器物損壊罪は過失による場合も成立する?構成要件や罰則規定を解説
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記事目次
「自分の不注意で他人の物を壊してしまった場合も、器物損壊罪で逮捕されることがあるのか知りたい」
「近所の人が飼っている犬を傷つけてしまった場合も器物損壊罪が成立するのか知りたい」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
器物損壊罪とは
器物損壊罪とは、法律でどのように定められている犯罪なのでしょうか。
まずは、刑法の条文、器物損壊罪の特徴など基本的な内容について説明します。
1.刑法の条文
器物損壊罪は刑法第261条に定められた罪です。同条では、以下のように定められています。
“他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料に処する”
2.過失による器物損壊や器物損壊未遂は処罰されない
器物損壊罪は、故意が認められる場合のみ成立します。
日常生活で、うっかり他人の物を壊してしまうことはよくあることですが、過失によって他人の物を損壊した場合や、他人のペットに傷害を与えた場合は、民法上の過失に基づく不法行為(民法第709条)が成立する可能性はありますが、刑法の器物損壊罪は成立しません。
また、器物損壊罪には未遂罪処罰の規定がないので、未遂犯には器物損壊罪は成立しません。
3.器物損壊罪は親告罪
器物損壊罪は親告罪です。
つまり、被害者を含む告訴権者の告訴がなければ検察官が公訴提起(起訴)することはできません(刑法第264条)。
告訴権者には被害者(刑事訴訟法第230条)のほか、その法定代理人(同法第231条1項)、被害者が死亡した場合その配偶者、直系親族または兄弟姉妹(同法同条2項)が含まれます。
親告罪では告訴できる期間が「犯人を知った日から6か月」と定められています(同法第235条)。
「犯人を知った日」とは、告訴権者が犯人の住や所氏名等を知ることまでは必要なく、犯人の特定性を認識して少なくとも犯人と他の者を区別できる程度の認識を持った日付をいいます。
類似の犯罪との違い
器物損壊罪と似ている主な犯罪として、建造物等損壊罪(第260条)、境界損壊罪(第261条)があります。それぞれについて説明します。
1.建造物等損壊罪との違い
建造物損壊罪は客体(犯罪行為の対象)、致死傷罪の規定があること、法定刑の重さ、非親告罪であるという点で器物損壊罪と異なります。
器物損壊罪の客体が「他人の物」(器物)であるのに対して、建造物損壊罪の客体は「他人の建造物又は艦船」です。
判例上、建物の一部分に見えても毀損せずに取り外せる物は同罪の「建造物」にはあたらず、器物損壊罪の客体にあたるとされています。例えば、障子、襖、雨戸、ガラス窓、畳などは器物にあたります。
また、建造物損壊罪に該当する行為が行われると人身に危険が生じやすいことから、より法定刑の重い致死傷罪(第260条後段「よって人を死傷させた」)が定められている点でも器物損壊罪と異なります。
建造物損壊罪は通常、器物損壊罪に比べて損害の程度が大きいことから法定刑は「5年以下の懲役」で、器物損壊罪より重いです。
また、器物損壊罪が親告罪であるのに対して、建造物損壊罪は非親告罪です。
2.境界損壊罪との違い
境界損壊罪は、客体が「境界標」であることと法定刑の重さ、非親告罪である点で器物損壊罪と異なります。
「境界標」とは柱、杭等の土地の境界を示す標識で、自然石や立木等の自然物も含まれます。
境界損壊罪の実行行為は物理的な損壊以外に、移動や除去等の方法によって土地の境界を認識することができないように」することです。
この点は、その物の効用を喪失させる意味で器物損壊罪と類似しますが、単に境界の効用を損なわせるだけではなく、事実上認識不能にすることを要します。
例えば、境界標を物理的に損壊したとしても、まだ境界が認識できる場合、境界損壊罪は成立せず、器物損壊罪が成立します。
器物損壊罪の構成要件
器物損壊罪の構成要件は「他人の物を損壊し、または傷害した者」です。
ここで、「他人の物」の範囲と、どのような行為が「損壊・傷害」行為に該当するかが問題となります。
1.「他人の物」の範囲
刑法第262条の「他人の物」とは、他の条文で客体となる公用・私用文書、建造物、艦船以外の他人の財物を指します。
コンピュータやソフトウェア、スマホの内部データ等の電磁的記録で公用文書毀棄罪や私用文書毀棄罪の対象にならないものについては、情報内容そのものは「他人の物」に該当しません。
ただし、その記録媒体の物自体(CDやSDカード、USB、DVD 等)は「他人の物」に該当します。従ってそれを毀棄する行為(傷つけたり割ったり水没させる等)は器物損壊罪に該当します。
「他人の物」には、他人の所有する動物(ペット)も含まれます。
2.「損壊」とは
「損壊」は、物本来の効用を失わせる行為を広く含むとされています。
破る、割る、機械器具類を故障させる等の物理的損壊の場合だけでなく、高価・貴重な物、被害者にとって高い価値を有する物に塗料などを塗りつける、放尿・唾吐する等の行為も「損壊」に含まれます。
他人の物を物理的に損壊せずにその物の利用を侵害した場合は、物理的損壊と同程度の効用喪失や利用侵害が認められるかどうかが問題となります。
犯罪の被害者が助けを呼ぶことを妨げるために約3分間携帯電話を取り上げていた行為に対しては「損壊」に該当しないと判示された例があります。
3.「傷害」とは
「傷害」とは、他人の所有する動物を殺傷あるいは毀棄する(捨てる)行為です。被疑者が他人から委託を受けてその動物を預かっている場合も含まれます。
「毀棄」は故意に逃す行為も含まれるので、他人が所有している鯉を放流する行為等も「傷害」に該当します。
器物損壊罪の刑罰
1.器物損壊罪のみの場合
被疑者の行為に対して成立する犯罪が器物損壊罪のみである場合、第261項の法定刑である3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処されます。
器物損壊罪は犯罪類型としては軽微な部類なので、初犯の場合は罰金刑や執行猶予付きの1年以下の懲役刑になる場合が多いです。
ただし、前科がある場合、または被害の程度が大きい場合は実刑判決を受ける可能性があります。
2.殺人・殺人未遂・傷害と同時に他人の衣服等を毀損した場合
殺人事件や殺人未遂事件で、殺害行為と同時に被害者が身につけていた衣服や眼鏡等を毀損した場合、器物損壊罪は殺人罪(刑法第199条)または殺人未遂罪(同法同条・第43条)に吸収され、殺人罪または殺人未遂罪のみが成立します。
被疑者が暴行により被害者に傷害を負わせると同時に衣服や眼鏡等を毀損した場合、傷害罪(同法第204条)と器物損壊罪が同時に成立し、両者は観念的競合(同法第54条1項)となり、重い方の傷害罪の法定刑(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)で処断されます。
3.住居侵入の際に居住者の物を毀損した場合
被疑者が被害者の住居に侵入した際に被害者の物を毀損した場合は、住居侵入罪(同法第130条前段)と器物損壊罪が成立します。
侵入行為によって、鍵を壊す、窓ガラスを割るなど、物を毀損した場合は、器物損壊行為と住居侵入行為が手段と目的の関係になるため、牽連犯(同法第54条1項後段)となり、法定刑が重い器物損壊罪の法定刑で処断されます。
4.他人のペットを殺傷・毀棄した場合
他人が所有するペットの動物を殺傷・毀棄した場合、その動物が動物愛護管理法の指定動物に該当するケースでは、同法の罰則規定(動物愛護管理法第44条)と器物損壊罪が成立します。
法体系上、刑法は一般法、動物愛護管理法は特別法という位置付けになり、規定内容が異なる場合は特別法が適法されます。殺傷と毀棄の法定刑は以下の通りです。
- 殺傷:5年以下の懲役または500万円以下の罰金
- 毀棄:1年以下の懲役または100万円以下の罰金
動物が同法の指定動物に該当しない場合は器物損壊罪のみ成立します。
逮捕・起訴後の流れ
前述した通り、器物損壊罪は親告罪なので、告訴権者が告訴した場合は、告訴を受けた警察から検察官に書類・証拠物が送付されます。
ただし、告訴は公訴提起の要件であって逮捕の要件ではないので、告訴を待たずに器物損壊容疑で逮捕される可能性はあります。
警察の判断によっては被疑者に任意同行を求めて事情聴取を行い、容疑の内容が軽微である場合は事件を検察官に送致せずに釈放することもあります。
態様が悪質な場合や、被疑者に前科がある場合は逮捕状により逮捕される可能性があります。
また、公訴提起(起訴)される場合は正式起訴と略式起訴のどちらかに拠ることとなり、行われる裁判手続が異なります。
1.現行犯の場合
現行犯で逮捕された場合の手続の流れは以下のようになります。
①捜査機関(警察)への引き渡し
器物損壊罪の場合、自分の所有物を目の前で壊される、汚されるなど、その現場に居合わせた場合は、被害者や目撃者などの私人が犯人を現行犯逮捕することができます。
この場合、直ちに捜査機関(検察官もしくは司法警察職員、通常は後者)に引き渡す必要があります(同法第214条)。
②被疑者取り調べ・送検・勾留の決定
警察は被疑者を拘束してから、留置の必要がないと判断した場合は直ちに被疑者を釈放し、必要があると認める場合は48時間以内に検察官に送致します。
送検された場合、検察官は留置の必要があると認める場合は被疑者を受け取った時から24時間以内に裁判官に対して勾留請求し、必要がないと判断した場合は直ちに被疑者を釈放します。
なお、被疑者拘束から検察官の勾留請求までの72時間の間は、被疑者は弁護人以外と会うことができません。
裁判官が勾留を認めた場合、勾留期間は勾留請求した日から10日間です。
また、検察官が勾留延長を請求したときは、裁判官はやむをえない事情があると認める場合さらに10日間までの延長を認めます(同法同条2項)。
したがって、勾留期間は最大で20日間です。
被疑者が勾留されずに釈放された場合は、在宅で捜査が続きます。
この場合、捜査期間に制限はありませんが、被害者側が告訴を取り下げた場合、刑事手続は終了します。
2.通常逮捕の場合
現行犯以外の場合は、警察が裁判所に逮捕状を請求し、逮捕の理由と必要性が認められれば裁判所の発行する逮捕状による逮捕が行われます。
3.略式起訴の場合
器物損壊事件が比較的軽微である場合、検察官の判断と被疑者の同意により略式命令請求が行われます。略式起訴が行われた場合、簡易裁判所で公判によらない略式裁判が行われます。
略式裁判では原則として検察官の提出した資料のみに基づいて、公判を開かずに略式命令同法第461条)により罰金または科料が課されます。
被害者と示談するメリットと示談金の相場
器物損壊罪は親告罪なので、被疑者側としては可能な限り早期に被害者側に示談を申し入れて交渉し、示談が成立すれば告訴を取り下げてもらうことが可能です。
被疑者が告訴され、さらに送検された場合でも、被疑者側が被害者側に示談を申し入れ、被害者側が申し入れを承諾すれば、示談交渉をすることは可能です。
1.告訴取り下げ・不起訴処分になる可能性も
告訴前に示談が成立すれば、告訴を取り下げてもらうことにより被疑者は刑事責任を追及されないことになります。
被疑者が告訴され、送検された場合でも、示談が成立することにより検察官や裁判官の心証が良くなるため、不起訴処分になる可能性があるという非常に大きなメリットがあります。
また、被害者にとっても、その後の捜査機関による取り調べ、刑事裁判への出席、証言などの負担を免れることができるというメリットがあります。
示談交渉は被疑者の弁護人と被害者側の弁護士により行われるのが通常です。
2.示談金の相場
器物損壊事件のみが捜査対象となっている場合は、示談金はおおむね被害対象物の価値や被害者の精神的苦痛の程度によって増減するため事例ごとの差が大きいです。
壊された物の価値が高い場合は100万円以上になるケースもあります。
まとめ
今回は、器物損壊罪の法律上の定義、建造物等損壊罪や境界損壊罪との違い、器物損壊罪の構成要件、器物損壊罪の刑罰、逮捕・起訴後の流れ、被害者と示談するメリットと示談金の相場などについて解説しました。
器物損壊罪が親告罪であることから、早期に被害者側と示談交渉することで告訴を取り下げてもらえる可能性があります。
また告訴された場合でも、その後に示談が成立すれば不起訴処分になる可能性があります。
被害者と示談を成立させたい場合は、できる限り早めに刑事事件に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。
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- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
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