養育費の強制執行とは?未払いを諦めずにお金をとる方法や手順、注意点を紹介

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記事目次
離婚した相手が養育費を支払ってくれず、お子様との生活に不安を抱えていませんか。
口頭や書面で催促しても応じてもらえず、「もう諦めるしかないのか…」と途方に暮れている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、養育費には「強制執行」という、法律に基づいて相手の財産を差し押さえ、未払い分を回収するための強力な手続があります。
この記事では、養育費の未払いで悩んでいる方に向けて、強制執行の概要、進め方、必要な費用や注意点などを分かりやすく解説します。
泣き寝入りする前に、正当な権利を行使するための知識を身につけましょう。
養育費とは
養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要となる費用のことです。
具体的には、衣食住にかかるお金はもちろん、教育費や医療費、娯楽に関する費用も含みます。
親には子どもを扶養する義務(扶養義務)があり、この義務は離婚によってなくなるものではありません。
そのため、子どもを直接監護していない親(非監護親)は、監護している親(監護親)に対して、子どもの生活を支えるための費用として養育費を支払う必要があります。
養育費の未払いで悩む人の割合
残念ながら、養育費の取決めをしても、それが守られないケースは少なくありません。
厚生労働省が実施した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、母子世帯のうち、離婚した父親から現在も養育費を受けているのはわずか28.1%という結果でした。
一方で、「養育費を受けたことがない」と回答した世帯は56.9%にものぼります。
このデータからも、養育費の未払いが身近な課題であることが伺えます。(出典:厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」)
養育費の強制執行とは
養育費の強制執行とは、養育費を支払う義務があるにもかかわらず支払いをしない相手(債務者)に対し、裁判所を通じてその財産を強制的に差し押さえ、未払い分を回収する法的な手続です。
具体的には、相手の給与や預貯金、不動産などを対象に差押えを申立てます。
差押えが認められると、例えば給与であれば勤務先から、預貯金であれば金融機関から、未払い養育費が直接支払われることになります。
ポイントは、あなたの正当な権利を現実のお金に変えるための実行手段だということです、非常に強力かつ有効な手段です。
養育費の強制執行を行うデメリット
強制執行は有効な手段ですが、以下のようなデメリットも存在します。
- 相手との関係がさらに悪化する可能性がある
財産を強制的に差し押さえるため、相手の感情を逆なでし、関係性が決定的に悪化する恐れがあります。これにより、面会交流など他の取決めに影響が出る可能性もゼロではありません。 - 手間と時間がかかる
申立てには、必要書類の収集や裁判所への出頭など、一定の手間と時間がかかります。弁護士に依頼しない場合は、ご自身でこれらの手続を進める必要があります。 - 費用がかかる
裁判所に納める手数料(収入印紙)や郵便切手代などの実費が必要です。また、弁護士に依頼する場合は弁護士費用も発生します。 - 必ず回収できるとは限らない
相手に差し押さえるべき財産がなければ、空振りに終わってしまう可能性があります。
養育費の強制執行をしてもお金がとれないケース
残念ながら、強制執行の申立てをしても、必ず養育費を回収できるわけではありません。
以下のようなケースでは、回収が困難になることがあります。
- 相手が無職・無収入で財産もない
給与や預貯金、不動産など、差し押さえるべき財産が相手に全くない場合は、回収のしようがありません。 - 相手が自営業者で財産の特定が難しい
給与所得者と違い、自営業者は収入や財産の実態が掴みにくいため、差押えの対象を特定することが困難な場合があります。 - 相手が転職を繰り返している
給与の差押えをしても、相手がすぐに退職・転職してしまうと、その都度、新しい勤務先を特定して再度申立てを行う必要があります。 - 財産を隠匿されている
他人名義の口座を利用するなど、巧妙に財産を隠されていると、発見が難しく差押えができません。
もっとも、これらのケースでも、弁護士による財産調査(弁護士会照会など)や、後述する「第三者からの情報取得手続」によって手がかりが得られるケースもあります。
諦める前に一度、専門家にご相談ください。
養育費の強制執行をするために必要な条件
養育費の強制執行を申し立てるには、「債務名義(さいむめいぎ)」を持っていることが絶対条件です。
債務名義とは
債務名義とは、養育費を請求する権利(誰が、誰に対し、いくら支払う義務があるか)を公的に証明する文書のことです。
単なる口約束や、当事者同士で作成した私的な合意書だけでは、原則として強制執行の申立てはできません。
債務名義にあたる主な文書は以下の通りです。
- 確定判決
離婚裁判の判決で養育費の支払いが命じられた場合、その判決書が債務名義になります。 - 和解調書・調停調書
離婚調停や裁判上の和解で養育費の支払いを含む合意が成立した場合、裁判所が作成する文書です。判決と同じ効力を持ちます。 - 審判書
調停が不成立になった後、裁判官が判断(審判)を下した場合に作成される文書です。 - 強制執行認諾文言付公正証書
公証役場で作成される公的な文書(公正証書)。「支払いを怠った場合は直ちに強制執行に服する」という趣旨の文言(強制執行認諾文言)が記載されているものです。
養育費の強制執行で差し押さえできる財産とは?
強制執行を申し立てる際、相手方(債務者)の財産を特定する必要がありますが、差し押さえの対象となる財産はさまざまです。代表例は、以下の通りです。
- 給与債権
相手の勤務先から支払われる給与や賞与(ボーナス)。養育費の場合、手取り額の2分の1まで(手取りが66万円を超える場合は33万円を控除した全額)を差し押さえることが可能です。 - 預貯金債権
相手が所有する銀行や信用金庫などの預貯金口座。 - 不動産
相手名義の土地や建物。競売にかけてその売却代金から回収します。 - 自動車・バイク
資産価値が見込める自動車やバイク。 - 生命保険
解約返戻金のある生命保険。 - その他
株式や投資信託、売掛金なども対象となります。
確実性・回収率の観点から、相手方が会社員の場合は給与を差し押さえることが多いですが、いずれにしても「どれを狙うか」で回収効率が大きく変わります。詳しくは、弁護士に相談してみてください。
養育費の強制執行の手順
強制執行は、一般的に以下の手順で進められます。
- 債務名義の取得
まずは、調停の申立てや公正証書の作成などにより、前述した「債務名義」を取得します。
※万一、養育費の支払いについて口約束や私的な合意書のみしかない場合は、債務名義が存在しません。そのため、そのようなケースにおいては、まず相手に対し「養育費支払請求」という訴訟を提起する必要があります。そして、その訴訟の中で判決書や和解調書という「債務名義」を取得する必要があります。
- 相手の財産の調査・特定
給与を差し押さえるなら勤務先を、預貯金を差し押さえるなら原則、金融機関名と支店名を特定する必要があります。 - 裁判所への申立て
相手の住所地を管轄する地方裁判所に「債権差押命令申立書」等の必要書類を提出します。 - 裁判所による差押命令の発令・送達
書類に不備がなければ、裁判所が差押命令を発令します。この命令は、相手(債務者)と、給与の支払者である勤務先や預金の支払者である金融機関(これらを「第三債務者」と呼びます)に送達されます。 - 養育費の取立て
差押命令が第三債務者に届くと、あなたは第三債務者(勤務先や金融機関)から直接、養育費を取り立てることができるようになります。
必要な書類
債権差押命令の申立てに必要な主な書類は以下の通りです。
| 書類名 | 概要 |
| 債権差押命令申立書 | 裁判所のウェブサイトで書式を入手できます。当事者や請求債権、差し押さえる債権などを記載します。 |
| 債務名義の正本 | 判決書、調停調書、公正証書などの原本です。 |
| 送達証明書 | 債務名義が相手に送達されたことを証明する書類です。債務名義を取得した裁判所や公証役場で発行してもらいます。 |
| 当事者の資格証明書 | 当事者が法人の場合は代表者事項証明書や登記事項証明書(履歴事項全部証明書)等が必要です。 |
| 住民票・戸籍附票 | 申立書に記載した当事者の住所と、債務名義に記載された住所が異なる場合に必要です。 |
※事案によって必要な書類が異なる場合がありますので、詳細は専門家に相談しましょう。
費用
強制執行にかかる費用の目安は以下の通りです。
- 収入印紙代
申立手数料として、4,000円分の収入印紙が必要です(債権者1名、債務者1名、第三債務者1名の場合)。 - 郵便切手代
裁判所からの書類送付に使用します。数千円程度が必要で、金額や組み合わせは裁判所や事案によって異なります。事前に申立て先の裁判所に確認しましょう。 - 弁護士費用
弁護士に依頼する場合に必要です。費用体系は法律事務所によって異なります。
養育費の時効とは
養育費を受け取る権利にも時効があります。時効が成立すると、相手に支払いを請求できなくなってしまうため注意が必要です。
養育費の時効は、原則毎月の支払日から5年です。
しかし、過去の未払い分の養育費の時効については、養育費の取決めの方法によって異なります。
- 当事者間の合意(口約束や合意書など)の場合:5年
- 調停、審判、裁判などで確定した場合:10年
※将来分の養育費の時効期間は、取り決め方法に関わらず5年間で月ごとに時効が進行しますのでご注意ください。
ただし、時効期間が経過する前に裁判上の請求や差押えなどを行うことで、時効の完成を阻止したり、期間をリセット(時効の更新)したりすることが可能です。(出典:e-Gov法令検索「民法」第百六十六条、第百六十九条)
時効は意外な落とし穴です。放置すると回収が難しくなりますので、不払いが生じたときは早めの一手が有効です。
法改正のポイント
2020年4月1日に施行された改正民事執行法により、養育費の回収が以前より行いやすくなりました。特に重要なポイントは以下の2つです。
- 第三者からの情報取得手続の新設
これまで、相手の勤務先や預金口座が不明な場合、強制執行は困難でした。しかし、この改正により、裁判所を通じて市区町村や年金事務所、金融機関などから相手の財産情報を取得できる手続きが新設されました。
- 預貯金口座の情報取得:裁判所を通じて金融機関に照会し、相手の口座の有無や支店名などを開示させることができます。
- 勤務先の情報取得:裁判所を通じて市区町村や年金事務所に照会し、相手の勤務先に関する情報を得ることができます。
- 財産開示手続の実効性向上
財産開示手続は、債務者を裁判所に呼び出し、自己の財産状況を陳述させる手続です。平成15年に創設されましたが、債務者が非協力的だった場合の罰則が弱いといった課題がありました。しかし、今回の改正により、債務者が正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりした場合の罰則が強化され(「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」)、出頭確保と真実開示の実効性の向上が図られました。
これらの改正により、財産を隠したり、調査に非協力的な相手に対しても、以前より効果的に強制執行を行える可能性が高まりました。(出典:法務省「民事執行法改正に関するパンフレット」)
養育費の強制執行で発生する弁護士の費用
弁護士に強制執行の手続を依頼する場合、一般的に以下のような費用がかかります。
- 相談料
法律相談をする際にかかる費用です。30分5,000円程度が相場ですが、初回相談は無料としている事務所も多くあります。 - 着手金
弁護士に正式に依頼する際に支払う費用です。養育費の強制執行の場合、10万円~20万円程度が目安となります。
なお、着手金は手続きの結果に関わらず返還されないのが通常です。強制執行が空振りに終わった場合でも、返金されないということです。
- 報酬金
手続が成功し、養育費を回収できた場合に支払う成功報酬です。回収できた金額の10%~20%程度が相場です。
費用体系は法律事務所によって大きく異なります。また、事案の難易度によっても変動します。
依頼する前には必ず、費用の総額や内訳について詳細な説明を受け、見積書を確認するようにしましょう。
養育費の未払いへの対処法
強制執行は確かに強力で有効な方法ですが、前述の通りリスクも伴うため、あくまで「最終手段」という位置づけになります。
だからこそ、強制執行に踏み切る前に、養育費の未払いに対処する方法がいくつかあります。
まずは、以下のような手段で、相手に支払いを促すことも検討してみましょう。
- 電話や書面による催促
まずはシンプルに、相手に直接連絡を取り、支払いを求めることから始めましょう。。感情的にならず、冷静に淡々と事実を伝えることが大切です。特に内容証明郵便を利用すると、支払いを催促した証拠が残せるので、相手への心理的なプレッシャーにもつながります。
また、差し押さえの対象財産によっては、強制執行でも分割で回収するケースが多いです。
そのため、交渉の段階で、相手方から分割払いを前提とした具体的な支払計画が提示された場合には、一括払いを固辞することなく条件を精査したうえで応じるかどうか検討することも重要です。
- 家庭裁判所の履行勧告
調停や審判で決まった養育費が支払われない場合、家庭裁判所から相手に支払いを促してもらう「履行勧告」という制度を利用できます。手数料はかかりませんが、強制力もありません。
これらの方法で解決しない場合に、強制執行を検討しましょう。
より詳しい対処法は、以下の記事も参考にしてください。
離婚相手が養育費を支払わない場合の対処法│差し押さえの方法や流れを紹介
養育費の取決めは公正証書にしておこう
協議離婚の場合、養育費の取決めは当事者間の合意書で済ませることもできますが、将来の未払いに備えるなら、「強制執行認諾文言付公正証書」を作成しておくことを強くお勧めします。
強制執行認諾文言付公正証書を作成しておけば、万が一支払いが滞っても、裁判をすることなく直ちに強制執行の申立てが可能になります。これは非常に大きなメリットです。離婚の話し合いの段階で、相手に協力を求め、公証役場で作成手続きを進めましょう。
養育費の強制執行に関してよくある質問
ここでは、養育費の強制執行についてよく寄せられる質問にお答えします。
Q1. 相手の勤務先や銀行口座が分からなくても強制執行できますか?
はい、可能です。
2020年4月に施行された改正民事執行法により、「第三者からの情報取得手続」が利用できるようになりました。
これにより、利用要件を充たす場合は、裁判所を通じて市区町村や年金機構、金融機関などに照会をかけ、相手の勤務先情報や預金口座の情報を取得することが可能になりました。
情報が得られたら、差し押さえの申し立てに進むことが可能となります。
このように以前に比べて、相手の財産調査が格段に行いやすくなりました。
Q2. 相手から「差し押さえされたら生活できない」と拒否されていますが、それでも強制執行は可能ですか?
はい、原則として可能です。
法律では、国民の最低限の生活を保障するため、差押えが禁止されている財産(差押禁止債権)が定められています。
給与についても、原則として手取り額の4分の3(養育費の場合は2分の1)は差押えが禁止されています。
つまり、強制執行は、相手の生活を全くできなくするものではなく、法律で定められた範囲内で行われます。
「生活できない」という相手の主張だけで、法的な差押えをが拒否されることはありませんし、あなたが強制執行を諦めて泣き寝入りする必要もありません。
Q3. 弁護士に依頼するメリットは何ですか?
主に3つのメリットがあります。
- 手続の負担軽減:申立書の作成や裁判所とのやり取りなど、複雑で手間のかかる手続をすべて任せることができます。
- 精神的負担の軽減:相手と直接やり取りする必要がなくなり、精神的なストレスから解放されます。
- 回収可能性の向上:弁護士は法的な知識と経験に基づき、最も効果的な財産の調査方法や差押えの対象を選択できます。法改正された情報取得手続などもスムーズに活用できるため、ご自身で行うよりも回収できる可能性が高まります。
まとめ
養育費は、お子様の権利です。相手からの支払いが滞った場合でも、「強制執行」という法的な手続によって回収できる可能性があります。
強制執行を行うには「債務名義」が必要であり、手続には一定の時間・費用もかかりますが、法改正により財産調査の選択肢が広がり、以前より動きやすくなりました。
ご自身での手続が難しいと感じたり、相手との交渉に疲れてしまったりした場合は、一人で抱え込まずに弁護士にご相談ください。
専門家が、あなたの状況に合わせた最善の解決策を提案し、お子様との未来を守るためのお手伝いをします。
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- 得意分野
- 不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設








