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遺言書の効力と作成上の注意点・法定遺言事項や遺留分についても解説

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記事目次

「法律で相続分や相続の権利を持つ人物が決まっているのに、遺言書を書くメリットはあるのだろうか」と疑問に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
遺産相続では、法律で定められた相続分よりも遺言書の内容が優先されるという原則があるため、遺言書を残しておけば、本来は相続の権利を持たない人物に遺産を贈与することや、特定の相続人に多く遺産を相続させることも可能となります。
しかし、誤った方式で作られた遺言書は法的な効力を持たない場合があり、有効な遺言書を作成するためには、注意点も存在します。
今回は、遺言書を作成する意義や遺言書の持つ法的な効力、遺言に効力を持たせるための注意点について解説します。

遺言書の効力や作成するメリット

まずは、遺言書を作成する目的やメリットについて説明します。

1.法定相続よりも遺言書の内容が優先される

民法第900条には、相続人の範囲や相続の優先順位、配偶者、親、子などの相続分が定められており、これを法定相続と呼びます。
しかし、相続は故人の意思を重視して行われるべきです。そのため、法定相続はあくまでも相続分に関する目安として扱われ、遺言書が存在する場合には法定相続よりも遺言書の内容が優先されます。
例えば、遺言書に「自分の介護や看護に尽くしてくれた人に財産を渡したい」という内容が記載されていた場合、その人が法定相続人ではなかったとしても、その内容が優先されます。

2.遺言書の作成で相続トラブルが防げる

遺言書がなくても、遺された配偶者や子の間で行われる協議により、円滑に遺産相続が行われることもあります。しかし、実際は、法定相続分に従った遺産相続では相続人全員が納得できず、相続人間で争いが起こることも珍しくはありません。
例えば、親と同居していた相続人が、「親を介護していたのは自分だけなのに、他の兄弟姉妹と相続する遺産が同じ割合なのは不公平だ」と主張して、法定相続分に従った遺産相続に納得しないケースは、典型的なトラブル事例といえるでしょう。
このようなトラブルを防ぎ、近親者が遺産を巡って関係を悪化させることがないよう、財産の多寡に関わらず法的に有効な遺言書を作成しておくことをおすすめします。

3.効力が認められる遺言書の書式

遺言書に法的な効力を持たせるためには、作成上の決まりを守る必要があります。「エンディングノートを遺言書として扱ってほしい」、「動画や音声記録を遺言書の代わりにしたい」などということは法律上、認められていないため、注意が必要です。
民法で定められている普通方式の遺言は以下の3種類であり、いずれも誤った方式で作成すると法的に無効となってしまいます。

  • 自筆証書遺言(民法第968条)
  • 公正証書遺言(民法第969条)
  • 秘密証書式遺言(民法第970条)

この他、死期が間近に迫っている時に認められる危急時遺言(臨終遺言)、航海中の船舶内など隔絶された特殊な環境にいる場合において認められている隔絶地遺言が、特別方式の遺言として認められています。

法的に効力が認められる遺言書の内容・法定遺言事項とは

遺言書に書くべき内容については法律で定められているわけではなく、「兄弟仲良く助け合ってほしい」「お母さんを頼む」などという遺言者の願望を記載しても問題はありません。
しかし、遺言書に記すことで法律上の強制力を持たせることができる項目については法律で定められており、これらの項目を法定遺言事項と呼びます
法定遺言事項の具体的な内容について説明します。

1.相続分の指定

遺言書では、法定相続分と異なる割合で、各相続人に相続を行う旨を指定することが可能です。(民法第902条)。
例えば、被相続人に配偶者と子が3人いた場合、法定相続分に従えば、配偶者は2分の1、子は6分の1ずつ遺産を相続することになります。しかし、遺言書では、遺留分を侵害しない範囲内で、相続の割合を自由に指定できるのです。(遺留分については後ほど説明します。)
なお、遺言書にその旨を記せば、相続の割合の指定を第三者に委託することも可能です。

2.相続人の廃除に関すること

法定相続人ではあるものの、どうしても遺産を渡したくない人物がいる場合には、遺言書に相続資格を剥奪する旨を記すこともできます。(民法第893条)。
また一度廃除した相続人に、「やはり相続をさせたい」という心情の変化があった際には、その旨を遺言書に記し、廃除を取り消すことが可能です。

3.遺産分割に関すること

遺産分割とは「どの財産を、誰にどれだけ相続させるか」を決めることです。相続財産の中に不動産や高価な自動車など、そのままでは複数の相続人に分割できないものが含まれている場合、問題となることが多いでしょう。
遺言書では遺産分割についても指定ができるため、たとえば、自宅および土地については配偶者が相続する旨などを記しておけば、不動産を換金して相続分に応じて分配する必要や、不動産を得る代わりに子など他の相続人に相続分に応じたお金を支払う必要がなくなります。
他にも、遺言書で遺産分割を第三者に委託する旨や、相続の開始時から最長で5年の間、遺産分割を禁止することができます。(民法第908条)。

4.特別受益の持ち戻しの免除

相続開始前に被相続人から援助や贈与など特別な利益を受けることを特別受益といいます。原則として、特別受益分は相続財産の先払いという扱いになります。(民法第903条1項)。これを特別受益の持ち戻しといい、相続分から特別受益分を差し引くことにより他の相続人との公平性を保つという目的があります。
しかし、被相続人の希望があれば、特別受益分を遺産相続時に精算しないことも可能です。
遺言書に「特別受益の持ち戻しを免除する」と記しておけば、特別受益分は相続財産には含まれません。

5.相続人以外への寄贈に関すること

法定相続人以外に贈与を希望する場合や財産を寄付したい場合などは、遺言書でその旨を指定できます。 (民法第964条)。
また、遺言書に指定があれば、財産を信託銀行などで運用してもらうことも可能です。

6.子の認知について

婚姻関係にない相手との間に子がいる場合、遺言書で親子関係を認め、認知できます。
また、子の母親の承諾が必須となりますが、遺言書による胎児の認知も可能です。(民法第781条2項)。
なお、「養子縁組をした子との関係を解消したい」「死後は婚姻関係を解消したい」など、認知以外の家族関係の変更については遺言書に記しても法的な効力は持たず、無効となります。

7.後見人・後見監督人の指定

遺言者が亡くなることで未成年の子の親権を行う者がいなくなる場合など、相続人のなかに親権者不在の未成年者がいる際には、遺言書で後見人を指定できます。
また、後見人を監督する後見監督人についても、遺言書で指定することが可能です。(民法第839条1項)。

8.遺言執行者に関すること

遺言通りに相続手続を行う遺言執行者を指定すること、第三者に遺言執行者を指定することを委任できます。 (民法第1006条)。
ただし、未成年者および破産して復権を得ていない者は、遺言書で指定されたとしても遺言執行者になれません。

自筆遺言に効力を持たせるための注意点

自筆遺言は、名前の通り遺言者の肉筆による遺言書です。
個人で作成できるため、最も気軽かつ自由に書ける遺言書といえますが、自筆遺言に効力を持たせるためには押さえておくべき注意点が存在します。

1.全文を自筆で作成する

本文および日付、氏名のすべてが遺言者による肉筆で書かれていなければ、自筆遺言は無効とみなされます。代筆による作成も不可です。
使用する筆記用具や用紙に指定はありませんが、改ざん防止のため、ボールペンや筆、万年筆などを用いるのが一般的でしょう。
なお、民法改正により、2019年1月13日からは、相続や遺贈の対象となる財産をまとめた財産目録に関してはパソコンでの作成が認められるようになりました。

2.日付・署名・押印を忘れない

遺言書を作成した日付、署名、押印のないものも、自筆遺言として認められません
明確に遺言書を作成した日を特定することが求められるため、「令和○年吉日」「令和○年5月」などという曖昧な日付の記載は不可です。
署名については戸籍上の本名のほか、ペンネームや芸名などであっても、遺言者を特定できるものであれば有効となります。また実印ではなく、認印での押印も有効です。

3.遺言者の死後に検認が必要なケースもある

第三者による改ざんを防ぐため、自筆遺言の開封には家庭裁判所による検認の手続が必要となります。
遺言者が亡くなった後は家庭裁判所に遺言書を提出し、全ての相続人に立ち会いの機会が与えられた上で遺言書の開封が行われます。
なお、2020年7月10日に施行された遺言書保管法により、法務局に保管を依頼した遺言書に関しては検認手続が不要となりました。
検認手続を負担に感じる相続人は少なくありません。これから遺言書を作成する方は、保管制度の利用を検討してもよいでしょう。

公正証書遺言に効力を持たせるための注意点

公証人が筆記を担当する上、完成した遺言書は公証役場にて保管されるため、公正証書遺言が誤った方式で作られ、無効となる可能性は極めて低いといえます。
しかし、公正証書遺言の作成には証人や費用が必要となるという点には注意が必要です。

1.資格のある証人2名の立ち会いが必要

公正証書遺言作成時には2名の証人の立会いが必須です。また、証人には条件があり、以下のような人物には証人の資格が認められません。

  • 未成年の者
  • 遺言によって相続を受ける可能性のある者、およびその配偶者と直系血族
  • 公証人の配偶者
  • 公証人の四親等以内の親族
  • 公証役場の書記や職員

相続は非常に私的な問題です。遺言の中身を口外しない人物を探す必要があるため、証人を誰に依頼すべきか悩む方もいらっしゃるでしょう。
一般的には、推定相続人ではない親族、信頼のおける知人のほか、弁護士など法律の専門家に証人を依頼する方も多いです。弁護士に証人を依頼した場合には、遺言の内容について、法律の専門家の観点から確認してもらえるというメリットもあります。

2.無効になることは稀だが手数料が必要

公正証書遺言の作成には、公証人手数料令という法令に則り、所定の手数料が必要です。
手数料は、相続財産が100万円以下であれば5,000円、100万円を超えて200万円以下であれば7000円と、相続人や受遺者が受け取る予定の財産の価値によって変動します。
また、作成済みの遺言書の訂正を希望する場合は、11,000円の手数料がかかります。

秘密証書遺言に効力を持たせるための注意点

遺言者が封をした上で公証人に提出し、公証役場に遺言書の存在を記録してもらうという方式で作成するのが秘密証書遺言です。
自筆遺言や公正証書遺言に比べると利用者は少ないですが、遺言の中身を他者に知られることなく、遺言書の存在のみを明確にできるというメリットがあります。

1.署名は自筆で行う

秘密証書遺言の本文は必ずしも自筆で作成する必要がなく、パソコンの使用や代筆も認められています。ただし、署名は自筆でないと遺言自体が無効となるため、注意が必要です。

2.遺言者の死後に検認が必要

秘密証書遺言は封をした上で、証人2名以上の立ち会いのもと公証人に提出し、公証役場で封書に遺言者の氏名や住所、提出した日付を記載してもらうなどの手続をした後に完成します。
完成した秘密証書遺言は公証役場に預けずに遺言者が保管するため、遺言者が亡くなった後は自筆遺言同様に家庭裁判所の検認手続が必要となります。
遺言の存在は公証役場に登録されていて明らかなものの、遺言者の死後に肝心の遺言書がどこにあるのかわからない、家中探しても見つからないという事態になる可能性があります。そのような事態を防ぐためには、信頼のできる人物や貸し金庫などに秘密証書遺言を預けておくと安心でしょう。

遺言書よりも優先される遺留分と遺留分侵害請求権

遺言書の内容は法定相続より優先的な扱いを受けますが、法定相続人の権利を著しく侵害する内容の遺言書を作成された場合、法定相続人は泣き寝入りをしなければいけなくなります。
そのような不公平を防ぐために民法で定められているのが、遺留分です。遺言書よりも優先される遺留分と遺留分侵害請求権について説明します。

1.遺留分とは

遺留分とは、遺言の内容にかかわらず、配偶者や子など遺族の権利を守るために定められた最低限の相続分のことをいいます。
特定の相続人や法定相続人ではない人物に財産の大半を遺贈する旨の遺言をされた場合などに、権利を侵害された相続人は遺留分を受け取る権利を主張できます。
正しい方式に則った遺言書であっても、遺留分を侵害することはできません。遺言書に遺留分を認めない旨の記載があったとしても法的な効力は持ちません。

2.遺留分が認められる範囲と相続の割合

民法第1028条により、遺留分を請求できる人物は、被相続人の配偶者と子や孫などの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属のみと定められています。兄弟姉妹は遺留分を持たないという点には注意が必要です。
請求できる遺留分は相続人と被相続人の関係性や、相続人の人数によって異なります。
例えば、遺留分を請求できる相続人が配偶者のみである場合、相続財産の2分の1が遺留分、残りの2分の1は遺言に従って自由に処分可能となります。
遺留分を請求できる相続人が被相続人の両親のみの場合は、相続財産の6分の1が父母それぞれの遺留分、残りの3分の2は遺言に従って自由に処分可能となります。

3.遺言書で遺留分が侵害されていたら

遺留分を侵害された場合、不当に多く遺贈等を受け取っている相手に対して、遺留分侵害請求をすることができます。
遺留分侵害請求について決まった手続はありません。相手方に遺留分を請求する意志があることを伝えた上で、話し合いによる解決が困難な場合には、家庭裁判所に調停を申し立てる、地方裁判所に訴訟提起する等の手段を取るのが一般的です。
なお、遺留分侵害請求権には時効があり、遺留分を害する遺贈等があった事実を知ってから1年、相続が開始された時から10年が経過すると権利は消滅します。

遺言書の効力に関するよくある疑問と回答

検認を受けずに遺言書を開封すると相続ができなくなるのか、認知症の症状が認められてから作成した遺言書に効力はあるのか等、遺言書の効力についてさまざまな疑問をお持ちの方がいらっしゃるかと思います。特に疑問が寄せられることが多い項目について説明します。

1.遺言書に有効期限はある?

遺言書に有効期限はありません。仮に亡くなる数十年前に作成された遺言書であっても、方式を守ったものであれば法的な効力を持ちます。
なお、原則として遺言書の作成が認められているのは15歳以上の者に限られるため、被相続人が15歳未満時に作成した遺言書は内容を問わず無効となります。(民法第961条)。

2.遺言書が複数存在した場合は?

複数の遺言書が存在する場合、原則として最も新しい作成日の遺言書に記載された内容が優先されます。ただし、古い遺言書に記載された内容の全てが無効になるわけではなく、直近に書かれた遺言書の内容と抵触していない箇所については有効とみなされます。
複数の遺言書に矛盾がないか、抵触する部分はないか判断するのが困難な場合は、弁護士に確認してもらうとよいでしょう。

3.開封してしまった遺言書は無効になる?

家庭裁判所による検認手続を受ける前に開封してしまったとしても、遺言の効力に影響はなく、開封した人物は相続の権利を失うなどという罰則もありません。
しかし、封をされている遺言書を勝手に開封してしまうと5万円以下の過料に処されるおそれがありますので、注意しましょう。

4.認知症患者が作成した遺言書は認められる?

生活に支障を来すほど意思能力の低下が見られる認知症患者の方が作成した遺言書に関しては、正しい判断ができない状態で書かれたとみなされ、法的な効力が認められない可能性が高いです。
ただし、認知症患者と一口に言っても、症状が軽度な方から生活の全てに介助が必要な方まで、様々な方がいらっしゃいます。
現在、認知症の症状が軽度な方で、これ以上症状が進む前に遺言書を作成したい等の要望がある場合は、遺言書作成時に十分な判断能力があった旨を証明する医師の診断書などを添付しておくとよいでしょう。

5.遺言書が無効だと訴えたい場合の対処法は?

遺言書の内容が受け入れがたいものであった場合は、家庭裁判所に家事調停を申し立てて解決を図ることができます。調停でも主張が認められなかった場合、遺言無効確認請求訴訟を地方裁判所に提起して、遺言の効力の有無について法的な判断を仰ぐことになります。
遺言無効確認請求訴訟で遺言が無効であるとの判断が下ると、遺言書は存在しないものとみなされ、相続に関する事柄は遺産分割協議や遺産分割調停にて決定されます。

まとめ

今回は、遺言書を作成する目的や遺言書で指定できる法定遺言事項、遺言を無効にさせないための注意点、遺言書の効力などについて解説しました。

遺言書のキットなども販売されるようになり、遺言について考える機会も増えているかと思います。しかし、どれほど遺族のことを思って丁寧に作成した遺言書であっても、誤った方式で作られたものに法的な効力は認められません。
遺族のため、そしてご自身の意志をしっかり遺すためにも、不明な点については事前に弁護士に相談して、不備のない遺言書を作成することをおすすめします。

私達、東京スタートアップ法律事務所は、遺産相続に関する問題を抱えている方のご希望を丁寧にお伺いした上で、最適なサポートを提供しております。遺言書に関する疑問点やトラブル対応等のご相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 -TSL -
東京スタートアップ法律事務所
東京スタートアップ法律事務所は、2018年9月に設立された法律事務所です。
全国に拠点を有し、所属メンバーは20代〜40代と比較的若い年齢層によって構成されています。
従来の法律事務所の枠に収まらない自由な気風で、優秀なメンバーが責任感を持って仕事に取り組んでいます。
得意分野
不貞慰謝料、刑事事件、離婚、遺産相続、交通事故、債務整理など

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