配偶者の病気を理由に離婚できる?認められにくいケースや手続きの流れを解説

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記事目次
現代社会において、心の病というものは決して珍しくありません。
それは、あなた自身、あなたの配偶者であっても同じことです。
では、このような病気を理由とする離婚は認められるのでしょうか。
本記事では、病気を理由とする離婚を考えている方に向けて、病気と離婚について解説していきます。
病気を理由に離婚することはできる?
将来を誓った配偶者が病気になった場合、最期まで看病をするということが理想のようにも思われます。
しかし、現実として、看病をする側の負担が大きく、婚姻関係を継続すること自体が困難な状況もあるでしょう。
実際、配偶者の心身の健康も大切ですが、あなた自身の心身の健康も大切なものです。
病気と離婚に関する法律の条文をみてみると、民法770条1項4号は、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みが無いとき。」を離婚事由の1つとして定めています。
簡単に言えば、治る見込みのないような精神的な病であれば離婚が認められるということですが、具体的にはどういったケースであれば離婚が可能なのでしょうか。
過去の判例を参考に解説していきます。
協議離婚は可能である
まず、協議離婚つまり双方の合意により離婚をするという場合、離婚理由は必須ではありません。
お互いが納得していれば、理由の内容に関わらず離婚をすることが可能です。
そのため、協議離婚では、相手方の精神病について回復の見込みのあるなし関係なく、離婚をすることができます。
“強度の精神病で回復見込みがない”場合はどうなる?
そもそも、「強度の精神病」で「回復の見込みが無い」(民法770条1項4号)とは、どのようなケースを想定しているのでしょうか。
「強度の精神病」について
過去の裁判例において、裁判所が認定した強度な精神病としては、「統合失調症、認知症(アルツハイマー病)」などが挙げられます。
なお、認知症については、「強度の精神病にあたるとした裁判例」と「強度の精神病にあたらないとした裁判例」がありますので、判断が分かれるところです。
「回復の見込みが無い」について
夫婦間には、相互に助け合う義務(相互扶助義務)があるため、夫婦間の協力義務を果たせる程度に病気の回復可能性がないことが必要となります。
裁判で認められるには?
ここで、「強度の精神病」+「回復の見込みが無い」ことが認められたとしても、直ちに離婚が認められるものではないことに注意が必要です。
つまり、過去の裁判例では、「諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方策を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである」と判示し、具体的手段(離婚後の配偶者の面倒は誰がみるのか、離婚後の配偶者の治療費はどうするのか等の策)を講じ、今後の配偶者の生活についてある程度見通しがついていることも考慮事情とされるのです。
調停離婚の場合は離婚事由が必要である
協議にて離婚が成立しなければ、離婚について調停を申し立てるということになるでしょう。
調停離婚の場合は、法定の離婚事由があることの証明が必要となってきますので、「強度の精神病で回復の見込みがないこと」の証明が必要になってきます。
もっとも、法定離婚事由は以下のとおり複数あり、複数の事由に該当する可能性もあるところです。
例えば、精神病を患い、刃物を振り回すなどの攻撃的な行動がある場合、精神病の事由のみならず、婚姻を継続し難い重大な事由にも当てはまる可能性があるのです。
法定離婚事由 |
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・配偶者に不貞な行為があったとき ・配偶者から悪意で遺棄されたとき ・配偶者の生死が3年以上明らかでないとき ・配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき ・その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき |
病気を理由にした離婚が認められにくいケース
調停や裁判において、病気を理由にした離婚が認められにくいケースがあります。
以下において、ご説明します。
配偶者の面倒を見る人がいない場合
既に述べたように、精神病を理由とする離婚においては、具体的な手段を講じる必要があります。
これは、精神病に罹患した者に対する公的な支援体制が不十分であることを懸念し、離婚後の配偶者の生活をどう保護するかという観点から導かれます。
配偶者の面倒を見る人がいない場合、配偶者の生活を保護できる可能性が低くなるため、具体的な手段を講じる必要が出てきます。
そこで、治療費を援助したり、病院等を手配する方策を採れば、配偶者の面倒を見る人がいない場合でも、離婚が認められる可能性が高くなります。
軽度な病状である場合
精神病を理由とする離婚においては、病状の重症度が要件となっており、その認定にあたっては、医師による鑑定等を踏まえて、裁判所が自由な心証で判断をします。
なお、身体障害は精神病ではないため、民法770条1項4号の適用がありませんし、精神病でない難病疾患(脊髄小脳変性症)について離婚の成立を否定した裁判例もあります。
配偶者に意思能力がない場合
判断能力が低下していても、意思能力がある限り、訴訟能力が認められます。
しかし、配偶者に意思能力がなければ、成年後見人を被告として訴訟を提起することになります。
仮に、配偶者に成年後見人がいない場合には、「成年後見開始の申立て」を行い、配偶者に成年後見人がつくよう手続きをとりましょう。
なお、配偶者に意思能力がない場合は、成年後見人がいるとしても、調停を成立させることができませんので、訴訟手続による必要があります。
病気になった配偶者から離婚を切り出される場合も
看病をする配偶者ではなく、病気になった配偶者の方から離婚を切り出すというケースもあります。
理由は様々でしょうが、看病をしてくれる配偶者に対する申し訳ないという気持ちが表れている場合も多いように思われます。
では、このような場合において、離婚は認められるのでしょうか。
協議離婚
既に述べたとおり、協議離婚では双方の同意があれば離婚が成立します。
そのため、あなたが病気の配偶者からの離婚申出を受け入れるのであれば、離婚は成立します。
調停離婚
既に述べたとおり、調停離婚では、証拠が必要となります。
病気の相手方からの離婚申出を受け、調停となるという状況であれば、あなた自身が離婚を拒否しているケースとなります。
この場合も、重大な精神病でないことや、回復の見込みがあることや、夫婦関係が良好で看病が可能な状態であること等の証拠を提出していく必要があります。
具体的には、医師に診断書を書いてもらうことが考えられます。
離婚の調停を申し立てられたからといって諦めず、離婚が認められないための証拠を準備して婚姻関係の継続を主張しましょう。
相手からの慰謝料請求が認められる可能性はある?
もしも配偶者の病気の原因があなたである場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。
例えば、あなたの不貞行為が原因で配偶者が精神病を患ったケースが想定されます。
この場合には、不貞行為に対する慰謝料が請求される可能性が高いでしょう。
また、夫婦の協力義務に反して、配偶者の精神病について一切看病をしなかったことから婚姻関係が破綻したという場合にも、あなたが婚姻関係を破綻させたことを理由に慰謝料請求が認められる可能性があります。
相手への慰謝料請求は認められる?
実際、病気である配偶者に対する慰謝料請求が認められる可能性は低いと言えます。
慰謝料とは、相手方の不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するための損害賠償を指しますが、病気の原因は不可抗力の場合が多く、配偶者が病気にかかったことが慰謝料が発生するような侵害行為である場合はあまり想定できないからです。
そのため、相手の病気だけを理由にした慰謝料請求は難しいでしょう。
ただし、発病をきっかけにDVに発展したり、不貞行為に及んだりといった病気に起因した別の事情があれば、慰謝料請求が認められる可能性は高まります。
病気を理由に調停離婚する場合の証拠の集め方
既に述べたとおり、病気を理由に調停離婚するためには証拠が必要となります。
離婚理由として認められるには、ただ単に病状を証明するだけではなく、看病が長期間に渡っている証拠や、離婚後も病気の配偶者の生活基盤が確保できる証拠などをしっかりと用意する必要があります。
以下において、証拠の収集についてご説明します。
診断書をとる
最終的に、強度の精神病で回復の見込みが無いことを判断するのは裁判官です。
数値などによる明確な判断基準はありません。
しかし、裁判官は、医師の作成した診断書も参考にするため、病状については診断書をとることが望ましいと言えます。
日記やメモ等の記録をつける
配偶者の病気について、日記やメモをつけて記録をとるという方法も有効です。
具体的には、いつからどのような看病をしているか、病気の状態はどのようなものかという記録です。
闘病が長期間続いていることや、献身的に看病してきたことなどを証明することができるため、具体的に記録をつけると良いでしょう。
また、精神病を患い、刃物を振り回すなどの攻撃的な行動がある場合には、録画や録音、ケガの診断書なども証拠となり得ます。
配偶者の今後の生活についての方策
病気を理由にすぐに離婚できてしまうようでは、離婚後、病気の人が路頭に迷ってしまう恐れがあるため、裁判所は、離婚後の病気の配偶者の生活を懸念しています。
そのため、離婚後も配偶者は問題なく生活ができるということを証明する必要があります。
具体的には、病院や施設等を手配していることや、面倒をみてくれる親族がいること、金銭面でのサポート等を証明する書類などを準備しましょう。
病気を理由に離婚する場合の流れ
配偶者の病気を理由に離婚する場合、協議離婚でまとまれば良いですが、調停や訴訟に移行する可能性もあります。
調停等に移行する場合には、当人同士の話し合いとは異なり、専門的な知識も必要となります。
ここからは病気を理由に離婚する場合の流れについて解説していきます。
①体調不良や病気を理解する
協議離婚以外において、配偶者の病気を理由にすぐに離婚をするということは認められません。
配偶者に寄り添い、献身的なサポートを行っても婚姻関係の継続が難しい場合に、初めて離婚という選択肢があり得るところです。
そのためまずは、配偶者の病気をよく理解することが重要です。
②離婚後の見通しを立てる
既に述べたとおり、病気の配偶者の離婚後の生活をどのように維持するのか見通しを立てる必要があります。
病気の配偶者が路頭に迷ってしまうようなことがないよう、離婚後の生活基盤について考えましょう。
自身で治療費を捻出するのみならず、公的な機関や配偶者の親族に頼るなど、様々な選択肢を考えてみてください。
また、離婚後のあなたの生活も重要なものです。
離婚をすることだけを考えて手続きを進め、離婚後にトラブルが起きてしまうというケースは意外と多いものです。
離婚後のあなたの生活についても見通しを立て、離婚の準備を進めるということが大切です。
③弁護士へ相談
協議において離婚がまとまりそうな場合でも、後のトラブルを避けるため、一度弁護士に相談することをおすすめします。
また、調停等に移行する場合には、専門的な知識も必要となりますので、いずれにせよ弁護士に相談することが良いと思われます。
弁護士へ相談というと、ハードルが高いように感じるかもしれませんが、気軽な電話相談を実施している事務所や、初回は無料で相談ができるような事務所もありますので、自分が今後どのような対応をするべきか、確認のために問い合わせをしてみるのも良いでしょう。
まとめ
大切な配偶者が病気になったとき、最期まで寄り添うことが理想の夫婦像かもしれません。
しかし、あなたの心身の健康も非常に重要なものです。
そのため、あなた自身の限界を迎える前に、離婚という選択肢を考える必要があります。
精神病を理由とする離婚は容易なものではありませんが、強度の精神病であって、回復の見込みがない場合において、離婚後の配偶者の生活が保護されるような状態であれば、離婚が認められる可能性があります。
病気の配偶者との離婚についてお悩みがあるようでしたら、まずは専門家である弁護士にご相談ください。
※なお、民法770条1項4号「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」という条項は、改正により削除される予定です。施行は令和8年5月23日までとなっておりますので、これまでに削除がされるというところです。改正後、精神病を理由とする離婚については、他の法定離婚事由である「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」の要件の中で検討されることになると想定されます。 |
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- 契約法務 、 人事・労務問題 、 紛争解決 、 債権回収 、 不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件 、 遺産相続 、 交通事故
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- 近畿大学法学部 首席卒業 近畿大学法科大学院 首席修了 弁護士登録 東京スタートアップ法律事務所入所