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更新日: 代表弁護士 中川 浩秀

盗撮未遂でも処罰の対象となる?刑罰と具体的な行為、量刑相場について解説

盗撮未遂でも処罰の対象となる?刑罰と具体的な行為、量刑相場について解説
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「盗撮しようとしたが、撮影前に見つかってしまった」

「画像を保存しきらないうちに取り押さえられたので、データは残っていない」

このような場合、「未遂だから罪にはならないだろう」と考える方もいるかもしれません。

しかし、結論から言えば、盗撮は未遂であっても処罰の対象となります

近年、盗撮行為に対する規制は強化されており、撮影データがない場合や撮影に至らなかった場合でも、厳しい刑事処分が科される可能性があります。

特に、これまでは各都道府県における迷惑防止条例違反の中で対応されていたものが、後述する「性的姿態撮影等処罰法」という法律によって、全国的に処罰されるようになりましたが、このことも、規制強化の一環といえます。

この記事では、盗撮未遂で問われる具体的な罪名や刑罰、逮捕の可能性、そして不起訴を獲得するためのポイントについて、弁護士監修のもと分かりやすく解説します。

弁護士からのひとこと

「データが残っていなければ証拠がないので、罪にはならないはずだ」と考えて相談に来られる方は少なくありません。

しかし、実際の捜査では、写真・動画データだけでなく、防犯カメラ映像や目撃証言、または被疑者のスマートフォンの捜査履歴等、あらゆる角度から調べられることになります。

「未遂だから大丈夫」という自己判断は、事態を悪化させる可能性が極めて高く危険です。

盗撮未遂でも処罰の対象となる?

「盗撮未遂」とは、盗撮をしようとして実行に着手したものの、撮影を完了できなかった状態を指します。

たとえ撮影画像が保存されていなくても、法律上は犯罪として成立し、処罰の対象となります。

また、撮影自体はできたものの、その写真が「性的姿態等」に該当しない場合にも、未遂として処罰されるケースもあるため、注意が必要です。

そもそも未遂とは?

刑法における「未遂」とは、犯罪の実行に着手したものの、これを遂げなかった場合を指します。

刑法第43条では、未遂について以下のように定められています。

(未遂減免)

第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

出典:e-Gov法令検索「刑法」

つまり、結果(性的姿態等の撮影の完了)が発生していなくても、「実行に着手」した時点で未遂犯となります。

また、刑法第44条において「未遂を罰する場合は、各本条で定める」と規定されており、法律に「未遂罪を処罰する」という明文の規定がある場合に限り、未遂も処罰されます。

盗撮行為を規制する法律にはこの規定が存在するため、未遂であっても罪に問われるのです。

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
(1号~4号は省略)
2 前項の罪の未遂は、罰する。
出典:e-Gov法令検索「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」

盗撮未遂は撮影未遂罪として処罰される

先述したように、盗撮行為については、2023年7月13日に施行された「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(「性的姿態撮影等処罰法」)があります。

そのため、現在の盗撮行為の多くは、この性的姿態撮影等処罰法によって処罰されます。

この法律で定められている「性的姿態等撮影罪(通称:撮影罪)」については、先述したように、未遂も処罰の対象となっています。

具体的には、以下のようなケースが「撮影未遂」として処罰される可能性があります。

  • 駅のエスカレーターでスカートの中にスマートフォンを差し向けたが、撮影ボタンを押す前に気づかれた
  • 更衣室にカメラを設置したが、何も撮影される前に発見された
  • 撮影しようとカメラを構えたが、ピントが合わず撮影を断念した

このように、データが残っていなくても、行為そのものが処罰の対象となることを理解しておく必要があります。

盗撮未遂によって科される刑罰と具体的な行為

盗撮未遂行為は、状況や場所、行為の内容によって適用される法律が異なります。

主に適用されるのは「撮影罪(性的姿態等撮影罪)」ですが、その他にも「迷惑防止条例違反」や「住居侵入罪」などが問われる可能性があります。

それぞれの刑罰と具体的な行為について解説します。

撮影罪(性的姿態等撮影罪)

「性的姿態等撮影罪」は、主に、正当な理由なく、ひそかに他人の性的姿態(性的な部位や下着、わいせつな行為中の姿など)を撮影する行為を処罰するものです。

【具体的な行為(未遂を含む)】

  • スカート内や入浴中の姿を撮影しようとして、カメラやスマートフォンを差し向ける行為
  • 更衣室やトイレに盗撮目的でカメラを設置する行為
  • 性的な部位に向けてカメラレンズを向ける行為

【刑罰】

  • 3年以下の拘禁刑(旧 懲役)又は300万円以下の罰金

この法律は全国一律で適用され、未遂であっても既遂と同じ法定刑の範囲内で処分が決定されます(ただし、未遂減軽により刑が軽くなる可能性はあります)。

迷惑防止条例違反

性的姿態等撮影罪の要件(性的な部位や下着の撮影など)に当てはまらない場合でも、各都道府県が定める「迷惑防止条例」によって処罰される可能性があります。

例えば、着衣の上からの撮影や、執拗にカメラを向ける行為などが該当します。

多くの自治体の条例では、盗撮目的でカメラ等を「差し向ける」「設置する」行為自体を処罰対象としています。

この場合、実際に撮影できたか・データがあるかは問題ではなく、カメラ等を「差し向け」たり、「設置」したりした段階で、迷惑防止条例違反の既遂となります。

【具体的な行為】

  • 公共の場所で、衣服を着ている人の胸元や臀部などに執拗にカメラを向ける
  • 盗撮目的で公共の乗物や場所にカメラを設置する

【刑罰(東京都の例:第5条第1項、第8条第2項⑴、第7項)】

  • 常習でない場合:1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
  • 常習の場合:2年以下の拘禁刑(旧 懲役)又は100万円以下の罰金
    (※自治体により刑罰の上限や規定が異なります)

軽犯罪法違反

軽犯罪法では、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰しています(第1条23号)。

【注意点】

軽犯罪法には未遂を処罰する規定がありません。

したがって、のぞこうとしたが見えなかった(未遂)場合には、軽犯罪法違反には問われません。

ただし、のぞくために現場に侵入していれば後述の「建造物侵入罪」などが成立しますし、カメラを使用していれば前述の「撮影罪」や「迷惑防止条例違反」が優先して適用されることが一般的です。

【刑罰(既遂の場合)】

  • 拘留(1日以上30日未満の拘置)又は科料(1,000円以上1万円未満の徴収)

住居・建造物侵入罪

盗撮を行う目的で、正当な理由なく他人の敷地や建物内に立ち入った場合に成立します。

たとえ撮影行為そのものが未遂(または着手前)であっても、敷地に入った時点でこの罪は既遂として成立します。

【具体的な行為】

  • 盗撮目的で女子トイレや更衣室に侵入する
  • 隣家の風呂場を盗撮しようとして、他人の家の敷地(庭など)に入り込む
  • 盗撮カメラを設置するために、管理者の許可なく建物内に立ち入る

【刑罰】

  • 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金

また、侵入しようとして鍵を壊したり、よじ登ろうとしたりした段階で発覚した場合は、住居侵入未遂罪(刑法第132条)として処罰されます。

盗撮未遂でも逮捕されることはある

「未遂なら逮捕まではされないだろう」と考えるのは危険です。

盗撮事件は、被害者の性的羞恥心を害する悪質な犯罪と評価されるものであり、特にデータがない場合には、「発覚を恐れ消去したのではないか?」などと疑われる場合もあり、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断される可能性もあります。そうなれば、未遂であっても逮捕される可能性は十分にあります。

現行犯逮捕の場合

盗撮事件の多くは、現場で被害者や目撃者、駅員、警備員などに取り押さえられる「現行犯逮捕」のケースです。

未遂の場合、「カメラを向けた不審な動き」や「スカートの中を覗き込もうとした動作」などがきっかけで発覚します。

たとえ撮影ボタンを押す前であっても、盗撮行為に着手した(実行の着手)と認められれば、現に犯罪を行っているといえますので、一般人であっても現行犯逮捕をすることが可能です(いわゆる「私人逮捕」)。

多くの場合は、その後、警察に引き渡され、取調べを受けることになります。

「撮れていないから無罪だ」と現場で主張しても、カメラを向けた事実や目撃証言があれば、現行犯逮捕を免れることは難しいでしょう。

後日逮捕の場合

現場からは逃走できたとしても、後日、警察が自宅にやってきて逮捕される(通常逮捕)ケースもあります。

近年は防犯カメラの性能が向上しており、駅構内や店舗などの映像から犯人を特定することが容易になっています。

また、交通系ICカードの利用履歴から移動経路を特定されたり、目撃者が撮影した犯人の画像が証拠となったりすることもあります。

特に、逃亡・罪証隠滅のおそれがあると判断された場合は、逮捕状が請求され、ある日突然逮捕される可能性があります。未遂だからといって捜査が行われないわけではありません。

実務上よくあるのが、今回の件は「未遂」でデータがなくても、押収されたスマートフォンを解析(デジタルフォレンジック)された結果、過去に撮影した別の盗撮画像が復元され、余罪として立件・逮捕されるケースです。「今は何も保存されていないから大丈夫」と安易に考えるのは非常に危険です。

盗撮未遂の量刑相場

盗撮未遂で有罪となった場合、どの程度の刑罰が科されるのでしょうか。

盗撮未遂の量刑は、行為の悪質性、常習性(前科・前歴の有無)、被害者との示談状況などによって決まります。

不起訴になる確率は?

盗撮未遂は、既遂の場合に比べれば、被害の実害が少ない(画像が流出する恐れがない)と評価され、比較的処分が軽くなる傾向はあります。

特に初犯で、深く反省しており、被害者との示談が成立している場合には、「起訴猶予」として不起訴処分になる可能性が高くなります。

不起訴となれば、刑事裁判は開かれず、前科もつきません。

ただし、常習犯である場合や、執行猶予中の犯行である場合、示談が成立していない場合には、公判請求(いわゆる刑事裁判・起訴)や略式手続により罰金刑が科される可能性が高まります。

罰金刑の相場は?

不起訴にならず、略式手続がとられた場合は、罰金刑が科されます。

盗撮未遂における罰金の金額は、その被害の程度等によってまちまちですが、肌感覚としては、10万円〜50万円程度が多いかなというところです。

  • 撮影罪(性的姿態等撮影罪)の場合:300万円以下の罰金が法定刑ですが、初犯の未遂であれば数十万円程度に収まるケースもあるようです。
  • 迷惑防止条例違反の場合:各都道府県の定めにより異なりますが、多くは100万円以下の罰金または50万円以下の罰金と定められており、相場としては30万円〜50万円程度になるケースが見られます。

なお、略式手続の場合、裁判は開かれませんので手続自体は比較的早期に終結しますが、法的には、有罪判決を変わりません。

したがって、略式手続により罰金刑を受けた場合も、前科がつきます

執行猶予が付く可能性は?

公判請求がされた結果、拘禁刑(旧 懲役)の判決が出る場合でも、初犯であれば執行猶予が付くケースもないわけではありません。

執行猶予が付けば、直ちに刑務所に入る必要はなく、社会生活を送りながら更生を図ることができます。

ただし、以下のようなケースでは実刑判決(刑務所への収容)となるリスクがあります。

  • 過去に同種の犯罪で前科があり、執行猶予期間中の犯行である
  • 組織的な盗撮や、営利目的(販売目的)など、悪質性が極めて高い
  • 反省の色が見られず、再犯の可能性が高いと判断された

盗撮未遂で不起訴を獲得するためのポイント

盗撮未遂をしてしまった場合、最も避けるべきは「前科がつくこと」です。

前科がつくと、就職に制限が生じるなど、社会生活に大きな影響を及ぼします。

不起訴処分を獲得するためには、以下のポイントが重要になります。

被害者との示談を成立させる

盗撮事件において、検察官が処分を決定する際に最も重視するのが「被害者との示談」です。

被害者に対して謝罪し、示談金を支払って許しを得る(宥恕文言付きの示談書を作成する)ことができれば、不起訴になる可能性は飛躍的に高まります。

未遂の場合、画像データなどの実害がないため、既遂に比べて示談交渉がスムーズに進む場合もあります。

しかし、一方で「スカートの中を覗こうとされた」「狙われた」という事実に対し、強い生理的嫌悪感や恐怖を抱く被害者も多くいらっしゃいます。

「直接の謝罪は怖いので受けたくない」「顔も見たくない」と拒絶されるケースも多いため、弁護士を介して、被害者の心情に最大限配慮しながら慎重に交渉を進めることが、示談成立への唯一の道筋といえるでしょう。

再犯防止策を講じる

盗撮は依存性が高く、再犯率が高い犯罪と言われています。

検察官に「またやるのではないか」と思われてしまうと、処分が重くなる可能性が高まります。

そのため、口先だけの反省だけでなく、具体的な再犯防止策を示すことが重要です。

  • 専門の医療機関(心療内科など)を受診し、治療を受ける
  • 家族に監督を依頼し、具体的な監督状況を報告する
    (例:毎日帰宅後にスマートフォンの画像フォルダやWEB閲覧履歴を家族が確認し、その記録をつける、GPSアプリで立ち寄り先を共有するなど、物理的な監視体制を作る)
  • 撮影機能のあるスマートフォンをガラケー(フィーチャーフォン)に買い替える

これらの取り組みを客観的な資料として提出することで、更生への意欲をアピールできます。

深い反省を示す

取調べにおいて、素直に事実を認め、真摯に反省する態度を示すことも、不起訴処分を目指すうえでは重要といえます。

言い逃れをしたり、被害者を責めるような発言をしたりすると、「反省していない」とみなされ、起訴されるリスクが高まります。

自身の行った行為と向き合い、二度と繰り返さないという強い意志を示す必要があります。

盗撮未遂で不起訴を目指すなら弁護士への相談がおすすめ

盗撮未遂で不起訴を獲得するためには、早期の対応が鍵となります。

特に被害者との示談交渉は、一刻も早く被害回復を目指すという点で重要です。

しかし、被害者は、加害者との直接の接触を避けるのが通常ですし、捜査機関も被害者の連絡を加害者に教えてくれることはまずありませんので、加害者本人が直接行うことはできません。

そのため、示談を進めていくうえで、弁護士に相談することは必要不可欠です。

このように、弁護士に相談することには、以下のようなメリットがあります。

  1. 被害者との示談交渉を代理で行える
    弁護士であれば、検察官を通じて被害者の承諾を得て連絡先を確認し、示談交渉を行うことができます。弁護士が間に入ることで、被害者の安心感にもつながり、示談が成立しやすくなります。
  2. 逮捕の回避・早期釈放に向けた活動
    逮捕前であれば、警察に対して逃亡の恐れがないことを主張し、逮捕のリスクを少しでも下げていくことが可能です。逮捕後であっても、早期釈放に向けた準抗告等を行い、一刻も早い釈放に向けて動き出せます。
  3. 不起訴に向けた弁護活動
    再犯防止策の策定サポートや、検察官への意見書提出など、不起訴処分獲得に向けた専門的な活動を行います。

「未遂だから大丈夫」と放置せず、できるだけ早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

盗撮は、実行に着手した時点で「未遂」として処罰の対象となります。

性的姿態等撮影罪や迷惑防止条例違反等に問われ、逮捕されたり、罰金刑などの前科がついたりする可能性があります。

しかし、被害者との示談が成立していること等が考慮されれば、処分を少しでも軽くできる可能性は高まります。

その他の点でも、弁護士にご相談頂き正しく対応すれば、不起訴処分を獲得できる可能性は十分にあります。

ご自身やご家族が盗撮未遂でトラブルになっている場合は、事態が悪化する前に、刑事事件に強い弁護士へ相談してください。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士として、男女問題などの一般民事事件や刑事事件を解決してきました。「ForClient」の理念を基に、個人の依頼者に対して、親身かつ迅速な法的サポートを提供しています。
得意分野
不貞慰謝料 、 離婚 、 その他男女問題 、 刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社

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