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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

うつ病の社員に対する会社の対応・休職と復職の判断基準も解説

うつ病の社員に対する会社の対応・休職と復職の判断基準も解説
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近年、職場に関連するストレスが原因で、うつ病を発症する方が増えています。厚生労働省が実施した平成30年度・労働安全衛生調査の労働者調査では、「現在の仕事や職業生活に関することで、強いストレスとなっていると感じる事柄がある」と回答した労働者の割合は58%という結果となり、半数を超えました。

長時間労働や職場内での対人関係の問題等が原因で従業員がうつ病を発症した場合、従業員から損害賠償を求められるなどのトラブルに発展する可能性もあります。トラブルを回避するためには、従業員のメンタルヘルスを守るための対策を講じることが重要です。それに加えて、うつ病等の精神疾患を発症した場合の休職・復職に関するルールを定めておくことが大切です。

今回は、従業員がうつ病を発症する原因、うつ病の社員を放置するリスク、うつ病の社員への対応の流れと留意点、休職と復職の判断基準、就業規則に規定すべき項目、退職を促す場合の流れと注意点などについて解説します。

従業員がうつ病を発症する要因

職場には、従業員が、うつ病などの精神疾患を発症する要因となり得る問題が潜んでいます。厚生労働省が実施した平成30年度・労働安全衛生調査の労働者調査では、強いストレスを感じる原因として最も多かった回答は、「仕事の質・量」(59.4%)、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」(34.0%)、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」(31.3%)という結果でした。これらの原因について説明します。

1.長時間労働による過労や睡眠不足

「仕事の質・量」に対して強いストレスを感じている場合、長時間労働による過労や睡眠不足により、うつ病を発症するリスクがあります。特に、30代~40代の中間管理職など、職場で重要な役割を任せられている働き盛りの従業員は、業務量が増える傾向があるので注意が必要です。

最近は、働き方改革関連法の施行により長時間労働が規制されるようになりました。しかし、任された仕事を遅延なく進めるために、自ら進んで長時間仕事をする方も多くいらっしゃいます。長時間労働が原因でうつ病を発症する方の多くは真面目で責任感が強く、仕事に対して真摯に取り組んでいる方々です。そのため、うつ病の症状が出ても自らの不調を認めず、発見が遅れることが多いという傾向があります。

2.仕事の失敗や責任によるストレス

「仕事の失敗、責任の発生等」に対して強いストレスを感じている方の中には、若い世代を中心に増加傾向にある新型うつと呼ばれるタイプの方も含まれています。新型うつは、従来のうつ病と違い、職場を離れると症状が出なくなり、普段どおり過ごせるという特徴があります。新型うつは、適応障害と診断されるケースも多く、職場で与えられた業務が本人の適性に合っていないことが原因となっている場合もあります。

3.対人関係やハラスメントによるストレス

職場の対人関係やハラスメントなどが原因で、うつ状態を発症するケースも増えているようです。典型的なケースとして、職場での優越的立場を利用して嫌がらせをするパワーハラスメント(パワハラ)や、性的な嫌がらせをするセクシャルハラスメント(セクハラ)の被害を受け、うつ病を発症するケースが知られています。
最近では、無視する、バカにするなど、言葉や態度などで継続的な嫌がらせをするモラルハラスメント(モラハラ)や、業務時間の短縮を強要する時短ハラスメントなど、新しいタイプのハラスメントも問題となっています。

うつ病の社員を放置するリスク

職場に関連するストレスが原因でうつ病を発症した従業員に対して、特に対応を行わずに放置した場合、会社側はどのようなリスクを負う可能性があるのでしょうか。うつ病の社員を放置するリスクについて説明します。

1.安全配慮義務違反による損害賠償のリスク

職場に関連するストレスが原因でうつ病を発症した従業員に対して、会社が行うべき適切な対応を行うことを怠った場合、安全配慮義務違反に問われる可能性があります。安全配慮義務とは、会社が従業員に業務を行わせるにあたり、労働者の健康を守るために配慮すべき義務のことをいいます(労働契約法第5条)。安全配慮義務で守るべき健康には、身体的な健康だけではなくメンタルヘルスも含まれます。従業員が職場に関連するストレスにより、メンタルヘルスに不調をきたし、うつ病を発症した場合、会社側は安全配慮義務違反を理由に損害賠償を請求される可能性があります。うつ病を発症した従業員が自殺した場合などは、心の健康に関する安全配慮義務違反により、多額な損害賠償の支払いを命じられる場合もあります。希死念慮と呼ばれる自殺願望はうつ病の初期から現れることも珍しくありません。そのため、注意が必要です。

2.業務に支障が生じる可能性もあり

うつ病を発症すると、睡眠の質が低下する、気分が落ち込み憂鬱になるなどの症状が現れます。そのような症状は、仕事上のミスやモチベーションの低下につながることもあり、業務に支障をきたす可能性もあります。
また、口数が減る、悲観的な発言が多くなるなどの症状が現れる場合もあり、上司や同僚とのコミュニケーションがうまくいかなくなることもあります。うつ病を発症した従業員の影響により、一緒に働く従業員の負担が増え、モチベーションが低下する可能性もあることは、十分認識しておきましょう。

うつ病の社員に対する会社の対応の流れと留意点

社員がうつ病を発症した際、会社はどのような対応を行うべきなのでしょうか。会社に求められる適切な対応の流れと注意点について説明します。

1.早期の発見と対応が大切

うつ病は、早期に発見して対応することが大切だといわれています。同じ職場で働く従業員同士がうつ病の兆候に気づくことが、早期発見につながります。
職場でみられるうつ病の兆候として、以下のような変化があります。

  • 突発的な遅刻や欠勤が増えた
  • ケアレスミスが目立つようになった
  • 口数が減り、休憩時間も一人で過ごすことが増えた
  • 表情が曇りがちで顔色が冴えなくなった

周りが上記のような変化に気づいた際に、本人の直属の上司、あるいは人事担当に速やかに報告できるよう社内で啓蒙活動を行い、レポートラインを整備しておくことが大切です。

2.精神科受診と休職手続

うつ病の兆候がある従業員に対しては個別で面談を行い、精神科の受診を促します。精神科の受診を促す際は、本人の不安をできる限り軽減できるよう、以下の内容を伝えるようにしましょう。

  • うつ病と診断された場合には、一定期間休養して早期治療を行うことで、回復して元通りの生活を送ることができるようになる可能性が高まること
  • 休職した場合の経済的なサポートとして、傷病手当金制度等を利用できること
  • 復職する際は、状況に応じて時短勤務等の配慮を行うことが可能なこと

精神科を受診することに対する抵抗や、経済的・将来的な不安を感じる方は多いです。安心して精神科を受診してもらうためにも、上記の内容をしっかり伝えることは大切です。
精神科で、うつ病と診断された場合には、速やかに休職手続を行いましょう。休職中は、療養に専念できるよう、配慮することが大切です。本人が罪悪感や焦りを感じることがないよう、できる限り仕事に関する連絡は取らないようにしましょう。

3.復職の決定とサポート

主治医から職場復帰が可能という診断がされたら、復職が可能かどうかを検討します。主治医が、本人の業務内容を把握しているとは限らないので、主治医による判断のみで職場復帰を決定するのは危険です。本人との面談を行い、実際に業務を遂行できる状態まで回復しているのかどうか、慎重に確認することが大切です。
復職の際には、うつ病を発症する前と同じ業務に戻すかどうかを本人の意向を確認しながら検討しましょう。職場の人間関係が原因でうつ病を発症した場合などは、環境を変えないと再発するおそれがあるため、注意が必要です。また、職場復帰後しばらくの間は時間短縮勤務、業務軽減などの措置を行い、本人の状態を確認しながら段階的に通常勤務へと戻すことが大切です。

休職期間と復職の判断基準

従業員がうつ病を発症した際、どの程度の期間、休職させる必要があるのでしょうか。休職期間の目安と復職の判断基準について説明します。

1.休職期間の目安は3カ月程度

休職期間については法律上の定めは特にないため、各企業が自由に決定できます。一般的には、3ヶ月程度の休職期間を設けている会社が多いようです。会社は休職期間中も社会保険料の会社負担分を負担しなければならず、休職期間が長引くと会社側の負担が重くなります。うつ病の治療に要する期間には個人差があり、職場復帰できるまでに3カ月以上かかる場合もあります。その場合には、復職後も治療を継続できるよう勤務時間を短縮する等の工夫を行うとよいでしょう。

2.復職の判断基準

復職が可能かどうかを判断する際には、前述した通り、主治医による判断だけではなく、本人と面談し、実際に業務を遂行できる状態まで回復しているのかを慎重に確認することが大切です。
3ヶ月の休職期間が満了した時点で、業務を遂行できる状態ではないにもかかわらず、本人が経済的な不安等の理由から、復職を強く希望する場合もあります。しかし、本人の希望通り復職させると、周囲に迷惑がかかる場合もあるので、注意が必要です。休職前の業務に戻すことが難しい状態の場合は、部署異動や配置転換も検討しましょう。

就業規則で規定すべき項目

従業員のメンタルヘルスを守り、将来起こり得るトラブルを回避するための対策として、うつ病等の精神疾患に罹患した際の休職や復職に関するルールを決め、就業規則に明文化しておくことは非常に大切です。具体的にどのような規定を設けておくべきか説明します。

1.休職期間と期間通算

まずは休職期間を何ヶ月とするか決定し、明記します。うつ病は再発することも珍しくありません。しかし、再発したからといって、何度も休職制度を利用されると会社側の負担が大きくなります。そこで、復職後6カ月以内に同一または類似の理由により再度休職する場合には、前回の休職期間と通算するという旨を定めておくことが大切です。

2.復職の可否の判断

うつ病等の精神疾患で休職した場合、本人が経済的な事情等から、業務を遂行できる状態ではないのに「復職したい」と申し出るなど、復職の可否に関する判断を巡って労使間でトラブルになる可能性があります。そのようなトラブルを回避するためにも、就業規則に、復職の可否は会社が判断する旨を明記しておきましょう。

復職の可否について、主治医の判断をもとに判断される場合も多いです。しかし、主治医が、本人の業務の内容を十分に理解した上で復職の可否を判断しているとは限りません。また、患者である本人から「診断書に職場復帰可能と書いてほしい」と頼まれて、本人の希望通りの内容が記載される場合もあります。そのため、注意が必要です。

復職の可否を適切に判断するためには、産業医の資格を持つ医師に、休職前の業務内容、職場環境、業務遂行に必要とされるスキル等を伝えて、休職前と同じ業務を遂行できる状態か、配置転換などの必要があるかを客観的に判断してもらうことが望ましいです。産業医の選任義務がない労働者数50人未満の会社の場合は、地域産業保健センターで相談するとよいでしょう。地域産業保健センターは、労働者数50人未満の小規模事業場の事業者や従業員を対象として、労働安全衛生法で定められた保険指導やメンタル不調を感じている労働者に関する相談等の産業保健サービスを無料で提供する公的機関です。会社の近くにある地域産業保健センターを探したい方は、「地域産業保健センター」と会社の所在地の地名でネット検索すると見つけられるかと思います。

3.休職期間満了後の処遇

休職期間が満了しても復職できなかった場合の処遇についても就業規則に明記しておく必要があります。休職期間を満了しても復職できない場合には、休職期間の満了をもって退職とみなす旨を規定しておくのが通常です。
ただし、ほとんどの場合、退職は本人にとって望ましくない結果なので、可能な限り、復職できるようサポートすることが大切です。復職時は休職前の業務に戻すことが原則ですが、休職期間満了時に業務遂行能力が不十分だと判断された場合には、負担の少ない業務を担当してもらうことができないか検討しましょう。

また、休職期間満了時にまだ通院・治療が必要な状態である場合は、週3~4回程度の出勤や短時間勤務をしてもらうなど、治療と仕事の両立ができる環境を整えるという方法もあります。最近は、リハビリ勤務制度を導入する企業も増えています。リハビリ勤務制度とは、うつ病等の精神疾患により休職した従業員のスムーズな復職と再発防止を目的とした制度です。一般的には、休職期間満了の少し前から通常よりも短い勤務時間で軽微な作業を担当してもらい、段階的に職場復帰を目指すというものです。
リハビリ勤務の進め方や期間は、個人の状況や担当業務によって異なります。就業規則には、会社と従業員が合意の上で決定する旨を定め、個人ごとに適した対応を検討できる余地を残しておくとよいでしょう。

退職を促す場合の流れと注意点

休業期間満了後も症状が改善されず、職場に復帰できる可能性がない場合、残された選択肢は退職しかありません。退職について説明する際、就業規則に「休職期間を満了しても復職できない場合は休職期間の満了をもって退職とみなす」等の規定があれば、この規定を根拠として示すことができます。
ただし、うつ病に罹患している方が退職を余儀なくされた場合、将来に対する大きな不安を抱えることになります。そのような心理面に十分配慮しながら、慎重に進めることが大切です。うつ病の従業員に対する退職勧奨の手順や、注意点はこちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。

まとめ

今回は、従業員がうつ病を発症する原因、うつ病の社員を放置するリスク、うつ病の社員への対応の流れと留意点、休職と復職の判断基準、就業規則に規定すべき項目、退職を促す場合の流れと注意点について解説しました。

従業員のメンタルヘルスに関する問題は、会社の労務管理や経営に影響を及ぼす重要な問題です。会社側はリスクマネジメントの視点を持ち、メンタルヘルス対策や従業員が精神疾患に罹患した場合の休職・復職制度の構築に積極的に取り組むことが大切です。

東京スタートアップ法律事務所では、企業における労務問題やメンタルヘルス対策に関する専門知識を持つスペシャリストが、様々な企業のニーズや方針に合わせたサポートを提供しております。うつ病等の精神疾患を発症した従業員との労使間トラブルの解決支援やトラブルを回避するための就業規則の整備等の対策に関するアドバイスも行っておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社