認知症の人の遺言書は無効になるとは限らない!遺言能力の判断基準は?
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記事目次
「認知症だった親の遺言書が見つかったが、これは有効なのだろうか?」
「親にそのうち遺言書を書いておいてもらおうと思っていたのに、急に認知症になってしまった。遺言書はもう作れないのだろうか?」
などと、お悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
遺産相続の際に揉めないためには、遺言書の存在が非常に重要です。しかし、それが認知症の方が作成したものだった場合はどうなるでしょうか。
認知症の方が作成した遺言書に効力があるかどうかは、ケースによって異なるため、一概にはいえません。ご本人に遺言能力がある状態で作成されたものであれば有効とみなされ、遺言能力が欠如した状態で作成されたものであれば無効となります。
今回は、認知症の方が作成した遺言書の有効性、認知症の方の遺言能力の判断基準、遺言書の有効性に疑いがある場合の対処法、相続で損をしないために知っておくべき基礎知識、遺言の有効性についての争いを避けるための対策などについて解説します。
認知症の方が作成した遺言書の有効性
認知症の人が遺した遺言書が見つかっても無効になるのでしょうか。
認知症の方が作成した遺言書の有効性について説明します。
1.認知症だからといって必ずしも無効になるわけではない
遺言者が認知症だったからという理由で、その遺言書が直ちに無効になることはありません。また、認知症になってしまったからといって、必ずしも遺言書を作成できないわけでもありません。
認知症の方が残した遺言の通りに相続を実現させられるケースもあります。
2.判断基準は遺言能力の有無
遺言能力とは、遺言の内容を理解し、遺言の内容に従った結果どうなるかを認識できる能力のことです。認知症の方の作成した遺言書が有効かどうかは、この遺言能力の有無によって判断されます。これは、民法第963条で以下のように規定されていることによります。
“遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。”
認知症の方の遺言能力の判断基準
では、遺言者に遺言能力があったかどうかはどのように判断されるのでしょうか。その判断基準について説明します。
1.遺言内容が合理的か
遺言者が遺言を作成する意図や動機、理由が、遺言者と相続人、受遺者との関係性を鑑みて、合理的であるとみなされた場合、遺言能力はあったと判断されます。
逆に、生前の遺言者と相続人、受遺者との関係に照らして、遺言内容が不自然に思われるものであれば、認知症の程度とは別に遺言能力はなかったとされる可能性があります。
2.遺言内容が複雑ではないか
遺言内容が複雑であった場合、認知症の遺言者がその内容を理解していたとは判断されにくく、遺言書は無効になる可能性が高いでしょう。
例えば、複数ある財産を数人の相続人に分けて相続させるような内容などは、遺言者がその内容を理解して、起こりうる事態を認識していたとは考えづらいため、遺言能力が疑われます。
逆に「遺産は全て、特定の一人に相続させる」などといった単純明快な内容であれば、遺言能力があったと判断されやすいでしょう。
3.遺言書作成時の本人の年齢や心身の状態
誰でも加齢によって判断能力は多かれ少なかれ低下します。高齢になるほど認知症を発症する可能性も高まります。そのため、死亡時の本人の年齢も考慮されます。
また、遺言者の心身の状態も判断基準の一つです。遺言当時の精神鑑定や主治医等の診断などを元に、精神的な障害の有無や、その症状と程度なども参考に判断されます。
遺言書の有効性に疑いがある場合の対処法
遺言書が見つかり、その内容が執行されたものの、遺言者が認知症であったために、その有効性が疑わしい場合もあるかもしれません。そのような場合はどうすればよいのでしょうか。
1.家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てる
調停とは調停委員の仲介によって、再度、当事者同士で話し合いをする手続きです。遺言の有効性は裁判所が判断するわけではないため、話がまとまらず解決しない可能性もあります。
家事事件には、まずは調停手続きを行い、それでも解決しなければ訴訟提起をするという原則がありますが、遺言無効確認調停では調停が不成立になる可能性が非常に高く、実際には調停を経ずに訴訟を起こすケースがほとんどです。そのため、原則として経なければならない手続きではあるものの、実際はあまり利用されることがない手続きといえるでしょう。
2.地方裁判所に遺言無効確認請求訴訟を提起
訴訟提起をすれば、裁判所がそれぞれの主張を元に遺言が有効かどうかについての判断を下します。多くの場合、遺言者の医療記録や介護記録を提出し、遺言作成の経緯について、互いに主張・立証することになるでしょう。
実際に訴訟提起をする際は、被告の住所地または被相続人の最後の住所地を管轄する地方裁判所で行います。訴訟手続きは自分で行うこともできますが、準備すべき書類が多く、裁判手続き独特のルールに則って書面や証拠を提出して進めなければならないことも多いため、慣れない方にとっては大変な負担になります。訴訟を起こすのであれば、弁護士に依頼するのが賢明だといえるでしょう。
① 遺言無効確認請求訴訟には時効がない
遺言無効確認請求訴訟には時効がないため、いつ提起してもかまいません。
しかし、あまりに時間が経過してからでは、既に受遺者が遺産を処分していたり、無効といえるための証拠が残っておらず回収できない可能性もあります。
敗訴した場合は、遺留分侵害額請求を行うことにより遺留分を獲得できますが、その時効は1年です。遺言無効確認請求訴訟には時効がないとはいえ、可能な限り早急に訴訟提起をした方がよいでしょう。
3.遺言書が無効だと判断された場合は遺産分割協議が必要
遺言書が無効とされた場合、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
協議がまとまれば、遺産分割協議書を作成すれば完了です。ただし、遺産分割協議書には相続人全員の署名、押印が必要であり、一人分でも欠けると効力がないという点には注意しましょう。
遺産の分割方法がわからなかったり、相続人同士で揉めたりして話が進まない場合は早めに弁護士に相談しましょう。弁護士が法律に則った解決策を提案したり、代理人として協議に参加したりすることで、早期に解決する可能性もあります。
相続で損をしないために知っておくべき基礎知識
相続問題は身近な問題ということもあり、弁護士を頼らず、当事者だけでの解決を試みられる方も多くいらっしゃいます。しかし、専門家が関与しない分、法律知識が不足していたために損をすることも少なくありません。
ここでは相続で損をしないために知っておくべき基礎知識を紹介します。
1.認知症の方の遺言書が有効となった場合
遺言書が有効であれば、その内容通りに相続手続きが執行されます。受遺者となり、多額の遺産を獲得できるなら問題ありませんが、他の方が受遺者となり、ご自身はほとんど何も獲得できないこともあります。
遺言によって、特定の人が遺産を独占してしまい、ご自身はほとんど何も取得できなかったという場合は遺留分侵害額請求を行いましょう。
遺留分とは、法律によって相続人が取得できることが保証された最低限の相続額です。ご自身の相続が遺留分の額に満たない場合は、遺産を独占している受遺者に対して遺留分侵害額請求権を行使します。これは難しいことではなく、受遺者に遺留分の支払いを求めるだけです。口頭で請求してもかまいませんが、相手が応じずトラブルになった場合や後から時効期間内に請求したことを示す場合に備えて、証拠が残るよう内容証明郵便で行うことをおすすめします。
また、相手が遺留分の支払いに応じず、解決しない場合は、地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起して支払いを求めることになります。
2.認知症の方の遺言書が無効となった場合
遺言書が無効となった場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議を行う場合は、ご自身が本来得るはずの利益を逃さないために以下の点に注意しましょう。
①生前に贈与を受けた人がいるなら特別受益を主張する
相続人の中に、被相続人から生前贈与や遺贈を受けた人がいる場合は、その人たちが既に受け取った利益を「特別受益」として、遺産に含めて考えます。これを「特別受益の持ち戻し」といいます。
また、特別受益には時効がありません。そのため、かなり昔に贈与されたものでも特別受益とみなされる可能性があります。例えば、10年前に親からマイホーム購入資金として受け取ったお金や、20年前に学費の援助として贈与されたお金なども特別受益に該当する可能性があります。公平な遺産分割を実現するためにも、特別受益を受けた相続人がいる場合は持ち戻しを主張しましょう。
②被相続人に特に貢献した場合は寄与分を主張する
被相続人を献身的に介護していた場合や、金銭的な援助をしていた場合は、寄与分を主張しましょう。寄与分を主張することで、遺産を多く獲得できる可能性があります。
しかし、寄与分は遺産分割協議の場で必ず考慮すべきという決まりはありません。本人が主張することにより協議されるものです。被相続人に対して特別な貢献をした場合は、その報いを受けるためにもしっかり主張することが大切です。
遺言の有効性を巡る争いを避けるための対策
相続における親族同士での争いはできるだけ避けたいものです。そのためには、確実に効力のある遺言書を残しておくことが非常に重要といえるでしょう。遺言の有効性を巡る争いを防ぐための対策について説明します。
1.判断能力があるうちに公正証書遺言の作成を
最も望ましいのは、まだ元気で判断能力があるうちに遺言書を作成しておくことです。確実に有効な遺言書を作成したい場合は、自分で作成する自筆証書遺言ではなく、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言がよいでしょう。
遺言書には守るべきルールが法律で定められており、それに従っていないものは無効となります。自筆証書遺言では、知識が不足しているために形式に不備があるケースも多く、遺言書が残っていても無効となる場合が少なくありません。
一方、公正証書遺言であれば、公証人に作成してもらえるため、確実に有効な遺言書を残せます。さらに、作成には2人の証人が立ち会い、遺言者が既に認知症を患っている場合は医師による診断書の提出を求められるため、後になって遺言能力の有無を巡る争いが起きるのを防げる可能性が高いでしょう。遺言無効確認請求訴訟に発展した場合も、裁判所が遺言書は無効であると判断する可能性は低くなります。
2.医療記録などを準備して遺言書の作成を
遺言書が残されていても、他の相続人から「遺言作成時には既に認知症を患っていた可能性がある」などと言われて、無効を主張される可能性もあります。そのような場合に備えて、遺言者が認知症を患っていなくても、遺言作成時点で医師による診断書やカルテの写しを取得しておくとよいでしょう。客観的な医療記録を提示すれば、その有効性を認めざるをえず、争うことなく解決できる可能性が高いでしょう。
まとめ
今回は、認知症の方が作成した遺言書は有効性、認知症の方の遺言能力の判断要素、遺言書の有効性に疑いがある場合の対処法、相続で損をしないために知っておくべき基礎知識、遺言の有効性についての争いを避けるための対策などについて解説しました。
認知症の方が作成した遺言書が有効性については、遺言者の遺言能力の有無、遺言当時のご本人の健康状態、遺言書の内容などを考慮し、総合的に判断されます。そのため、遺言者作成当時に既に認知症を発症していたとしても、必ずしも遺言者が無効になるとは限りません。
その有効性は、その判断は専門知識や経験がない方には容易に下せるものではないため、認知症の方が残した遺言書の有効性を巡って争いになりそうな場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。
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