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投稿日: 弁護士 宮地 政和

商標権侵害とは?知っておきたい成立要件や違反した際の罰則について

商標権侵害とは?知っておきたい成立要件や違反した際の罰則について
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商標権侵害とは

商標とは、企業が提供する商品・役務(サービス)の目印となる名称、ブランド、ロゴマーク、デザイン等の表示(識別標識)のことをいいます。

商標の具体例としては、社名や商品名を表すロゴ等の文字商標、キャラクター等の図形商標、立体商標(特定の飲料商品の容器の形・形状)のみならず、音商標(楽譜・音声データ)や色商標(コンビニエンスストアの看板の色)があります。

商標として保護されるためには、単に使用しているだけでは足りず、商標を使用する商品や役務の範囲を指定した上で、特許庁に対し商標登録の出願を行い、審査を経て、登録されることが必要です。

登録された商標には、独占的な使用権(専用権)が付与されることになります(商標法25条)。

商標権侵害とは、既に他者が登録している商標について、登録された商標の指定商品・指定役務またはそれと類似する商品・役務の範囲で、同一または類似する商標を業として使用する行為を指します。

他者の商標権を侵害した場合、商標権者から商標使用の差止や損害賠償請求を受ける可能性がありますし、刑事罰が適用される可能性もあります。

商標権侵害が成立する要件

商標が正式に登録された場合、登録に際して指定した分野の商品・役務について商標を独占的に使用する権利(独占的使用権・専用権)が認められます(商標法25条)。

さらに、登録された商標や類似商標を商標権者以外の第三者が無断で使用することを禁止することができます(禁止権。商標法37条)。

これら権利に照らして、商標権の侵害が成立するための要件としては、以下の2つが挙げられます。

  1. 商標権者の登録商標と同一または類似の商標を指定商品・指定役務と同一または類似の商品・役務に使用したこと
  2. 商標的な使用をしていること

登録商標の使用や類似する商標を使用している

上記のように、商標権には、登録された商標を独占的に使用する「専用権」と、登録された商標と類似した商標を第三者が使用することを禁止する「禁止権」とがあります。

そのため、以下の表の〇で示されるとおり、商標権の効力が及ぶ範囲(同一または類似の指定商品・役務)について、第三者が登録商標と同一または類似の商標を無断で使用した場合は、商標権の侵害となります。

商標権の効力が及ぶ範囲 指定商品または役務が
同一 類似 非類似
商標 同一 〇(専用権) 〇(禁止権)
類似 〇(禁止権) 〇(禁止権)
非類似

自社商品として商標的に使用している

裁判例上、商標権侵害となるためには、商標が単に商品に表示されているだけではなく、商標的使用がなされていることが必要であるとされています(大阪地判昭和51年2月24日等)。

商標的使用とは、自他商品識別機能を発揮するような方法で使用されていることを指し、他社の商品とは異なる自社の商品を表す商標として使用していることを意味します。

そのため、たとえば、商品上に、登録商標と同一の標章が付されていたとしても、商品や役務の内容を説明しているにすぎないような場合(東京地判平成16年6月23日)は、自他商品識別機能を有する場合ではないことから、商標権の効力が及ばないものとされます。

商標法26条1項6号も、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」、すなわち自他商品識別機能がない場合には、商標権の効力が及ばないとされています。

商標権侵害に該当した場合の罰則とは

損害賠償請求などの民事責任が発生する

登録商標と同一または類似の商標を他者が無断で使用した場合は商標権の侵害となり、商標権者は、侵害者に対して、差止請求や損害賠償請求等の民事上の責任追及をすることが可能となります。

差止請求とは、商標権者から侵害者に対し、商標権侵害の停止や将来の侵害の予防を請求することをいいます(商標法36条1項)。

差止請求に際して、侵害を組成した物(違法コピー商品等)の廃棄や侵害供用設備(違法商品の製造場等)の除却といった必要な行為も請求することができます(商標法36条2項)。

また、故意または過失によって商標権侵害が行われた場合、不法行為に基づく損害賠償請求をすることも可能です(民法709条)。

損害額の立証については特則が設定されており、単位利益×譲渡個数を損害額と推定したり(商標法38条1項)、侵害者利益額を損害額と推定したりする規定(同条2項)や、ライセンス料相当額を損害額と推定する規定(同条3項)によって、立証の困難さが緩和されています。

商標権侵害の罰則(刑事責任)

商標権侵害には刑事罰の規定があり、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方が科されることになります(商標法第78条)。

さらに、「商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為」についても、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金が科される可能性があります(商標法第78条の2)。

法人に関する罰則として、従業員等が侵害した場合には、従業員に対して上記の刑罰が科されるほかに、法人に対しても3億円以下の罰金が科される可能性があります(商標法第82条)。

商標権侵害の具体的事例

商標権侵害に関する当事務所の過去の事例としては、商標権の譲渡契約の有効性が裁判で争われた事案があります。

企業間においては取引行為の一環として商標権の譲渡に関する契約を締結する場合も多々あり、時として商標が企業の命運を左右する多大な価値を有することもあります。

譲渡当時の対価等の取り決めが曖昧であったこと等を理由に譲渡後に錯誤等を主張して紛争に発展したケースでしたが、予想外の譲渡後のトラブルを防止するためにも、譲渡当時において適式かつ疑義のない契約書を作成しておくべき事案であったといえます。

商標権侵害を受けた場合の対処法

仮に自社の商標権が他社によって侵害された場合、他社の類似商品が自社商品として需要者に誤認・混同されることで、自社が努力して維持してきた商品の品質保証が確保できなくなり、結果として自社商品のブランド価値が下がってしまう危険性があります。

自社商品のブランド価値の毀損を防ぐために、もしも他社による商標権の侵害を発見した場合には、早急に対処する必要があります。

具体的には、民事責任の追及として、侵害者に対し、商標権侵害行為の差止請求や損害賠償請求を行うことが考えられます。

まずは、商標権侵害の事実に関する証拠を確保した上で、侵害行為の是正と今後の予防および損害の賠償について書面等で警告を行うことから開始するケースが多いでしょう。

商標権侵害の予防策

商標権の侵害が発生した場合、自社の商品・役務のブランド価値の低下や売上減少等の回復困難な損害が発生することが予想されますし、また、自社が他社の商標権を侵害してしまった場合は民事・刑事の責任を追及されるリスクがありますので、商標権の侵害を事前に予防するための対策を日頃から行うことが重要といえます。

①登録商標に関する事前調査

まず、自社商品・役務について新しく商標登録を出願するにあたっては、既に出願済みの他者の商標について事前に調査を尽くす必要があります。

出願がされると、特許庁から出願情報が公開されるという出願公開の制度があり(商標法12条の2)、商標法上、出願時という早い時期に公開することで他社が同一・類似の商標を使用することを可及的に防止するための制度設計が計られています。

商標の出願や使用に際しては、出願中の商標や登録商標に関する情報を収集可能な特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)にアクセスし、他社の商標の事前調査を経た上で自社の商標の呼称やデザインを設計するようにするべきでしょう。

②自社商標の登録手続

以上のように類似商標に関する事前調査を尽くした後は、特許庁に対し自社商標登録の出願を行います。

オンラインでの出願も可能であり、願書には商標登録を受けようとする商標(商標見本)等を記載します(商標法5条1項)。

商標権の範囲は商標見本が基礎となるため、記載は慎重に行う必要があります。

また、商標出願に際しては、登録する商標をどのような商品・役務に使用するのかについて指定する必要があります(商標法5条1項3号、6条1項)。

商標権の効力は指定した商品・役務とそれに類似した商品・役務の範囲に限定され、他社による商標権侵害の範囲の境界を定めるものとなりますので、他社による類似商標の使用を予防するためにも、出来る限り早い段階で自社の商標の登録出願を行うことが重要です。

出願後は、自社のホームページ等で登録出願中である旨を表示して、他社による類似商標の使用が行われないように告知することも有益です。

東京スタートアップ法律事務所に依頼するメリット

商標権侵害に関するトラブルが発生した場合は、民事・刑事に関する法的な紛争に発展する可能性があり、法的な観点から商標権についての疑問が発生した場合は、法律の専門家に相談することが有益といえます。

また、他社が登録済みの商標について商標権者から使用許諾を得ることや、商標権自体の譲渡を受けることができれば利用可能となりますが、使用許諾や譲渡合意の有効性等について後にトラブルとなった事例も少なくありません。

そのため、商標権に関する取引の際は、適正な契約書を作成しておくべきこととなりますが、利用権の範囲や取引条件が不明確とならないように、作成に際して商標権の取扱い実績のある実務家のアドバイスやサポートを得ることが重要です。

まとめ

本記事では、商標権侵害に関する成立要件や商標権侵害が発生した場合の民事・刑事責任、侵害予防の重要性等について解説を行いました。

日々、様々な自社商品・サービスに関するビジネスを展開する企業にとって、商標は身近な問題ながらも、注意を怠るとトラブルに発展する可能性が内在する制度であるといえます。

商標権侵害については専門的な知見に基づく判断が必要となる場面も少なくありません。

商標権侵害に関する紛争の予防・解決に際しては、商標権に精通した弁護士等の専門家の助力を得ることが有益と考えられます。

弁護士は、裁判等の大きなトラブルに発展する前に解決できる可能性も含めて検討しアドバイスをさせて頂きますので、ご相談頂ければ幸いです。

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執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
弁護士登録後、都内の法律事務所に所属し、主にマレーシアやインドネシアにおける日系企業をサポート。その後、大手信販会社や金融機関に所属し、信販・クレジットカード・リース等の業務に関する法務や国内外の子会社を含む組織全体のコンプライアンス関連の業務、発電事業のプロジェクトファイナンスに関する業務を経験している。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社