詐欺罪は初犯でも実刑になる?量刑相場や逮捕される確率を解説!
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記事目次
執行猶予とは、裁判で確定した刑の執行の全部または一部を一定期間猶予するという制度です。
執行猶予を言い渡されると、執行猶予期間中に別の犯罪について、有罪判決で禁錮以上の罪を言い渡されるなどの事情がなければ、刑が執行されることはありません。
詐欺罪で起訴された方にとって、執行猶予がつくかどうかは非常に重要です。
そこで、本記事では詐欺罪の執行猶予判決が言い渡される割合や獲得方法について解説します。
詐欺罪の刑罰とは?
まずは、詐欺罪の刑罰を把握しておきましょう。
詐欺罪の刑罰
詐欺罪の刑罰は以下の様に規定されています。
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。(刑法第246条)
詐欺罪には、罰金刑はなく、「十年以下の懲役刑」のみとなります。すなわち、有罪となり執行猶予がつかなければ、服役しなければなりません。
詐欺罪で刑事処分となる要件
詐欺罪が成立するためには、加害者が被害者を欺く行為(欺罔行為)を行い、これによって錯誤に陥った被害者が金銭等を加害者に渡す等することが必要です。
詐欺罪に該当し得る行為があったとして被害届が出されると警察が捜査を開始します。
その上で、詐欺罪が成立すると認定できる証拠(当事者の供述ややり取りの記録、お金の流れが記録された預金通帳等の履歴等)が集まった場合には、刑事処分が下される可能性があります。
以下では、詐欺罪の各要件について個別に見ていきます。
1.欺罔行為
欺罔行為とは、被害者を欺いて財産上の利益を得る目的で虚偽の事実を述べたり、事実を隠蔽したりすることを言います。
また、積極的に被害者を騙そうとしなくとも、既に被害者が錯誤に陥っている状況を利用して伝えるべき事実を伝えないことも欺罔行為に該当する可能性があります。
2.錯誤
錯誤とは、欺罔行為の結果、被害者が誤った認識をもつに至ることを言います。
例えば、オレオレ詐欺でいうと、本当は何もトラブルに巻き込まれていないのに、欺罔行為の結果、家族がトラブルに巻き込まれておりお金が必要な状況にあるという誤った認識に至ることを言います。
3.因果関係
詐欺罪が成立するためには、欺罔行為があり、これによって被害者が錯誤に陥り、その結果として被害者に財産的な損害が発生するといった形で、一連の流れに因果関係があることが必要です。
4.財産的損害
欺罔行為によって錯誤に陥った結果、被害者が事実を正しく認識していれば支出しなかった金銭を支出した場合等に財産的損害が認められることになります。
なお、財産的損害が生じたことを詐欺罪が成立するための独立した要件とすべきか否かについては争いのあるところではあります。
詐欺罪で執行猶予がつく可能性は?
では、詐欺罪で執行猶予がつく可能性について検証してみましょう。「平成30年版犯罪白書」を参考に、執行猶予がつく割合についてもご紹介します。
執行猶予付き判決が言い渡された件数
実際に、詐欺罪でどの程度執行猶予付き判決が言い渡されているかを調べてみました。「平成30年版犯罪白書」から、地方裁判所における詐欺罪の科刑状況を抜粋しています。
以下の通り、詐欺罪の懲役で最も多いのが2年以上3年以下、次いで1年以上2年未満です。また、懲役2年以上3年以下の場合の執行猶予の割合は、66.7%となっています。
懲役 | 実刑の件数 | 執行猶予の件数 | 執行猶予の割合 |
---|---|---|---|
懲役6か月未満 | 4 | – | – |
懲役6か月以上1年未満 | 75 | 29 | 38.60% |
懲役1年以上2年未満 | 405 | 812 | 49.80% |
懲役2年以上3年以下 | 90 | 1,361 | 66.70% |
懲役3年を超え5年以下 | 461 | – | – |
懲役5年を超え7年以下 | 78 | – | – |
懲役7年を超え10年以下 | 18 | – | – |
懲役10年を超え15年以下 | 4 | – | – |
総数 | 4,156 | 2,202 | 52.90% |
▲平成30年版犯罪白書による、「地方裁判所における詐欺罪の科刑状況」
執行猶予がつく可能性のある条件
刑法では、執行猶予をつけることができる条件が定められています。
前提として、「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」(刑法第25条)という要件があります。
先ほどの詐欺罪の科刑状況の表でも、3年を超える懲役刑の場合は、執行猶予判決は言い渡されておりません。
法律上は、次のいずれかの条件を満たす場合に刑の全部の執行猶予付き判決が望めます。
- 前に禁錮刑以上の刑に処せられたことがない
- 禁錮以上の刑に処せられたが、その執行終了の日から5年以内に再び禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 禁錮以上の刑に処せられて刑が免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない
- 前に全部執行猶予付きの禁錮以上の判決を言い渡されており、今回の懲役が1年以下で情状酌量すべきものがあるとき(ただし、前回の執行猶予期間中保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者を除く。)
詐欺事件で執行猶予がつく見込みのあるケースとは?
詐欺事件で執行猶予がつく見込みがあるのは以下のような事例です。
- 被害者との示談が成立している
- 詐欺組織の末端の構成員でよく事情を知らなかった
- 詐欺未遂で被害が生じていない
- 詐欺の被害が少額であった
前提として重要なのは、被害者への被害金額の弁済が完了して、示談が成立していることです。
その上で、詐欺の態様が悪質でない場合や、被害金額が少ない場合、犯行に及んだ経緯に情状酌量の余地がある場合等に、執行猶予判決が見込めます。
詐欺罪は初犯でも実刑になる?
何かしらの犯罪行為を犯したとしても、初犯の場合には実刑判決を免れたり、執行猶予付きの判決が出たりするケースが多いですが、詐欺罪の初犯であっても、執行猶予判決は出る可能性はあるのでしょうか。
詐欺罪は初犯でも実刑になる可能性がある
詐欺罪は、法定刑に懲役刑しか規定されていない重大な犯罪であり、初犯であっても実刑判決になる可能性が十分にある犯罪になります。
実際にどのような判決が下るかは、犯行の態様や悪質性、組織的犯罪性や被害に弁償しているかどうか、反省の程度や犯行動機など、さまざまな事情を総合的に考慮して決められます。
もちろん、初犯であることは、量刑を判断する際の一つの考慮要素にはなりますが、初犯であるからといって必ずしも執行猶予付きの判決が出るわけではなく、たとえば、窃盗罪や強盗罪など、ほかにも余罪が複数ある場合や、オレオレ詐欺や振り込め詐欺などの組織的な犯罪の場合には、執行猶予がつかない懲役刑になってしまうケースもあるでしょう。
とくに、振り込め詐欺や給付金詐欺などの組織的な詐欺行為は厳罰化の傾向にあり、たとえアルバイト感覚でおこなった「受け子」や「出し子」であっても、悪質な犯罪行為に加担している以上、実刑判決になるケースも少なくありません。
「お金が欲しくて軽い気持ちだった」「友達から誘われて一緒にアルバイトをした」などの言い訳は通用せず、特殊詐欺に加担しただけでも大きな不利益を被ってしまうでしょう。
知らない間に特殊詐欺に関わることになってしまったら、できるだけ早く弁護士に相談し、前科がつかないように、被害者との示談交渉や捜査機関への弁護活動などの対応をしてもらうことをおすすめします。
前科をつけないためには不起訴処分になることが重要
前科とは、有罪判決を受けた経歴のことを指します。つまり、たとえ詐欺罪で逮捕されてしまったとしても、検察官に起訴されず、刑事裁判にかけられることがなければ、前科がつくことはありません。
たとえ、詐欺罪で警察に逮捕されてしまったとしても、犯行の態様や悪質性、犯行動機や加害者の反省具合等の事情によっては、不起訴処分となる可能性もあるでしょう。
日本では、一度起訴されてしまうと、刑匙裁判では99%以上の確率で有罪判決を受けてしまいます。そのため、前科をつけず今後の生活に影響を及ぼさないためには、不起訴処分を獲得することが非常に重要になるのです。
詐欺罪で逮捕された場合の手続きの流れと期間
詐欺罪で逮捕された場合、その後はどのような流れで手続きが進むのかご説明します。
1.警察官による取り調べ
逮捕された後、警察署に連れて行かれて、警察官による取り調べが行われます。
取り調べでは、犯行を認めるか否か等についても確認されます。
逮捕直後の警察の持ち時間は、逮捕した時から48時間以内と決まっているので、逮捕された当日か翌日には警察から検察に送致されることが一般的です。
2.検察官による手続き
検察に送致されると、検察官は、被疑者を釈放するか10日間身柄の拘束を行う(勾留する)ことの許可を裁判所に求めるかの判断をすることとなります。
実務的には、警察から検察に送致されると、その日のうちに検察官が釈放するか勾留請求するかを決めることとなります。
検察が釈放するという判断をした場合にはその日のうちに釈放されることになります。
3.10~20日間の勾留
検察官が裁判所に勾留請求をしてこれが認められた場合、被疑者は、勾留請求から10日間身柄を拘束されることになります。
その勾留中は、逮捕されていた警察署でそのまま過ごすことが多いです。
また、勾留は一度延長することが認められているため、10日間の勾留では捜査が不十分という状況であれば、検察官は裁判所に対して最大10日間の勾留の延長を求めることがあります。
そして、これが認められると、認められた期間だけ勾留が延長されることとなります。
このように、10~20日間の勾留がなされる場合がありますが、これは犯罪行為1件ごとの身柄拘束期間なので、もしも詐欺行為を1件ではなく複数件行っているような場合、1件について20日勾留された後、別件で再逮捕、再勾留され、更に20日間程度身柄が拘束されるというケースも珍しくありません。
4.起訴されると刑事裁判
勾留期間が満了する時、検察官は、被疑者を起訴するか否かを決めることとなります。
そして、起訴された場合は、刑事裁判が始まることとなります。
概ね、起訴されてから約1か月後に裁判期日が設定され、その日に裁判所で裁判が行われ、その後1か月以内には判決が出されることとなります。
5.不起訴の場合は釈放
詐欺罪が成立することを裏付ける証拠が不十分な場合や被害者との示談が成立した場合等、勾留満期までに検察が起訴しないケースもあります。
その場合は勾留満期日に釈放されることとなります。
刑法第246条の詐欺と類似する行為
以下では、刑法第246条に定められている詐欺罪と類似する犯罪についてご紹介します。
電子計算機使用詐欺
「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させ」る行為は、「電子計算機使用詐欺罪」に該当します(刑法第246条の2)。
上記の条文は難しいので、どういう行為が犯罪になるかイメージしにくいと思いますが、簡単にいえば、人ではなく機械をだます行為が電子計算機使用詐欺罪にあたります。
例えば、山口県阿武町が町民に4630万円を誤送金したところ、これを受け取った町民が、本来はこのお金の正当な使用権原がないのにオンラインカジノサービスの決済代行業者に利用料金の支払いをしたという事件について、山口地方裁判所は同罪が成立すると判断しました。
準詐欺
「未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させ」る行為は、「準詐欺罪」に該当します(刑法第248条)
準詐欺罪は、詐欺罪の成立要件である欺罔行為や錯誤がなくても成立するという点に特徴があります。
未成年等の正常な判断ができない状態を利用して財物を得る等の行為は、欺罔行為によって錯誤に陥れたという過程がなくとも詐欺の場合と同様に評価し得るため、準詐欺罪が定められています。
詐欺事件で執行猶予つきの判決が出た判例まとめ
執行猶予付き判決が言い渡された事例について解説します。どのような事例で執行猶予判決が言い渡されているかを知りたい方は、ぜひ読み進めてください。
虚偽の高金利預金を知人に勧めて325万円をだまし取り懲役3年、執行猶予4年
被告人女性は、「県が運営している高金利の子育て支援のための預貯金」や、「がん患者限定の高金利の預金」という、虚偽の事業があると知人をだまして、合計で325万円をだまし取りました。
判決は、懲役3年、執行猶予4年です。執行猶予付き判決が言い渡された理由は、被告人が罪を認め、謝罪の意思を各被害者に伝えること、すでに被害金額が弁償されていること、出廷した被告人の姉が被告人を監督するとしていること、前科がないことなどです。
被害金額は高額ではありましたが、被害者にだまし取ったお金を返済していることや前科がないこと、被害金額の弁償に協力した姉が監督を約束していること等が功を奏して、執行猶予付き判決となったと考えられます。(長野地判平成30年 3月19日)
ネットオークション詐欺で3600円をだまし取り懲役1年6か月、執行猶予3年
この事件の加害者は4名、この裁判での被告人は2名です。首謀となる別裁判の被告人Aの指示により、当裁判の被告人2名は、インターネットオークションサイトに、芸能人のサインであるとして、写真に自分でサインを行い、直筆サイン付き写真として販売しました。
落札者は、それを信じて3600円を振り込んでいます。被告人たちによるは、計画的に犯行を行っており、同種の詐欺を繰り返していたことがうかがわれました。
首謀者に誘われて当初は実態をよくわからずに関与していたとはいえ、偽のサインであったことは認識していたため、被告人両名にも責任が生じると判断されています。
他方で、被告人2名は首謀者に従う立場であったことや、母が出廷して監督等を約束していること、被害者に謝罪の意思を表していること、今後は首謀者であったAと関わらず、二度と罪を犯さないと反省の態度を示していることから、執行猶予相当と判断されました。(仙台地裁平成30年2月22日)
転売目的でコンサートチケットを購入して懲役2年6か月、執行猶予4年
被告人は、営利での転売目的での購入が禁じられているコンサートチケットを、転売する目的で購入して、詐欺罪に問われ、懲役2年6か月、執行猶予4年が言い渡されました。
被告人は二度にわたって合計16枚のチケットを転売目的で購入しています。営利目的の転売のために購入するにも関わらず、運営者に対して営利目的ではないとだましてチケットを交付させたことが詐欺罪に該当すると判断されました。
不正な転売を防止するために電子チケットを導入していたところ、購入者にチケットが表示されるスマートフォンを貸し出すという巧妙な手口を用いていました。
他方で、被告人は、罪を認めて反省していること、常習性があることも認めて供述していること、父親らの監督の下真面目に働くことと制約していること、前科前歴がないことを踏まえて、執行猶予判決となりました。(神戸地裁平成29年9月22日)
詐欺罪で実刑判決を免れるためにやるべきこと
詐欺罪で実刑判決を免れるための具体的な対処法を解説します。
被害者との示談を成立させる
詐欺事件で執行猶予判決をつけるかどうかの判断においては、被害者に被害金額を弁償すること、被害者に謝罪の意を表明することが重要です。
それらを実現できるのが、被害者との示談を成立させることです。被害者に、だまし取ったお金や財産を返済した上で、謝罪し、示談を成立させると、執行猶予判決が言い渡される可能性が高くなります。
再度罪を犯さないための環境構築
刑事裁判においては、再び同様の罪を犯さないかどうかも重視されます。執行猶予付き判決が言い渡されている事例の多くが、家族等が監督することを約束しています。
再度詐欺を行わないように、見守ってくれる家族や友人等の存在が重要です。
弁護士に弁護を依頼する
弁護士に弁護を依頼することで、被害者との示談の成立や、再度罪を犯さないための環境構築を速やかに進めることができます。
また、弁護士は、裁判において犯行に至った事情や被害者との示談を成立させていることなどを主張し、刑罰の軽減を求める弁護活動も行います。
これらの弁護活動によって、執行猶予付き判決が望める可能性はさらに高まります。
日本での、刑事裁判(地方裁判所、被告人段階)における弁護人選任率は、2019年の時点で99%を超えています。
(弁護士白書,2019年,第2編弁護活動の状況 ②地方裁判所における弁護人選任率)
執行猶予付き判決が言い渡されている事例でも、ほとんどは弁護人が選任されています。被害者の中には、被告人に連絡先を知られたくないという人も多く、そのような人でも弁護士に対しては連絡先を教えることができたり、交渉に応じてくれたりする場合があります。
また、家族に監督を約束してもらったり、家族に裁判に出廷してもらったり、情状酌量の余地があることを適切に主張・立証したりと、執行猶予獲得に向けて弁護士にできることは多くあります。
執行猶予付き判決が言い渡される可能性を高めたい方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
詐欺罪で執行猶予を獲得したい方は弁護士へ相談
弁護士に相談することにより、執行猶予付き判決が言い渡される可能性が高まります。
弁護士を選ぶ際は、詐欺事件の弁護実績だけでなく、人柄やコミュニケーション能力にも注目しましょう。
詐欺事件の弁護では、裁判官とのやりとりや、被害者との示談交渉など様々な人とコミュニケーションを取る必要があるからです。
詐欺罪に問われている方やそのご家族は、ご自身で対応せずにぜひ弁護士にご相談ください。
まとめ
この記事では、詐欺罪の成立要件や詐欺罪で逮捕された後の流れ、量刑等についてご説明しました。
詐欺罪は、懲役刑しかない比較的重い犯罪といえ、この疑いがかけられて捜査が進む場合は身柄が長期間拘束されやすい傾向にもあります。
そこで、少しでも早く釈放されると共に、刑事罰を軽くするために、なるべく早く弁護士にご相談・ご依頼いただければと思います。
- 得意分野
- 企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
- プロフィール
- 岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務