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投稿日: 弁護士 中村 望

企業のワクチン休暇制度導入の必要性と導入時の注意点

2021年3月頃から、大手企業がワクチン休暇を導入したというニュースが続々と報道されました。企業内の新型コロナウイルス感染防止策の一環としてワクチン休暇を導入すべきか検討している企業も増えているようです。

今回は、ワクチン休暇制度の概要、ワクチン休暇制度導入のメリット、ワクチン休暇制度導入の必要性、ワクチン休暇制度の導入時の注意点などについて解説します。

ワクチン休暇制度に関する基礎知識

まずは、ワクチン休暇制度とはどのようなものか、通常の有給休暇とはどのように違うのかなど、基本的な内容について簡単に説明します。

1.ワクチン休暇制度とは

ワクチン休暇制度とは、企業の従業員がワクチン接種を受ける際に副反応が出た場合の休養や、従業員の家族がワクチン接種を受ける時に必要な付き添いや看病を目的とする休暇制度のことをいいます。
企業や団体によっては職域接種を実施し、それに伴う休暇制度としてワクチン休暇制度を設けているところもあります。

2.通常の有給休暇との違い

通常の有給休暇は、労働基準法第39条で労働者の権利として定められた年次有給休暇です。その企業で継続勤務した期間に応じて一定の日数を付与され、休暇取得の理由を問われることなく原則として希望する時に取得することができます。

他方、ワクチン休暇制度は就業規則との関係では法定外の特別休暇であり、取得目的は、ワクチン接種や副反応による休養、家族の接種時の付き添いや副反応が生じた場合の看病等に限られます。

有給休暇制度は従業員の継続勤務期間によって取得できる日数に差があり、また、通常、「その雇入れの日から起算して6か月継続勤務し、8割以上出勤した」場合に初めて与えられます。つまり、入社したばかりの従業員は有給休暇を取得することができません。
これに対して、ワクチン休暇は継続勤務期間等に関係なく従業員が平等に取得することが可能です。

ワクチン休暇制度導入のメリット

ワクチン休暇制度を導入することにより、従業員や企業はどのようなメリットが得られるでしょうか。それぞれが得られるメリットについて説明します。

1.従業員にとってのメリット

①平日にワクチン接種を受けられる

従業員がワクチン接種を躊躇する理由の一つとして、土曜や祝祭日は接種機関や会場が混雑していることが挙げられます。混雑により人が密集した空間で長い時間待機しなければならないことによる感染の危険増大、時間の消費等は、社会全体のワクチン接種促進の阻害要因となっています。
企業がワクチン休暇を導入することにより、従業員は比較的混雑の少ない平日にワクチン接種を受けられるというメリットが得られます。

②副反応が生じた際、安心して休める

現在日本国内で使用されているファイザー社とモデルナ社のワクチンでは、高い割合で倦怠感や発熱等の副反応が生じることが判明しています。副反応が生じた際、ワクチン休暇制度がなかったら通常の有給休暇を取得しなければなりません。しかし、従業員の権利として与えられている有給休暇をワクチン接種後の休養のために使うことに抵抗を持つ人は少なくありません。
企業がワクチン休暇制度を導入すれば、ワクチン接種後に発熱などの副反応が生じた場合に休暇を取得できるため、安心してワクチン接種を受けられるようになります

③高齢の家族のために付き添いや看病ができる

ワクチン休暇を導入した企業の中には家族がワクチン接種を受ける際の付き添いや副反応が出た場合の看病も休暇取得の目的に含めた制度設計をしている企業も多いです。
高齢の両親と同居している従業員は、両親がワクチン接種を受ける際の接種機関や会場への付き添い、副反応が生じた場合の看病のために休暇が必要となる可能性もあります。
ワクチン休暇の取得目的の中に、家族のワクチン接種時の付き添いや副反応が生じた場合の看病が含まれていれば、ワクチン接種を希望する高齢のご家族の助けとなり、従業員の家庭内感染リスクの低減にもつながります。

3.企業にとってのメリット

ワクチン休暇を導入することにより、企業は職場内の感染リスクを低減できるというメリットが得られます。
職場内のワクチン接種が進まない場合、職場内の感染者出現やクラスター発生のリスクを低減することができません。
ワクチン休暇制度の導入は、職場内のワクチン接種の促進につながるため、職場内の感染リスクやクラスター発生リスクを低減する効果が期待できます。

ワクチン休暇制度導入の必要性

ワクチン休暇を導入する企業は増えていますが、必ずしもワクチン休暇を導入しなければいけないわけではありません。ワクチン休暇導入の必要性について説明します。

1.ワクチン休暇の導入は法律上の義務ではない

ワクチン休暇の導入は法律などで企業に義務付けられているものではありません。そのため、ワクチン休暇を導入するか否かは、各企業が自由に決めることができます。
また、導入する場合の休暇日数、休暇中の賃金支払いの有無、対象者等に関する明確な規定は存在しないため、各企業が独自に判断して制度設計をすることが可能です。

2.既存の休暇制度で対応できる場合もある

ワクチン休暇を新設しなくても、従業員がワクチン接種を受ける際に、既存の休暇制度を利用できるようにすることで対応できる場合もあります。政府も、ワクチン休暇制定以外で職場内のワクチン接種を促進する方法として、既存の病気休暇や年次有給休暇の積立制度等を利用するという方法を推奨しています。

①病気休暇(傷病休暇)制度の利用

病気休暇(傷病休暇)制度を定めている企業は、ワクチン接種当日から、副反応が生じた際に軽快するまで病気休暇の取得を認めるという対応をしてもよいでしょう。

厚生労働省が公表している「平成31年就労条件総合調査の概況」によると、2019年の統計で病気休暇を定めている企業の割合は調査対象企業全体で25.7%です。ただし、この割合も上記有給休暇積立制度と同様に従業員数の規模による差が大きく、1,000人以上の企業では37.1%であるのに対して100~299人では28.2%、30~99人では23.7%となっています。また、病気休暇を定めている企業の休暇中の賃金支給状況については、全額支給が45.5%、一部支給20.7%、無給33.8%となっています。

②有給休暇の積立制度の利用

企業の中には、勤務時間中のワクチン接種は、就業時間扱いとして、翌日以降に副反応が生じて休暇が必要になった場合は、有給休暇の積立制度を利用するというルールを設けているケースもあります。
年次有給休暇の積立制度とは、消滅する有給休暇を積み立てて従業員の必要とする時に取得することができるようにする制度です。

人事院が公表している「平成28年民間企業の勤務条件制度等調査結果の概要」によると、人事院が産業別・規模別に層化無作為抽出した7,355社を対象とする調査に対して有効な回答を行った企業4,438社の中で、正社員の有給休暇積立制度がある企業は29.6%となっています。ただし、企業の規模による差が大きく、従業員数500人以上の企業では54.6%であるのに対して100~499人の企業は31.0%、50~99人の企業は19.2%となっています。

ワクチン休暇制度の導入時の注意点

ワクチン休暇制度を設ける場合、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。具体的な注意点について説明します。

1.ワクチン接種自体は強制ではない

ワクチン接種については、2020年12月9日に施行された予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律により、予防接種の努力義務を定めた予防接種法第9条が適用されています。ただし、この努力義務はワクチン接種を強制するものではありません。政府も、新型コロナウイルス感染症のまん延予防の観点から、国民に対してワクチン接種を推奨していますが、ワクチンを接種するか否かは、最終的には本人の判断に委ねられています

職場内に「ワクチン接種後の副反応が怖いから接種したくない」、「ワクチン接種を受けるか迷っていて、しばらく様子を見たい」という従業員がいた場合に、企業がワクチン接種を義務付けることはできません。ワクチン接種を拒否したことを理由に従業員に対して懲戒処分等を下した場合、労働契約法等の違反となる可能性が高いため注意が必要です。
また、ワクチン休暇制度を設ける際、接種率100%を目標に掲げてしまうと、ワクチン接種を希望しない従業員に対して圧力をかけることになります。あくまでも、ワクチン接種を希望する従業員のみを対象とした制度であることを十分に説明することが大切です。

2.対象従業員を限定する場合の留意点

ワクチン休暇制度を設ける際、対象者を正規雇用の従業員に限定することも可能です。
ただし、非正規雇用の従業員の割合が多い事業所では感染拡大防止の観点から、非正規雇用の従業員も休暇取得対象に含めることが望ましいでしょう。
また、対象者を限定することにより、対象外となった従業員から不満の声が挙がる可能性があるという点にも注意が必要です。

3.就業規則の変更に関する注意点

ワクチン休暇制度は休暇制度の一種であるため、就業規則の絶対的必要記載事項に該当します(労働基準法第89条1号)。そのため、ワクチン休暇制度を導入する際は、就業規則変更の手続が必要となります。

ワクチン休暇制度を就業規則で定める場合は、以下の事項を記載する必要があります。

  • 対象となる従業員(正社員・嘱託社員・パート・アルバイト等)
  • ワクチン接種は任意であり、従業員に対してワクチン接種を義務付けるものではないこと(例:「従業員が希望する場合は」「従業員がワクチンを接種した場合は」などと記載する)
  • ワクチン接種当日及び接種時間中の勤怠条件(出勤扱い・就業免除・休暇取得可能等)
  • 接種翌日及びそれ以降の休暇取得の可否及び取得可能日数
  • 当日及び翌日以降の休暇取得の形式要件(上長への連絡を必要とする・上長の判断により可能とする等)
  • 2回目の接種についても1回目と同様の扱いとすること
  • 対象期間

また、既存の特別休暇制度を利用する場合は、休暇取得理由に、本人・家族のワクチン接種及び副反応時の休養・看病を含める旨を就業規則に記載する必要があります。

就業規則を変更した際は、労働者の代表から意見聴取を行って意見書を作成して労働基準監督署に届出を行うという手続が必要です。また、従業員への周知も忘れずに行うようにして下さい。

まとめ

今回は、ワクチン休暇制度の概要、ワクチン休暇制度導入のメリット、ワクチン休暇制度導入の必要性、ワクチン休暇制度の導入時の注意点などについて解説しました。

就業規則に記載する内容を策定する際は、事業所ごとの繁忙状況、従業員にワクチン接種を強制しないこと等に留意が必要です。ワクチン休暇制度を導入すべきか判断が難しいという場合は、企業法務に精通した弁護士に相談するとよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務のスペシャリストが、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。ワクチン休暇制度導入時のサポート等にも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

弁護士中村 望 東京弁護士会
現在弁護士数が増え続けている中で、問題解決のクオリティが非常に重要。依頼者の方からの連絡に迅速に対応したり、何でも気軽に相談できる雰囲気づくりをしたりすることで、依頼者の方との信頼関係を築き、依頼者の方の希望に沿った問題解決をできるように心がけている。