相続放棄すべきか迷った時の判断基準・手続きの流れや注意点も解説
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記事目次
親の遺産を整理しながら、
「借金が多いので、相続放棄した方がよいのだろうか」
「安易に相続放棄をして後悔する人もいると聞いたことがあるけれど、自分の場合は大丈夫だろうか」
などとお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続放棄をすると、全ての遺産の相続権を放棄することになります。プラスの財産を相続することもできなくなるため、安易に選択しないようにしましょう。亡くなった方の財産を調査し、把握した上で、判断することが大切です。
今回は、相続放棄とは何か、相続放棄をすべきか判断する前にすべきこと、相続放棄をすべきか迷った場合の判断基準、相続放棄手続きの流れや注意点などについて解説します。
相続放棄とは
相続放棄とは、借金などのマイナスの財産だけでなく、預貯金や不動産などプラスの財産も含めた全ての遺産についての相続権を放棄することをいいます。
実際に相続放棄をするには、通常亡くなった方の住所を管轄する家庭裁判所で相続放棄の申述の手続きをする必要があります。裁判所から許可を受け、相続放棄手続きが完了すれば、相続権自体がなくなるため、最初から相続人ではなかったのと同じことになります。
相続放棄をすべきか判断する前に
相続方法を決める前に必ず行うべきことについて説明します。
1.まずは財産調査を
相続で思わぬ損をしないためには、遺産の金額や内訳を可能な限り正確に把握することが大切です。相続放棄をすべきかどうかを判断する前には、必ず財産調査を行いましょう。
財産調査とは、被相続人の遺した財産には、どのようなものがどれくらいあるのか調べることをいいます。
銀行の預金通帳や郵便物を調べたり、不動産や株式については評価額を調べたりして行います。特に不動産や株式は評価額の算定が難しい財産です。これらの財産が遺産に含まれる場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
2.財産目録を作成するとわかりやすい
財産調査を通して明らかになった遺産の内容は、財産目録を作成してまとめておくとわかりやすいでしょう。財産目録とは、マイナスの財産も含めた全ての遺産を一覧にしたものです。どのような財産がどれくらいあるのか一目瞭然となる上、遺産全体の価値も把握できるので相続放棄をすべきかどうか判断しやすいでしょう。
なお、財産目録の書式はどのようなものを使用してもかまいませんが、どの書式を使用すればいかわからない場合は、京都家庭裁判所が公開している以下のページ内の「遺産目録」が参考になります。
相続放棄をすべきかどうかの5つの判断基準
財産調査が完了したら、相続方法を決定します。
相続放棄をすべきか迷った場合は、以下で紹介する5つの基準に照らして考えてみるとよいでしょう。
1.プラスとマイナスではどちらの財産が多いか?
プラスとマイナスの財産を比較して、マイナスの財産が明らかに超過するなら相続放棄を選択するとよいでしょう。相続放棄をすれば借金を相続せずに済みます。
ただし、ご自身が相続放棄をすれば、相続権は次の相続順位の人に移ります。次に相続人となる方に迷惑をかけたくない場合は、限定承認を選択するという方法もあります。
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナス分を清算する手続きです。マイナス分の清算後に財産が残れば、その分は相続できます。
プラスとマイナスの財産ではどちらの方が多いのかはっきりしない場合も、限定承認を選択されることがあります。
限定承認を選択するには、家庭裁判所での手続きが必要です。自分で手続きをすることもできますが、少々複雑なので弁護士に依頼した方がよいでしょう。
なお、限定承認の申述の申し立て方法については、以下の裁判所の公式サイトで紹介されています。
2.残したい財産はないか?
明らかにマイナスの財産が超過している状態だけれど、残したい財産があるという場合は相続放棄ではなく限定承認を検討してもよいでしょう。
限定承認を利用すれば、先買権を行使して、自宅や自社株などの残したい財産を優先的に購入することで手元に残せます。
3.問題のある財産はないか?
プラスの財産の方が多かったとしても、相続放棄を選択するのが適切なケースもあります。以下のような場合は相続放棄をするのが適切である可能性が高いでしょう。ただし、判断が難しいケースも多いので、該当する場合は弁護士に相談することをおすすめします。
①財産の管理や維持にかかるコストが大きい場合
財産の管理や維持にかかるコストが大きい場合、相続放棄を選択した方がよいかもしれません。
例えば、相続財産が被相続人の自宅不動産のみで、誰も住む予定がなく売却が困難な場合などが該当します。築年数が古くて売却が困難な不動産を空き家のまま放置すると、管理コストがかかる上に、事故などが起きて損害賠償請求をされるリスクもあります。将来的なマイナスを考慮すると相続放棄が適切といえるでしょう。
②被相続人が借金の連帯保証人になっていた場合
被相続人が借金の連帯保証人になっていた場合も、相続放棄を検討した方がよいでしょう。
特に被相続人が事業をしており、債務契約の連帯保証人となっている場合は、注意が必要です。
単純承認をして全ての遺産を相続すれば、連帯保証人の地位も継承することになります。相続時点では問題なくても、将来、債務者が返済できなくなるリスクはあります。プラスの財産と比較して、連帯保証債務の額があまりに大きい場合は相続放棄を検討した方がよいかもしれません。
4.財産を集中させたい特定の相続人がいるか?
被相続人の事業を継承するなど、特定の相続人に財産を集中させたい場合、他の相続人が相続放棄をするとよいでしょう。他の相続人と遺産を共有せずに済むので、管理がしやすくなります。
ただし、遺産分割協議で財産を受け取らないことに合意すれば、相続放棄をしなくても、特定の相続人に財産を集中させることは可能です。このように合意すれば相続放棄のように裁判所で手続きをする必要がありません。財産を受け取らない旨の規定のある遺産分割協議書に署名、捺印をするだけで済みます。
しかし、この場合、自動的にマイナスの財産の相続権まで放棄できるわけではありません。特定の相続人が債務を引き継ぐ旨を記載した「免責的債務引受」という契約を新たに債権者と締結しなければならず、手続きが少々複雑になるという点には注意が必要です。
5.他の相続人と関わりたくないと思っているか?
相続が発生すれば、相続人同士で話し合いをしたり、協力したりすることが必要となります。有効な遺言書が残されていない場合は、遺産分割協議をして誰がどの遺産を相続するのか決めなくてはなりませんし、協議の最後には相続人全員が署名、捺印をした遺産分割協議書を作らなくてはなりません。さらに、相続手続きにおいても、全員分の署名や印鑑証明などの書類の準備が必要になる場面もあり、相続人同士で関わる機会が多くあります。
相続放棄をすれば、相続人ではなくなるため、遺産分割協議に参加する必要もありませんし、相続手続きに協力する必要もありません。相続放棄の申述申立も単独でできるので、他の相続人と関わることなく進められます。
相続したい遺産がなく、他の相続人と関わりたくないなら相続放棄を選択するとよいでしょう。
相続放棄の手続きの流れ
実際に相続放棄をする場合、手続きは以下のような流れで進みます。
1.家庭裁判所に申し立て
相続放棄の申述は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。管轄の裁判所は以下の裁判所公式サイトで確認できます。
①必要な書類
相続放棄の申述に必要な書類は以下のとおりです。
【共通】
- 相続放棄の申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申し立てをする方の戸籍謄本
【申し立てをする方が被相続人の配偶者または子の場合】
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
【申し立てをする方が被相続人の孫など代襲相続人の場合】
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 本来の相続人が死亡していることがわかる戸籍謄本
【申し立てをする方が被相続人の父母や祖父母などの場合】
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本
- 被相続人の子が死亡している場合、その子の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類
- 被相続人の両親が死亡しており、祖父母が相続する場合、両親の死亡がわかる戸籍謄本類
【申し立てをする方が被相続人の兄弟姉妹や甥や姪の場合】
- 被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類
- 被相続人の子が死亡している場合、その子の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本類
- 被相続人の両親や祖父母が死亡していることがわかる戸籍謄本類
- 甥や姪が相続する場合、被相続人の兄弟姉妹にあたる本来の相続人が死亡したことがわかる戸籍謄本類
なお、相続放棄の申述書は下記裁判所の公式サイトよりダウンロードできます。記入例も記載されているので、参考にするとよいでしょう。
②必要な費用
相続放棄の申述に必要な費用は以下のとおりです。
- 収入印紙 800円
- 連絡用の郵便切手
連絡用の郵便切手は裁判所によって金額や内訳が異なります。申述先の家庭裁判所の公式サイトを確認するか、直接問い合わせるとよいでしょう。
2.裁判所から届いた照会書に回答
相続放棄の申述が受理されると、10日から2週間ほどで裁判所から「相続放棄照会書・回答書」という書類が送られてくることがあります。これは申述をした方が本当に相続放棄を望んでいるのか、相続放棄を問題なく許可できるかを確認するための書類です。
不適切な回答をしてしまうと、相続放棄が認められない可能性もあるため、疑問点や不安な点がある場合は、弁護士などの専門家に確認することが望ましいでしょう。
3.相続放棄申述受理通知書が届く
裁判所からの照会に対する回答内容に問題がなければ、相続放棄が許可され、相続放棄申述受理通知書が届きます。これで相続放棄の手続は完了です。
相続放棄の注意点
相続放棄をする場合は以下の点に注意しましょう。
1.相続放棄の申述は3か月以内に申し立てる
相続放棄の申述は期限があり、被相続人が亡くなり、相続が開始したことを知ってから3か月以内に行わなければなりません。
ただし、財産調査に時間がかかるなど、どうしても間に合わない事情がある場合は、期限内に「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立」を行うことにより、期限を延長してもらうことが可能です。
2.遺産を処分すると相続放棄ができなくなる
被相続人の預金を引き出したり、不動産を売却したりするなど、勝手に遺産を処分すると単純承認を選択したとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます。ただし、葬儀費用分など常識の範囲内であれば、出金しても問題ありません。
3.相続放棄が一度認められると撤回できない
相続放棄の申述を行い、一度受理されると撤回することはできません。後になって多額のプラスの財産が見つかったとしても相続はできませんので、相続放棄を選択するのが適当かどうかはしっかりと財産調査を行った上で判断しましょう。
まとめ
今回は、相続放棄とは何か、相続放棄をすべきか判断する前にすべきこと、相続放棄をすべきかどうかの判断基準、相続放棄手続きの流れ、相続放棄の注意点などについて解説しました。
相続放棄はプラスもマイナスも含めた全ての遺産についての相続権を放棄することであり、相続放棄の申述が一度受理されると撤回することはできません。後悔しないためにも、財産調査をしっかり行い、この記事で紹介した5つの判断基準に照らして相続放棄をするかどうかを慎重に判断することをおすすめします。
また、相続放棄を選択するのが適切なのかわからない場合は、早めに遺産相続に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
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