誇大広告に関する法律の規制対象と罰則規定を解説
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新型コロナウイルス感染拡大の影響により、感染予防のための免疫力強化や除菌・消毒に対する消費者の関心が高まる中、法律に抵触するような内容が含まれた健康食品や消毒スプレー等の虚偽・誇大広告が続出し、問題視されています。
自社の売上を拡大するために、広告で自社の商品やサービスの魅力をアピールすることは企業にとって大切なことですが、広告の中に消費者が誤認するような内容や不適切な表現が含まれる場合は法律の規制対象となる可能性があり、消費者庁による監視や法規制も強化されているため、注意が必要です。2016年の改正により課徴金制度が導入された景品表示法に続き、2020年には薬機法(旧薬事法)が改正され、問題のある広告表現に関する課徴金制度が導入されました。
今回は、誇大広告に関する法律の規制対象と罰則規定、誇大広告の問題を未然に防ぐための対策などについて具体例を交えながら解説します。
誇大広告とは
誇大広告とは、それ自体は法律上の用語ではありませんが、商品やサービスの内容・価格などが、実際のものより優良または有利であると消費者に誤認させるような表現を用いる広告のことをいいます。また、法規制上認められていない効果効能や科学的根拠のない効果を謳う広告も誇大広告に該当します。
誇大広告に関する法律と規制
誇大広告に関連する法律や規制は複数存在します。主な法律として、以下の3つが挙げられます。
- 景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)
- 薬機法(正式名称:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)
- 健康増進法
それぞれの法律の概要や目的、規制対象、罰則規定などについて説明します。
景品表示法の規制対象と罰則規定
1.景品表示法の概要と目的
不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」という。)は、不当な景品表示により、一般消費者の自由で合理的な選択を妨げる可能性のある行為を制限・禁止し、一般消費者の利益を保護することを目的として定められた法律です。景品表示法上での“表示”とは、顧客を誘引するための手段として行う広告や表示のことをいいます(同法第2条第4項)。
2.景品表示法で禁止される不当表示とは
景品表示法により禁止されている不当表示は、以下の3つの種類に大別されます。
① 優良誤認表示
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質や内容が、著しく優良であるかのように誤認させるような表示や表現をいいます。
例えば、「運動や食事制限は一切なしで、簡単に3キロ痩せる」、「一週間飲み続けると誰でも身長が5センチ伸びる」など、科学的根拠もなく、商品を使用するだけで著しい効果が得られるような表現を使用した場合、優良誤認表示に該当する可能性が高いです。
② 有利誤認表示
商品やサービスの販売価格や販売条件が、実際より有利であると誤認させるような表示や表現をいいます。
例えば、期間限定のキャッシュバックキャンペーンなどで、消費者に「今すぐに買わないと損だ」と思わせておきながら、記載された期間終了後も同じ条件のキャンペーンを継続する場合などは有利誤認表示に該当します。
③内閣総理大臣が指定するもの
工作物、有価証券など、特定の商品やサービスについては、紛らわしい表示や正しい判断を困難にさせる表示を内閣総理大臣が特に指定して禁止しています。
3.適用対象となる表示や広告
景品表示法は、消費者に対して行われる商品やサービスに関する表示や広告に幅広く適用されます。具体的には以下のようなものが、適用対象となります。
- 商品の容器や包装上の表示
- 商品の見本(サンプル)
- 商品やサービスのパンフレットやポスター
- テレビで放送される商品やサービスに関するCM
- 新聞紙や雑誌などに掲載されている商品やサービスに関する広告
- インターネット上の商品やサービスに関する広告
4.規制対象となる事業者
景品表示法の規制対象は、商品やサービスを供給する事業者のみです。原則として、広告代理店、新聞社、出版社、放送局等は、商品・サービスの広告の制作等に関与していても、当該商品・サービスを供給している者でない限り、規制の対象とはなりません。
近年、インターネットの普及に伴い、アフェリエイターやアフェリエイトサービスプロバイターに商品の広告を委ねる企業が増えていますが、アフェリエイターやアフェリエイトサービスプロバイターは、アフェリエイトプログラムの対象となる商品を売る事業主ではないので、原則として、景品表示法の規制を受けることはありません。
5.景品表示法の罰則
景品表示法に違反する不当な表示等の疑いがある場合、消費者庁と都道府県は、企業への事情聴取、関連資料の収集などの調査を行います。調査の結果、違反が認められた場合は、企業に対して、違反の対象となる内容の排除、再発防止策の実施等を求める措置命令を発令します。措置命令に従わない場合は、2年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科が科せられます(同法第36条)。
また、優良・有利誤認表示が認められた場合、課徴金納付命令の対象となり、政令で定める方法により算定した売上額に3%を乗じた額を課徴金として納付することを命じられる可能性があります(同法第8条)。
調査の結果、違反の事実が認められない場合であっても、違反のおそれのある行為がみられた場合は指導の措置が採られます。
薬機法の規制対象と罰則規定
1.薬機法の概要と目的
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」という。)は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器の品質、有効性および安全性の確保を主な目的とした法律です。2014年の薬事法改正により、名称変更され、医薬品や医療機器等を取り巻く環境の変化や、再生医療の実用化に向けた動き等に対応した内容となりました。
2.規制対象となる商品
薬機法の規制対象は、本来は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の5種類です。ただし、健康食品などの薬機法の規制対象外の商品でも、広告などで医薬品のような効能を謳う商品については、規制の対象となります。
3.規制対象となる事業者
薬機法第66条には以下のように定められています。
“何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。”
「何人」も対象になるため、景品表示法とは違い、商品やサービスを供給する事業者だけではなく、広告代理店、新聞社、出版社、放送局、アフェリエイターなども対象となります。
実際、2020年7月、健康食品通販会社が、医薬品として承認されていない健康食品の広告に、肝臓疾患の予防に効果があるかのような表現を使用したとして、販売元の通販会社の社員と広告代理店2社の役職員らが、薬機法第68条(未承認医薬品等の広告)違反の疑いで逮捕される事件が発生し、注目を浴びました。
4.薬機法の罰則
第66条に定められた虚偽又は誇大広告の禁止に違反した場合、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの両方が科せられます。
さらに、2020年の改正により、対象期間における対象商品の売上の4.5%を課徴金として徴収する課徴金制度が導入されます(2021年8月1日より施行)。
健康増進法の規制対象と罰則規定
1.健康増進法の概要と目的
健康増進法は、国民の健康の増進と疾病予防の推進を目的とした法律です。2020年4月の改正では、望まない受動喫煙を減らすことを目的とし、多数の利用者がいる施設では、原則的として屋内は禁煙となりました。
健康増進法では、健康保持・増進効果に関する虚偽・誇大広告が放置された場合、これを信じた国民が適切な診療機会を逸してしまうなど、重大な支障が生じるおそれがあることから、食品として販売されている商品の虚偽・誇大広告を規制しています。
2.健康増進法で禁止される誇大表現
健康増進法第31 条では、著しく事実に相違する表示、および著しく人を誤認させるような表示を禁止しています。禁止対象となる誇大表示に該当するか否かの判断は、一般消費者が表示から受ける印象や認識が基準となります。そのため、一律の基準はなく、広告等に使用されている表現から個別具体的に判断されます。
健康増進法の禁止対象となる誇大表示の典型例として、以下のような表現が挙げられます。
①特定の疾病の改善又は予防効果を目的とする表現
例:末期がんが治る、血糖値が気になる方向け、高血圧の方に最適など
②身体組織昨日の一時的増強・増進等を目的とする表現
例:免疫力の向上、疲労回復に効く、老化防止効果ありなど
③含有する食品または成分の量(内閣府令で定める事項の例)
例:ビタミンA〇〇mg配合、大豆〇〇g含有など
含有する食品または成分の量については、虚偽の内容の場合のみ、規制対象となります。
3.規制対象となる事業者
健康増進法第 65 条第 1 項には、以下のように定められています。
“何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(以下「健康保持増進効果等」という。)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。”
薬機法と同様に「何人」も対象になるため、商品やサービスの製造・販売元の事業者だけではなく、広告代理店、新聞社、出版社、放送局、アフェリエイターなども規制対象に含まれます。
4.健康増進法の罰則
健康増進法には、国民の健康の保持増進及び国民に対する正確な情報の伝達に重大な影響を与えるおそれがある場合、その表示に関して必要な措置をとるべき旨の勧告、また勧告に従わなかった場合は命令が発令されることが定められています(同第66条)。
さらに、命令に従わなかった場合は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金という罰則が適用されます(同法第71条)。
誇大広告の問題を回避するための対策
誇大広告の問題を発生させないためには、会社として、どのような対策を講じればよいのでしょうか。具体的な対策について説明します。
1.法令順守の方針等の明確化と周知徹底
まず、誇大広告によるトラブルを回避するためには、法令順守のために商品やサービスの広告を考える際の方針を明確にし、社内での基準を示したガイドラインを作成することが大切です。誇大表示に関わる法律や規制の種類は多く、商品やサービスによって適用される法規制は異なります。ガイドラインを作成するために必要な専門知識が不足している場合は、企業法務に精通した法律の専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
2.外部に委託した広告は入念に確認する
商品やサービスの広告を外部に委託する場合は、作成された広告の内容が法律の規制に違反していないか入念に確認するようにしましょう。広告代理店などに依頼した場合、「広告の専門家に依頼したのだから、法律に違反することはないだろう」と思われるかもしれません。たしかに、大手広告代理店などでは、クライアントに損失を与えないため、広告に対する法規制に関する社内教育を徹底している企業も多いです。しかし、商品を魅力的に見せるための工夫を凝らす中で、つい法律に抵触するような表現を使用してしまう可能性もあるため、一言一句、入念に確認することが大切です。
3.問題が発生した場合の迅速かつ適切な対応
誇大広告の問題が発生した場合、企業の信用に関わる問題なので、迅速かつ適切な対応が求められます。誇大広告の問題が発生した場合に備えて、担当部署や対応に関するルールを明確に定めて関係者間で共有しておくとよいでしょう。
まとめ
今回は、誇大広告に関する法律の規制対象と罰則規定、誇大広告の問題を未然に防ぐための対策などについて具体例を交えながら解説しました。
消費者からの信用を得て、企業を健全に発展させるためには、広告に関する法規制を正しく理解して遵守することは非常に大切です。誇大広告に該当するか判断がつかないという場合は、企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。広告表現に関する相談や社内のガイドライン策定などのサポートなどにも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。