監護権と親権とは?違いや区別する意味、監護権の判断基準について解説

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記事目次
離婚の際に子どもをどちらが引き取り養育するのかという点が問題になります。
このような問題は、法的には「親権」、「監護権」の問題です。
親権については聞いたことがある方でも、監護権についてはよく知らない方も多いかと思いますが、重要な権利になりますので、以下で詳しく解説を行います。
監護権とは?親権との違い
監護権を理解するためには、まず親権の内容を理解する必要があります。
「親権」とは、未成年の子どもに関して親が負う権利義務を意味しています。
親権の中には、大きく分けて、「身上監護権」(しんじょうかんごけん)と「財産管理権」が含まれています。
身上監護権とは、子どもの生活・教育・しつけなど、身の回りのことに関する権利義務を意味し、財産管理権とは、子どもの財産を管理する権利義務を意味しています。
「監護権」とは、親権の中から、身上監護権のみを取り出した権利義務を意味しています。
監護権と親権の具体例
上記のとおり、監護権とは、親権の中の身上監護権を取り出した権利になります。
民法上、監護権の中に含まれている権利義務としては、子の居所指定(民法821条)、監護・教育する義務(民法820条)などがあります。
この二つを分けて考えるときには、親権として認められるのは財産管理権、子に代わる法律行為(民法824条)などとなります。
このように、親権者とは、「親としての法律的代表者」であり、監護権者とは、「日常生活の保護者」となりますので、監護権者は子どもと一緒に生活をして、監護養育する親となります。
なぜ監護権と親権を区別する必要があるのか?
本来は親権の中に監護権が含まれていますので、この二つを分ける必要性はありません。
ただし、離婚する際に、子の福祉の観点や、親の事情や能力の観点から、この二つを分けて設定することもあります。
たとえば、以下のようなケースが想定されます。
1. 子どもと一緒に暮らしているのはA親だが、財産管理や契約処理はB親の方が得意
→ A親が監護権者、B親が親権者とする
2. 海外に住んでいる親が子どもと暮らすのは難しいが、経済的・法律的なサポートは可能
→ 海外の親を親権者、国内の親を監護権者とする
3. 対立が激しいため、法的権限と日常生活の権限を分けてトラブルを減らしたい
→ 親権と監護権を分離して、役割分担を明確にする
監護権だけを持つ場合の法的立場
監護権と親権とを分けた場合に、監護権者は養育者として子どもと一緒に暮らし、躾をすることはできますが、親権者という法的代表者ではないため、重要な法的手続きを行うには制限があります。
たとえば、子どもが通う学校の対応はできますが、進路変更やパスポート取得などは親権者の権限となります。
いずれも子どもの福祉の観点から決定すべき問題であり、離婚後も、監護権者と親権者とは子どもの養育について力を合わせるべきであるといえます。
親権者と監護権者の法的立場
親権者と監護権者の法的立場の例示は以下の通りです。
行為内容 | 監護権者として可能か? | 補足説明 |
---|---|---|
子供と一緒に住む | できる | 居所指定は実質的に監護権者の役割になります |
食事・衣服・しつけなど生活管理 | できる | 日々の生活全般の世話・教育が中心です |
学校への連絡・面談対応 | できる | 監護権者として学校対応は実務上問題なく行えます |
医療機関への同行 | できる | 緊急医療や日常の通院も問題ありません |
保育園・学校の選択 | 原則できない(親権者の同意が必要) | 重要な進路変更等は親権者の同意が必要な場合があります |
パスポート取得・海外渡航 | できない | 親権者の署名や同意が必要です |
財産の管理・契約の同意 | できない | 財産管理権は親権者にしかありません |
戸籍上の手続き(転籍・名の変更) | できない | 戸籍・法的書類関係は親権者の権限です |
親権者が持つ具体的な権限と責任
親権者特有の権利義務としては、以下の内容になります。
①財産管理権 | 子どもの名義の預金、不動産、相続財産などを管理する権利義務 | 民法第824条 |
②法定代理権 | 子どもの法律行為(契約など)を代理したり、同意・取消を行う権利義務 | 民法第5条、824条 |
③子どもの法律行為の同意権・取消権 | 子が単独で行った契約などに対する同意や、後から取消す権限 | 民法第5条、120条 |
④子の氏の決定 | 離婚後に子の姓(氏)をどうするかを決める権利 | 民法第790条 |
⑤進学や転校の法的手続(一部) | 特に私立や学区外の場合、契約・申請などに必要な同意 | 実務慣行に基づく |
⑥パスポート取得・ビザ申請など | 戸籍関係や海外渡航時に必要な書類に親権者の署名が求められる | 外務省等の実務 |
監護権者の判断基準
離婚協議がまとまらず、調停や裁判で裁判所が監護権者を決める場合には、子の福祉の観点から判断することになります。
その際に、主な判断基準(要素)となる事情としては、次のようなものとなります。
・これまでの養育状況 離婚・別居前から主に誰が子どもの世話をしていたか
・子どもの意思 子ども自身がどちらと暮らしたいか(子どもの成熟度によって(10歳程度)は子どもの意思が重視されないケースもあります)
・子どもの年齢 乳幼児は母親が有利な傾向があります
・兄弟姉妹不分離 兄弟姉妹は同じ親のもとで暮らすのが望ましいとされています
・現在の生活環境の継続性 現在子どもが暮らしている環境を変えるべきかどうか
・親の監護能力 親の収入や、育児に関われる時間、意思、精神状況など
年齢や性別による判断の違い
子どもの年齢や性別も、監護権者を決定する際に考慮要素となります。
・子どもの年齢
乳幼児については授乳や心理的安定の観点から母親が優先される傾向にあります。
子どもが大きくなるにつれ、その傾向は薄れてはいき、10歳を超えてくると、子どもの意思が尊重され始めます。
・子どもの性別
性別だけで判断されることはありませんが、(特に女の子は)同性の親との生活を望む傾向があり、それが考慮される場合があります。
養育環境・経済力はどこまで影響するか
子どもの養育環境・経済力も監護権者を決定する際に考慮されます。
養育環境
養育環境とは、子どもが生活することになる環境のことを意味します。
養育環境の良し悪しは、次のような観点から総合的に判断されます。
・住環境の安定性:子どもが暮らす十分な広さがあるのか、子どもの個室があるのか
・学習環境:保育園、学校との距離や、通学のしやすさ、学習環境の整備の有無
・支援者の有無:親族などが育児に支援してくれる人の有無
経済力
経済力は、子どもの基本的な生活を安定して支える能力があるのかという観点で見られます。
ただし、監護権者でない親は通常婚姻費用を支払いますので、収入の多寡のみで監護権者が判断されることはありません。
離婚時の監護権の決め方
一般的に離婚時には親権者を決定しますが、監護権者を別に設定することはレアケースだと思います。
仮に監護権者を親権者と分けて設定する際には、協議でまずは話合い、それがまとまらない場合には調停、裁判という流れで進むことになります。それぞれの特徴を説明します。
1.協議(話し合い)
〇概要
両親が話し合いで監護権者を決める方法。
〇特徴(メリット・デメリット)
・メリット
最も簡便で早く決められる
手続費用がかからない
柔軟な合意が可能(面会や養育費も含めて調整できる)
・デメリット
感情的対立が強いとまとまらない可能性がある
2.調停(家庭裁判所の調整)
〇概要
話し合いがつかないときに、家庭裁判所の調停で第三者(調停委員)を介して合意を目指す手続。
〇特徴(メリット・デメリット)
・公正中立な場で話し合える
・子の利益を重視した合意形成が期待される
・家庭裁判所調査官による調査が行われることもある(家庭訪問や子どもの意向聴取など)
(デメリット)
・弁護士を入れない場合は相手と会うことになるため心理的負担がある場合もある
・話し合いがまとまらないと審判や裁判に進む
3.審判・裁判(裁判所の判断)
〇概要
調停が不成立の場合、家庭裁判所が最終的に監護権者を決定する手続き(家事審判)。
〇特徴
・裁判所が証拠と事実に基づいて判断する
・子どもの福祉に適う方が監護権者として選ばれる(実績・安定性・愛着など)
話し合いで決める方法と注意点
協議(話合い)で監護権者を決定する場合には、
口頭だけだと後で問題になる可能性があるので、取り決めた内容について書面を作成することをお勧めします。
通常は離婚協議書の中で、その他の離婚の条件と一緒に親権者、監護権者について取り決めを行います。
調停で監護権を決めるプロセス
家庭裁判所で行われる調停で監護権者を決めるプロセスは以下のとおりです。
① 申立て:離婚調停 or 監護者指定調停の申し立て
② 裁判所通知:調停期日の通知が双方に届く
③ 調停開始:家庭裁判所での非公開の話し合い
④ 調査官調査:子の意思・生活状況の専門調査
⑤ 合意成立 or 不成立:合意できれば調停成立/できなければ審判へ
裁判で争うケースと準備すべきこと
調停で話し合いがまとまらない場合には、裁判(審判)で監護権者を決定することになります。
裁判(審判)では、証拠関係を踏まえて、子の福祉の観点から監護権者を決定します。
そのため、これまでの監護実績の証拠(育児記録、写真、学校とのやりとり等)、住環境・生活の安定性を示す資料(写真、所得証明書、協力してくれる第三者の陳述書等)、相手方に不適切な点がある証拠(DV、育児放棄、子どもへの悪影響がわかる資料)などを提出できるように準備すべきです。
監護権を獲得するためのポイント
監護権を獲得するための主要な判断ポイントは次のとおりです。
①実際に監護養育している実績があるか否か
②子どもへの愛着・信頼関係の深さ
③養育環境の安定性
④子どもの年齢
日常的な子育て実績を示す方法
監護養育実績を証明するための主な方法としては、子どもの日常を記した育児記録の作成、子どもの様子を撮影した写真・動画、保育園や学校との連絡帳など、子どもの世話をしている者しか作成できないものを提出することがあげられます。
①育児記録
子どもの食事、登園・通学、病院への通院、習い事、休日の過ごし方など、詳しく記載がある記録が育児記録になります。
形式は手書き以外にスマホのメモなどでも問題ありません。
②写真・動画
子どもの学校行事や、一緒に公園に遊びにいった際などの写真や動画があれば、誰が子どもの面倒を見ているのかが分かりやすいです。
③保育園の連絡帳
保育園(学校)の連絡帳に記されたやりとりや、学校行事に参加していることがわかる資料などがあれば、子どものために時間を使っていることがわかります。
安定した生活基盤をアピールするには
家庭裁判所は子どもにとって安心・安全な環境を確保できるかどうかを重視します。
アピールすべきポイントは以下のとおりです。
① 住居環境の安定性をアピールするポイント
・住居が継続的・安全に維持できる(転居の必要がない)
・子どもにとって生活・学習に適した空間がある
・通学・通園に支障がない
・周辺に支援施設や公園、病院などがある(生活環境の充実)
② 経済状況の安定性をアピールするポイント
・定職に就いていて、安定した収入がある
・養育費・教育費・医療費などを自分で賄える能力がある
・無理のない家計管理をしている(借金・浪費がない)
③ サポート体制(人的支援)のアピールポイント
・子育てに協力してくれる家族・親族・知人がいる
・保育園・学童保育などの外部支援を活用できる
・一人で育てる場合でも困ったときの助けがあることを示す
監護権者が再婚したらどうなる?
監護権者が再婚したとしても、親であることに変更はありませんので、直ちに監護権が失われたり、変更が生じたりすることはありません。
ただし、再婚によって、子どもの養育環境が変化するため、子の福祉の観点から、場合によっては家庭裁判所の判断で監護権者が変更される可能性があります。
たとえば、再婚相手が暴力的であったり、再婚する事で子どもの住環境に変化があるような場合に、監護権者の変更がなされる可能性があります。
そのような場合には、元配偶者とも協議して、子どもに最善な選択をするべきといえます。
海外移住・転居と監護権の関係
監護権者が海外に移住・転居する場合に、監護権そのものが自動的に失われることはありませんが、以下のような影響が考えられます。
①面会交流の困難化
他方親との面会が物理的に難しくなるため、親子関係の維持が困難になります。
その場合に、他方親から監護権者の変更の申立がされる可能性があります。
裁判所も、他方親の面会交流を制限するような移住については、子の福祉の観点から不利に判断されることもあります。
②他方親の同意が必要
他方親の事前の同意、協議がなく、無断で移住を強行した場合には、他方親の親権や面会交流権、子どもが他方親と交流する権利を侵害することになりますので、ハーグ条約上問題になる可能性があります。
③ハーグ条約で不法な連れ去りと判断される可能性
ハーグ条約とは、「不法な子の連れ去りまたは留置」を防ぎ、子どもを元の居住国に返還させることを目的とした国際条約です。
日本は2014年にこの条約に加盟しています。
ハーグ条約において、親権を有する者の同意なしに子どもを国外に移動させることを不法な連れ去りとする要件とされていますので、他方親の同意なく子どもを海外移住させると、ハーグ条約における不法な連れ去りとして、子の引き渡しが認められる可能性があります。
まとめ
監護権について説明をしてきましたが、離婚の際に親権と監護権を分けて設定することは可能です。
あくまでも子どもの福祉の観点から考えるべき問題ですが、離婚を成立させる前に決定すべき問題ですので、お困りの方は弁護士に相談をすることをお勧めいたします。
- 得意分野
- 不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件 、 遺産相続 、 交通事故
- プロフィール
- 岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務