教唆犯・幇助犯はどんな犯罪?共犯の成立要件やそれぞれの言葉の違い、判例を徹底解説

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記事目次
「教唆犯」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
また「幇助犯」という言葉は聞いたことはあるでしょうか。
これらは、日常生活ではあまり聞く機会がないかもしれません。
一方で「共犯」という言葉は聞きなじみがあるかと思います。
実はこの「共犯」にはいくつか種類があり、先ほどの「教唆犯」や「幇助犯」というのはこの「共犯」のなかに含まれる犯罪類型になります。
そんな「教唆犯」や「幇助犯」とは何か?
それぞれの成立要件や違いについて弁護士が解説します。
教唆犯とは?
教唆犯とは何かについて解説する前に、前提として、正犯と共犯の違いについて説明します。
わが国の刑法では、複数の者が犯罪に関与した場合について、各関与者を正犯と共犯に区別して異なる取り扱いをしています。
正犯とは、簡単にいうと犯罪を実行した者のことをいいます。
一方で、共犯とは、他人のに犯行をそそのかして決意させた人、犯罪をしやすくするために他人の犯行を手助けしたりした人のことをいいます。
共犯の中で前者が教唆犯(刑法61条1項)、後者が幇助犯(同62条1項)となります。
また、この正犯と共犯の両方の性質をもった犯罪類型として共同正犯というものがあります。
例えば複数人で一緒に人を殴ったりしたような場合に共同正犯が成立することになります。
つまり、共犯の一類型を教唆犯と呼び、他人の犯罪をそそのかすことで、その人に犯行を決意させ、実行させる場合に成立する犯罪だということになります。
教唆犯の成立要件
教唆犯の成立要件は、
① 教唆行為があること(犯行のそそのかしなど)
② ①に基づいて正犯者が犯罪を実行すること
③ 教唆犯の故意を有すること
の3点になります。
「教唆行為」とは、犯罪の意図がない者に対して一定の犯罪を実行する決意を生じさせることです。
命令や指示や利益供与による依頼など方法や手段はどのようなものであっても成立します。
ただ、漠然と特定しない犯罪をそそのかすだけ(具体的には「何か犯罪をやれ」など)ではこの要件を充たさないと考えられています(以上、最高裁昭和26年12月6日判決)。
具体的な教唆犯の例としては、「あいつ腹立つよな?一発殴ってきたらどう?」と提案したり、「あそこの家いつも鍵掛かっていないらしいぞ。ちょっと侵入して金とか盗んできたらどう?」と提案したりするものが考えられます。
教唆犯の量刑と罰則
教唆犯の量刑や罰則については、実際に教唆犯の条文を見てみましょう。
刑法61条1項には、「人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。」と定められています。
このように教唆犯の法律上の刑の重さは「正犯」と同じ重さと定められています(ここは下記の幇助犯と異なります)。
しかし、実際の裁判では正犯よりも軽く処罰されることも多くあり、ケースバイケースでその重さが判断されます。
教唆犯に関する過去の判例
教唆犯に関する過去の判例・裁判例を紹介します。
パワーショベルの売却をそそのかした窃盗教唆事件
事例:被告人が、パワーショベルの所有者から何らの処分権限も与えられていないにもかかわらず、その事実を隠して、Aに対してそのパワーショベルを売却し、搬出を依頼した行為について窃盗罪に問われた事例(松山地裁平成24年2月9日判決)
結論:窃盗教唆が認められる。
解説:本事例で、検察官は窃盗罪の間接正犯を主張しましたが、裁判所はAが「正犯」であると認定し、最終的には、被告人はAの窃盗をそそのかし、決意させたということで教唆犯となりました。
※関節正犯:あくまでも被告人のほうを「正犯」と考え、Aは実際に犯罪を実行するための単なる道具として使うといった犯罪類型のこと
逮捕逃れのために自己の蔵匿を依頼した犯人隠避教唆事件
事例:被告人は、強盗傷人罪(強盗をしてかつその機会に人に傷害を負わせた罪)の犯人として捜査されていた。
そこで、自身の逮捕を免れるために、事情を知っているAに対して、自身を匿うことを依頼し、Aにそれを決意させ、自身を自動車で運搬させ、別の知人宅に滞在させた。
これに対し、捜査機関から見つからないようにさせたとして、被告人が犯人隠避・蔵匿の教唆犯に問われた。
(最高裁令和3年6月9日決定)
結論:犯人隠避・蔵匿の教唆犯が成立する。
解説:本事例は、簡単に言うと逮捕されることを避けるために他人に自分を隠させた場合に犯罪が成立するのかが問題となった事案になります。
これについて、一般的に犯人自身は犯人蔵匿等罪(刑法103条)の主体にはならず、犯人自身には犯人蔵匿罪は成立しないと考えられています。
なお、これは証拠隠滅罪(刑法104条)でも同様です。犯人自身が自ら自己の刑事事件の証拠を隠滅しても証拠隠滅罪は成立しないことになります。
しかしながら、判例・実務では、他人を教唆してまで蔵匿隠避をしたり証拠を隠滅したりした場合は、その他人を正犯とした教唆犯として処罰することができるとされています。
したがって、本事例でも教唆犯の成立が認められました。
実は、教唆犯は犯罪全体でみるとあまり件数の多い犯罪ではありませんが、教唆犯で処罰されるものの多くがこの犯人蔵匿罪や証拠隠滅罪といった類型になります。
教唆犯と違いはある?幇助犯とは何か
次に、幇助犯について解説していきます。
幇助犯とは、上述のとおり、犯罪をしやすくするために他人の犯行を手助けた人を処罰する犯罪類型になります。
教唆犯との違いについては、簡単に言うと、教唆犯がまだ犯行をする決意をしていない者に対して働きかけてその決意をさせるものである一方、幇助犯はすでに犯行を決意した者に対してその犯行を容易に実行できるように手助けするものであるといった違いがあります。
幇助犯の成立要件
幇助犯の成立要件は、
① 正犯者に対する幇助行為があること
② ①に基づいて正犯者が犯罪を実行すること
③ 幇助犯の故意があること
の3点になります。
このうち①の幇助行為については、正犯の実行行為を容易にすれば足りると考えられているので、犯行に使う凶器を渡すといった物理的なものに限らず、犯行方法を教えたり、激励したりといったような精神的なものも含まれます。
また、②に関して、幇助犯の因果関係については、正犯の実行行為を容易にさせ、結果の実現を促進するといった関係があれば認められると考えられています。
具体的な幇助犯の例としては、空き巣犯に対して窓を割る道具を提供したり、家に侵入して強盗を行う者に対して外で見張りをしたり、オフィスに入って物を盗もうとしている者に対してオフィスへの侵入方法の情報を教えたりするものが考えられます。
幇助犯の量刑と罰則
幇助犯の量刑や罰則について、実際に幇助犯の条文を見てみましょう。
刑法62条1項には、「正犯を幇助した者は、従犯とする。」と定められています。
そして、この従犯については、同法63条で「従犯の刑は、正犯の刑を減刑する。」と定められています。
刑法63条では減刑「する」と書かれているため、幇助犯については、正犯と比べて必ず減刑されることになります。
具体的にどのくらい減軽されるのかという点につきましては、だいたい正犯の半分程度といったところが相場となります。
幇助犯に関する過去の判例
幇助犯に関する過去の裁判例を紹介します。
見張り役を担当した被告人が幇助犯とされた窃盗事件
事例:被告人は、被害者宅に侵入して窃盗を行う犯罪に加担したが、被告人の関与の態様仕方は、実行犯から「ここに泥棒に入るから、お前は見張りをやれ」と言われ見張りをしたというものにとどまる。
具体的な犯行計画や逃走経路等の説明も受けておらず、また、実行犯が本件窃盗で得た窃取金の総額が1億円を超えていたのに対して被告人の利得は30万円にとどまったというものについて、建造物侵入罪・窃盗罪に問われた事例
(東京高裁平成22年12月8日判決)
結論:幇助犯にとどまる。
解説:本事例では、実は上記被告人について1審では共同正犯とする判決が出ていました。
しかし、2審の高等裁判所は、上記被告人については、他の共犯者から共同正犯者としての扱いを受けず、見張りに甘んじていたというのが実体であるとして幇助犯にとどまると判断しました。
このように共同正犯として処罰されるのか幇助犯にとどまるのかといったところを分ける基準としては、その犯行における被告人の役割の重要性や当事者の主従関係、当事者間の具体的なやりとり、分け前の有無・大小などが重要な考慮要素となります。
強盗殺人未遂罪に問われた被告人が幇助犯とされた事例
事例:被告人は、アルバイト先で知り合ったA(元暴力団員)に旅行に誘われ、これに軽い気持ちで応じた。
被告人が新幹線の中でAに旅行の目的を尋ねた際Aが「ギャングたい」と答えたので気になったが真剣には考えなかった。
駅につくと面識のない者たちに出迎えられAからは「○○一家の人間やから」とのみ紹介を受けてそのうちの一人が運転する車に乗り込んだが、これらの者は暴力団員であった(被告人はこれを知らなかった)。
車内では、Aと上記暴力団員らの間で覚せい剤取引をもちかけて対立する暴力団の幹部を拳銃で殺害し、覚せい剤を奪取するという謀議がなされ、被告人はこれを黙って聞いており、「大変なことに巻き込まれてしまった」と思った。
この際、被告人の役割は問題とされず、分け前などは約束されなかった。
被告人は危害を加えられることを恐れて逃走を断念し、上記暴力団員らに命じられて被害者をおびき出すためのホテルを予約した。
翌日、強盗計画が実行され、実際に強盗が行われたが(殺人は未遂にとどまった)、このとき被告人はAの指示に従って被害者とやりとりをしたり、被害品の覚せい剤を搬出したりした。
以上の事実について、強盗殺人未遂罪に問われた事例
(福岡地裁昭和59年8月30日判決)
結論:幇助犯にとどまる。
解説:本裁判例では、以下を主な理由に幇助にとどまると判断されました。
① 被告人がAから騙されて知らぬ間に犯行に巻き込まれたものでAらの犯行計画を知った時には既に犯行から離脱することが困難な状態に陥っていたこと
② 被告人自身に強盗をする理由がなかったこと
③ 本件犯行についてもAらの命令に従って言われるがままにしていたこと
④ 分け前が約束されておらず現実に報酬がわたされた形跡がなかったこと
教唆犯や幇助犯で逮捕されることはある?
では、教唆犯や幇助犯であっても、逮捕されるのでしょうか?
結論としては、普通に逮捕されます。
これらの共犯であっても当然犯罪には違いないですし、そもそも捜査の初期段階では、教唆犯や幇助犯といったものなのか共同正犯なのかといったところは未確定な場合も多々あります。
そのため、教唆犯や幇助犯にあたるような事案であっても、嫌疑があって、逃亡や罪証隠滅のおそれがあるなど逮捕の要件を充たした場合には、普通に逮捕されます。
まとめ
以上いかがでしたでしょうか。今回は「教唆犯」「幇助犯」について解説しました。
教唆犯や幇助犯にあたるのかどうかについては法的な視点が不可欠になります。
自分や家族が、他人と一緒に犯罪をしてしまった、他人の犯罪にかかわってしまったといったような不安をお持ちの方は、ぜひ刑事事件について豊富な経験を有する弁護士が多数在籍する東京スタートアップ法律事務所までご相談ください。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設