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投稿日: 更新日: 代表弁護士 中川 浩秀

窃盗と横領の違いはなに?逮捕後の流れや示談方法を解説

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警察庁の統計によると、平成30年に検挙された窃盗事件の件数が19万544件、横領事件の件数は1万6694件でした。

窃盗も横領も身近な犯罪といえますが、その違いを明確に理解できている方は多くありません。

そこで、今回は窃盗罪と横領罪の違いや逮捕された場合の対処法を解説します。

窃盗罪と横領罪の違い

まずは窃盗罪と横領罪の意義や法定刑を理解した上で、両者の違いを確認しておきましょう。

窃盗罪の意義と法定刑

窃盗罪は、刑法235条で以下のように規定されています。

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

窃盗罪は、他人が占有管理する財物を盗んで自分の占有下に移した場合に成立する犯罪です。

窃盗罪が成立する要件を確認していきましょう。

窃取した物が他人の財物であること

窃盗罪における財物とは、原則として有体物を指し、電気については財物とみなすという特別の規定がおかれており、情報は財物には含まれません。

会社の機密資料をコピーして社外に持ち出したという事例では、コピー紙という有体物を盗んでいることをもって窃盗に該当すると判断されます。

また、財物の財産的価値を問わず、窃盗罪は成立するものと考えられています。

例えば、ラブレターのように金銭的、経済的価値がないものであっても、財物には該当するものを盗めば窃盗罪に問われる可能性があるのです。

ただし、下級審においては、経済的に価値のないものは財物にはあたらないという考え方を採用したものもあります。

不法領得の意思があること

窃盗罪の場合、故意とは別の主観的要素として不法領得の意思があることが犯罪の成立要件になると考えられています。

不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自分の所有物として、その経済的用法に従いこれを利用または処分しようとする意思のことです。

窃取した事実があること

占有者の意思に反して、他人の財物を自分または第三者の占有下に移すことを窃取といいます。

窃盗罪の法定刑は、「十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金」です。

罪名 成立する場合 法定刑
窃盗罪 ・窃取した物が他人の財物であること
・不法領得の意思があること
・窃取した事実があること
十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金

横領罪の意義と法定刑

横領罪には、以下の3種類があります。

それぞれの意義と法定刑を確認していきましょう。

単純横領罪

刑法252条の単純横領罪について規定している条文がこちらです。

自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。

単純横領罪は、他人から預かっていた他人の財物を自己のものにした、勝手に処分した等の場合に成立する犯罪です。

「友人から預かっていたCDを勝手に売却した」、「知人から預かった財布に入っていたお金を勝手に使った」などのケースが単純横領罪に該当します。

単純横領罪の法定刑は5年以下の懲役です。

業務上横領罪

刑法253条の業務上横領罪の条文は以下の通りです。

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。

業務上横領罪は、業務として管理を任されていた他人の物を自己の物にした場合に成立する犯罪です。

銀行の窓口担当が顧客の預貯金を自分のものとして費消した場合や、経理担当者が会社のお金を使い込んだ場合等が業務上横領罪に該当します。

会社のお金の管理を任されていない従業員が会社のお金を盗んだ場合は、横領罪ではなく窃盗罪に問われる可能性が高いです。

業務上横領罪の法定刑は、10年以下の懲役です。

遺失物等横領罪

刑法254条で規定されている遺失物横領罪の条文がこちらです。

遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

遺失物等横領罪とは、落とし物等を自分の物にした場合に成立する犯罪です。

「明らかに持ち主が近くにいない落とし物の財布からお金だけを抜くこと」、「鍵がかかっていない放置自転車を自分の物にすること」などは遺失物労横領罪に該当する可能性があります。

遺失物等横領罪の法定刑は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料です。

罪名 成立する場合 法定刑
単純横領罪 他人から預かっていた他人の財物を自己のものにした、勝手に処分した等の場合に成立する。 5年以下の懲役
業務上横領 業務として管理を任されていた他人の物を自己の物にした場合に成立する。 10年以下の懲役
遺失物等横領罪 落とし物等を自分の物にした場合に成立する。 1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料

窃盗罪と横領罪の違い

窃盗罪と横領罪の違いは、対象となる財物が他人の占有下にあったのか、自己が他人から委託を受けて管理していたのかによります。

前者の場合が窃盗罪、後者の場合が横領罪の対象になります。

判断が難しいのが「窃盗罪」と「遺失物等横領罪」の区別です。

窃盗罪は他人の占有下にある物を盗んだ場合に成立する犯罪で、遺失物等横領罪は他人の占有を離れた物を盗んだ場合に成立する犯罪です。

「公園のベンチに鞄を置いて自動販売機のジュースを買いに行った隙に、鞄が盗まれた」という事例において、窃盗罪になるのか遺失物等横領罪になるのかは、鞄の持ち主と鞄との距離、ベンチに置きっぱなしにした時間等を総合的に考慮し、持ち主の占有が鞄に及んでいたかどうかによって判断されます。

実際にあった窃盗罪と横領罪

では、実際に起きた事件をみながら窃盗罪と横領罪の違いを確認してみましょう。

仏像を盗んで懲役2年8か月

3人の男性が寺院の仏像を盗もうとして住職に見咎められて逃走したという事件では、全員が逮捕されて各自に窃盗罪の有罪判決が言い渡されました。

3人の男性にはそれぞれ、懲役2年8か月、執行猶予1年6か月懲役1年6か月、懲役2年の有罪判決が言い渡されています。

彼らは仏像を盗んで売却するつもりだったとのことです。

ケース 罪名
ずっと公園のベンチに置き去りになっているカバンが盗まれた。持ち主は見渡す限りいなかった。 持ち主はその場にいないため、窃盗罪。
山手線の電車で貴重品袋を忘れてしまい、その中から定期券だけが盗まれた。 遺失物であることを理解した上で犯人も盗んでいるため、遺失物横領罪。

電車の備品を盗んで懲役1年6か月執行猶予3年

電車好きの女性が、合鍵を使って電車の乗務員室に忍び込み、備品を盗んだとして窃盗罪に問われた事件では、有罪判決が言い渡されています。

懲役1年6か月、執行猶予3年という判決でした。

事例 刑事罰
仏像を盗んだ 懲役2年8か月、執行猶予1年6か月懲役1年6か月、懲役2年の有罪判決

世界遺産の入山協力金150万円を着服、業務上横領で懲役2年執行猶予4年

世界遺産の山に登る登山者から集めた入山協力金約150万円を横領した会計担当職員は、業務上横領に問われ、有罪判決を言い渡されました。

懲役2年執行猶予4年です。

その職員は、会計業務にあたっており業務として他人の財物を占有していたことから、業務上横領と判断されています。

事例 刑事罰
不法侵入し、備品を盗んだ 懲役1年6か月、執行猶予3年

病死した男性の検屍にかけつけた警察官が時計を盗み遺失物等横領罪で懲役1年執行猶予3年

病死した男性の検屍のために男性の自宅に駆けつけた警察官が、自宅にあった高級腕時計を持ち去った事件では、遺失物等横領罪に問われ、裁判で有罪判決が言い渡されました。

処断刑は懲役1年、執行猶予3年でした。

判決では、警察官の信用を失墜させたとしながらも懲戒免職処分を受けていることや、被害者に弁済していることから執行猶予付き判決が妥当と判断されたとのことです。

事例 刑事罰
協力金の約150万円を横領した 懲役2年執行猶予4年

窃盗罪や横領罪で逮捕された後の流れ

では、窃盗罪や横領罪で逮捕されたらどのように手続が進むのでしょうか。

逮捕後の流れを確認しておきましょう。

逮捕から最長72時間の取調べ

窃盗罪や横領罪で逮捕された場合、逮捕から最長48時間は警察によって身柄が拘束されて、取調べが行われます。

その期間は、家族や友人は面会することができません

接見できるのは弁護士のみです。

警察による取調べのあとは、検察庁に身柄が送致されて検察官による取調べが行われます。

検察官は事情を聞くとともに、勾留が必要かどうかを判断します。

検察官が勾留すべきと判断すると、裁判官に勾留請求を行い、裁判官も勾留が必要だと判断すれば勾留が決定します。

勾留

勾留とは、逮捕がなされた被疑者について、さらに身体を拘束する必要があるときに行われる身体拘束のことです。

勾留期間は原則として10日間ですが、必要に応じて最長で10日間、延長される可能性があります。

そのため、逮捕された時から数えると最大23日間自宅に帰ることができないということになります。

もちろん、この期間は会社に行くことも学校へ通うこともできませんので、身体拘束があまりにも長期にわたる場合には、職場や学校に事情を説明して長期間休まなければなりません。

令和元年の犯罪白書によると、窃盗で逮捕されて検察官に身柄を送致された2万8074人と検察庁で逮捕された33人のうち、勾留されたのは2万5281人でした。

窃盗の疑いで逮捕されて検察官に送致されると約9割の確率で勾留されてしまうということです。

ただし、逮捕後早い段階で弁護士に弁護を依頼することで、弁護士が勾留阻止のための弁護活動を行うことができます。

勾留による身柄拘束を回避したい方は、なるべく早く弁護士に依頼することをお勧めします。

起訴から裁判まで

検察官は、勾留期間が満了するまでに起訴するかどうかを判断します。

起訴すると判断されれば刑事裁判が開かれます。

刑事裁判が開かれた場合の有罪率は高いため、一度起訴されれば無罪判決を勝ち取ることは容易ではありません

しかし、事件全体をみると、起訴される確率は平成30年の刑法犯では37.1%です。

検察官は有罪を見込める事件しか起訴しないという方針のため、事案によっては起訴されずに終わるものもあるということになります。

そうであることから、窃盗罪や横領罪で前科をつけたくない場合は、不起訴処分を目指すことが現実的といえます。

窃盗罪や横領罪で不起訴処分を獲得するために有効なのが、被害者との示談を成立させることです。

被害者と示談を成立させた上で犯行に対して深く反省していることを主張すれば、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。

ポイント

  • 窃盗で逮捕された際に家族や友人は面会することができない。
  • 勾留すると最大23日間家から帰れない。
  • 起訴されれば無罪になるのは難しいため、不起訴を目指す必要があり、それには弁護士依頼が不可欠。

窃盗罪と横領罪の示談方法

では、窃盗行為や横領行為を行った場合、どのように被害者との示談を進めるのでしょうか。

順を追って解説します。

窃盗の場合は被害者の連絡先の確保

示談交渉に着手するためには、被害者の連絡先を知ることが必須です

単純横領や業務上横領の場合に、被害者の連絡先を知らないということはあまりないかもしれませんが、窃盗や占有離脱物横領の場合には、被害者の氏名や連絡先を知らないということもあるでしょう。

この場合は、警察や検察などの捜査機関に被害者の連絡先を聞く必要があります。

ただし、多くの犯罪被害者は加害者からに連絡先等を知られることを嫌がります

その場合は弁護士に示談交渉を一任し、弁護士から「示談交渉のために連絡先を知りたい」と捜査機関に対して問い合わせてもらうことになります。

弁護士に対してであれば連絡先を知らせるという被害者もいます。

謝罪と示談交渉

窃盗でも横領でも、まずは被害者に対して謝罪を行います

窃盗や横領を行ったことを認めた上で、深く反省していることを伝えましょう。

それから示談金の提示を行います。

示談金は、盗んだものの代金や横領したお金と慰謝料、それ以外の損害の賠償金を合計したものです。

例えば、「営業マンが経理部に忍び込んで金庫を壊して現金100万円を盗んだ」という窃盗事件の場合は、現金100万円と壊れた金庫の弁償費用を支払うことになります。

状況によっては慰謝料も支払います。

これらの金額を合計したものが示談金です。

横領の場合は、横領した金額を全額弁済すれば、慰謝料までは請求されないというケースもあります。

窃盗の場合は、窃盗の手口や悪質度によっても異なりますが、盗んだ財物の代金と慰謝料を支払うことが多いです。

示談金の分割払いを申し入れる場合は、交渉の早い段階で伝えましょう。

分割払いを嫌がる被害者もいますが、分割払いに応じてもらいたい理由を説明した上で、連帯保証人を立てる、強制執行認諾文言付公正証書を作成することなどを提示すれば、認められる可能性が高まります。

示談の成立

被害者が提示した示談金に合意した場合は、示談書を取り交わせば示談が成立します

示談成立後は、被害者に対して速やかに示談金を支払います。

ただし、示談書は慎重に作成しなければなりません。

示談書には、示談金だけでなく示談後の禁止事項等を盛り込んでおく必要があります

示談によって被害届の取下げや告訴の取消を求める場合は、その旨も明記しておかなければなりません。

ポイント

  • 窃盗の示談は、連絡先の確保から始める。
  • 示談交渉の場合は、謝罪が最も大切。
  • 示談の内容は、示談後の禁止事項などを盛り込んでおく。

まとめ

窃盗罪と横領罪の違いは、簡単にいうと「他人が占有しているものを盗んだかどうか」です。

他人が占有しているものを盗んだ場合は窃盗罪で、他人の占有を離れているもの、他人から管理を任されているものを盗んだ場合は横領罪となります。

どちらの場合も、逮捕されてしまうと長期間に及ぶ身柄の拘束が続きます。

また、起訴されれば有罪判決が言い渡される可能性が非常に高いです。

窃盗罪や横領罪で逮捕された影響を最小限にしたい、前科がつくことを回避したいのであれば、逮捕されてからなるべく早い段階で弁護士にご相談ください。

まだ逮捕されていないのであれば、早急に被害者と示談を成立させることで刑事事件化することを回避できる可能性もあります。

すでに窃盗や横領に該当する罪を犯してしまった方は、一刻も早く弁護士にご相談ください。

画像準備中
執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。
「ForClient」を理念として自らも多くの顧客の信頼を得ると共に、2018年の事務所開設以降、2023年までに全国12支店へと展開中。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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