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投稿日: 更新日: 代表弁護士 中川 浩秀

痴漢の時効は何年?刑事・民事の時効について解説

痴漢の時効は何年?刑事・民事の時効について解説
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電車や路上で痴漢をした場合、周囲の人や警察官にその場で取り押さえられ、現行犯逮捕されるケースが多いです。この場合、警察に身柄を拘束され、そのまま刑事手続きが進んでいきます。

しかし、なかには痴漢をしてしまったもののその場では捕まらず、現場から逃げ切ってしまうケースもあるでしょう。とくに痴漢は、被害者が恐怖心から助けを求められないことも多く、その場で逮捕できないケースも少なくありません。この場合、痴漢の加害者は、いつ犯行がバレて逮捕されてしまうのか、怯えながら生活することになるでしょう。

痴漢事件の場合、犯行後、永久に責任を問われることになるわけではなく、一定期間が経過すると、時効によりその責任を追求することができなくなります。

この記事では、痴漢の2種類の時効について解説したうえで、時効完成まで待つリスクや、前科をつけないための方法について、弁護士がわかりやすく説明していきます。

痴漢には2種類の時効がある

痴漢事件の時効とは、一定期間が経過すると、痴漢行為に対する責任を追求することができなくなる期間のことを指します。

痴漢には「刑事上の時効」と「民事上の時効」の2種類の時効が存在します。

痴漢事件の2種類の時効
  • 刑事上の時効(公訴時効)
  • 民事上の時効(消滅時効)

痴漢の時効を考える場合、この2種類の時効を区別して考える必要があり、それぞれ定められている時効の期間が異なります。

なお、刑事および民事の時効のほかに、裁判で決まった刑罰を執行する期限である「刑の時効」も存在します。

しかし、痴漢事件における刑の執行は、通常判決が下されたあとにすぐにおこなわれるため、実務的にはあまり問題にはならないといえるでしょう。

痴漢の刑事上の時効|公訴時効

まずは、痴漢の刑事上の時効について詳しく解説していきます。

刑事上の時効とは

痴漢における刑事上の時効とは、痴漢行為を行った者に、刑罰を与えることができる期限のことを指します。

検察官は、犯罪を犯した者を裁判にかける権利である、「公訴権」を持っています。刑事上の時効は、この公訴権に関する期限なので、一般的に「公訴時効」とも呼ばれます。

犯罪を犯した者に刑罰を与えるためには、検察官が起訴をして、刑事裁判を起こす必要があります。公訴時効が経過すると、検察官は起訴する事ができなくなります。

つまり、公訴時効が経過すれば、警察に逮捕されることもなくなり、当然前科がつくこともなくなるということです。

痴漢の刑事上の時効は3年または7年

痴漢の刑事上の時効は、痴漢行為が強制わいせつ罪にあたるか、迷惑防止条例違反にあたるかで、分けて規定されています。

刑法上の時効(公訴時効)
不同意わいせつ罪 痴漢をした日から12年
迷惑防止条例違反 痴漢をした日から3年

痴漢行為がどちらの犯罪に当たるかは、痴漢行為の態様から、それぞれの事件ごとで個別に判断されます。

多くの場合、軽微な行為であれば迷惑防止条例違反、相手に暴力や脅迫を用いてわいせつな行為をするなど犯罪行為の態様が悪質な場合には、不同意わいせつ罪に該当すると判断されます。

刑法では、不同意わいせつについて、次のように規定しています。

第176条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、6月以上10年以下の拘禁刑に処する。
① 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
② 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
③ アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
④ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
⑤ 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐  怖し、若しくは驚愕していること。
⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを  憂慮していること。

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

3 16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

過去の裁判例では、電車内で服の上から身体に触れたり、路上で突然脚を触るといったケースでは迷惑防止条例違反、同じ電車内でも服の中にまで手を入れて痴漢行為をしたり、路上でも突然後ろから抱きつき、衣服の中に手を入れて胸を鷲掴みにするようなケースでは、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)に当たると判断されています。

ただし、2つの罪のどちらにあたるかの絶対的な基準が存在するわけではありません。たとえば、電車内で衣服の上から軽く触っただけだったとしても、迷惑防止条例違反ではなく不同意わいせつにあたる可能性も否定できません。その場合、公訴時効は3年ではなく12年になるため、痴漢行為後10年経過した時点で、突然逮捕・起訴されてしまうケースもあるのです。

どちらの犯罪に当たるかは、法律的な判断が必要になるため、自己判断で時効期間を断定してしまうのは、おすすめできません。痴漢行為がどちらの犯罪にあたるのかは、法律の専門家である弁護士に相談するのが良いでしょう。

なお、①公訴を提起する(起訴)、②犯人が国外にいる場合、③犯人が逃亡していることで有効に起訴状の謄本の送達ができなかった場合、の3つの場合には公訴時効は停止し、これらの事情がなくなったタイミングから、再度時効の進行が開始することになります。

そのため、痴漢行為後に国外逃亡を図ったとしても、公訴時効はいつまで経っても完済しないため、国内に戻ってきたタイミングで逮捕されてしまう可能性もあるでしょう。

痴漢の民事上の時効|消滅時効

次に、痴漢の民事上の時効について詳しく解説していきます。

民事上の時効とは

痴漢の民事上の時効とは、被害者が加害者に対して、損害賠償を請求するなどの、民事上の権利を行使できる期限のことを指します。時効が成立すると、加害者に対して損害賠償を請求する権利が消滅してしまうことから、「消滅時効」と呼ばれています。

痴漢行為は、刑法上の不同意わいせつ罪や各都道府県で定められている迷惑防止条例違反だけでなく、民法で定められている「不法行為」にも該当します。そのため、被害者は加害者に対して、不法行為を根拠として、慰謝料請求をはじめとした損害賠償を請求することができます。

しかし、民法では、一定期間権利を行使せずにそのままにしておくと、権利を行使できなくなる消滅時効を規定しています。そのため、民法で定められている消滅時効期間を経過してしまうと、損害賠償の請求をすることができなくなります。

痴漢の民事上の時効は3年または5年

痴漢の民法上の時効は、以下のように規定されています。

民法上の時効(消滅時効)
損害および加害者を知った時から 3年
不法行為(痴漢)の時から 20年

ただし、暴行をともなう痴漢行為の場合、「人の生命又は身体を害する不法行為」であると判断されると、時効期間が「損害および加害者を知った時から5年」に伸びる可能性があります。

また、3年の時効期間を計算する際には、痴漢の加害者が誰なのかを知った時から時効の進行が開始します。そのため、電車内や路上で後ろからわいせつ行為を行い、誰が犯人なのかが判明していない場合には、民事上の時効は進行しないことになるので、注意が必要です。

時効が完成しても被害者とは示談すべき

民事上の時効が完成したとしても、加害者が被害者に対して任意に、その損害を賠償することは可能です。

刑事上の時効期間と民事上の時効期間は異なります。そのため、民事上の時効期間が経過していたとしても、刑事上の時効期間がまだ経過していない場合には、痴漢から10年経過していたとしても、逮捕、起訴されてしまう可能性があります。

警察に逮捕され、起訴されてしまうと、刑事裁判では99%以上の確率で有罪判決が出てしまうため、前科がついてしまい、日常生活に悪影響を及ぼしてしまいます。前科をつけないために、不起訴処分を獲得するためには、事件の捜査が進む前に、被害者と示談をしておくことが非常に重要です。

たしかに、民事上の時効期間が経過すれば、被害者からの直接の損害賠償を請求されることはなくなります。しかし、民事上の責任と刑事上の責任は別個の責任であり、場合によっては刑事上の責任を問われてしまう可能性があることを考えると、民事上の時効期間が経過していたとしても、被害者と和解して示談金を支払うことを検討すべきだといえるでしょう。

なお、痴漢行為が冤罪だった場合、被害者との示談交渉をどのように進めるべきかの判断は難しくなります。日常生活に影響を及ぼさないために、一番ベストな方法を探るためにも、刑事事件に強い弁護士に今後の対応について相談することをおすすめします。

時効が完成をするまで待つのは得策ではない

過去の痴漢について、今後どうすべきか悩んでいるのであれば、何もせずに時効期間が経過するのを待つのは得策ではありません。

痴漢の場合、被害者の処罰感情が強く、加害者に対してなんでもいいから罰を与えたいと考えているケースが多いです。そのため、たとえ損害賠償を請求できなくなってしまったとしても、刑事罰を与えるために、警察に被害届を出し、告訴をするなどの行動をとるケースも少なくありません。

警察も、刑事上の時効期間が経過する前になんらかのアクションをとってくることがほとんどなので、痴漢があきらかなのにもかかわらず、刑事上の時効期間が経過することは考えづらいでしょう。

この点、犯行が発覚する前に自首したり、被害者との示談交渉を進めることで、不起訴処分や刑罰が軽くなる確率を上げることができます。

前科をつけたくないなら被害者との示談交渉を優先に

痴漢で前科をつけたくないのであれば、被害者と示談することを最優先に考えてください。

痴漢で前科をつけないための2つのポイントは次のとおりです。

【痴漢で前科をつけないためのポイント】
① 不起訴処分を獲得する
② そもそも事件化されることを防ぐ

繰り返しになりますが、不起訴処分を獲得するためには、被害者との示談を早いうちにまとめておくことが重要です。示談交渉がまとまっていて、被害者に処罰感情がないのであれば、警察もそれ以上の責任を問おうとはせずに、不起訴処分になる可能性が高まります。

また、警察の捜査が進む前に被害者が被害届を取り下げてくれれば、そもそも事件として警察が捜査をする必要もなくなります。

交渉をスムーズに進めるためには弁護士に依頼がおすすめ

痴漢を含めた刑事事件では、被害者の処罰感情が強いため、当事者同士で話し合っても、交渉がスムーズに進まないおそれがあります。

この点、刑事事件に注力している弁護士であれば、法律を駆使して交渉を優位に進められるだけでなく、真摯に謝罪をすることで、穏便に話し合いをまとめる事が可能です。

また、万が一被害者が示談に応じてくれなかった場合でも、被害者との示談交渉の経緯を謝罪文書として警察に提出したり、再犯防止対策やその活動内容の報告、供託や贖罪(しょくざい)寄付などをおこなうことによって、不起訴処分を獲得するための弁護活動をする事ができます。

在宅事件でも起訴されることはある

警察に身柄を確保されずに捜査を進める在宅事件になった場合、軽い処罰で済むと考えている人が多いですが、たとえ逮捕されなていなかったとしても、起訴されたり罰金などの有罪判決を受けるケースは少なくありません。

起訴されてしまうと、罰金刑や執行猶予判決であったとしても前科がついてしまうことを考えると、できる限り早めに対策を打っておく必要があります。

弁護士に相談するのに遅すぎるということはないので、前科がついて後悔してしまう前に、まずは一度弁護士に相談してみてください。

まとめ

痴漢の刑事上の時効と民事上の時効は、以下の通りです。

刑法上の時効(公訴時効)
不同意わいせつ罪 痴漢をした日から12年
迷惑防止条例違反 痴漢をした日から3年

 

民法上の時効(消滅時効)
損害および加害者を知った時から 3年
不法行為(痴漢)の時から 20年

痴漢を犯してしまった場合、なんとか逃げ切れるんじゃないかと安易に考えた結果、突然逮捕されてしまい、起訴されて有罪判決を受けてしまうケースも少なくありません。

前科をつけないためには、被害者とできる限り早い段階で示談交渉を進める事が重要です。時効までやり過ごそうとするのではなく、今できる弁護活動をしっかりおこなうことを検討してください。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。
「ForClient」を理念として自らも多くの顧客の信頼を得ると共に、2018年の事務所開設以降、2023年までに全国12支店へと展開中。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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