企業が特定商取引法に違反しないための基礎知識
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商売をするにあたって、顧客に対して自社の商品やサービスを購入してもらうため、様々な勧誘の方法がとられます。
残念なことなのですが、悪質な方法による勧誘行為をする者も存在し、その結果、その商品・サービスを販売する会社そのものが悪質と言われることもあります。
悪質な取引については消費者保護の観点から法律による規制がされており、その法律の一つとして「特定商取引法」があります。
この法律の名前自体はあまり聞いた事がなくても「クーリングオフ」という言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか?
実は、特定商取引法に違反する行為は、契約解除などができるクーリングオフのほか、業務停止命令が出されたり、刑事罰が科されたりする可能性があります。
また法律の外でもニュースで報道されるなど、企業の経済活動に重大な影響を及ぼす可能性があるのです。
このページでは、特定商取引法について経営者や事業の責任者が知っておくべきことをお伝えします。
特定商取引法の概要
まずは、特定商取引法の概要を理解しましょう。
特定商取引法という名称は省略形で、正式な法律の名称は「特定商取引に関する法律」です。
ほかにも特商法という呼称で呼ばれることがあります。
昭和51年6月4日法律第57号として公布されたこの法律は当初は「訪問販売等に関する法律」という名称でしたが、平成12年に現在の名称に改称されています。
商取引の実体に鑑みて何度も改正を繰り返されており、平成29年6月2日に平成29年法律第45号として交付されたものが最新です。
1960年代後半から1970年代にかけて「天下一家の会」による無限連鎖講に代表されるような悪質な消費者問題が社会問題化していましたが、これを直接的に取り締まる法律は当時ありませんでした。
このような事件や社会問題を背景に、1976年に「訪問販売等に関する法律」として制定されたのがこの法律の始まりで、その後、社会の進展に伴う様々な契約形態に対応するために改正が繰り返し行われています。
この法律の目的は、特定商取引法第1条に記載されています。
特定商取引法を根拠に規制を施すことで、物品・サービスを購入する人が被害を受けることを防止するのが目的の一つです。
そして、個々の取引行為を適正にしていくことで商品やサービスの購入を円滑にし、社会全体を良くしていこう、ということがこの法律の最終的な目的です。
特定商取引法に違反するとどのような事になるのか
内容について詳しく見ていく前に、「特定商取引法に違反をするとどのような事態になるのか」を知っておきましょう。
1. クーリングオフ
クーリングオフとは、一定の期間内であれば契約の申込みの撤回をしたり、契約を解除したりすることができる制度のことをいいます。
法律に規定された言葉ではありませんが、この言葉で広く周知がされています。
2. 行政処分を受けて業務停止などを命じられ消費者庁のホームページに公表される
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/release/2018/
個々の取引が解除されるだけではなく、特定商取引法に違反する行為をすると、消費者庁による行政処分の対象となります。
行政処分としては、業務改善指示(法第58条の12)・業務停止(法58条の13)・業務禁止命令(法58条の13の2)などの処分がされることが規定されています。
また、特定商取引法に違反する行為により行政処分をする際には、消費者庁のホームページで行政処分をした旨が会社の名前とどのような行為に対して行政処分を行ったか、という事も含めて公にされます。
参考:「公表資料2019年度」(消費者庁)
3. 民事裁判の対象になる
特定商取引法に違反する行為によって損害が生じた場合には、民法の不法行為損害賠償請求(民法709条)などを根拠に民事上の争いになり、場合によっては訴訟を提起される可能性があります。
4. ニュース等で公表されてしまうような事態になり、まとめサイトやSNSなどで拡散される
特定商取引法に違反する行為は、被害が広く発生しているような場合も考えられることから、テレビやインターネットなどのメディアでニュースとして報じられるケースがあります。
そのようなニュースが報じられると、TwitterやFacebookなどといったSNSを通じて拡散され広く認知されてしまったり、まとめサイトに掲載されて半永久的にネット上に残ったりする場合もあります。
5. 刑事罰
特定商取引法には刑事罰があり、その内容は非常に重いものです。
たとえば、特定商取引法6条の訪問販売における不実の告知をするようなことがあると、行った本人には懲役3年以下の刑に処せられる可能性があるとともに、法人に3億円以下の罰金を定めています。
特定商取引法に違反する行為をしてしまった場合には、個々の取引がクーリングオフされてしまうということ以上に、場合によっては会社そのものが信用低下によって存続の危機に陥ることがある、ということを知っておきましょう。
特定商取引法で定めていることを知る
それでは、特定商取引法ではどのような内容を定めているのでしょうか。
特定商取引法では、悪質な勧誘行為が発生しやすい取引を「特定商取引」として類型化して、特定商取引にあたるものについてのルールを規定しています。
実際に特定商取引とされている行為の類型を見てみましょう。
1. 訪問販売
一つ目は「訪問販売」です。
訪問販売については法2条に定義されています。
消費者の住居にセールスマンが訪問するような行為が該当しますが、この方法だけではありません。
路上などで消費者を呼び止めて営業所に同行させる、いわゆるキャッチセールス、電話や郵便・SNSを利用して営業所に呼び出す、いわゆるアポイントメントセールスもこの「訪問販売」に含まれています。
訪問販売をする場合には、勧誘に先立って、事業者の氏名・契約目的の勧誘であること、商品の種類について事前に明示することが義務付けられています(法第3条)。
この場合において、消費者が契約を締結しない旨の意思を示したときには、そのまま勧誘を継続したりすることが禁止されています(法第3条の2)。
消費者が契約の申込みを行った場合や契約が結ばれたときには、法律に定められた事項を記載した書面を作成しなければなりません(法第4条、法第5条)。
訪問販売の際には、事実と違うことを告げたり、告げるべき事実を告げない、相手を威迫したり困惑させることが禁止されています(法第6条)。
2. 通信販売
インターネットのホームページや、テレビなどを通じた商品販売やサービスの提供のことを、通信販売と呼んでいます(法2条2項)
通信販売をする場合には、法第11条に規定する内容を表示する義務があります。
広告にあたっては事実と相違する表示など、誇大広告等が禁止されています(法第12条)。
また、あらかじめ承諾しない者に対する電子メール・ファックスによる広告を送信することを禁止しています(法第12条の3、第12条の4、第12条の5)。
通信販売をする際に、代金の全部あるいは一部を前払いする場合には、法第13条に規定する書面を渡す義務があります。
3. 電話勧誘販売
事業者が顧客に電話をかけるなどして申込みを受ける取引のことを、電話勧誘販売といいます(法第2条3項)。
電話勧誘販売をする場合には、勧誘に先立って、消費者に対して、事業者の氏名・勧誘を行う者の氏名、販売しようとする商品等の種類、契約締結に向けての勧誘である旨の明示が必要とされています(法第16条)。
電話を受けた人が契約を締結しない意思を表示した場合には、勧誘継続などを禁止しています(法第17条)
契約の申込み・契約の締結をした際には法第18条、第19条の規定に従った書面を交付しなければなりません。
先に消費者が代金の全部あるいは一部の前払いをする場合に、代金を受け取った後に商品の引渡しを遅滞なく行うことができない場合には、法第20条に規定する書面を作成しなければなりません。
訪問販売の場合と同様に、事実と違う事を告知すること、必要な事実を告知しないこと、相手を威迫することなどは禁止されています(法第21条)。
4. 連鎖販売取引
いわゆる、個人を販売員として勧誘し、その販売員に次の販売員の勧誘をさせるもので、通称「マルチ商法」といわれます。
いわゆる「ねずみ講」といわれる無限連鎖講については、無限連鎖講の防止に関する法律という別の法律で規定しているので注意しましょう。
連鎖販売業の勧誘を行う場合には、統括者・勧誘者または一般連鎖販売業者の氏名を公表し、契約締結についての勧誘をする目的であること、商品やサービスの種類を明示する必要があります(法第33条の2)。
統括者・勧誘者は、事実と違うことを告知する・重要な事実を告知しない、相手を威迫するなどの行為が禁止されています(法第34条)
広告をする場合には法第35条に規定する方法の広告をしなければなりません。
事実と異なるなどの誇大広告などは禁止されています(法第36条)。
また、一般連鎖販売に関しても、承諾していない人に対する電子メールの通知は禁止されています。
契約をする場合には法第37条に規定する「概要書面」を交付し、契約後には「契約書面」を交付します。
5. 特定継続的役務提供
特定継続的役務提供とは、長期・継続的にサービスを提供するものに対して対価を支払うもので、2019年7月15日現在は、契約金額が5万円を超えるもので、一ヶ月以上のエステ・美容、2か月以上の語学教室・家庭教師・学習塾・結婚相手紹介サービス・パソコン教室が対象とされています。
契約にあたっては法42条に定める「概要書面」の交付が必要で、契約締結後には「契約書面」を交付します。
誇大広告等や、事実と異なることを告げるなどの行為はこちらでも禁止されます(法第43条・第44条)。
前払いで5万円を超える事業者に対しては、貸借対照表・損益計算書などの書面を備え置くことが必要とされています(法第45条)。
6. 業務提供誘引販売取引
法第51条に規定されるもので、特定の商品を買ったり、サービスを利用したりすることによって、買った人も利益を受けられるといった内容で取引をするものをいいます。
特定のパソコンとソフトを購入した人には在宅ワークが割り振られる、またはあっせんがされる、というような内容が例として挙げられます。
業務提供誘引販売取引で相手を勧誘する場合には、勧誘者の氏名、契約締結について勧誘をする目的であること、商品やサービスの種類の明示を先立って行う必要があります(法第51条の2)。
こちらの類型でも、事実と異なることを告げる、重要事項について告げない、相手を威迫するなどの行為を禁止しています(法第52条)。
広告をする場合には、法第53条に規定する内容の表示が義務付けられます。
7. 訪問購入
訪問購入とは、中古品などの購入業者が、消費者の自宅など店舗以外の場所に赴いて行う物品の購入のことをいいます。
訪問購入をする際には、勧誘に先立って、事業者の氏名、契約締結目的の勧誘であること、購入しようとする物品の種類を明示しなければなりません(法58条の5)
訪問購入は、自宅等への買取の要請をした者に対してのみできるのであって、飛込みの購入は法に触れる恐れがあるので注意が必要です。(法58条の6第1項)
買取りをした際には、書面の交付が必要になります(法58条の7、法58条の8)。
特定商取引法に違反すると
特定商取引法に違反した場合の法律上の行われる措置について知っておきましょう。
これまで述べた特定商取引法上の義務のみならず、契約がクーリングオフにより解除された場合の原状回復義務の履行の拒否や、遅延をすることや、顧客の意に反する申込みをさせることなどについても細かい禁止事項があり(法第7条等)、これらに違反した場合には行政による処分を受ける可能性があります。
1. 業務改善指示
消費者庁から業務改善について指示がされます(法第7条等)。
2. 業務停止命令
消費者庁から業務停止を命じられます(法第8条等)
3. 業務禁止命令
会社の役員や業務を統括する人が指示する仕事につくのを禁じます(法第8条の2等)
4. 刑罰
犯罪として担当者や法人が処罰を受けます。
一番重いものですと個人に関しては3年以下の懲役刑又は300万円以下の罰金(法第70条、なお併科もできます)、法人に関しては3億以下の罰金刑が(法第74条)が定められています。
5. 実際の適用を見る
これらの処分や罰則は併せて行われます。
直近の例ですと、令和元年7月6日に、カニ等の海産物を販売している電話勧誘販売事業者に対して、電話勧誘販売事業において、事前に名称を正確に伝えていなかったり、契約をしない意思を告げても執拗に食い下がったり、認知症の症状がある人に契約をさせていたたりなどした行為があったとして、半年の業務の一部停止する命令、同事業について取締役と同等の影響力を及ぼしていた者2名に対する業務禁止命令、および業務改善指示が併せて出されています。
本件では刑事事件にこそなっていませんが、刑事事件として取り扱われた場合でも、業務改善指示・業務禁止命令・業務禁止命令は別途で出すことができます。
特定商取引法に違反しないために
以上、特定商取引法で規定されていることの概要をお伝えしましたが、これらの規定に違反しないためにはどのようにすれば良いでしょうか。
1. 社内にきちんと周知をする
当然ですが、会社内で従業員一人一人にきちんと法律に触れないようにする周知を徹底します。
従業員の一人一人が特定商取引法の法律すべてを頭に入れている必要まではありませんが、その事業の責任者が「自社の業務がどのような形で特定商取引法に違反するか?」ということをきちんと理解して、どのようなことをすると法律違反になるか、どのようなことをしなかったら法律違反になるのか、ということを従業員にわかりやすい形で周知をしておくことが必要です。
きちんと研修内容として取扱いをする、その内容について試験を課すなどで注意を徹底する、違反をした者に対しては始末書の提出およびフォローアップ研修を行う、といった形で違反を起こさない、違反があった場合には再発をさせないといったことが不可欠といえます。
2. 専門家に相談できるようにしつつ社内で違反しない体制をつくる
一括りに従業員といっても、会社の中には様々な立場で商品・サービスを扱う人がいて、その人たちの個々の業務内容及び特定商取引法への理解度は異なることが通常です。
個々の従業員の理解に頼り切るのは大変危険といえますので、業務にあたって特定商取引法に違反しないために必要な説明・書面の交付があったか、などをきちんと把握するためのチェックシートをつくって上長のチェックを受けるような業務フローをつくるなど、会社全体の体制として特定商取引法に違反しないようにすることが重要です。
また、特定商取引法のみならず、その他民法や消費者契約法に関する知識が必要となるケースもありますので、事業を始める前はもちろん、始めた後もいつでも法律の専門家に相談をできるようにしておくことは有益です。
法律の専門家としては弁護士がもっとも適しています。紛争の予防から紛争の解決まで一貫して担うことができるからです。特定商取引法だけでなく民法や消費者契約法といった消費者周りの法律に詳しく、企業側に立って相談に乗ってくれる弁護士を味方につけておくと良いでしょう。
企業側の弁護をすることを企業法務と言いますが、企業法務を行う弁護士は、「顧問契約」という継続的な顧問サービスを用意しています。特定の弁護士・法律事務所と顧問契約を締結しておくことで、自社の契約内容やビジネスモデルについて理解した弁護士を確保しておくことができます。
まとめ
このページでは、特定商取引法に関するおおまかな内容と、事業者は特定商取引法に関してどのような取り組みが必要なのかについてお伝えしてきました。
特定商取引法では、クーリングオフに代表される契約解除権を与えるのみならず、業務停止・禁止命令、刑事罰といった行政上・刑事上の効果があり、さらには消費者庁で処分が公開される、ニュースとして報じられSNSなどで拡散される可能性があるなど、特定商取引法違反によって企業は重大な不利益を被る可能性があります。
しかし、消費者法というものに分類される特定商取引法については、次から次へと現れる違反行為に対する対処のために、条文の構造が複雑になっており、読込みが容易ではなく、一般人が理解をするのが難しい分野です。
消費者取引に詳しく、なおかつ企業側に立ってくれる弁護士と相談し、つまらないところで足を取られないよう、コンプライアンスの体制を整えておきましょう。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設