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更新日: 投稿日: 弁護士 宮地 政和

二重価格表示とは|典型的な事例、8週間ルールも解説

二重価格表示とは|典型的な事例、8週間ルールも解説
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「二重価格が違法とされるのは具体的にどのような場合なのか知りたい」
「二重価格表示をする際、8週間ルールと呼ばれるルールに注意が必要だと聞いたが、どのようなルールなのか理解したい」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、有利誤認表示と二重価格表示の定義、違法な二重価格表示に該当する典型的な事例、8週間ルールと呼ばれるルールの内容、違法な二重価格表示に対する罰則 違反を回避するための対策などについて解説します。

二重価格表示に関する基礎知識

二重価格表示は、不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」という。)で禁止されている有利誤認表示に関する規制ですが、有利誤認表示とは具体的にどのような表示のことをいうのでしょうか。まずは、有利誤認表示と二重価格表示の定義など、基本的な内容について説明します。

1.有利誤認表示とは

景品表示法では、一般消費者保護の観点から、消費者による自主的な選択を阻害するような不当な表示を禁止しています。
有利誤認表示は景品表示法で禁止されている不当表示の一つで、商品やサービスの販売価格等の取引条件について、実際よりも著しく有利であると一般消費者に誤認される表示のことをいいます。
有利誤認表示の対象となる表示には、チラシやポスター等の広告などの他、ラジオCMやセールストークなどの口頭による広告も含まれます。

2.二重価格表示とは

二重価格表示とは、販売価格と、それよりも高額な他の価格(比較対照価格)が併記されていることをいいます。
期間限定のお得なセール等を実施する際、商品のチラシや広告などで、販売価格の安さやお得感をアピールするために、販売価格と比較対照価格を併記することは少なくありません。
二重価格表示自体が違法というわけではなく、比較対照価格の内容が適正な場合は法律上の問題はありません。しかし、販売価格で購入することが著しく有利であると一般消費者に誤認されるような二重価格表示は、景品表示法で禁止されている有利誤認表示に該当し、違法となるおそれがあります。

違法な二重価格表示に該当する典型的な事例

販売価格で購入することが著しく有利であると一般消費者に誤認されるような二重価格表示とは、具体的にどのような表示のことを指すのでしょうか。
消費者庁が公開している「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン:2016年4月1日改訂版)を元に、典型的な事例をいくつかご紹介します。

1.過去の販売価格を比較対照価格とするケース

①有利誤認表示に該当するケース

自社が販売する同一商品の過去の販売価格を比較対照価格として記載する場合、過去の販売価格の内容について正確に表示しない限り、有利誤認表示に該当するおそれがあります。

過去の販売価格の内容というのは、具体的には、いつから、どの程度の期間、販売されていた価格であるかということです。例えば、「通常販売価格:51,000円、セール期間中価格:39, 900円」とのみ記載されている場合、通常販売価格で販売されていた期間が不明です。
「通常販売価格」「当店通常価格」などとして記載された比較対照価格が、以下のような場合は、有利誤認表示に該当するおそれがあるとされています。

  • 比較対照価格での販売実績がない場合
  • 最近相当期間にわたり販売された価格ではない場合

②8週間ルールとは

「最近相当期間にわたり販売された価格」であるか否かは、以下のような事情を考慮し、個々の事案ごとに検討されます。

  • 当該価格で販売されていた時期及び期間
  • 対象となっている商品の一般的価格変動の状況
  • 当該店舗における販売形態

一般的には、セール開始時期から遡る8週間のうち過半の期間(商品が発売されてから8週間未満の場合は商品販売からの期間)、比較対照価格で販売されていた実績が必要とされており、「8週間ルール」と呼ばれています

例えば、「通常販売価格」として記載されている価格で販売されたのがセール開始時期から遡る8週間のうち最初の3週間のみで、その後5週間は「セール期間中価格」と記載されている安価な価格で販売されていた場合、有利誤認表示に該当するおそれがあります。
また、8週間ルールに違反していない場合でも、以下のような場合は、「最近相当期間にわたり販売された価格」とはいえません。

  • 比較対照価格で販売されていた期間が通算で2週間未満の場合
  • 比較対照価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合

2.将来の販売価格を比較対照価格とするケース

将来の販売価格を比較対照価格とする場合としては、具体的には、「お試し価格」や「発売特価」等と称して、「来月から〇〇円に値上げします」「来週以降は〇〇円」などという表示を行う場合が挙げられます。
このケースでは、以下のような場合は、有利誤認表示に該当するおそれがあります。

  • セール期間後、将来の価格として表示した価格で販売する予定がない場合
  • ごく短期間しか将来の価格として表示した価格で販売する予定がない場合

例えば、「発売記念特価:3,990円、9月1日以降:5,200円」という二重価格を表示していたが、9月1日以降も5,200円ではなく3,990円で販売する予定だった場合は、有利誤認表示に該当するおそれがあります。

3.希望小売価格を比較対照価格とするケース

メーカー希望小売価格を比較対照価格とする場合、製造業者により設定され、あらかじめカタログなどで公表された価格でなければ、有利誤認表示に該当するおそれがあります。
なお、希望小売価格とは、製造業者が「小売業者に対してこの価格で売ってほしい」という希望や目安を示したものです。

4.競争事業者の販売価格を比較対照価格とするケース

競争事業者(競合他社)の販売価格を比較対照価格とする際、以下のような場合は、有利誤認表示に該当するおそれがあります。

  • 商圏が異なり消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を比較対照価格に用いる場合
  • 最近の販売価格とはいえない価格を表示する場合

違法な二重価格表示に対する罰則

二重価格表示が有利誤認表示とみなされると、消費者庁の措置命令や課徴金納付命令の対象となる他、その旨を消費者庁に公表されるおそれがあります。以下では、措置命令や課徴金納付命令などの具体的な内容について説明します。

1.措置命令

二重価格表示が有利誤認表示とみなされた場合、消費者庁は、公正取引委員会・都道府県と連携して、事業者への事情聴取等の調査を実施します。
調査の結果、違反行為が認められると、消費者庁は事業者に弁明の機会を付与した上で、事業者に対して主に以下のような措置を講じることを命じる措置命令を発令します。

  • 景品表示法違反の表示を行ったことを一般消費者に周知徹底すること
  • 再発防止策を講ずること
  • その違反行為を将来繰り返さないこと

2.課徴金納付命令

二重価格表示が景品表示法で禁止されている有利誤認表示に該当すると判断された場合、措置命令とともに課徴金納付命令が発令される可能性があります。課徴金の額は、有利誤認表示により得た商品やサービスの売上額に3%を乗じることにより算出され、最長で3年分の売上額が対象となるため、高額になる場合も少なくありません。
ただし、以下のような場合は、課徴金納付を命じられません。

  • 事業者が表示の根拠となる情報を確認する等、正常な商慣習に照らして必要とされる注意をしていたため「相当の注意を怠った者でない」と認められる場合
  • 算出した課徴金額が150万円未満である場合(課徴金対象行為をした商品・サービスの売上額が5000万円未満である場合)

また、以下のような場合は減額の対象となります。

  • 課徴金対象行為に該当する事実を消費者庁長官に自主申告した場合(所定の要件を満たす場合は、課徴金額の2分の1が減額)
  • 返金措置の実施に関する計画を作成して消費者庁長官の認定を受ける等、所定の手続に従って消費者に対して返金措置を行った場合

違反を回避するための対策

二重価格を適正に行うためには、景品表示法が禁止する有利誤認表示について正しく理解した上で、比較対照価格の根拠となる情報をしっかり確認する必要があります。
特に、過去の販売価格を「通常価格」などとして併記する場合、「最近相当期間にわたり販売された価格」であるか否かが問題となるケースが多いので、前述した8週間ルールに違反しないか事前に確認し、違反しないことが確認できた場合は社内資料として関係者全員が参照できる形で保管しておくことが大切です。
法令違反を確実に回避するためには、社内に製品の表示に関する管理責任者を置き、セール実施時などに二重価格表示を行う際、事前に比較対照価格の内容と根拠となる資料を照合して有利誤認表示に該当しないか確認できる体制を構築することが望ましいでしょう。

まとめ

今回は、有利誤認表示と二重価格表示の定義、違法な二重価格表示に該当する典型的な事例、8週間ルールと呼ばれるルールの内容、違法な二重価格表示に対する罰則 違反を回避するための対策などについて解説しました。

景品表示法違反となる二重価格表示を回避するためには、自社が販売する商品に関する表示が有利誤認表示だと疑われることのないよう、社内全体でリスク管理体制を構築することが大切です。社内でリスク管理体制を構築する際の進め方などがわからない場合は、企業法務に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。景品表示法をはじめとした広告に関する法令違反を回避するための社内の体制構築やガイドライン策定などのサポートなどにも積極的に対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
弁護士登録後、都内の法律事務所に所属し、主にマレーシアやインドネシアにおける日系企業をサポート。その後、大手信販会社や金融機関に所属し、信販・クレジットカード・リース等の業務に関する法務や国内外の子会社を含む組織全体のコンプライアンス関連の業務、発電事業のプロジェクトファイナンスに関する業務を経験している。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社