過剰防衛とは?正当防衛との違いや基準、成立要件を徹底解説

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過剰防衛(かじょうぼうえい)。
刑事ドラマ等でこの言葉を聞いたことがある方も少なくないかもしれません。
この字面だけでも、防衛が過剰だった、ということを意味することが分かるでしょう。
しかし、その言葉の正確な意味、内容、ひいては法律的な位置づけや判断基準を理解している方は多くはないと思います。
そこで、巷でも聞くことのある、似た響きの言葉の「正当防衛」についても触れつつ、過剰防衛について徹底的に解説していきます。
そもそも正当防衛とは?
正当防衛とは、一見犯罪に該当する行為に見えても、その行為の相手方が自己または第三者に対して、違法な侵害行為を今まさにしてきているような状況下において、自己または第三者を守るためにした行為である場合には、その行為がやむを得ないときに限って、相手方に対する行為の違法性を認めない、つまり犯罪に該当しないとする法律上の概念、刑法上の規定です。
このうち「やむを得ない」とは、防衛の必要性(防衛のため必要か)と相当性(防衛にとって相応しいものか)を言いますが、自分らを守るための行為であれば基本必要性は満たすため、実質的には相当性の話になります。
そして、相当性とは、防衛する手段として必要最小限度のものであることを言います。
ところで、正当防衛は、刑法36条1項において、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずした行為は、罰しない。」といった形で規定されています。
具体例を挙げますと、Aさんは、Bさんが右手でその顔を殴りに向かってくるのに気づき、とっさに避けてBさんの肩を横から左手で押しのけた、というものです。
Aさんの行為は暴行罪(刑法208条)に当たる行為に見えますが、Bさんにより顔面を殴られ怪我もしかねない緊急状況下において、自分を守るためにした押しのけるという程度の高くない行為であり、正当防衛として無罪になります。
過剰防衛とは?
さて、本題である過剰防衛の話に入ります。
上記で見た正当防衛の例と比較するとイメージが付きやすいかと思います。
過剰防衛とは、簡単に言えば、正当防衛がやり過ぎであった、過剰であった、ということです。
過剰防衛の概要
過剰防衛とは、上記で見た正当防衛の定義、要件のうち、「やむを得ない(相当性)」以外のものは満たすものです。
上記の例で言えば、AさんはBさんから身を守るためではあるものの、持っていたナイフでBさんの腹部を刺して死なせた、つまり、その行為がやり過ぎでやむを得ないとはいえないというものです。
そして、過剰防衛に当たると、正当防衛では違法性がなく無罪となったのとは異なり、その刑が軽くなったり免除されたりする可能性が出てくるに過ぎません。あくまで、過剰防衛に当たる行為は犯罪であることに注意すべきです。
この過剰防衛は、正当防衛の規定のすぐ後である刑法36条2項に、「防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。」といった形で規定されています。
過剰防衛が認められた場合
既に述べたように、過剰防衛は、裁判所の判断で「刑を減軽し、又は免除することができる」に過ぎません。
従って、そもそも犯罪自体は成立することを前提とした規定であり、たとえ過剰防衛が認められても、刑が変わらない場合もあります。
他方で、刑が免除されれば、それは無罪でなく有罪ではあるものの、服役することはありません。
刑の減軽については、有罪ではあるものの、通常科される法定刑よりも軽い刑が科されるというものです。
そうすると、過剰防衛が認められた場合に想定されることとして挙げられるのは
①(被告人勾留がされていた場合には)刑の免除による釈放(被告人勾留がされていなかった場合にはそのまま拘束なし)
②刑の減軽による罰金額・懲役刑期・禁錮刑期(2025年6月からは拘禁刑期)の縮減
③刑の減軽による全部又は一部執行猶予
④刑の減免なし
の大きく4つです。
特に②について、懲役・禁錮刑(拘禁刑)を減軽する場合には、無期以外については法定刑の長期と短期をそれぞれ1/2することになります。
③については、3年以下の懲役・禁錮や50万円以下の罰金の言い渡しを受けたときは情状によりその刑の全部の執行猶予ができるなど、刑の減軽によって刑の全部又は一部執行猶予がされる可能性が出てきます。
過剰防衛で問われる罪・事案
以下では、過剰防衛が問題になり得る罪・事案について紹介します。
過剰防衛は被害者のいる罪であれば理論上成立し得ます。
(被害者のいない罪は薬物犯罪など)
しかし、判例を見ますと、過剰防衛が問題になったり認められたりしている犯罪は以下のとおり一定の犯罪に集中しています。
殺人(未遂)罪
殺人罪は、人を殺す意思(殺意)をもって人を死なせる行為をし、結果的に人を死に至らしめた場合に成立する犯罪であり、その未遂罪は結果的には死亡には至らなかった場合に成立する犯罪です。
この犯罪においては、相手方が素手で襲い掛かってきた場合に、自己の身を防衛するために、その相手方を殺害しようとした、または殺害した際に過剰防衛が成立することが考えられます。
傷害(致死)罪
傷害罪は、人を暴行する意思をもって暴行した結果傷害させた場合または傷害する意思をもって人を傷害させた場合に成立する犯罪であり、これらの結果人を死に至らしめた場合には傷害致死罪が成立します。
この犯罪においては、殺人罪の場合よりは過剰防衛となる事例は限られると考えられます。
なぜなら、正確には以下に見るような正当防衛、過剰防衛の判断基準、考慮要素に従った判断がなされるものではありますが、殺人罪は人を殺すという最も非難すべき行為と結果を生じさせているからこそ、防衛の程度を超えたといいやすい一方、傷害(致死)罪はあくまで人の命を狙おうとする犯罪ではない(致死罪は人の命を狙う故意はない)ため、防衛の程度を超えたというためには相手方の侵害行為がより軽度であるなどの必要があるからです。
防衛行為の途中までは相手方の侵害行為が存在していたが、防衛行為の途中から相手方の侵害行為が消滅したにもかかわらず、防衛行為を続行した事案
この事案で問題となるのは、確かに防衛行為全体を見れば過剰防衛のように見えるとしても、相手方の侵害行為の存在前後で分断してみると、相手方の侵害行為が存在していた最中の防衛行為については正当防衛又は過剰防衛が成立し、相手方の侵害行為がなくなった後の防衛行為については正当防衛も過剰防衛も成立しないということになり、結論が分かれるという点です。
この事案は、いわゆる「量的過剰防衛」の問題として知られています。
過剰防衛による逮捕・勾留・起訴の流れ
過剰防衛事案を起こしてしまった場合の逮捕・勾留・起訴の流れは、基本的には通常事件と変わりません。
すなわち、被害者や周囲にいた人々により警察に事件の通報が入り、その通報を受けて警察が現場に駆け付け被害者の話を聞き、加害者が現場にいた場合にはその話を聞いた上で捜査を始めることになったり、状況によっては逮捕されたりすることもあります。
以下、それぞれの段階について見ていきましょう。
事件の発生・通報
事件が発生した場合には、それが誰かしら(被害者含む)に発見されたときにはその者によって警察への通報がされたり、加害者自身によっても通報がされたりすることもあります。
警察からの事情聴取
事件発生の通報を受けた捜査機関(警察等)は、現場に急行して事件の存在を認知した後捜査を始めます。
その捜査としてはまず、事件現場にいる被害者や目撃者、そして加害者に話を聞くことになります。
その捜査では、事件がどのようにして起こったのか、事件の当事者や関係者は誰か、事件発生から通報、警察の現場急行までの関係者らの動きはどのようなものかを聞き、犯人が逃げていた場合はその容貌や逃走方面等を聞き行方を追います。
警察や検察による捜査
捜査機関は、現場に残された証拠(指紋や血痕、防犯カメラ映像等)を収集したり、関係者らの話を加味して犯人の行方を追ったり、犯人と思われる者が既に判明している場合には、逮捕するに足る証拠の収集をしたりします。
この捜査の際、警察や検察は、今回の事件が正当防衛に留まるのか、それとも過剰防衛に当たるのか、はたまたそもそも防衛行為に当たらず単なる犯罪であるのかを検討します。
逮捕・勾留
犯人と思われる者が判明しその行方が掴めていて、逮捕するに足る証拠の収集を終えている場合には、捜査機関は裁判官に逮捕状の発付を請求し、逮捕状を得て逮捕に動きます。
ただし、全ての事件において逮捕が行われるわけではなく、事案の重大性や緊急性、証拠収集の難易等に鑑みて、逮捕をするかが判断されます。
警察官により逮捕された後は、48時間以内にいわゆる書類送検といった検察官に送致される手続きがなされ、検察官はさらに24時間以内に勾留というより長期間(10日間から20または25日間)の身柄拘束の請求がされます。
まず、誰がどう見ても正当防衛であり、その証拠も固いといった事案では、そもそも逮捕がされないこともあります。
しかし、正当防衛かどうかが怪しく、刑事訴訟において単なる犯罪、または過剰防衛になるであろうといえそうな事案では、逮捕・勾留がされる恐れが高くなります。
起訴・不起訴
検察官は、被疑者が逮捕・勾留されていてもされていなくても、起訴・不起訴の判断をします。
起訴というのは、被疑者を刑事裁判にかけるために行うものです。
不起訴であれば、刑事裁判にかけない、つまり、勾留されている場合には釈放され、勾留されていない場合には何も起きることはありません。
他方で、起訴であれば、刑事裁判のために勾留がされるおそれがあります。
これはより長期間(原則2か月で、その後1か月ごとの更新あり)に渡る身柄拘束であり、よく人質司法と言われる場合に出てくる身柄拘束です。
検察官が捜査をした結果、正当防衛と刑事訴訟で認められるおそれが高そうな事案では、不起訴がされやすく、そうでない場合には起訴されるおそれが高くなります。
警察官と検察官の捜査は別途行われるもので、その判断がいつも同様になるとは限りません。
そのため、警察官が過剰防衛または単なる犯罪と判断していても、検察官が正当防衛であると判断する場合もあり、検察官の起訴・不起訴の判断がどうなるかについて断言することはできません。
過剰防衛と正当防衛の判断基準
既にみたとおり、正当防衛と過剰防衛を分ける要素は、防衛行為がやむを得ないものか、つまり相当性を有するか、防衛行為にとって必要最小限度であるかです。
そして、その相当性判断においては様々な要素が考慮されますが、侵害者と防衛者の双方の立場に基づき、
①防衛行為の対象である侵害の攻撃力の程度
②防衛者の身体条件、利用可能な侵害排除手段
に着目して検討することが肝要です。
その検討の際には、侵害されようとした法益と防衛行為によって生じた結果を単に比較するだけでなく、防衛手段が侵害行為の程度に対して相当性を有するかを考えるべきです。
また、単に侵害者と防衛者の使用した武器が対等であれば相当性を有するとするのではなく、
①武器の性質(武器の種類、素手か、ナイフの刃の長さがどのくらいか)
②武器の使用態様(攻撃的に使用したか、防御的に使用したか)
③他にとることのできた防衛手段のうち最も侵害性が軽微か(防衛者の心身の状態、負傷していたか、狼狽していたか、極度の興奮がみられたか)
④侵害者の年齢(若年か、老人か)
⑤性別(男性か、女性か)
⑥体格・体力(身長、体重、屈強か、貧弱か)
⑦運動能力(格闘技等の習得者か)
⑧酩酊の有無・程度、侵害者の人数(1人か、2人か)
等の要素を総合的に考慮する必要があります。
過剰防衛と判断されないためのポイント
①弁護士に相談
過剰防衛と判断されないためのポイントとして一番重要であるのは、弁護士に相談するということです。
これは、実際に防衛行為をしたにすぎないにもかかわらず警察に逮捕されてしまった場合にとどまらず、在宅事件といって逮捕はされない状況で捜査されている場合にも当てはまります。
弁護士が付くことによって、捜査機関への対応策を授けることができますし、弁護士が捜査機関に対して過剰防衛には当たらず正当防衛となるため釈放されるべきといった内容の意見を述べることもできます。
弁護士が事件前後現場にいた関係者を見つけ出して話を聞くことで、過剰防衛でなく正当防衛となると主張するための材料、証拠を集めることもできます。
過剰防衛になるか、それとも正当防衛に過ぎないのかの判断は、既に述べたとおり、正当防衛や過剰防衛それぞれの要件判断に密接に関わり、これは専門知識に基づいた法律的な判断になるため、その道のプロである弁護士に相談することが、逮捕されてしまった場合のその身柄の早期解放や起訴されてしまった場合の無罪獲得をするに当たって極めて重要です。
②正当性を認めてもらえるように状況を整理する
次に重要であるのは、自らの行為が過剰防衛ではなく、正当防衛であることを主張するために、事件前後の状況や当事者の関係等情報を整理するというものです。
このような情報を最終的に整理する役目を負うのは上記のとおり弁護士ではありますが、弁護士が情報を整理する前提として、相談者自身が、経験した事件状況や事件の相手方との関係等を整理できていなければ、弁護士も相談者から話を聞いて重要な情報を取得することが困難になります。
しかし、そうであるからといって、我々弁護士は相談者、依頼者にそのような負担を押し付けることはしません。散乱した情報を相談者、依頼者が整理しやすいようにお力添えをします。
過剰防衛に関するQ&A
Q. 過剰防衛の明確な基準は何ですか?
過剰防衛に一般の人が判断できるような明確な基準はありません。
過剰防衛の要件判断は既に見たとおり、法律的な知識やそれに基づく考慮が必要です。
しかしながら、法律に精通しているはずの裁判官、検察官、弁護士でさえ判断が分かれるものであり、裁判官同士、検察官同士、弁護士同士においても判断が分かれるものになっています。
そのため、法律の知識に乏しい、法的思考に慣れていない一般の人にとっては尚更不明確な基準と言えるでしょう。
そうであるからこそ、正当防衛や過剰防衛が問題になりそうな事件については、経験と知識に裏付けられた弁護士に頼ることが必須です。
そのような弁護士は依頼者のために、必死で検察官や裁判官を説得するための主張を考えます。
Q. 過剰防衛は悪いことですか?
一概に良し悪しを決めることはできませんが、有罪となることを踏まえると社会的には非難され得るもの、その意味で悪いと言えるでしょう。
正当防衛が無罪となるのは、緊急的な防御行為は、刑事司法が全ての侵害行為を予防することができないからこそ社会全体の利益を見て許されるべきで、緊急的な状況下では畏怖や緊張から反撃してしまうことは致し方ないというのが基礎にあります。
しかし、そうであるからといって防御に必要な限度を超えてやり過ぎることまで認めることはできません。
従って、防御をするにしても、思考することが難しい状況下でのことになりますが自らの行動を律する必要があります。
Q. 自分を守るために一生懸命になり、結果的に過剰防衛になった場合にも罪に問われますか?
客観的に見て防衛行為が過剰である場合には過剰防衛と判断され、罪に問われる可能性があります。
他方で、防衛行為が過剰に見えても各種証拠から防衛者が自身の防衛行為を過剰と認識していないと認めることができる場合には、過剰防衛の責任に問われない可能性もあります。
これは法学の用語でいわゆる誤想過剰防衛(防衛行為の誤想)と呼ばれるもので、さらに複雑難解な概念になります。
さらに、侵害者による侵害がないにもかかわらずあると認識した場合にも類似の誤想過剰防衛となり、責任が問われない可能性があり、これもまた複雑難解な法律概念です。
従って、いずれにしろ過剰防衛事案では法律の専門家である弁護士の意見を取り入れる必要があるのです。
Q. 「やられたらやり返す」は過剰防衛になりますか?
過剰防衛の要件に照らして、それに該当すると判断されれば過剰防衛になります。
「やられたらやり返す」は某倍返しドラマで話題になったセリフでカッコいいですが、お堅い法律の世界では通用しません。
この有名なセリフをもってしても、結局は今まで見たとおり、過剰防衛の要件に照らして、これに該当するかが捜査機関や裁判所に判断されるのです。
従って、このようなセリフに頼るのではなく、法律の専門家である弁護士を味方に付ける必要があります。
素手で殴ってきた相手方に対して、素手でやり返せば過剰防衛になりませんか?
素手でやり返したとしても、それが過剰防衛となる可能性は十分にあります。
過剰防衛の判断は、単純に「素手対素手」という形式だけで決まるものではありません。
侵害者の攻撃の強さ、場所、回数、そして防衛者の反撃の強さ、場所、回数など、具体的な状況が考慮されて、防衛行為が必要最小限度を超えているかどうかによって決まります。
たとえば、相手が素手で殴ってきたとしてもその攻撃が止んだ後にさらに反撃を加えたり、突進してきた小学生を相手に体格の優れたレスラーが殴ったりすれば、それは過剰防衛と判断されかねません。
このように、過剰防衛かどうかの判断は個別具体的な事情によって左右されます。
そのため、素手での応戦であっても、状況によっては過剰防衛と評価される可能性があり、一概に「ならない」とは言えません。
もしそのような状況に直面した場合は、やはり法律の専門家である弁護士に相談することが不可欠です。
まとめ
今回は、過剰防衛について、詳しく解説していきました。
過剰防衛の要件や意味、正当防衛との違いについての理解に資することができていたならば光栄です。
この過剰防衛の判断は、法律の専門家である裁判官、検察官にとっても難しいものです。
これらの者に対抗して有利な判断を勝ち取るには、今一度改めて、同じく法律の専門家である弁護士のバックアップが必要不可欠になると考えます。
特に弊所所属の弁護士は法律知識に精通しているというのは勿論、依頼者の精神的な面において助けになります。
過剰防衛の問題になる事件に巻き込まれた場合には、実際に逮捕されたかを問わず、それがこのコラムを見ているあなたかにかかわらず、まずは弊所所属弁護士を頼ってみてください。
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- 不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件 、 遺産相続 、 交通事故
- プロフィール
- 岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務