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更新日: 代表弁護士 中川 浩秀

離婚後の生活費はどうする?相手に請求できる?費用のシミュレーションや対処法を解説

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離婚を考えたとき、新しい生活への希望と同時に、多くの方が「お金」という現実的な問題に直面し、大きな不安を感じていらっしゃるのではないでしょうか。

「離婚したら、子どもと自分の生活はどうなるんだろう…」 「相手に生活費は請求できるの? もし払ってもらえなかったら…」 こうしたお金に関する疑問や不安は、新たな一歩を踏み出す勇気を鈍らせてしまうかもしれません。

しかし、ご安心ください。離婚後の生活を安定させるために「何を知っておくべきか」「どう行動すべきか」を事前に把握しておけば、その不安は大きく和らぎます。

この記事では、離婚後の生活費の具体的な目安から、配偶者に請求できるお金の種類、失敗しないためのシミュレーションのポイント、そして公的な支援制度まで、離婚とお金に関するあらゆる疑問に網羅的にお答えします。

この記事を読み終える頃には、ご自身の状況を客観的に見つめ、次の一歩を具体的に考えることができるはずです。

離婚後の生活費はいくらかかる?

離婚後の生活を具体的にイメージするために、まずはどのくらいの費用がかかるのかを把握することから始めましょう。

ここでは、公的な統計データを基にした生活費のモデルケースをご紹介します。

母子家庭(18歳未満の子ども1人)の1カ月の生活費の目安

総務省の調査によると、18歳未満の子どもが1人いる母子家庭(2人世帯)の1カ月の消費支出は約23万円が目安となります。

【母子家庭(子ども1人)の生活費内訳の目安】

項目 金額
食費 約60,000円
住居費 約55,000円
水道光熱費 約16,000円
家具・家事用品 約8,000円
被服・履物 約6,000円
保健医療 約8,000円
交通・通信費 約30,000円
教育費 約3,000円
教養・娯楽費 約18,000円
その他(交際費など) 約26,000円
合計 約230,000円

※上記の金額は、総務省統計局「家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)」の「世帯類型別(18歳未満の世帯員がいる世帯)・世帯人員別」における「母子世帯(2人)」の数値を基に算出しています。住居費は総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」における2023年の民営借家の1カ月あたり家賃(全国平均)を参考にしています。あくまで全国平均の参考値であり、お住まいの地域やライフスタイルによって変動します。

子どもが1人増えた場合の増額分の内訳

子どもが1人増えて3人世帯になった場合、上記の約23万円に加えて、毎月5万円~7万円程度の支出増が見込まれます。

総務省の同調査によると、母子世帯(3人)の消費支出の平均は約28万円となっており、2人世帯と比較して約5万円高くなっています。

特に増額が見込まれるのは以下の項目です。

  • 食費: 食べる量が増えるため、単純に増加します。
  • 水道光熱費: 入浴や洗濯の回数が増えることなどにより増加します。
  • 教育費: 学校や習い事にかかる費用が増えます。特に子どもが成長し、進学するにつれて教育費の負担は大きくなる傾向にあります。
  • 被服・履物費: 成長に合わせて買い替えが必要になるため、人数分増加します。
  • 教養・娯楽費: レジャーやお出かけにかかる費用が増えます。

子どもの年齢や家庭の教育方針によって、教育費や教養娯楽費は大きく変動します。

例えば、塾や習い事に通わせる場合、上記の目安よりもさらに多くの費用がかかる可能性があります。

具体的な増額分については、ご自身の家庭状況に合わせてシミュレーションすることが重要です。

離婚後の生活費は元配偶者に請求できる?

「離婚後も、相手に生活費を払ってもらいたい」と考える方は少なくありません。

しかし、原則として、離婚が成立した後に「生活費」そのものを元配偶者に請求することはできません。

夫婦には、互いに同程度の生活レベルを維持する義務(生活保持義務)がありますが、この義務は離婚によって終了するためです。

ただし、「生活費」という名目ではなくても、離婚時にお金を請求できる可能性自体は十分にあります。

それが、次にご紹介する「財産分与」や「養育費」などです。これらをきちんと取り決めておくことが、離婚後の経済的な安定に直結します。

離婚時に請求できる生活費以外のお金

離婚後の生活設計を立てる上で、元配偶者から受け取れる可能性のあるお金について知っておくことは非常に重要です。

主に以下の4つが挙げられます。

①財産分与

財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を、離婚時にそれぞれの貢献度に応じて公平に分け合う制度です。

通常、貢献度は等しいとされ、専業主婦(主夫)であったとしても原則として2分の1の割合で財産を受け取る権利があります。

【財産分与の対象となる主な財産】

  • 預貯金
  • 不動産(家、マンション、土地など)
  • 自動車
  • 生命保険や学資保険(解約返戻金)
  • 有価証券(株式、投資信託など)
  • 退職金・年金(将来受け取る予定のものも含む)

相手名義の財産であっても、それが婚姻期間中に夫婦の協力のもとに得られたものであれば共有財産として分与の対象となります。

②養育費

養育費とは、子どもが経済的に自立するまでに必要となる生活費や教育費などのことです。親には子どもを扶養する義務があり、この義務は離婚によってなくなることはありません。

そのため、子どもを直接育てない親(非監護親)も、養育費を支払う法的な義務を負います。

金額は、夫婦双方の収入や子どもの人数・年齢に応じて決められるのが一般的です。

弁護士のワンポイントアドバイス

養育費の取り決めの際、「公正証書」を作成しておくと安心です。

口約束は、後から「言った」「言ってない」の争いになりやすいですし、夫婦間で合意書を交わしていたとしても、万が一支払いが滞った際に、すぐに給料の差押えなどの強制執行手続ができません。

それに対し、公正証書を作成し、「支払いが滞った場合は直ちに強制執行に服する」という一文(強制執行認諾文言)を入れておくことで、裁判を経ずにスムーズに差押え手続を進めることが可能になります。

離婚協議時に必ず払うと言われていても、将来何が起こるかはわかりませんので、公正証書は、お子様との将来の生活を守るための安心材料になります。

③慰謝料

慰謝料とは、相手の不法行為(不貞行為やDVなど)によって受けた精神的苦痛に対する損害賠償金です。

離婚するすべてのケースで請求できるわけではなく、相手に離婚の原因を作った責任(有責性)がある場合に請求が認められます。

慰謝料の金額は、原因となった行為の内容や期間、悪質性、精神的苦痛の度合いなどを考慮して決められます。

④年金分割

年金分割とは、婚姻期間中の厚生年金や共済年金の保険料納付記録を、夫婦間で分割できる制度です。

これにより、婚姻期間中に専業主婦(主夫)であったり、パートタイムで働いていたりした側も、将来受け取る年金額を増やすことができます。

分割の割合は、夫婦間の話し合いで決められますが、合意できない場合は家庭裁判所が決定します。

原則として、対象となる期間の納付記録を2分の1ずつ分割することになります。

離婚後の生活費をシミュレーションする際の2つのポイント

離婚後の生活を現実的に見据えるためには、具体的なシミュレーションが不可欠です。

感情的に事を進めるのではなく、冷静に数字と向き合う時間を作りましょう。

①収入・支出をすべて書き出して比較する

まずは、離婚後の収入と支出がそれぞれいくらになるのかを、できるだけ詳細に書き出してみましょう。

  • 収入: 自身の給与、受け取る予定の養育費、児童扶養手当などの公的支援
  • 支出: 家賃、食費、水道光熱費、通信費、保険料、子どもの教育費、交通費、衣料品費、交際費など

現在の家計簿を参考にしながら、離婚後に変動する項目(特に家賃などの住居費)を考慮して計算します。

収入が支出を上回るか、赤字になってしまうのかを明確に把握することが第一歩です。

具体例でシミュレーションしてみましょう

言葉だけではイメージしにくいかもしれませんので、具体的なモデルケースで見ていきましょう。

《Aさん(35歳・パート)/子ども1人(5歳)の場合》
▼収入の部(月額)
・パート収入(手取り): 100,000円
・元夫からの養育費: 50,000円
・児童手当: 10,000円
・収入合計: 160,000円

▼支出の部(月額)
・家賃: 75,000円
・食費: 50,000円
・水道光熱費: 15,000円
・通信費: 10,000円
・保育園代: 20,000円
・保険料: 5,000円
・雑費・予備費: 10,000円
・支出合計: 185,000円

▼1カ月の収支
・160,000円(収入) – 185,000円(支出) = ▲25,000円(赤字)

弁護士のワンポイントアドバイス

このように数字を可視化すると、漠然とした不安が「毎月あと2万5千円をどうするか」という具体的な課題に変わります。

もしシミュレーションの結果が赤字になったとしても、決して悲観する必要はありません。

これは、離婚後の生活で困らないように、今から対策を立てるべきポイントが明確になったということです。この結果を踏まえて、次の「対処法」を一緒に考えていきましょう。

②不確実性や将来的な支出も考慮する

シミュレーションを行う際は、現時点で確定している数字だけでなく、将来起こりうる不確実な要素も考慮に入れることが大切です。

  • 子どもの成長に伴う支出増: 進学(入学金、授業料)、塾や習い事の費用など、子どもの進路や成長段階に応じて教育費は増加していきます。
  • 予期せぬ出費: 自身や子どもの病気・怪我による医療費、家電の買い替え、冠婚葬祭費など、突然の出費に備えるための貯蓄も計画に含めておきましょう。
  • 収入の変動リスク: 自身の失業や転職による収入減、元配偶者からの養育費の支払いが滞るリスクなども念頭に置き、少し余裕を持った資金計画を立てることが望ましいです。

これらの将来的な支出をリストアップし、それに備えて毎月いくら貯蓄に回すべきかを考えておくと、より安心です。

離婚後の生活費が足りない可能性がある場合の対処法

シミュレーションの結果、生活が苦しくなる可能性が見えてきた場合でも、事前に対策を講じることで状況を改善できます。

①収入を増やす

まずは、収入を増やすための具体的な行動を検討しましょう。

  • キャリアアップ・転職: 現在の職場で昇進や昇給を目指す、あるいはより条件の良い職場への転職を考える。
  • 資格取得: 専門的な資格を取得してスキルアップを図り、収入増につなげる。
  • 働き方の変更: パートタイムであれば正社員を目指す、あるいは勤務時間を増やす。
  • 副業を始める: 空いた時間を見つけて、無理のない範囲で副業を始めることも一つの方法です。

離婚前から準備を進めておくことで、離婚後の生活をスムーズにスタートさせることができます。

②親などの援助を受ける

自身の収入だけでは経済的に厳しいという場合は、一時的に親や兄弟姉妹に援助を頼むことも選択肢の一つです。

ただし、援助を受ける際は、あくまでも一時的なものであることを認識し、自立に向けた計画をしっかりと伝えて理解を得ることが大切です。

③支出を減らす

収入をすぐに増やすのが難しい場合でも、支出を見直して削減することができれば効果的です。

  • 固定費の見直し: 家賃の安い物件への引っ越し、スマートフォンの料金プラン変更、不要な保険の解約など、毎月必ずかかる固定費を削減できないか検討しましょう。
  • 変動費の節約: 食費(自炊を増やす、まとめ買いをする)、娯楽費、被服費など、日々の生活の中で節約できる部分がないか見直しましょう。

離婚後の生活費を賄うために受け取ることができる手当

離婚後、特に子どもを育てるひとり親家庭に対しては、国や自治体による様々な公的支援制度が用意されています。

これらを活用することで、経済的な負担を大きく軽減できる可能性があります。

①児童扶養手当

ひとり親家庭などを対象に支給される手当です。

所得に応じて支給額が変動しますが、子どものいる家庭にとって重要な収入源の一つとなります。(出典:こども家庭庁)

②児童手当

中学校卒業までの児童を養育している方に支給される手当です。

離婚後は、子どもを実際に監護している親が受給者となります。(出典:内閣府)

③ひとり親家庭等医療費助成制度

ひとり親家庭の親と子どもが、病院などで診療を受けた際の医療費(保険診療の自己負担分)の一部または全部を自治体が助成してくれる制度です。

④住宅手当(家賃補助)

自治体によっては、ひとり親家庭を対象に家賃の一部を補助する制度を設けている場合があります。

「住宅手当」や「家賃助成」などの名称で実施されています。

⑤就学援助制度

経済的な理由で就学が困難な児童・生徒に対して、学用品費や給食費、修学旅行費などを援助する制度です。

⑥国民年金・国民健康保険の免除・減額制度

所得が一定基準以下の場合、国民年金保険料の支払いが免除または猶予されたり、国民健康保険料が減額されたりする制度があります。

⑦寡婦(寡夫)控除

離婚または死別後に婚姻せず、子どもなどを扶養している場合に受けられる所得控除です。

年末調整や確定申告で手続をすることで、所得税や住民税の負担が軽減されます。

※これらの制度は、お住まいの自治体によって内容や名称、所得制限などの条件が異なる場合があります。詳しくは、市区町村の役所の担当窓口にご確認ください。

弁護士のワンポイントアドバイス

ここでご紹介した公的支援は、残念ながら待っているだけでは受けられません。

ご自身で市区町村の役所の窓口へ行き、申請手続をする必要があります。

離婚前後は心身ともに大変な時期で、役所での手続を負担に感じる方も少なくありません。

しかし、これらの支援は、あなたとお子様の生活を支えるための大切なものです。

ご自身の状況でどの制度が利用できるか、まずは役所の担当者に相談することから始めてみてください。

まとめ

離婚後の生活には、住居費や食費、教育費など様々なお金がかかります。

しかし、財産分与や養育費、公的支援など、知っておくべき知識を身につけ、一つひとつ準備を進めることで、経済的な不安は着実に解消していくことができます。

離婚は、決してつらいだけの出来事ではありません。それは、あなたとお子様が、自分たちらしく笑顔で暮らせる未来を築くための、新しい「スタート」です。

私たち弁護士の役割は、法的な問題を解決するだけではありません。

皆様が安心してそのスタートラインに立ち、新たな一歩を踏み出すためのお手伝いをすることを使命だと考えています。

お金の問題、将来への不安、どんな些細なことでも構いません。一人で抱え込まず、ぜひ私たち専門家にご相談ください。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士として、男女問題などの一般民事事件や刑事事件を解決してきました。「ForClient」の理念を基に、個人の依頼者に対して、親身かつ迅速な法的サポートを提供しています。
得意分野
不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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