ジョイントベンチャー契約書に記載すべき事項と注意点
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ジョイントベンチャー契約は、複数の企業が共同で事業を行う際に用いられる契約です。一般の方にとってはあまり馴染みがないかもしれませんが、ジョイントベンチャー契約は、他社の技術やノウハウなどの経営資源を利用することで事業シナジーを生み出し、短期間かつ低リスクで事業を行うことができるなど多くのメリットがあります。
今回は、ジョイントベンチャー契約の概要や種類などの基礎知識、メリットとデメリット、契約書に記載すべき項目、契約を締結する際に注意すべきポイント等について解説します。
ジョイントベンチャー契約の基礎知識
1.ジョイントベンチャー契約とは
ジョイントベンチャー(Joint Venture)とは、複数の企業が共同事業を行うために共同出資を行い、一つの事業体を作ることをいいます。ジョイントベンチャーとは、狭義には、複数の企業が一つの独立した法人を設立するということをいい、広義には、資本関係のない業務提携なども含みます。
ジョイントベンチャーの出資者間で取り交わされるのがジョイントベンチャー契約です。「JV契約」あるいは「合弁契約」と呼ばれることもあります。
ジョイントベンチャー契約はもともと建築業において用いられていた契約形態のようです。建築工事には高層ビル、ダム、橋、トンネルなど様々な領域があり、各建築業者はそれぞれ得意分野と不得意分野を有しています。大規模で複合的な工事の場合、資本力、技術力、労働力などの面から一企業では請け負うことが困難なため、複数の企業が共同で請け負って施行を行っていました。現在では建築業に限らず、幅広い業種でジョイントベンチャー契約が活用されています。
2.ジョイントベンチャー契約の種類
ジョイントベンチャー契約には、法人型ジョイントベンチャー、非法人型ジョイントベンチャーという2つの種類があります。それぞれの種類について説明します。
①法人型ジョイントベンチャー
法人型ジョイントベンチャーは、ジョイントベンチャーに参加する当事者が新たに株式会社や合同会社を設立し、当事者がそれぞれ株主や出資者となる方法です。新たに設立する会社を「合弁会社」あるいは「ジョイントベンチャー会社」といいます。この場合、合弁会社自身がジョイントベンチャーに関わる資産を所有し、合弁会社の経営者が事業の運営を行います。ジョイントベンチャーの権利義務は合弁会社に帰属しますので、株主や出資者には合弁会社が負った債務について、原則として責任を負うことはありません。この点が法人型ジョイントベンチャーの一番のメリットと言えます。
②非法人型ジョイントベンチャー
非法人型ジョイントベンチャーは、法人型ジョイントベンチャーのように新たに法人を設立することはせず、LLP(有限責任事業組合)の形で、ジョイントベンチャーに出資する企業が組合員として事業を遂行する方法が一般的です。非法人型ジョイントベンチャーの場合、ジョイントベンチャーの権利義務は組合員たる出資企業に直接帰属します。したがって、出資企業はジョイントベンチャーに関する債務について無制限に責任を負い、債権者から直接請求を受けることになります。
また、後述するビックロのように、資本関係を持たずに単に同一事業を行う業務提携も、非法人型ジョイントベンチャーに含まれることになります。
3. ジョイントベンチャー契約とM&Aの違い
ジョイントベンチャー契約と同様に、他社との事業シナジーを狙うスキームとして、M&Aがあります。
M&A(Merger and Acquisition)とは、ある会社が他社を買収することや、会社間で合併をすることをいいます。合併の場合は、吸収された会社は消滅します。M&Aは複数の企業の協力関係というよりは、一方の企業の主導により進められます。M&Aが完了した後は、買収した側の企業又は存続する企業が、買収された側の企業又は消滅した企業の営んでいた事業を継続していくことになります。
ジョイントベンチャー契約は、M&Aとは違い、双方の企業が存続しつつ、お互いの協力関係のもとで事業が遂行されます。ただし、永続的に共同の事業が運営されるわけではなく、あくまで期間を限定して合弁することが一般的です。
ジョイントベンチャー契約の具体的事例
ジョイントベンチャー契約が活用された有名な事例を2つご紹介します。
1.ビックロ
近年注目されたジョイントベンチャーの一つがビックロです。
ビックロは大手家電量販店のビックカメラと、大手アパレルメーカーのユニクロによるジョイントベンチャーで、新宿駅東口に共同出店による商業施設が建てられました。地下4階、地上8階建の建物のうち、地下1階から3階と地上4階から6階にはビックカメラ、地上2階と3階にはユニクロの店舗が入り、1階は両社の共同運営となっています。ビックカメラとユニクロには資本関係はなく、両者の共同出店による商業施設の設立という方法でビックロは出店されました。
家電を販売するビックカメラと衣服を販売するユニクロでは、販売する商品は大きく異なります。しかし、ターゲットとする購買層は近く、また「良いものを安く提供する」という経営理念も共通しています。さらに、新宿の一等地に店舗を出店するためには莫大な費用が必要となりますが、共同で出店することにより費用を大幅に削減できることから、ジョイントベンチャーに踏み切ったものとみられています。
2.TSTエンタテイメント
東急レクリエーション、ソニー・ミュージックエンタテインメント、東急電鉄の3社は、2018年、ジョイントベンチャー契約により株式会社TSTエンタテイメントを設立しました。
同社は、東急レクリエーションと東急電鉄の2社が、「新宿TOKYU MILANO」の跡地に複合エンタテイメント施設を開業し運営することを目的に設立されました。109シネマズなどのエンタテイメント施設の運営に関するノウハウを有する東急レクリエーション、エンタテイメントのコンテンツ開発と提供のノウハウを有するソニー・ミュージックエンタテインメント、及び街づくりやエリアマネジメントのノウハウを持つ東急電鉄がそれぞれの強みを持ち寄ることが、このジョイントベンチャー契約の目的だと考えられています。
ジョイントベンチャー契約を締結するメリット
1.他社の経営資源を活用できる
ジョイントベンチャー契約の最大のメリットは、他社が有する技術力、労働力、ブランド、知的財産権などの経営資源を活用できる点です。新事業を遂行するために必要な経営資源を自社で確保するためには長い時間と費用がかかるので、新事業を行おうとしても準備をしている間に時流を逃してしまう可能性があります。ジョイントベンチャー契約を活用することにより、他社のリソースを活用し、短期間で新事業に着手して結果を出すことが可能になります。
2. リスク・コスト面
もう一つのメリットは、リスク・コスト面での利点です。ジョイントベンチャー契約では複数の企業が合同で出資することによって事業が遂行されます。
例えば、全体で1億円の出資が必要となる事業であれば、A社が6000万円を出資し、B社が残りの4000万円を出資するという形をとることができます。事業がうまくいかずに撤退を余儀なくされた場合でも、自社のみで事業を行っていた場合には1億円の出資金を失うこととなってしまいますが、上記のようなジョイントベンチャー契約では、損害を分担することができるので、リスクを抑えることが可能です。
ジョイントベンチャー契約を締結するデメリット
1. 収益を配分する必要がある
ジョイントベンチャー契約にはデメリットもあります。
デメリットの一つ目は、事業が成功して収益を上げることができたとしても、事業を合同で行った企業と配分する必要がある点です。とはえ、この点は事業開始時のコストと事業が不調に終わった場合のリスクを分担できることの裏返しと言えます。
2. 負担が偏る可能性がある
二つ目のデメリットは、共同で行う企業間において、負担が偏る可能性がある点です。例えば、出資比率が自社と相手方企業がそれぞれ50%だったとしても、実際に事業を遂行する際の負担が自社60%、相手方40%だったとしたら、自社にとって割の合わない事業となってしまいます。そのような事態を回避するためには、ジョイントベンチャー契約を締結する際、負担の比率が出資比率と相応するように十分に精査を行うべきです。
3. 技術やノウハウが流出する危険性
三つ目のデメリットは、自社独自の技術やノウハウが流出する危険性があることです。ジョイントベンチャー契約を締結する相手方企業は、競合とはいわずとも、自社と何らかの関連性を有する事業を行っているケースが多いです。したがって、自社の技術やノウハウが流出することにより自社の独自性が失われてしまうおそれがあります。
4.出資比率の低い企業が経営の主導権を握れない
四つ目のデメリットとしては、出資比率の低い企業がジョイントベンチャーの経営の主導権を握れない可能性があることです。ジョイントベンチャーを株式会社の形態で設立する場合には、当該会社の意思決定は、原則として株式総会や取締役会の多数決で行われます。したがって、出資比率の低い企業は、ジョイントベンチャーの経営に関わる重要な事項の決議について、株主総会で議決権の過半数を確保できていないことから、自社の意向が通らない可能性があります。また、ジョイントベンチャーの取締役の選任についても株主総会の決議で決定されるため、出資比率の低い企業にとっては、自社が送りこみたい者を取締役に選任させることができない、という可能性もあります。
もっとも、ジョイントベンチャー契約においては、出資比率の少ない企業も一定数の取締役を送り込める条項や、株主総会での重要な決議事項については否決できる条項を定めることにより、負担しているリスクに応じた経営権を行使できることになります。
したがって、ジョイントベンチャー契約は、出資比率の高い企業はもちろんですが、出資比率の低い企業にとっては、自社が負担しているリスクに伴う経営権を取得するためには、より重要であるということができます。
ジョイントベンチャー契約書に記載すべき内容
ジョイントベンチャー契約書には、どのような項目が必要なのでしょうか。ジョイントベンチャー契約書に必要な主な項目について説明します。
1.目的
当事者が何のためにジョイントベンチャー契約を締結するのか、その目的について明確に記載します。多くの場合、特定の事業の立ち上げと運営が目的となります。
2.組織形態、機関設計、会社名、役員構成
どのような組織で事業を遂行するのか記載します。法人型ジョイントベンチャーの場合は、会社形態と会社名を決定して記載する必要があります。
3.意思決定方法
事業を遂行するにあたり意思決定が必要となった場合、どのような方法で意思決定を行うのか記載します。法人型ジョイントベンチャーの場合は株主総会や取締役会、非法人型ジョイントベンチャーの場合は多数決などが考えられますが、当事者のどちらが強い意思決定権を持つかが問題となります。
4.事業運営
事業を運営するにあたって必要な事項を決定します。具体的には、事業計画、資金調達、剰余金の配当などです。
5.契約期間
前述した通り、ジョイントベンチャー契約は永続的なものではなく一定の期間に限られることが多いです。そのため、このような場合は契約期間をあらかじめ定めておく必要があります。期間延長の可能性がある場合、どのような場合に契約期間が延長できるかについても定めておくとよいでしょう。
6.契約解除
当事者がどのような場合にジョイントベンチャー契約を解除することができるか規定します。ジョイントベンチャーは当事者が協力し合い事業を遂行するものなので、お互いの信頼関係が前提となります。しかし、文化が異なる複数の企業が共同で事業を行う中で、信頼関係を維持することが難しくなるケースは珍しいことではありません。そのような場合にどのような手続でジョイントベンチャーを終了させるか、事前に取り決めを行っておくことが大切です。
ジョイントベンチャー契約の注意点
1.意思決定権限
ジョイントベンチャー契約を締結する際にまず検討すべきことは、当事者双方の出資比率です。法人型ジョイントベンチャーの場合には、どのような比率で出資するかという問題になります。出資比率が高い会社が、事業の遂行についてより強い決定権を有します。
出資比率が50:50の場合には、お互いの意見が対立した際に意思決定ができず、膠着状態(デッドロック)に陥ってしまうおそれがあるため注意が必要です。
自社の出資比率が過半数に及ばない場合には、相手方が主導権を握ることになります。そのような場合でも重要な事項の決定には拒否権を有するという取り決めにしておくことにより、相手方の言いなりになることを防ぐことができます。
2.秘密保持義務
前述した通り、ジョイントベンチャーで懸念されることの一つとして、技術やノウハウ、個人情報等の外部への流出があります。そこで、事業を遂行する上で知り得た情報を外部に漏らさない旨の取り決めが必須となります。
自社の情報だけでなく、相手方が提供した情報の自社における取り扱いについても十分に注意が必要となります。
3.競業避止義務
ジョイントベンチャーによる事業の運営中に、出資企業が独自に競業事業(ジョイントベンチャーと同種の事業)を行ってしまうことを防ぐために、競業事業を行わない旨の条項が定められることがあります。これを競業避止義務といいます。競業避止義務を規定する際は、適用される地域、期間、事業の範囲などについて定めておく必要があります。
まとめ
今回は、ジョイントベンチャー契約の基礎知識、メリット・デメリット、契約書に記載すべき項目、契約を締結する際に注意すべきポイント等について解説しました。
ジョイントベンチャー契約には、他社の経営資源を活用し、リスクを軽減しつつもスピーディに事業を開始できるという大きなメリットがあります。しかし、他社と共同で事業を行うことは決して簡単なことではありません。将来、トラブルに発展することを防ぐためには、ジョイントベンチャー契約の締結前に十分な検討を行うことが大切です。
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