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更新日: 代表弁護士 中川 浩秀

正当防衛はどこまで認められるの?成立要件や過去の判例、リスクを解説

正当防衛はどこまで認められるの?成立要件や過去の判例、リスクを解説
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記事目次

皆さん、「正当防衛」をご存じでしょうか?日常生活の中で聞いたことがあるという方も多いかと思います。確かに、「正当防衛」という概念は、その名からなんとなくイメージがしやすい法的概念かもしれません。しかしながら、具体的にどういった要件が充たされると正当防衛が認められるのか、どこまでが正当防衛として認められるのか、正当防衛と認められなかったときどうなるのか、などについては専門的な知識が必要となります。

そこで、正当防衛の成立要件や過去の判例、正当防衛が認められない場合のリスクについて弁護士が解説します。

そもそも正当防衛とは?

正当防衛とは、簡単に言うと、自己や他人の生命・身体等の権利に対する不当な侵害行為が実際に発生しているか、もしくは、今まさに発生しようとしているときに、これらの権利を防衛する目的でやむを得ずに行った行為については、処罰しないといったものになります。

つまり、正当防衛が成立した場合、仮に防衛した者が行った行為そのものを評価すると犯罪(例えば暴行罪や傷害罪)に該当する行為であっても、その行為については刑罰を受けないことになります。

この正当防衛は法律上刑法に規定があり、「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は罰しない。」(刑法36条1項)と規定されています。

正当防衛の成立要件

正当防衛の成立要件は、上記の条文の規定に沿って、①「急迫不正の侵害」があること、②「自己又は他人の権利」を防衛するための行為であること、③「防衛するため」の行為といえるために主観的に防衛の意思があること、④「やむを得ずにした行為」であること、の4つになります。

急に殴りかかってきた相手への反撃は許される?

まず、①「急迫不正の侵害」とは、「法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていること」をいいます(最高裁昭和46年11月16日判決)。

典型的には、現に目の前にいる人が突然殴りかかってきた場合や実際に殴られた場合がこれにあたります。この場合、殴られた/殴られそうな人の生命や身体といった法益への侵害が現に存在したり、間近に押し迫っていたりするといえるためです。

もっとも、本要件は反撃行為を行った人が相手からの攻撃を事前に予期していた場合には認められない場合があります。予期の場合については下記の判例紹介の部分で解説します。

他人を助けたとき、正当防衛になるのか?

次に、②「自己又は他人の権利」を防衛するための行為であることについては、「自己の権利」を防衛するための行為であっても、「他人(第三者)の権利」を防衛するための行為であってもよく、ここでいう「権利」とは典型的には生命・身体・財産といった権利をいいますが、必ずしも法律上の権利でなくてもよく、法律によって保護されるだけの価値のある利益であれば足りると考えられています。

つまり、正当防衛は「自己」の権利を守るためだけではなく、「他人(第三者)」の権利を守るために行った行為でも成立する可能性があります。

防衛の意思が問われる場面とは

また、判例上、正当防衛が認められるためには、③「防衛するため」の行為といえるために主観的に防衛の意思があることが必要であるとされています。

この防衛の意思とは、相手方の急迫不正の侵害を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態のことをいうとされており、仮に防衛行為者において防衛の意思と攻撃の意思が併存していても、防衛の意思は否定されません。

そのため、実際に本要件が否定されるのは、日ごろから恨みを抱いていた相手から攻撃を受けた場合に、攻撃を受けたのに乗じて積極的に加害行為に出た場合など、専ら攻撃の意思でなされたものである場面に限定されると考えられます。

過剰防衛との分かれ道──「やむを得ずにした行為」とは

そして、④「やむを得ずにした行為」とは、防衛行為としての必要性及び相当性があることをいいます。

防衛行為の必要性とは、相手方の侵害行為を防ぐために必要な手段であることをいい、防衛行為の相当性とは、防衛する手段として必要最小限度の行為であることをいいます。

本要件は、正当防衛と過剰防衛(刑法36条2項)を分ける要件になり、上記①から③の要件が認められるものの本要件は認められないといった場合は過剰防衛となります。

本要件の判断については、具体的事情を総合的に見て行われます(詳細は下記Q&Aへ)。

正当防衛が認められない場合のリスク・影響

では、仮に正当防衛が認められなかった場合、どうなるのでしょうか?その場合のリスクや影響について説明します。

武器を使ったらやりすぎ?過剰防衛と判断されるリスク

まず、過剰防衛として処罰される可能性があります。

具体的には、体格が劣る相手方が素手で攻撃してきたのに対して体格がより優れた人が攻撃能力のある武器を用いて反撃した場合には、他に特段の事情がない限り上記④の「やむを得ずにした行為」とはいえず、正当防衛が成立しません。このように、上記①から③の要件が認められるものの④の要件が認められない場合、過剰防衛となります。

過剰防衛となると、裁判官の裁量で刑が減刑又は免除される可能性がありますが(刑法36条2項)、刑が免除になるケースは少なく、基本的に処罰されることになります。

要件を満たさないと“ただの犯罪”になる

上記①から③の要件のうち一つでも認められない場合には、正当防衛は成立せず、過剰防衛ともならず、基本的に通常通り犯罪が成立し、処罰されることになります。

例えば、相手に怪我をさせた場合は傷害罪(刑法204条)や殺人未遂罪(刑法203条、199条)、相手を死亡させた場合は傷害致死罪(刑法205条)や殺人罪(刑法199条)、物を壊した場合には器物損壊罪(刑法261条)などで処罰されます。

正当防衛が争われるケースは相手方の生命・身体に対する重大な行為であることも多いため、有罪となると実刑となる可能性があります。

有罪=前科がつく 生活や将来への深刻な影響

また、上述のとおり、正当防衛が認められない場合、通常通り犯罪が成立し、処罰されることになるため、有罪となると仮に執行猶予となっても前科がつくことになります。

一般に、前科がつくと、仕事で解雇されるおそれがある、就職の際に不採用にされる可能性が高くなる、公務員等の一定の職業への就職制限や資格の取得・登録の制限を受ける、海外渡航の際に障壁となりうる、再犯の際に刑事裁判でより重い処分を受ける可能性が高くなる、などいった影響があります。

正当防衛はどこまで認められる?過去の判例について

それでは、実際にどういった場合に正当防衛が成立するのでしょうか。また、どういった場合には過剰防衛になるのでしょうか。

ここでは、実際の判例・裁判例を用いて正当防衛が認められた事例や反対に認められなかった事例、これに加えて事前に侵害を予期していた事例、相手方の攻撃が防衛行為者自身に原因があるといえる事例についての判例も紹介します。

包丁を構えたが防御に終始 正当防衛が認められた事例

事例:被告人の路上駐車により相手方と言い争いになり、年齢も若く体力に優れた相手方が「お前、殴られたいのか。」と言って手拳を前に突き出し、足を蹴り上げる動作をしながら目前に迫ってきた状況で、危害を免れるため、車内にあった菜切包丁を手に持って腰のあたりに構えた上、約3m離れて対峙している相手方に対して「殴れるのなら殴ってみい。」「切られたいんか。」と申し向けた行為が、示兇器脅迫罪・刃物不法携帯罪に問われた事例(最高裁平成元年11月13日判決)

結論:正当防衛が認められる

解説:素手の相手に対して凶器を持ち出した事例でしたが、防御的行動に終始していたことや相手の方が年齢も若く体力にも優れていたという事情も考慮に入れて正当防衛が認められました。

突発的な襲撃に反撃したが過剰防衛と判断された事例

事例:被告人が、被告人宅に侵入してきた知人である相手方に突然背後からスパークリングワインの空き瓶で後頭部を1回殴打された後、被害者とつかみ合いになった際、相手方に対し、殺意を持って、左胸部及び背部を複数回ペティナイフで複数回突き刺し殺害し、殺人罪に問われた事例(高松地裁令和3年5月27日判決)

結論:正当防衛は成立せず、過剰防衛が成立する。

解説:相手方の攻撃も突然で相当に強度のものでしたが、被告人の反撃行為は、相手方が死亡する危険性が高い行為で、ナイフを示したり振り回したりするなどより危険性が低い他の手段があったといえると判断され、過剰防衛となりました。

脅迫に乗じた殺害行為 防衛の意思が否定された事例

事例:被告人は以前から折り合いの悪かった兄(相手方)がエンジンのかかっていないチェーンソーを持ちながら「ぶっ殺すぞ」などと言ってきたのでこれを取り上げて地面に置いたが、相手方を見ると木の棒を両手で持っていたことから逆上して、とっさに殺意を抱いて鉈(なた)で相手方の頭部、頸部、顔面及び背部を多数回切りつけるなどして殺害し、殺人罪に問われた事例(仙台高裁平成28年6月2日判決)

結論:正当防衛も過剰防衛も認められない。

解説:本事例では相手方の加害行為は脅迫程度にとどまったのにもかかわらず、意図的に相手方からの加害行為に比べて著しく過剰な行為に出たもので、専ら攻撃の意思に基づくものであって防衛の意思が欠けると判断され、正当防衛も過剰防衛も否定されました。

呼び出しに応じた攻撃 急迫性が認められなかった事例

事例:被告人は知人である相手方に前日から自宅の玄関扉を消火器で何度も叩かれたり、繰り返し電話で怒鳴られたりするなど身に覚えのない因縁を付けられていたところ、相手方にマンションの下に呼び出された際、包丁を準備して相手方の待つ場所に出向き、相手方がハンマーで攻撃してくるや包丁を示すなどの威嚇的行動をとることもせず相手方の左胸部を強く刺して殺害し、殺人罪に問われた事例(最高裁平成29年4月26日決定)

結論:正当防衛も過剰防衛も成立しない。

解説:相手方の呼び出しに応じて現場に赴けば相手方から凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら、あえて現場に出向いて威嚇的行動もとらずに相手の胸にナイフを突き刺したことは、上記①の急迫性の要件が欠けると判断されました。

自らの行為が招いた攻撃 自招侵害により成立が否定された事例

事例:言い争いの中、被告人がいきなり相手方の左ほおを手拳で1回殴打し、直後に走り去ると、相手方は被告人を自転車で追いかけて100m弱進んだ先で被告人に追いつき、自転車に乗ったまま後方から被告人に対してラリアットをした。これに対して被告人が護身用に携帯していた特殊警棒を取り出して相手方の顔面や左手を暴行し、傷害を負わせて、傷害罪に問われた事案(最高裁平成20年5月20日決定)

結論:正当防衛の成立は認められない。

解説:相手方の攻撃が、被告人の行為により自ら招いたものであるとされ(自招侵害といいます)、相手方の攻撃自体も被告人の最初の殴打行為を大きく超えるものではないことから、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況にはないと判断されました。

正当防衛に関するQ&A

正当防衛に関するよくある質問に答えます。

Q:正当防衛でも逮捕・勾留されることはありますか?

結論から言うと、正当防衛の場合でも逮捕・勾留されることはあります。なぜなら、正当防衛かどうかについては、事実関係を緻密に認定したうえで高度な法的評価を加えなければならない場合も多く、事件直後は具体的な事実関係がよく分からないため、身柄を押さえたうえで詳しく調べるということにつながるためです。

Q:相手が死亡してしまった場合でも正当防衛は成立しますか?

相手に怪我をさせてしまった場合だけでなく、相手が死亡してしまっても正当防衛は成立しえます。判例は、「侵害に対する防衛手段として相当性を有する以上、その反撃行為により生じた結果がたまたま侵害されようとした法益より大であっても、その反撃行為が正当防衛行為でなくなるものではない」と判断しています(最高裁昭和44年12月4日判決)。つまり、正当防衛の成否は、「結果」ではなくて「行為」に着目して判断されることになります。

Q:喧嘩の場合に正当防衛は成立しますか?

喧嘩の場合、基本的には正当防衛が認められません。喧嘩については、確かに部分的に見れば一方が他方を攻撃し、他方がこれを防御する関係がありますが、判例は、闘争の全体を見て正当防衛の観念を入れる余地がない場合があるとしています(最高裁昭和23年7月7日判決)。ただ、素手の殴り合いをしていたところ、相手が突然ナイフで襲ってきた場合などは正当防衛が成立しえます。

Q:相手が攻撃してきたと思い反撃をしました。しかしながら、実際には相手は攻撃してきたわけではなく自分が勘違いしてしまったようです。この場合でも正当防衛は成立しますか?

正当防衛は成立しません。しかしながら、誤想防衛として故意の犯罪が成立しないことになりえます。なお、この場合でも別途過失犯として処罰される可能性はあります。

Q:「やむを得ずにした行為」の要件の防衛行為の相当性についてはどのように判断されるのですか?

各事案の具体的事情を総合的に見て判断されます。このとき、侵害行為の危険性と防衛行為の危険性を比較して著しい不均衡がないか、侵害者と防衛行為者の武器が実質的にみて対等といえるか(武器対等の原則)が重視されます。もっとも武器対等の原則が唯一の基準というわけではなく、当事者の年齢・性別・体格、侵害行為の態様・回数と防衛行為の態様・回数、代替手段の存否など様々な考慮要素について、事案に応じて実質的に判断されます。

まとめ

以上いかがでしたでしょうか。今回は「正当防衛」について解説しました。

これまで解説してきたように正当防衛には法的に整理しなければならないことが多く、その前提として、事案ごとに具体的にどういった事実があったのかを正確に整理する必要があります。

そして、正当防衛を主張する場合、有利な証拠を収集し、適切に法的に整理していく必要があります。

自分や家族の行為が正当防衛にあたるのではないかと考えている方は、ぜひ刑事事件について豊富な経験を有する弁護士が多数在籍する東京スタートアップ法律事務所までご相談ください。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士として、男女問題などの一般民事事件や刑事事件を解決してきました。「ForClient」の理念を基に、個人の依頼者に対して、親身かつ迅速な法的サポートを提供しています。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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