成立していない限りは民事上の損害賠償請求を免れることはできません。
まとめ
今回は、業務上横領罪の構成要件、単純横領罪などとの違い、刑期に影響を与える要素、実刑を避けるための方法などについて解説しました。
業務上横領罪で取り調べを受けたり、逮捕・勾留されたりした場合には、被害者との示談交渉を進めるために弁護人が必要となります。
弁護人を選任すれば、示談交渉はもちろんのこと、家族や職場との連絡や取り調べの対応についてのアドバイスなどを受けられます。
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- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設