時効とは?種類や完成要件を紹介

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記事目次
日常生活において知っておきたい法律知識のひとつに「時効」があります。一定期間が経過することで、権利が消滅したり取得されたりする制度で、借金返済義務が消える「消滅時効」や、土地の所有権を得られる「取得時効」、犯罪に適用される「公訴時効」などがあります。本記事では、時効の基本的な仕組みや種類、注意点などを簡単にわかりやすく解説します。
時効とは何か
時効とは、一定の期間が経過すると法律上の権利や義務が消滅したり、新たに取得されたりする制度です。民法では、権利を行使しないことで権利が消滅する「消滅時効」や、他人の物を一定期間占有することで所有権を得る「取得時効」があります。また、刑事事件においては、犯罪が終わってから一定期間が経過すると起訴ができなくなる「公訴時効」が存在します。
民事上の時効とは何か
民事上の時効には、「取得時効」と「消滅時効」の2つがあります。
■取得時効
他人の物を一定期間継続して占有することで、その物の所有権を取得する制度です(民法162条)。
■消滅時効
権利を一定期間行使しないこと、その権利が消滅する制度です(民法166条)。
刑事上の時効とは何か
刑事上の時効には、「公訴時効」と「刑の時効」の2つがあります。
■公訴時効
犯罪が終わってから一定期間が経過すると、検察官が被疑者を起訴できなくなる制度です(刑事訴訟法250条)。公訴時効が完成すると、被疑者が刑事裁判にかけられることはなくなるので、被疑者が刑事罰に課されることもありません。
■刑の時効
刑事裁判で刑が確定した後、一定期間執行されなかった場合、その刑が失効する制度です(刑法31条~34条)。刑が確定した後に長期間にわたり刑が執行されないことはほとんど起こり得ないため、刑の時効の制度が適用されることはほとんどありません。
目的
公訴時効制度の趣旨は、主に以下の3点であると言われています。
・時間の経過によって犯罪の社会的影響が減少し、犯人処罰の必要性が小さくなること
・時間の経過によって証拠が散逸し、公正な裁判の実現が困難となること
・一定期間訴追されていないという事実状態を尊重すること
もっとも、それぞれの理由には批判があるところであり、現在は、上記3つの趣旨を総合的に考慮しつつ、犯人処罰の必要性と法的安定性の調和を図るための立法政策上の制度として説明されています。
公訴時効と告訴期間の違いは何か
公訴時効と同様に、一定期間が経過すると起訴ができなくなるという機能を有する制度に「告訴期間」というものがあります。
犯罪の中には、告訴(被害者などが、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追や処罰を求めること)がなければ起訴をすることができないものがあり、このような犯罪を親告罪といいます。そして、親告罪の告訴は、犯人を知った日から6ヶ月を経過したときは、することができないと定められています(刑事訴訟法235条本文)。この6ヶ月という期間が、「告訴期間」であり、告訴なく告訴期間を経過した親告罪は、起訴をすることができなくなります。
なお、公訴時効の起算点は「犯罪行為が終わった時」(刑事訴訟法253条1項)ですが、告訴期間の起算点は、告訴権者が「犯人を知った日」とされており、この点も両者の違いとなります。
公訴時効と告訴期間の違いをまとめると以下となります。
公訴時効 | 告訴期間 | |
対象犯罪 | 一部の重大犯罪を除く全ての犯罪 | 親告罪のみ |
起算点 | 犯罪行為が終わった時 | 犯人を知った時 |
取得時効とは何か
取得時効とは、他人の物を一定期間継続して占有することで、その物の所有権を取得する制度です(民法162条)。これを所有権の取得時効といいます。
なお、取得時効には、所有権の取得時効だけでなく、所有権以外の財産権(例えば賃借権)の取得時効というものもあります(民法163条)が、本ページでは所有権の取得時効を説明しています。
取得時効の完成要件
取得時効には、時効の完成まで占有期間が20年必要な長期取得時効(民法162条1項)と、時効の完成まで占有期間が10年で足りる短期取得時効(民法162条2項)があります。時効の完成要件はそれぞれ以下となっています。
■長期取得時効
①20年間の物の占有の継続
占有の継続が必要で、途中で占有が中止された場合にはその時点で経過した時効期間はリセットとなります。
②所有の意思をもってする占有であること
所有の意思とは、所有者と同じように物を排他的に支配しようとする意思のことをいいます。所有の意思の有無は、占有者の内心の意思を基準に判断されるのではなく、占有者がその物を占有することになった原因の客観的性質や、占有に関する事情によって判断されます。
例えば、物を占有することになった原因が賃貸借(物を借りた)の場合、たとえその占有者が「返さないで自分の物にしよう」と内心で思っていても、所有の意思は認められません。また、占有者が、所有者であれば本来するはずのこと(土地の固定資産税の支払い等)をしていなければ、所有の意思が認められない方向の事情として考慮されます。
③平穏かつ公然の占有であること
平穏とは暴行や脅迫によらないことをいいます。強盗犯人が他人から無理やり奪って占有を開始した物には時効は成立しません。
公然とは密かに隠していないことをいいます。
■短期取得時効
①10年間の物の占有の継続
④の要件があれば、占有継続の期間が長期取得時効よりも短くなります。
②所有の意思をもってする占有であること
長期取得時効と同様です。
③平穏かつ公然の占有であること
長期取得時効と同様です。
④占有開始時に善意かつ無過失であること
この要件が、長期取得時効と短期取得時効を分ける要件となります。
占有開始時に善意とは、占有開始時に、その物が自己の所有物であると信じていることをいいます。無過失とは、その物が自己の所有物であると信じたことについて過失がないことをいいます。占有開始時に、「これはもしかしたら他人の物かもしれない」と思わせるような事情があった場合、短期取得時効は完成しません。
完成要件の主張立証責任
上述したように、取得時効の完成要件は、長期取得時効の場合は①から③、短期取得時効の場合は①から④となりますが、裁判においては、時効取得を主張する側は全ての要件について主張立証しなければならないわけではありません。多くの要件について、民法の推定規程により、時効取得を主張される側(相手側)が主張立証しなければならないことになっています。
なお、裁判において、「法律のこの要件は原告(又は被告)が主張立証しなければならない」というルールのことを、主張立証責任といいます。時効の完成についての主張立証責任は、以下のようになっています。
■長期取得時効
①20年間の物の占有の継続
時効取得を主張する側に主張立証責任があります。
もっとも、20年間一度も占有が断絶することなく継続していたことまで立証する必要はなく、前後2つの時点で占有した事実が立証されれば、占有はその間継続したものと推定されます(民法186条2項)。したがって、この場合、相手側は、占有の断絶を立証しなければ、この要件が認められることなります。
②所有の意思をもってする占有であること
「所有の意思」は法律上推定される(民法186条1項)ため、時効取得を主張する側に主張立証責任はありません。相手側が、所有の意思の不存在を主張立証する必要があります。
③平穏かつ公然の占有であること
「平穏」「公然」は法律上推定される(民法186条1項)ため、時効取得を主張する側に主張立証責任はありません。相手側が、暴行又は脅迫による占有や、隠匿による占有を主張立証する必要があります。
■短期取得時効
①10年間の物の占有の継続
長期取得時効と同様、時効取得を主張する側に主張立証責任があります。もっとも、占有の継続についての推定も長期取得時効と同様なので、相手側は、占有の断絶を立証しなければ、この要件が認められることなります。
②所有の意思をもってする占有であること
長期取得時効と同様に、相手側に主張立証責任があります。
③平穏かつ公然の占有であること
長期取得時効と同様に、相手側に主張立証責任があります。
④占有開始時に善意かつ無過失であること
「善意」と「無過失」で主張立証が分かれます。
「善意」は法律上推定される(民法186条1項)ため、時効取得を主張する側に主張立証責任はありません。相手側が、占有者の悪意(その物が自己の所有物であることについて疑っていたこと)を主張立証する必要があります。
一方で、「無過失」は、時効取得を主張する側に主張立証責任があります。
以上から、主張立証責任を考慮した場合の時効の完成要件は以下となります。
■長期取得時効
①‘20年間の物の占有の継続(20年を超える前後2つの時点で占有した事実)
■短期取得時効
①‘10年間の物の占有の継続(10年を超える前後2つの時点で占有した事実)
④‘占有開始時に無過失であること
取得時効の完成の効力
取得時効が完成しても、その瞬間に占有者がその物の所有権を取得するわけではありません。時効の完成後、占有者が、相手方に、時効の利益を受ける旨の意思表示をしてはじめて、占有者はその物の所有権を取得します(民法145条)。この、時効の利益を受ける旨の意思表示を「援用」といいます。取得時効の援用によって、占有者はその物の所有権を取得します。
取得時効は、自己の所有物にも認められる
取得時効を規定する民法162条には、「他人の物」を占有した者は、その所有権を取得すると書かれています。もっとも、最高裁判例によると、取得時効は自己の所有物についても成立すると解されています(最判昭和42年7月21日)。
したがって、取得時効において「他人」性は要件とならないので、「購入したのが50年前で、契約書も残っておらず、自分の物なのか、他人の物なのかわからなくなってしまった」というような物についても、取得時効を主張することができます。
消滅時効とは何か
消滅時効とは、権利を一定期間行使しないこと、その権利が消滅する制度のことをいいます。
民法改正による変更点
2020年4月1日に施行された民法改正により、消滅時効制度に大きな変更が加えられました。主な変更点は以下のとおりです。
■消滅時効期間の統一
改正前の民法では、債権の種類等によって消滅時効期間が異なっていました。しかし、改正後は以下のように統一されました:
・主観的起算点:債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
・客観的起算点:権利を行使することができる時からから10年間
以上のうちいずれか早く経過する期間が経過した時点で消滅時効が完成します。これにより、債権の種類ごとに異なっていた時効期間が、原則として「主観的起算点から5年間・客観的起算点から10年間」に統一されました。
また、2020年4月1日施行の民法改正前までは、商取引に関する債権について、短期の消滅時効期間が定められていました(商事消滅時効)。しかし、改正によりこれらの特別な規定は廃止され、すべての債権に対して統一的な時効期間が適用されるようになりました。
■時効の「中断」と「停止」の用語変更
改正前の民法では、時効の進行を一時的に止める「中断」と「停止」という概念がありました。改正後は、これらの用語が以下のように変更されました:
・時効の中断 → 時効の更新:時効の進行がリセットされ、再び最初から進行すること
・時効の停止 → 時効の完成猶予:一定の事由がある場合に、時効の完成が一定期間猶されること。
これにより、時効制度の理解がより直感的になりました。
■協議による時効の完成猶予制度の新設
改正後の民法では、当事者間で文書等により協議を行う旨の合意をした場合、時効の完成を1年以内の期間で遅らせることが可能となりました。これにより、実務上の柔軟な対応が可能となっています。
■適用範囲
改正民法は、2020年4月1日以降に発生した債権に適用されます。それ以前に発生した債権については、原則として改正前の民法が適用されるため、注意が必要です。
権利の種類によって異なる消滅時効期間
現行民法で定められている消滅時効の時効期間は以下となります。原則は前述の通りですが、いくつか例外もあります。
■債権(原則)
以下のうちいずれか早く経過する期間が経過した時点
(1)債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(民法166条1項)
(2)権利を行使することができる時から10年間(民法166条1項) ※注
※注 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は20年(民法167条)
■債権または所有権以外の財産権
権利を行使できる時から20年(民法166条2項)
■定期金債権
以下のうちいずれか早く経過する期間が経過した時点(民法168条1項)
(1)各債権を行使できることを知った時から10年
(2)各債権を行使できる時から20年
■判決で確定した権利
10年より短い時効期間の定めがあるものについては、10年(民法169条)
10年以上の時効期間の定めがあるものについては、その期間
■不法行為に基づく損害賠償請求権
以下のうちいずれか早く経過する期間が経過した時点(民法724条)
(1)被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年
(2)不法行為の時から20年
消滅時効の完成の効力
上述した取得時効と同様、消滅時効が完成しても、その瞬間に権利が消滅するわけではありません。時効の完成後、債務者が、相手方に、時効を援用してはじめて、債務者の債務は消滅します(民法145条)
時効の援用について
上述した通り、時効の利益を受ける旨の意思表示を時効の「援用」といいます。援用がなければ、時効が完成していても時効の効果は発生しません。
時効の援用は口頭でも可能ですが、トラブル防止のため、通常は書面で行います。内容証明郵便を使うことが一般的です。裁判手続きにおいて口頭や書面で主張することも可能です。
時効援用権の喪失に注意
消滅時効が完成した後に、債務者が債権者に対し、債務の自認行為(例えば、「そろそろ払う」と伝える等)をした場合、たとえ債務者が時効完成の事実を知らなかったとしても、信義則上、その後に消滅時効を援用することは許されないと解されています(最判昭和41年4月20日)。これを時効援用権の喪失といいます。
時効援用権の喪失の趣旨は、①時効完成後に債務を承認した者がその後に時効による債務の消滅を主張することは、自己の行為と矛盾する態度となること、また、②自認行為があると、相手方も債務者がもはや時効の援用をしないと考えるであろうことから、その信頼を保護することの2つです。
債務の履行の際には、必ず、予め消滅時効が完成していないかどうかを確認しましょう。
時効期間の起算点とは
時効期間のカウントの開始日を起算点といいます。既に記載しましたが、債権の消滅時効の起算点は以下となります。上述した通り、2つの起算点のうち、いずれか早く経過する期間が経過した時点で消滅時効は完成します。
・主観的起算点:債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間
・客観的起算点:権利を行使することができる時から10年間
客観的起算点の、「権利を行使することができる時」とは、具体的には、債権に期限がついている場合には、その期限が到来した時をさします。例えば、A社がB社に4月15日に商品を売り(売買契約を締結し)、その売掛金の支払日が翌5月31日だった場合、「権利を行使することができる時」の起算点は5月31日となります。
主観的起算点の、「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは、債権者による権利の行使を現実に期待することができるようになった時点をいいます。売買契約や金銭消費貸借契約(貸金契約)のような事例では、当事者は、契約時に履行の期日を認識しているので、「債権者が権利を行使することができることを知った時」の起算点は、(商品や金銭の支払日等の)履行の日となります。すなわち、このような売買契約や金銭消費貸借契約の場合には、主観的起算点と客観的起算点は一致することになります。
時効の完成を阻止する措置
時効の完成を阻止する方法には、大きく分類して時効の「完成猶予」と「更新」の2つがあります。
時効の「完成猶予」(=時効完成を一時停止させる)
時効の完成猶予があると、時効期間の経過が一時的に進行を停止し、時効の完成が猶予されます。
時効の完成猶予事由には以下のものがあります。
(1)裁判上の請求等の事由(民法147条1項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加
→猶予期間:その事由が終了するまで
(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)
(2)強制執行等の事由(民法148条1項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続
→猶予期間:その事由が終了するまで
(申立ての取り下げまたは法律の規定に従わないことによる取り消しによってその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)
(3)仮差押え、仮処分(民法149条)
→猶予期間:その事由が終了したときから6カ月を経過するまで
(4)催告(民法150条1項)
→猶予期間:催告の時から6カ月を経過するまで
なお、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しません(同条2項)
(5)協議を行う旨の合意(民法151条1項)
→猶予期間:以下のいずれか早い時まで
(あ)合意時から1年を経過した時
(い)合意において協議期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時
(う)当事者の一方から相手方に対して協議続行拒絶通知が書面でされたときは、通知時から6カ月を経過した時
(6)天災その他避けることのできない事変のため、①または②に係る手続きができないとき(民法161条)
→猶予期間:その障害が消滅したときから3カ月を経過するまで
時効の「更新」(=時効がリセットされる)
時効の更新があると、時効は一度リセットされ、時効期間がゼロから再スタートします。時効の更新事由には以下のものがあります。
(1)裁判上の請求等の事由がある場合において、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したこと(民法147条2項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加
(2)強制執行等の事由がある場合において、その事由が終了したこと(民法148条2項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続
(3)権利の承認(民法152条1項)
まとめ
時効とは、一定の期間が経過すると法律上の権利や義務が消滅したり、新たに取得されたりする制度であり、私たちの日常生活にも密接に関わるものです。権利の取得や消滅といった非常に影響の大きい効果を持つ一方で、見落とされやすい制度でもあります。
もし「時効かもしれない」と思ったら、早めに専門家へ相談することをおすすめします。疑問点があればお気軽に弊所にご相談ください!
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設