懲戒処分を就業規則に規定する際のポイントと注意点を解説
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記事目次
従業員に対して懲戒処分を行うためには、予め就業規則に規定する必要があります。
懲戒処分は就業規則に必ず定める必要がある絶対的必要記載事項ではありませんが、企業の秩序を維持して健全な経営を継続するために重要な役割を果たすため、ほとんどの企業では就業規則に懲戒処分規定を定めています。
今回は、懲戒処分の概要、懲戒処分の規定に関する法律と留意点、就業規則に懲戒規則を規定する際の注意点、懲戒規定の具体例などについて解説します。
懲戒処分の概要と種類
まずは、企業における懲戒処分の概要と種類について説明します。
1.懲戒処分とは
懲戒処分とは、企業の秩序を維持するために、就業規則等で定める服務規律に違反した従業員に対して企業が行う制裁のことをいいます。服務規律や懲戒処分をどのように定めるかは、公序良俗に反しない範囲内で各企業の裁量に委ねられています。
2.懲戒処分の種類
懲戒処分には、最も軽い戒告から最も重い懲戒解雇まで、いくつかの種類があります。一般的に、企業で定められている懲戒処分の種類は以下のとおりです。
- 戒告(かいこく):従業員の過失や不正行為などに対して改善するように注意すること
- 譴責(けんせき):従業員の過失や不正行為などに対して厳しく注意して、始末書などの書類の提出が求めること
- 減給:本来支給されるはずの給与を、一定の期間、一定の割合で減額して支給すること
- 出勤停止:一定の期間、就労を禁止すること
- 降格:役職を引き下げること
- 諭旨解雇(ゆしかいこ):懲戒解雇に相当する事由がある場合などに、退職願いの提出を勧告し、本人の意思で退職するという形で退職させること。懲戒処分よりも一つ軽い処分で、会社の恩情で懲戒解雇を避ける措置として行われることが多い。
- 懲戒解雇:企業が処分の対象となる従業員との労働契約を一方的に解消すること
懲戒処分を行う際は、従業員が犯した服務規律違反の内容や程度に応じた処分を課すことが求められます。従業員の行為に対する処分が重すぎる場合、懲戒権の濫用として懲戒処分は無効と判断される可能性があるため注意が必要です(労働契約法第15条参照)。
懲戒処分の規定に関する法律と留意点
懲戒処分は従業員に対して不利益を与えるため、従業員保護の観点から法律による規制が存在します。懲戒処分の規定に関して理解しておくべき法律と留意点について説明します。
1.就業規則に懲戒事由と種類の規定が必要
就業規則に記載する内容には、必ず記載が必要な絶対的必要記載事項と、各企業内で定めをする場合に記載が必要な相対的必要記載事項があり、懲戒処分は相対的必要記載事項に該当します。つまり、従業員に対して懲戒処分を行うためには、予め就業規則に規定を設けておく必要があるということです。就業規則に定めていない懲戒処分は違法となります。就業規則の作成義務のない従業員10人未満の会社でも、懲戒処分を行うためには、就業規則を作成して、懲戒処分に関する規定を定める必要がありますので、注意してください
懲戒処分を就業規則に定める際は、単純に「就業規則に違反した従業員には懲戒処分を行う」などという規定を設けるだけでは不十分です。労働基準法で、懲戒処分の種類と程度に関する事項を定めることが求められているからです(同法第89条9号)。
2.就業規則を全従業員に周知すること
就業規則に懲戒事由と種類の規定をしても、当該就業規則を、会社は、全従業員に対して周知しなければなりません(労働基準法第106条)。周知の方法としては、社内のネットワークから従業員が自由に閲覧できるようにするのが一般的ですが、休憩室などの社内の共有スペースの目立つ場所に備え置いてもよいでしょう。
3.懲戒処分の必要性と従業員の不利益のバランスが重要
労働契約法には、懲戒処分の対象となる従業員の行為の性質や態様、その他の事情を考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、懲戒処分は無効となると定められています(同法第15条)。つまり、従業員の行為に対し、必要以上に重い処分を下した場合は、就業規則に定められていたとしても、処分は無効となります。そのため、就業規則に懲戒処分の規定を設ける際と実際に処分をする際は、懲戒処分の必要性と従業員の不利益のバランスを十分に考慮しなければなりません。特に、懲戒解雇は、労働者に対する死刑宣告といわれるほど重い処分なので、懲戒解雇事由については慎重な検討が求められます。
4.懲戒解雇は解雇予告手当に注意が必要
従業員を解雇する際は、原則として30日以上前に従業員に対して予告する、または予告をしない場合には、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法第20条第1項本文)。解雇は、会社が一方的に労働契約を解消して労働者の利益を剥奪する行為なので、労働者保護の観点から、会社に対して30日間の猶予期間を設けるという義務が課されているのです。
しかし、懲戒解雇は、予告なく即日に労働契約を解消する処分なので、30日以上前に予告することはできません。そのため、原則として30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければいけないという点に留意が必要です。ただし、懲戒解雇の対象となる従業員が業務上横領等の重大な違反行為をした場合は、事前に労働基準監督署から解雇予告の除外認定を受けることを条件として、例外的に解雇予告手当の支払いが免除されます。
就業規則の懲戒解雇の規定にも、労働基準監督署長の認定を受けた場合は解雇予告手当を支給しない旨、明記しておくとよいでしょう。
5.減給は労働基準法で定められた金額の制限に注意
就業規則で減給について規定する際は、労働基準法第91条に規定されている制限に注意する必要があります。具体的には「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」とされています。
減給は従業員に不利益を与えるため、違反行為の重大性や悪質性に関わらず上記の制限の対象となるという点には留意しておきましょう。なお、遅刻や欠勤により就業していない時間については、ノーワーク・ノーペイの原則により、上記の制限の対象外となります。ノーワーク・ノーペイの原則とは、従業員から労務を提供されていない分に対しては、企業が賃金を支払う義務はないという原則のことです。
就業規則に懲戒規則を定める際の注意点
就業規則に懲戒規則を定める際は、どのような点に注意すればよいのでしょうか。注意すべき点について具体的に説明します。
1. 具体的かつ明確な規定を作成する
就業規則に懲戒規則を定める際は、懲戒処分の種類や事由について可能な限り具体的かつ明確に記載することが大切です。例えば、セクシャルハラスメント行為を処分対象としたい場合、「セクシャルハラスメント行為をした者」と記載するより、「性的な内容の発言、身体等への不適切な接触」などと懲戒処分の対象となる行為を具体的に列挙した方が、明確に理解できます。懲戒処分の対象を明確に記載することは、従業員の予見可能性を高め、処分対象となる行為を抑止する効果にもつながります。反対に、「問題のある行動をした従業員に対しては会社の判断により懲戒処分を行う」などという曖昧な規定では、具体的にどのような行動をした場合にどのような懲戒処分を下されるのか、全く見当がつきません。
懲戒処分の種類や事由を明確に規定することは、罪刑法定主義の観点からも重要とされています。罪刑法定主義とは、ある行為を犯罪として処罰するためには、成文の法律で、犯罪とされる行為の内容とそれに対して科される刑罰を予め明確に規定しておかなければならないとする刑法の基本原則です。国家による刑罰権の行使を抑制して、国民の自由を保証することを目的としています。懲戒処分は刑法で定められた罰則ではありませんが、企業が独断により一方的に従業員を処罰して、従業員に対して不当な不利益を与えないためにも、懲戒処分の規定を設ける際に罪刑法定主義の観点を持つことは大切なことだと考えます。
3.包括的な規定も必要
懲戒処分の種類や事由を具体的かつ明確に記載することは重要ですが、起こり得る全ての事由を具体的に示すことは不可能です。しかし、就業規則に定めていない懲戒処分はできません。そのため、多くの企業では、具体的な事由を列挙し、最後に、「その他、会社の秩序を著しく乱す行為、または信用を低下させる行為があった場合」、「その他、前各号に準ずる不適切な行為を行ったとき」などという包括的な規定を設けています。
従業員の想定外の行動が問題になる可能性もあるため、想定外の問題行為が発覚した場合も適切な懲戒処分を下せるよう、包括的な規定を設けておくことは非常に大切です。
4.柔軟な処分ができるよう配慮することも大切
実際に従業員に対して懲戒処分を下す際は、行為の態様、背景や経緯、平素の勤務態度などを総合的に考慮し、個別具体的な事例に即して判断することが求められます。そのため、就業規則に懲戒規則を定める際は、情状酌量の余地等を考慮し、柔軟な処分ができるように配慮した規定にすることも大切です。
例えば、原則として出勤停止処分に該当する場合でも、行為の態様や経緯等を考慮して、出勤停止よりも軽い、減給や譴責という処分を下せるような余地を残した規定にします。具体的には、「次のいずれかに該当する場合、出勤停止とする」とした上で、但書として「ただし、経緯や理由、その他情状によっては減給又は譴責とすることがある」などと記載します。
5.手続規定を置く
従業員に対して諭旨退職や懲戒解雇などの重い懲戒処分を下す際や従業員と事実関係の認識に食い違いがある場合等は、法律の規定はないものの、弁明の機会を付与しましょう。弁明の機会は、懲戒処分の適正さを担保するための手続きでもあります。そのため、就業規則にも懲戒処分の手続規定として、処分を下す前に弁明の機会を付与することなど、最低限必要な手続について定めておくとよいでしょう。実際に処分を下す際に就業規則の手続規定を参照することにより、適切なプロセスを経て処分を行うことが可能になります。
就業規則の懲戒処分規定の具体例
厚生労働省が公開している『モデル就業規則』の第12章(表彰及び制裁)には、具体的な懲戒の種類と事由に関する規定の例と解説が掲載されています。懲戒処分の規定を設ける際、または見直す際は、参考にするとよいでしょう。
まとめ
今回は、懲戒処分の概要、懲戒処分の規定に関する法律と留意点、就業規則に懲戒規則を規定する際の注意点、懲戒規定の具体例などについて解説しました。
例えば、従業員が懲戒解雇処分を争い、最終的に裁判で「不当解雇」とされた場合、解雇した時点にさかのぼって従業員の給与の支払いをしなければならないなど、会社に金銭的な負担が発生する可能性があります。そのようなリスクを避けるためにも、懲戒処分をする際は、慎重に手続きを進める必要があります。
そのため、就業規則の懲戒処分規定の内容は、公序良俗に反しない範囲内で各企業の裁量に委ねられているものの、法律上、有効な規定を設けるためには、労働関連法規等に関する専門知識が求められます。社内に専門知識を持つ従業員がいない場合は、法律の専門家からアドバイスを受けることをおすすめします。
東京スタートアップ法律事務所では、企業法務や経営のスペシャリストがノウハウを結集して、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。就業規則の懲戒処分規定などに関するご相談も受け付けていますので、お気軽にご連絡いただければと思います。
- 得意分野
- 一般民事
- プロフィール
- 名古屋大学法学部法律政治学科 卒業 名古屋大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内法律事務所 勤務 東京スタートアップ法律事務所 入所