個人再生のデメリットや注意点とは?メリットや他の債務整理方法との比較も解説
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個人再生は、債務を大幅に減額できるうえに住宅ローン返済中の持ち家も残せるなど、大きなメリットのある債務整理の方法です。一方で、手続が煩雑で時間がかかる、財産の多寡が返済額に大きな影響を及ぼすなど複数のデメリットや注意点も存在します。
「自分に向いている債務整理は個人再生だと思うが、馴染みのない制度のため、どのようなデメリットがあるのかよくわからない」という方もいらっしゃるでしょう。
今回は、個人再生のメリットとデメリット、事前に知っておくべき注意点、他の債務整理方法のデメリットとの比較などについて解説します。
個人再生とは
債務整理のなかでも個人再生は大幅な債務減額が可能な手段ですが、利用には厳格な条件があります。まずは個人再生という制度の概要や利用できる人の条件などを説明します。
1.個人再生とはどのような手続か
個人再生とは、裁判所を介して、抱えている債務を一定の基準に則って減額してもらう手続です。
元本の支払いも免除されるうえ、裁判所の公的な判断によって借金の支払いが強制的に減免されるため、任意整理をしたものの依然として返済が厳しいという方にも向いている債務整理といえるでしょう。
2.個人再生の種類
個人再生には、小規模個人再生手続と給与所得者等再生手続という二つの種類があり、後者は給与所得者である会社員などを対象としています。
対象が違うだけではなく、債権者が借金の減免にどのように関わるのかという点でも違いが存在します。
給与所得者等再生では債権者が反対意見を述べても、再生計画(借金の減免や返済についての取り決め)を認めるか否かの決定に影響を及ぼしません。一方、小規模個人再生では債権者の過半数が再生計画の認可に反対した場合、借金は減額されないという特徴があります。
3.個人再生できる人の条件
個人再生を利用するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 借金の返済を続けるのが困難、支払不能状態である
- 将来に渡り、ある程度安定した収入が見込める
- 住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円を超えていない
また、給与所得者等再生を利用する場合は、上記に加えて給与などの収入に大きな変動がないことも条件となります。
4.個人再生手続での借金の減額基準
個人再生手続で減額される借金の基準は以下の通りです。
- 総債務額が100万円未満の場合は減額なし
- 総債務額が100万〜500万円以下の場合は100万円に減額
- 総債務額が500万〜1,500万円以下の場合は5分の1まで減額
- 総債務額が1,500万〜3,000万円以下の場合は300万円まで減額
- 総債務額が3,000万〜5,000万円以下の場合は10分の1まで減額
原則として、上記のように減額された借金を3年間(例外として5年)で返済します。
個人再生のメリット
借金を5分の1〜10分の1に減額できることから、債務者とって個人再生は自己破産に次いで恩恵の大きい手続と言えます。また、持ち家を残しながら借金を圧縮できるなど、複数のメリットがあります。個人再生のメリットについて、具体的に説明します。
1.持ち家を手元に残すことができる
個人再生のメリットの一つは、持ち家を残しながら借金を圧縮できることです。
住宅ローン支払い中の不動産には抵当権がついていることが多く、支払いが滞った際には抵当権が実行され、不動産の売却代金からローンの残金が回収されます。そのため、自己破産すると持ち家は競売にかけられてしまうのですが、個人再生では民事再生法第196条に定められた条件を満たせば、住宅ローンを債務整理の対象から除外することが可能です。再生計画案で決定した支払いとは別に従前どおり住宅ローンを支払う必要があるものの、マイホームを残せるという点は個人再生の大きなメリットといえるでしょう。
2.ギャンブルや浪費による債務も対象になる
自己破産とは違い、個人再生には再生計画認可を不許可とする事由の定めがなく、借金の理由も問われません。
自己破産の場合、破産法第252条1項各号には自己破産申立てをしても借金の免除が得られない事情、いわゆる免責不許可事由について定められています。代表的なものとしてギャンブルや浪費でできた借金や、特定の債権者を優先する偏頗弁済、クレジットカードの現金化などが免責不許可事由とされており、これらの事実が認められると破産手続が難航するおそれがあります。
3.職業や資格の制限がない
自己破産の場合、手続中に就いてはいけない仕事や資格があり、税理士や公認会計士などの士業の他、警備員や生命保険の営業職等も就労を制限されます。しかし、個人再生にはこのような職業の規制がなく、手続中も現在の仕事を続けられます。
個人再生のデメリット
大幅に返済が楽になる、マイホームを残せるというメリットがある反面、個人再生には弁護士などに依頼しないと手続が難しいといったデメリットも少なからずあります。
ここでは、個人再生を検討するうえで知っておきたいデメリットについて説明していきます。
1.全ての債権者を平等に扱う必要がある
個人再生では全ての債権者と債務を裁判所に報告して平等に扱う必要があり、車のローンだけ先に返済する、迷惑をかけたくないため知人への借金だけは先に返す、といった行為は許可されません。
また個人再生申立て時には全ての借入れ先と借入額、借入原因を記載した債権者一覧を裁判所に提出します。
提出された一覧をもと裁判所や弁護士から債権者に通知が発送されるので、勤務先や親戚などから借金をしていた場合には、個人再生することが知られてしまいます。
2.信用情報機関に事故情報が登録される
個人再生の申立てが裁判所に受理され、手続開始が決まると信用情報機関に事故情報が登録されます。これにより、個人再生の申立て後は、俗に言う「ブラックリスト」に載っている状態になり、金融機関からお金を借りる、クレジットカードを作るという行為が難しくなります。
個人再生続きにより事故情報が登録される期間は以下のとおりです。
- 日本信用情報機構(JICC):5年
- シーアイシー(CIC):5年
- KSC(全国銀行個人信用情報センター):10年
目安ではありますが、概ね個人再生手続の開始から上記の期間を過ぎれば、事故情報は抹消されます。
なお、個人再生などの債務整理を行った後は、所持しているクレジットカードを使い続けることも困難になります。そのため、家賃、光熱費、電話料金などをカード払いにしている場合は個人再生の申立て前に支払い方法を変更することをおすすめします。
3.官報に掲載される
個人再生の手続をすると、手続の開始決定時、再生計画案の提出時、再生計画案の認可(不認可)決定時のタイミングで、申立人の氏名や住所が官報に掲載されます。官報とは、国が国民に知らせるべき事項が掲載された広報紙のようなものです。
「個人再生手続をしたことが公告されると周囲に白い目で見られてしまうのでは」などと心配される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一般の方が官報を目にする機会は決して多くないため、偶然知人が該当の情報が掲載された日の官報を読んで、個人再生をしたことが知られてしまうという可能性は極めて低いと考えられます。
したがって、官報が原因で周囲に個人再生をしたことが知られることはまずありませんが、債務整理した人の情報を欲している闇金業者などは官報をチェックしていることが多いため、闇金業者からダイレクトメール等が届く可能性はあります。不審な手紙が届いても、決して問い合わせなどはせずに破棄してください。
4.借金の返済義務が残る
個人再生により大幅に支払額は減りますが、借金返済義務は残ります。個人再生を選択する方は多額の債務を抱えているケースが多い傾向にあり、自己破産と個人再生のどちらが自分に適しているか悩む方もいらっしゃることでしょう。
個人再生には、資格制限がない、免責不許可事由がない、持ち家を残せるという自己破産にはないメリットがあります。これらのメリットを重視する方は、まず個人再生を検討するとよいでしょう。反対に、上記の点がネックにならないという方は、借金の支払いが免除される自己破産を選択した方が今後の生活を建て直しやすくなります。
ご自身の置かれている環境や状況を整理して、どの債務整理方法を選ぶか慎重に検討することが大切です。
5.原則的に弁護士への依頼が必須
個人再生は裁判所を介して行うだけではなく、申立人が主体となって進めなければならない制度です。自己破産に比べて用意する書類も多く、裁判所に追加書類の提出などを求められた際にも即座に対応する必要があります。
そのため、弁護士などの法律の専門家を頼らずに個人再生手続を進めることは困難であり、仙台地方裁判所の公式サイトにも、「安易な手続ではないため、弁護士に依頼することを推奨する」という趣旨の記載があるほどです。
したがって、個人再生検討時には、弁護士に支払う報酬についても考える必要があるでしょう。
なお、個人再生では裁判所が再生計画案を確認する「個人再生委員」を選任するため、弁護士に依頼せず手続した場合でも個人再生委員に支払う報酬が発生します。この報酬は裁判所によって異なり、概ね15〜30万円となっています。弁護士が個人再生手続をした際、裁判所によっては個人再生委員に支払う報酬が減額される、あるいは個人再生委員が選任されないこともあるため、必ずしも弁護士に依頼した方が個人再生にかかる費用の総額が高額になるとは限りません。
手続にかかる費用について不安がある場合は、管轄の裁判所では個人再生委員にいくら支払うのか、弁護士に依頼すると減免される費用はあるのか等を債務整理に精通した法律事務所に相談することをおすすめします。
6.住宅ローンを除く返済中のローンに影響が出ることもある
個人再生では住宅ローン返済中の不動産を残すことが可能だと前述しましたが、オートローン(車のローン)など、その他のローンを組んでいる場合には注意が必要です。大抵の場合、オートローンの契約書には購入代金の返済が滞った時には車を引き揚げて処分し、代金から未納分を徴収するという旨の文言があります。これを所有権留保特約といい、ローン返済中かつ所有権留保特約のある車は個人再生手続時に引き揚げられてしまうのです。
ご自身の車が引き揚げられてしまうかどうかはオートローンの契約書と車検証を確認すれば判断が可能です。契約書に所有権留保特約の記載があり、車検証の名義がローンを組んだ会社になっている場合には引き揚げの可能性があります。
しかし、個人再生手続時の車の価値や契約書の条項よっては愛車を手元に残せるケースもありますので、心配な方はローンの契約書や車検証を用意して弁護士に相談するとよいでしょう。
7.保証人に迷惑がかかるおそれがある
民事再生法第177条に則って、保証人のある債務を個人再生の対象にした場合には、再生計画で減額された借金を代わりに保証人が支払うこととなります。例えば、500万円の借金が個人再生により100万円まで減額された場合、400万円を保証人が支払うこととなり、原則として保証人には一括で請求がいきます。
民法第454条に定められている通り、連帯保証人は主債務者本人と同じ返済義務を負うため、連帯保証人には特に多大な迷惑をかけることになります。そのため、保証人がいて個人再生を考えている場合には、あらかじめ保証人に債務整理を考えていることを伝える必要があります。
もし可能なら、一緒に法律事務所に相談に行き、保証人の方も債務整理を行うなど、主債務者と保証人の双方にとって負担が少ない方法についてアドバイスを受けることをおすすめします。
事前に知っておくべき注意点
前述のデメリット以外にも、個人再生では手続前に知っておきたい注意点があります。具体的な注意点について説明します。
1.一般優先債権は減額されない
民事再生法第122条には、個人再生手続を行っても減免されない債務について定められており、これを一般優先債権といいます。一般優先債権の代表的なものには、税金、罰金、個人再生にかかる費用、従業員に支払う給料などがあり、個人再生をしてもこれらの支払い義務は残ります。
また、光熱費や自営業者、個人事業主の営業経費など生活を営むための必要不可欠な債務も共益債権と呼ばれ、個人再生で減免されません。
2.財産がある場合は返済金額が高額になる
個人再生には、自分の名義の財産を全て処分して得られる以上の金額を返済に充てないといけない「清算価値保障原則」と呼ばれる原則があります。不動産や車はもちろんのこと、生命保険の解約返戻金などの財産がある場合には、その総額と前述した個人再生の減額基準額を比べて、より額が大きい方を36〜60回に分割して支払うのです。
例えば、総債務額が300万円の場合、個人再生の減額基準に則って返済額を計算すると返済額は100万円に減額されます。しかし、債務者が200万円の価値がある車を所持していた場合には、返済額は100万円ではなく200万円となるのです。自己破産では自己名義の財産を処分して返済に充てる義務があるため、制度間の公平性を保つ目的で、このようなルールが設けられています。
3.不動産に住宅ローン以外の担保がついている場合は注意
前述の通り、個人再生をしても民事再生法第196条以下に定められた住宅資金特別条項を用いれば、住宅ローン支払い中のマイホームは抵当権を実行されずに済みます。しかし、住宅ローン以外に自宅を担保とした借金がある場合には注意が必要です。自宅に住宅ローン以外を理由とした抵当権がついている場合、原則として住宅資金特別条項の対象外となり、競売にかけられた後に売却代金は返済に充てられてしまいます。これは、他に抵当権がついていた場合、いずれにしろ不動産は売却されてしまうためです。しかし、リフォームを行う時などにも自宅を担保にするため、一概に住宅ローン以外は住宅資金特別条項の対象外、と決めるのは公平性に欠ける面もあります。住居を維持するため自宅を担保に借入を行った等、事情によっては住宅資金特別条項の対象と認められる可能性もあるため、気になる方は弁護士に相談してみましょう。
4. アンダーローンの場合は要注意
清算価値保障原則に従って、自宅を所持しているケースでは個人再生手続時の自宅の価値を換算して返済額に組み込むこととなります。住宅ローン返済中の不動産については、不動産の価値よりローン返済額が高いオーバーローンの状態にあれば、不動産に清算価値は無いとみなされるため個人再生の再生計画案に影響は及ぼしません。
しかし、不動産の価値のほうがローン返済額よりも高額となるアンダーローンの場合には、不動産の価値とローン残額の差が財産として返済額に組み込まれてしまうのです。そのため、個人再生手続前に自宅の評価額を確認しておくことをおすすめします。特に、交通の利便性が高い場所などの場合は、思っていたよりも評価額が高い可能性があるので、注意が必要です。
5.退職金も財産とみなされる
個人再生では、不動産や車だけではなく、退職金も清算価値の算定に組み込まれます。既に受け取っている退職金はもちろん、将来受け取る予定のある退職金も対象となります。
算定方法は裁判所によって異なりますが、一般的に、近い未来に退職の予定があれば退職金見込み額の4分の1、または8分の1が清算価値とみなされます。
6.履行テストがある場合は要注意
東京地方裁判所など一部の裁判所では、個人再生の申立てをした後、履行テスト(履行可能性テスト)が行われます。履行テストは、返済のリハーサルのようなもので、裁判所に納める予納金を分割し、毎月指定された額を決められた期日までに納付することが求められます。履行テストの目的は、個人再生の申立人が債権者への返済を確実に行うことができるか確認することです。
決められた期日までに納付されない場合、個人再生手続の開始が認められないおそれがあるので、必ず決められた期日を守るようにしましょう。
7. 実現可能な再生計画案が必要
個人再生が認められた後は、再生計画案に従って、減額された債務を3年間(例外として5年)で返済することになります。
返済は、確実に再生計画案通りに行う必要があります。万一、再生計画案通りに返済ができなくなった場合、債権者からの訴えで再生計画が取り下げられるおそれがあるためです。
やむを得ない事情が認められる場合や4分の3以上の返済が済んでいた場合には救済措置もありますが、認可を取り消されないためにも再生計画案は実現可能なものを提出することが大切です。
他の債務整理方法のデメリットとの比較
個人再生の他にも、自己破産、任意整理、特定調停という債務整理の方法があり、それぞれに特徴やデメリットが存在します。それぞれの特徴やデメリットについて説明します。
1.自己破産のデメリットとの比較
自己破産は、個人再生や他の債務整理方法とは違い、借金の全額免除という大きな恩恵を得られる方法です。ただし、以下のようなデメリットもあります。
- 生活に必要なものを除き、原則として資産を残せない
- 信用情報機関に事故情報が登録される
- 手続中に就労を禁じられる職業や資格の制限がある
- 官報に個人情報が掲載される
- 管財事件では郵便物が管財人に転送されてしまう
- 全ての債権者を平等に扱う必要がある
- ギャンブルや浪費でできた借金は免除されないおそれがある
- 保証人や担保のついた債務は保証人への請求や担保実行のリスクがある
2.任意整理のデメリットとの比較
任意整理は、個人再生と違い、裁判所を介さない債務整理の方法です。対象とする債務を選択できる、周囲に知られる可能性も極めて低いなどのメリットがあるため、まずは任意整理を検討するという方も多いです。ただし、以下のようなデメリットもあります。
- 利息や遅延損害金のみが減額されるため、あまり返済額が減らないケースもある
- 信用情報機関に事故情報が登録される
- 個人で任意整理を行った場合、債権者から裁判を起こされるおそれがある
- 保証人や担保のついた債務については、担保の実行や保証人への請求のリスクがある
3. 特定調停とのデメリットとの比較
特定調停は調停委員を介して債権者と交渉を行うことで、利息免除などの交渉を行う手続です。
調停委員が間に入ってくれるため、弁護士や司法書士に依頼しなくとも手続が可能ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 信用情報機関に事故情報が登録される
- 調停調書に従って返済できなかった場合、給与などが差し押さえられるおそれがある
- 債務者本人が裁判所に出頭する必要がある
特定調停は任意整理と似ている点も多いですが、遅延損害金は減額できない、過払い金返還請求はできないという点で任意整理と異なります。
まとめ
今回は、個人再生のメリットとデメリット、事前に知っておくべき注意点、他の債務整理方法のデメリットとの比較などについて解説しました。
個人再生は、裁判所が法律の専門家への依頼を推奨するほど複雑な手続を要するうえ、比較的高額な費用が必要となる制度です。住宅ローンを支払い中の自宅を手放したくない等の特段の事情がない場合、自己破産を選択した方が、負担が少なくて済むケースも多いです。どの債務方法が自分に適しているのかわからない場合は、債務整理に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。
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- ガバナンス関連、各種業法対応、社内セミナーなど企業法務
- プロフィール
- 埼玉県出身 明治大学法学部 卒業 早稲田大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所