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投稿日: 更新日: 弁護士 宮地 政和

遺言書の書き方と注意点を解説・民法改正後の新制度や例文も紹介

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遺言書は、遺産相続を巡るトラブルを未然に防ぐために重要な役割を果たします。ただし、遺言書は定められた方式に則って作成しないと法的な効力を持たないため、作成に際しては細心の注意が必要です。
今回は、法律で定められている遺言書の方式、遺言書作成上の注意点などについて、2018年7月の民法改正を受けて開始した新制度や改正点を踏まえて解説します。

法律で認められている遺言書の方式

法的に認められている通常の遺言書の方式には、遺言者が個人で作成して管理する自筆証書遺言、公証人立ち会いのもと作成する公正証書遺言、遺言書の存在のみを公証役場に記録してもらう秘密証書遺言の3種類があります。それぞれの特徴について説明します。

1.自筆証書遺言

証人による立ち会いも必要なく、思い立った時にすぐに作成可能な遺言書が自筆証書遺言です。費用もかからないため、最も簡便に作成できる遺言書といえるでしょう。
ただし、法律で定められた書式を守らずに作成された自筆証書遺言は無効となるおそれもあります。また、個人で遺言書を保管していた場合、遺言者が亡くなった後に第三者による遺言書の偽造や改ざんを防ぐ目的で、検認という家庭裁判所を介した手続が必須となるという点にも注意が必要です。

2.公正証書遺言

公証人役場に出向いて2名の証人の面前で遺言の内容を口述し、それを公証人が筆記して作成するのが公正証書遺言です。
遺言の内容は、公証人と証人に知られてしまいますが、完成した遺言書は公証役場に保管されるため、紛失や第三者による改ざんなどの可能性はありません
なお、公証人とは法務大臣より任命された公務員です。30年以上、裁判官や検察官などの職務についた経験のある人物の中から選任されます。

3.秘密証書遺言

自分で作成した遺言書を封印した状態で公証役場に提出し、遺言書の存在を公証人に記録してもらうのが秘密証書遺言です。
遺言の中身は誰にも知られたくない、秘密にしておきたいが、遺言書の存在は公にしたいという場合にメリットのある方式といえるでしょう。
遺言書自体は公証役場で預かってもらうわけではなく、遺言者が個人で保管することになるので、開封時には家庭裁判所による検認が必要となります。

4.特別な方式による遺言

上記の3つの方式のほか特別方式の遺言として、死期が迫っている遺言者の口述を筆記して作成する危急時遺言(臨終遺言)、感染病棟や航海中の船内など隔絶された状況で用いられる隔絶地遺言があります。
危急時遺言(臨終遺言)には一般危急時遺言と難船危急時遺言、隔絶地遺言には一般隔絶地遺言(伝染病隔絶地遺言)と船舶隔絶地遺言が含まれ、遺言を作成した後に6か月以上遺言者が生存しており、事態が好転して通常の遺言書を作成できるような状態にある場合には、特別方式による遺言は無効となります。

遺言書を書く際の注意点

遺言書の本文に書く内容には特に制限がなく、相続と無関係な事柄を記載したからといって遺言書が無効になるということはありません。
ただし、法的な効力が発生する事項には何があるのか、遺言の内容を巡って遺族が争わずに済むためにはどのような点に注意すべきかという点はしっかり把握しておきましょう。

1.遺言で法的な効力が認められる項目は決まっている

遺言書に書いてはいけない事項というものは特にないため、何を書いても自由なのですが、法律上の効力が認められる事柄は限られています
民法上、効力が発生する法定遺言事項は以下の通りです。

  • 相続分の指定および、指定の委託 (民法第902条1項)
  • 遺産分割の方法の指定および、指定の委託 (民法第908条)
  • 相続から5年以内の期日を定め、その期日までの遺産分割の禁止 (民法第908条)
  • 財産の遺贈 (民法第964条)
  • 生前贈与など特別受益分の持ち戻し免除 (民法第903条3項)
  • 相続人の廃除および、廃除の取消し (民法第893条・第894条2項)
  • 遺言執行者の指定および、指定の委託 (民法第1006条)
  • 祭祀承継者の指定 (民法第897条1項)
  • 相続人同士の担保責任の指定 (民法第914条)
  • 遺留分侵害請求を受けた際の負担割合の指定 (民法第1047条)・婚姻外で生まれた子の認知(民法第781条2項)
  • 推定相続人に未成年者がいる場合、後見人および後見監督人の指定 (民法第839条1項・第848条)

2.遺留分に配慮する

民法第900条には法律で定める相続の範囲と割合が定められていますが、遺言書で指定すれば同条文に従わない相続や遺贈が可能となります。
しかし、偏った相続分や過度の遺贈も遺言書に記載されていれば認められるとなると、遺言の内容によって法定相続人の権利が不当に侵害されるおそれが出てきます。
これを防ぐための制度が、民法第1042条に定められている遺留分です。遺留分は被相続人の直系尊属(親や祖父母)、直系卑属(子や孫)、配偶者にのみ認められる、最低限度の相続分といえます。
法律上は相続の権利を持たない人物が多額の遺贈を受けた場合や、特定の相続人のみが過度の相続を受けた場合等において、自らの相続権を侵害された相続人は、遺留分侵害請求権に基づいて、過度の遺贈や相続を受けた人物に対して、金銭の支払いを求めることが可能です。
遺留分の割合は、相続人と被相続人との関係や相続人の関係、人数によって異なります。
受遺者や相続人同士での争いを防ぐためにも、遺言書を作成する際には遺留分を侵害した内容にならないよう、配慮することが大切です。

3.特別受益分がある場合は要注意

被相続人から相続人への遺贈や婚姻、生計の資本としてなされた贈与は特別受益の対象となります。そして、民法第903条では、特別受益分は相続財産を前倒しで譲渡したものとみなし、特別受益を受けた者は特別受益分を差し引いた金額を相続分として受け取るものと定められています。
これは、贈与等を受けた相続人がいた場合、その贈与分を考慮せずに遺産分割をすると、相続人の間に不公平が生じてしまうためです。
特別受益の対象となる贈与は、結婚費用、開業資金、住宅購入費用などであり、原則として扶養義務に基づく生活費などは含まれません。そのため、被相続人が生前に特定の相続人に行った援助が特別受益にあたるのかを巡って争いが起こるケースは少なくありません。
遺言書には、相続時に特別受益分は精算せず、相続財産に含めないものとする「特別受益分の持ち戻し免除」を指定することも可能です。生前贈与に該当する可能性がある行為をした心当たりがある方は、特別受益分の持ち戻しは免除するなど、遺言書に意思を記載しておくとよいでしょう。

自筆証書遺言の書き方と注意点

思い立った時に作成でき、遺言の内容も他者に知られずに済むなど、自筆証書遺言には多くのメリットがあります。
しかし、書式については厳密な規定があり、これを守らないと遺言書は無効になるという点には注意しましょう。具体的な注意点について説明します。

1.全文を遺言者が自筆で書く

遺言書の全文、つまり本文、作成年月日、署名は全て遺言者による自筆でなければいけません。パソコンで作成したものや、代筆による遺言は無効とみなされるため、必ず自筆で記載して下さい。
筆記具や用紙に指定はありませんが、一般的には、保存に耐えられるB5判やA4判サイズの用紙と、万年筆やボールペンなどの改ざんされにくい筆記用具を使用することが多いでしょう。

2.作成年月日・署名・押印は必須

作成年月日、遺言者の署名、押印のいずれか一つでも欠けてしまうと、遺言書の法的な効力は認められなくなります
作成年月日の表記は西暦、和暦、算用数字、漢数字のいずれを用いても構いませんが、第三者にも日付の特定が可能なように記載してください。
例えば、「令和○年○月○日」「西暦○年元日」という表記であれば具体的な作成日の特定が可能ですが、「令和○年○月吉日」では作成日を特定することができないため、遺言の法的効力が認められません。
なお、署名は戸籍上の氏名のほか雅号や芸名などであっても、個人が特定できるものであれば問題ありません。また、押印に使用する印鑑に指定はありませんが、実印の使用が望ましいでしょう。

3.内容は箇条書きが好ましい

誰に、どの財産を、どれだけ相続させたいのかという意思が明確に伝わるように、遺言書の内容は具体的に書いてください。
遺言事項が複数個ある場合には、項目ごとに箇条書きをして内容を整理するとよいでしょう。

4.相続財産は目録などを添付して具体的に示す

相続の対象となる財産についても客観的に特定できるよう、詳細に記述してください。
特に、不動産に関しては、相続後の登記をスムーズに行うためにも「土地は妻、家は長男が相続する」といった曖昧な記載は避け、登記事項証明書の通りに住所地や面積等を記載します。
財産目録を作成し、遺言書に添付することも可能です。相続遺産が複数ある場合には、あらかじめ目録を作成することで状況も整理できるでしょう。
なお、民法改正により、2019年1月13日からは、相続や遺贈の対象となる財産をまとめた財産目録はパソコンで作成することが認められるようになりました。また、財産の特定のため、通帳のコピーや登記事項証明書の写しなどを遺言書に添付することも可能です。

5.相続人・受遺者を明確に指定する

本来は相続の権利を持たない人物に財産を渡したいと希望する場合、受遺者の名前だけではなく、本籍や生年月日、住所などを記載し、どこの誰に財産を渡したいのかを確実に特定できるようにしておきます。
また、相続人については名前だけではなく、「長男の〇〇」などと続柄も記載しておくとよいでしょう。

6.遺言書が複数枚に及ぶ場合

遺言書が複数枚に及んだとしても、内容に一貫性があり、全て含めて一通の遺言書と認識できれば、割り印や各ページへの署名などは必須ではありません。
ただし、パソコンで作成した財産目録が複数枚に渡る場合は、各ページに署名、押印をしてください。

7.訂正や加筆等がある場合

遺言書の訂正、加筆、削除は、民法第968条3項に定められた方法に則って、以下のように行わなければいけません。

  • 訂正箇所がある際は訂正したい部分を二重線で消し、横に変更点を記載して押印する
  • 加筆する際は加筆箇所に挿入記号を入れ、加筆したい内容を記載した上で押印する
  • 削除したい箇所がある際は削除したい文章を二重線で消して押印する

上記に加え、変更した箇所の欄外もしくは遺言書の末尾に、変更の内容と署名をすることが必要です。訂正印は署名とともに使用した印鑑を使いましょう。

8.封筒の表書き

封筒に入れていない状態であっても遺言書は効力を持ちます。しかし、改ざんを防ぐためにも封筒に入れて封をして、保管することが多いでしょう。
遺言書を入れた封筒には「遺言状」「遺言書在中」などの表書きをして、裏には遺言者の氏名と作成年月日を書いた上で押印します。
そして、死後に勝手に開封されることを防ぐため、封印しておきましょう。

9.【新制度】法務局の自筆遺言書保管制度とは

2020年7月10日から、法務局にて自筆遺言書を保管してもらえる制度が開始されました。
保管申請時に3,900円の手数料が必要ですが、保管費用などはかからず、第三者による遺言の破棄や隠蔽、改ざんを防げるというメリットがあります。
また、遺言者の死後は被相続人が法務局に遺言保管の有無を問い合わせ、遺言書の写しの交付請求をするのですが、自宅で保管している場合と異なり、家庭裁判所による検認手続を経ずに内容を確認することが可能です。

自筆遺言書の文例サンプル

自筆遺言書の書き方については理解したけれど、実際にどのように書くべきなのか具体的なイメージができないという方もいらっしゃるかと思います。参考までに、ケースごとに自筆遺言書の文例と注意点を紹介します。

1.妻・配偶者に全財産を相続させたい場合

遺言書
遺言者○○は、妻△△に次にある遺言者の財産をすべて相続させる。
一、 土地 東京都○○区○○ ×丁目×番
宅地 ○○㎡
建物 東京都○○区○○ ×丁目×番
種類 居宅
構造 木造二階建て
床面積 一階○○㎡
二階○○㎡
三、 ○○銀行××支店に預けている遺言者名義の預金すべて
令和○年○月○日
遺言者氏名・押印

土地や建物についての表記は登記簿通りに記載してください。
また、他の相続人が存在するけれど特定の相続人に財産を全て相続させたいという場合、そのように考えた理由と、具体的な希望も記載しておくとよいでしょう。なお、他の相続人の遺留分を侵害しないように留意する必要があります。

2.特定の相続人に多く相続させたい場合

遺言書
遺言者〇〇は、各相続人の相続分について次のように指定する。
妻△△に、12分の6
長男▲▲に、12分の4
次男××に、12分の1
長女□□に、12分の1
令和○年○月○日
遺言者氏名・押印

相続人間のトラブルを防ぐために、どのような理由で相続分に差をつけたのかを書き添えることをおすすめします。

3.孫に遺産を渡したい場合

遺言書
遺言者○○は、財産のうち以下のものを孫の△△に遺贈する。
一、 ○○銀行××支店に預けている遺言者名義の預金すべて
二、 ○○株式会社の遺言者名義の株式××株
令和○年○月○日
遺言者氏名・押印

孫が法定相続人になるのは、子が遺言執行前に亡くなっている場合か、相続欠格者もしくは相続の廃除をされていて、代襲相続が発生した場合に限られます。
つまり、代襲相続が生じていない場合に孫へ財産を渡すには遺言書が必須となるため、注意しましょう。

4.【新制度】妻の配偶者居住権を確保したい

遺言書
遺言者〇〇は次のように遺言する。
一、 所有する以下の建物の配偶者居住権を妻△△に遺贈する。
建物 東京都○○区○○ ×丁目×番
種類 居宅
構造 木造二階建て
床面積 一階○○㎡
二階○○㎡
二、 所有する以下の建物の負担付所有権を長男××に遺贈する。
建物 東京都○○区○○ ×丁目×番
種類 居宅
構造 木造二階建て
床面積 一階○○㎡
二階○○㎡
三、 所有する以下の土地を長男××に相続させる。
土地 東京都○○区○○ ×丁目×番
宅地 ○○㎡
令和○年○月○日
遺言者氏名・押印

配偶者居住権は2020年年4月1日から開始した新しい制度です。
詳細な内容は民法第1028条に定められており、被相続人の所有する不動産にその配偶者が居住していた場合、他の相続人が該当の不動産を相続することになっても、配偶者は終身もしくは一定の期間、引き続き同じ場所に居住する権利が認められることになりました。

公正証書遺言の書き方と注意点

公証人立ち会いのもとで文書化されるため、無効な遺言書ができあがる心配をしなくて済むのが公正証書遺言の最大のメリットといえるでしょう。
なお、遺言者が入院中である場合や外出が困難な状況にある場合には、公証人に出張してもらって公正証書遺言を作成してもらうことも可能です。

1.公正証書遺言の作成手順

公正遺言証書の作成手順は以下の通りです。

  • 遺言者は遺言内容を口述し、その内容を公証人が筆記する
  • 完成した遺言書は公証人が音読して、遺言者と2名の証人に聞かせる
  • 内容に相違ないかを確認した後に、遺言者と証人が署名、押印する
  • 遺言書の作成手順を書き添えて、公証人も署名、押印する

完成した遺言書は公証役場にて保管し、遺言者の死後は検認不要で開封することが可能です。
押印には実印を使用することが求められるため、公正証書遺言作成時には実印と印鑑登録証明書が必要となります。なお、証人の押印は認印で問題ありません。

2.証人の条件

公正証書遺言の作成に立ち会う証人には条件があり、推定相続人と受遺者および、これらの人物の配偶者と直系の血族、未成年者、公証人の配偶者および、四親等内の親族、公証役場の職員は証人になることができません。
証人は公証役場で紹介してもらうことも可能です。証人を依頼できる人物が思い浮かばない方は相談してみるとよいでしょう。
また、遺言内容の確認を依頼した弁護士に証人を任せる方も多くいらっしゃいます。弁護士は職務上、守秘義務を負っているため、遺言書の中身を他言する心配がなく、安心して任せることができます。

秘密証書遺言の書き方・注意点

3種の遺言方式のうち、最も利用者が少ないのが秘密証書遺言です。証人を伴う手続が必要な一方で、中身は公証人が確認しないため遺言が無効になるおそれがある点が、秘密証書遺言のデメリットといえます。

1.秘密証書遺言はパソコンでも作成可能

秘密証書遺言の本文はパソコンで作成したものや、代筆してもらったものでも問題ありません。
しかし、作成年月日と署名は遺言者が自筆する必要があるため注意しましょう。なお、訂正や加筆については自筆証書遺言と同様の方法で行います。

2.遺言者自身で保管する

完成した遺言書は封筒に入れた後に封印し、公証役場で証人2名の立ち会いのもと、公証人に住所と氏名を告げて封紙にその旨を記載してもらいます。
この手続を経て秘密証書遺言は完成しますが、完成した遺言書は公証役場に預けずに遺言者本人が保管することとなります。
個人での保管である以上、遺言者の死後には検認が必要となります。また、紛失にも気をつけなくてはいけません。

まとめ

今回は遺言書の書き方や遺言書作成上の注意点について、民法改正以降に施行された新制度や自筆遺言書の具体例を含めて解説しました。

相続人の気持ちを反映した遺贈等をすることができる、遺産を巡る遺族間でのトラブルを防ぐことができる等、遺言書を作成するメリットは多岐に渡りますが、作成した遺言書が法的に無効とされてしまっては意味がありません。そのような事態を回避するためにも、弁護士にアドバイスを受けながら、悔いの残らない遺言書を作成することをおすすめします。

私達、東京スタートアップ法律事務所は、遺産相続に関する問題を抱えている方のご希望を丁寧にお伺いした上で、最適なサポートを提供しております。遺言書の作成のサポートやご相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
人生で弁護士に相談するような機会は少なく、精神的にも相当な負担を抱えておられる状況だと思います。そういった方々が少しでも早期に負担を軽くできるよう、ご相談者様の立場に立って丁寧にサポートさせていただきます。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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