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更新日: 投稿日: 弁護士 後藤 亜由夢

会社の売却を検討する際の流れ・最低限知っておきたい注意点も解説

会社の売却を検討する際の流れ・最低限知っておきたい注意点も解説
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現在の日本では、急速に進む少子高齢化や時代の流れによる価値観の変化に伴い、中小企業の後継者不在問題が深刻化しています。そのような状況の中、会社を第三者に売却することにより、大切に育ててきた会社を次世代に引き継ぐことを選択する経営者が増えています。

しかし、会社の売却は経営者にとってはいわば最終手段ともいえる苦渋の決断であることも多いため、なかなか判断がつかないという方も多いかと思います。また、「残された従業員のためにも会社を売却したいと考えているが、後継者候補が見つからず、どのように進めていいかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、会社の売却を検討したいという方に向けて、会社売却のメリットとデメリット、廃業や事業譲渡との違い、会社売却の流れ、会社売却による従業員への影響、会社売却後の経営者の生活、会社売却の際の注意点などについて解説します。

会社を売却する経営者が増加している理由

近年、日本では会社を売却する経営者が増えており、2017年~2019年は3年連続でM&A(合併及び株式の売却による経営権譲渡)の件数が過去最多を更新し続けています。近年、会社を売却する経営者が増加している理由について説明します。

1.後継者不在問題の深刻化

日本では近年、急速な勢いで少子高齢化が進み、その影響で経営者の高齢化と後継者不足の問題が深刻化しています。中小企業白書によると、最も多い経営者の年齢は1995年時点では47歳、2015年時点では66歳であり、20年間に経営者の世代交代がほぼ行われていないと言えることがわかります。価値観やライフスタイルの変化から、親の事業を継ぐ意思がない子供が増えたことや、必ずしも経営者が子供に事業を継がせようと思わなくなったことなどが、後継者不在問題の深刻化にさらに拍車をかけているようです。

2.政府は事業承継を推進

中小企業の後継者不在問題は、日本経済にも大きなダメージを与える可能性があります。政府は、事業承継を促進するために、税制上優遇される「事業承継税制」などの対策を講じてきましたが、後継者未定の中小企業の黒字廃業を回避する施策としては不十分という問題がありました。なぜなら、制度の整備により事業承継をいかに推進しようとしても、後継者不足という問題の根本は解決しないからです。このような点を踏まえ、政府は2019年12月に、第三者による事業承継による中小企業の黒字廃業回避を目的とした「第三者承継支援総合パッケージ」を策定したことを発表しました。「第三者承継支援総合パッケージ」において、政府は、2025年までに70歳以上となる後継者不在の中小企業の経営者のうち、黒字廃業の可能性のある約60万人の事業継承を目指すことを発表しています。

会社売却のメリットとデメリット

中小企業の経営者が会社を売却するメリットとデメリットについて説明します。

1.最大のメリットは会社の存続と従業員の雇用の維持

会社を売却することで得られる最大のメリットは、事業を存続させることができ、それに伴い従業員の雇用を維持できることです。廃業した場合、経営者がこれまで育ててきた会社が消滅すると共に、従業員は再就職先を探さなければならず、従業員の生活への影響も大きいでしょう。もっとも、経営者が会社を売却した場合、経営者が作り上げた会社は今後も新しい後継者の下で存続し、従業員は同じ会社で働き続けることができます。また、会社売却によって若くて優秀な経営者が会社を引き継いだ場合、会社の発展につながるケースもあるのです。
さらに、株式譲渡により会社を売却すると、会社の清算手続により廃業する場合と比べて経営者の手元に残る金額は多くなる可能性が高いため、経営者は引退後の生活資金を得ることができます。

2.デメリットは経営者の喪失感と従業員の労働環境の変化

会社を第三者に売却するデメリットは、経営者が会社を手放すことによる喪失感を感じる場合があることです。特に、親族や社員を後継者とした場合と比べて、第三者に売却した場合は、会社を外部の人間に手放してしまったことに対し、特に大きな喪失感を感じるかもしれません。その会社が先代から引き継いだものだった場合には、罪悪感すら感じるかもしれません。そのため、会社を手放す決断がなかなかつかずに、70歳を超えても経営者として働き続けている方もいらっしゃいます。

また、第三者が会社を継ぐことにより、経営方針や職場環境に変化が起きることで、変化についていけない従業員が出てくる可能性がある点もデメリットの一つと言えるでしょう。第三者が新しい経営者となると、現経営者の親族や従業員が後継者となる場合と比べて、経営戦略の刷新などの変革が行われる可能性が高く、従業員が変化に対応できない可能性もあります。そもそも事業承継は経営者の事情により行われるものであり、従業員の希望によるものではありません。事業承継により経営者が交代し、会社の経営方針や業務の進め方などにも変化が起きると、変化を好まない従業員は不満を募らせることもあります。

廃業との違い

廃業とは会社の事業を終了し、会社を清算し法人格を消滅させる行為です。高齢になり経営者が経営から引退することを考え、後継者候補として適切な人物が思い浮かばないという場合、廃業を選択する経営者も多いようです。
現在、日本では、人口の多い1947年~1949年生まれの団塊世代の経営者による廃業が相次ぎ、年間の廃業件数が4万件を超える状態となっています。会社の売却と廃業にはどのような違いがあるのか説明します。

1.経済面では会社の廃業と売却には大きな違いがある

経営者にとっての会社の廃業と売却は、どちらも自分が現役から引退することを意味します。要は、経営者にとっての会社の廃業と売却の違いは、経営者が引退後に会社が残るかどうかの違いです。自分が築き上げた会社を、血縁のない第三者に売却するくらいなら、自分の代で潔く廃業したいと希望される方もいるようです。
しかし、会社を廃業するためには会社法の清算手続が必要となり、費用もかかります。赤字経営が続き、債務超過だった場合には、清算手続後に負債が残ることになります。経営者個人が連帯保証人になっていた場合には、引退後も個人として負債を負うことになります。
一方、会社を売却した場合には、前述のとおり株式譲渡による売買益が得られるため、廃業を選択するよりも多くの資金を手元に残る可能性が高いです。引退後に資金を得ることにより、余裕を持ってその後の人生を生きることも可能になります。

2.従業員や取引先への影響には大きな差がある

従業員や取引先の立場から考えた場合、廃業と売却では大きな違いがあります。廃業を選択した場合、全従業員を退職させる必要があるため、従業員は職を失い、再就職先を探さなければなりません。若い従業員は再就職先を探すのにそれほど苦労しないかもしれませんが、50代以上の従業員は再就職先が見つからない可能性もあります。また、長年にわたり会社に尽くしてきた従業員は、失業による精神的なダメージを受ける場合もあるでしょう。
売却の場合、経営者は代わるものの事業は新経営者に引き継がれますので、従業員は同じ会社で勤務ができますし、基本的に取引先に迷惑をかける心配もありません。そのため、後継者に会社を売却する事業承継型M&Aは、最近、後継者候補がいない中小企業の事業承継の手段として注目されているのです。

事業譲渡との違い

会社の売却と事業譲渡にはどのような違いがあるのか説明します。

1.赤字でも実現できる可能性あり

会社自体を売却する場合、通常、株式譲渡という形で株式が譲渡対象となりますが、事業譲渡の場合は、株式ではなく会社が営む事業自体が譲渡対象となります。事業というと漠然としていますが、事業部門という単位だけではなく、企業独自の技術ノウハウ等の知的財産、権利、工場や支店、従業員、取引先など、譲渡対象は多岐に渡ります。
負債を抱えた赤字企業の場合、会社を売却することは難しいかもしれませんが、事業譲渡であれば実現する可能性は十分にあります。買い手側の企業にとって、事業譲渡は必要な事業や資産のみを選択して譲り受けることができるというメリットがあるからです。

2.手続きは煩雑

事業譲渡は、株式を譲渡する場合と比較して手続は煩雑となり、事務作業の負担は大きくなります。株式譲渡により会社を売却する場合は、従業員の雇用も引き継がれますが、事業譲渡の場合は従業員の雇用は当然には引き継がれません。従業員の雇用が譲渡会社から譲受会社へと引き継がれるには、両当事会社の合意に加え、従業員本人の同意が必要となるのです。この三者の合意または同意がない場合は、従業員の雇用の引き継ぎはありません。
また、同様に取引先との契約も当然には移転しないため、移転させるためには同じく譲渡会社、譲受会社及び取引先の三社の合意が必要です。

会社売却後の経営者の生活

会社を理想的な条件で売却して売却益を得ることに成功すれば、老後資金を確保することができます。また、廃業と違い、社員の雇用も確保できるため、経営者として使命を果たせたという安堵感も得られるでしょう。
人生の大半を仕事だけに捧げてきた経営者の中には「会社を売却したら明日から何をすればいいのかわからない」などと思う方もいるようです。しかし、健康なうちに会社を次世代の経営者に引き継ぐことができれば、気持ちを切り替えて、充実した第二の人生を楽しむことができるのではないでしょうか。最近は、引退して悠々自適の生活を送る同世代の経営者を見て、会社の売却を検討する方も増えているようです。
また、「引退するにはまだ早すぎる」「まだまだ現役で働き続けたい」という希望がある場合は、売却先で経営陣として活躍するという選択肢もあります。

会社売却による従業員への影響

日本の中小企業の経営者の中には、従業員は家族同然と考える経営者も多いようです。そのような経営者は、会社の売却を「従業員に対する裏切り行為だ」などとネガティブに考えるかもしれません。
しかし、会社売却は、従業員への裏切り行為などではなく、次世代の経営者に会社を引き継ぐ行為です。理想的な企業に売却できれば、従業員はこれまで以上に能力を発揮して活躍できる可能性があるのです。実際に会社が売却された後、「仕事は今まで以上に厳しくなったが、やりがいは感じている」「忙しくなったけど、会社が発展する可能性を感じている」などという従業員の方も多いようです。
しかし、考え方や経営方針が大きく異なる経営者に引き継がれた場合、従業員が反発を感じてモチベーションが低下する場合もありますので、買収先を選ぶ際は、経営者の経営方針などもしっかり確認することが大切です。

会社売却の流れ

会社を売却する際の基本的な流れは以下の通りです。

1.売却先の選定
2.条件の交渉と調整
3.基本合意契約の締結
4.デューディリジェンス
5.譲渡契約の締結
6.代金の受け取り
7.従業員や取引先への公表
8.M&A後の統合

会社の売却は、手続が完了して代金を受け取ればそれで終了ではありません。経営者として最後の責任を果たすためにも、従業員や取引先への公表や、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)と呼ばれるM&A後の統合作業をしっかり行うことが、できるかぎりスムーズに次の経営者へ引き継ぎを行うことに繋がります。

会社売却時の注意点

会社の売却を検討する際に最低限知っておきたい注意点について説明します。

1.信頼できる専門家に相談しながら進めること

理想的な会社の売却先を探すためには、M&Aの仲介業者に相談し、売却する側が売買価格を提示して、その価格を基準に交渉するという流れで進めることが多いです。

専門的な知識と豊富な実績を持つ仲介業者と出会うことができれば、会社にとって理想的な売却先となる相手に、好条件で売却できる可能性が高まります。会社を売却する際は、会計・税務・法務など様々な専門的見地から多角的に検討する必要がありますので、法律、会計、税務の専門知識とM&Aを成功させてきた実績を豊富に持つ業社を選ぶことが大切です。
また、会社の売却を検討する際に、取引先や金融機関に相談する経営者もいらっしゃるようですが、取引先や金融機関への相談はおすすめできません。取引先に相談した場合、「あの会社は経営が悪いに違いない」等、よからぬ噂が広まり、経営に支障を来すリスクがあります。また、金融機関に相談した場合は、新しい融資が通りづらくなる可能性もあるため、注意が必要です。

2.赤字企業の場合の注意点

資金繰りが悪化している赤字企業の場合、経営者が会社を売却したいと考えても、売却先となる企業が見つからない可能性もあります。しかし、赤字企業でも、会社の事業や資産の一部を売却する事業譲渡が実現する可能性はあります。業績が悪化していた場合でも、第三者の視点から見ると魅力的な事業や資産が存在する場合もあるのです。小規模で単一の事業しか営んでいない企業でも、事業や資産を細分化して分析することにより、事業譲渡が実現するケースもあります。「債務超過状態が続いているから、廃業しか選択肢がない」などとあきらめずに信頼できる専門家に相談してみましょう。
財務状態が悪化している場合は、できる限り早めに行動を起こすことが、会社の有利な条件での売却や事業譲渡を実現し、自社の事業と従業員を守ることにつながります。数年前までは業績はそれほど悪くなかったのに、決断を先送りして70代を過ぎてしまい、健康上の問題を抱えて慌てて会社を売却しようとした時には既に業績が悪化し、売却先が見つからないというのはよくある失敗パターンです。

まとめ

今回は、会社売却のメリットとデメリット、廃業や事業譲渡の違い、会社売却の流れ、会社売却による従業員への影響、会社売却後の経営者の生活、会社売却の際の注意点などについて解説しました。

一世一代の会社売却で後悔しないためには、経営者自身が「自分が大切に育てた企業を次世代の経営者に引き継ごう」という前向きな意識を持って積極的に検討を進めることが大切です。

我々東京スタートアップ法律事務所には、会社売却に関する豊富な知識と実績を持つ弁護士・公認会計士が在籍しています。法律だけではなく、会計や経営にも精通したプロフェッショナルとして、各企業の業種、状況、ご希望に合わせて多角的・総合的な検討やアドバイスを行っておりますので、会社売却をご検討中の方はお気軽にご相談ください。

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執筆者 弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会 登録番号57923
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。
得意分野
企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
プロフィール
青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社