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在宅勤務の社内規定に必要な項目・就業規則を変更する際の注意点も解説

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在宅勤務の社内規定に必要な項目・就業規則を変更する際の注意点も解説
新型コロナウイルス感染から従業員を守るために、テレワークや在宅勤務制度を導入する企業が急増する中、社内規定の作成や就業規則の変更など必要な準備を十分にできないまま、在宅勤務やテレワークを開始したという企業も多いようです。必要な規定を設けないまま在宅勤務やテレワークを実施すると、会社が把握できない時間外労働が発生するなどのトラブルが生じる可能性があるため、注意が必要です。

今回は、在宅勤務を導入する際の社内規定の必要性、在宅勤務の社内規定に定めるべき項目、社内規定を作成した後に行うべきことや注意点などについて解説します。

在宅勤務を導入する際の社内規定の必要性

在宅勤務を導入する際、就業規則の変更や社内ルールの策定は必要なのでしょうか。就業規則の変更が必要となるケースや、在宅勤務規則等の必要性について説明します。

1.就業規則の変更が必要となるケース

在宅勤務を導入しても、労働時間、給与、手当などの労働条件が変更されない場合は、就業規則の変更は不要です。ただし、在宅勤務の導入に伴い、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制などの勤務制度を新たに導入する場合は、就業規則に新たな勤務制度に関する規定を設ける必要があるため、就業規則の変更が必要になります。
また、通勤手当の改定、在宅勤務手当の新設などを行う場合も、就業規則の手当に関する規定を変更する必要があります。

2.「在宅勤務規則」として別規定を作成する方法も

常時10名以上の従業員を雇用している会社は就業規則を作成し、労働基準監督署に提出する義務があります(労働基準法第89条)。しかし、常時雇用している従業員が9名以下の企業には、法律上、就業規則の作成義務がないため、就業規則が存在しない企業もあるかと思います。その場合は、在宅勤務の導入と同時に就業規則を整備することを検討してもよいでしょう。法律上の義務はなくても、企業秩序を維持するために、就業規則は重要な役割を果たします。
新型コロナウイルス感染予防のために急遽、在宅勤務を導入することになったため、時間的な猶予がないという場合、在宅勤務に関する社内規定のみをまとめた在宅勤務規則(テレワーク就業規則)を作成してもよいでしょう。就業規則が存在する企業でも、在宅勤務を導入する際に、就業規則を変更するのではなく、在宅勤務に関するルールのみを定めた在宅勤務規則を別途作成する企業もあります。

3.セキュリティガイドラインを別途定める必要性

在宅勤務制度を導入すると、当然のことながら、社内以外の場所で仕事をすることになります。そのため、社内では起こるはずのないトラブルが発生する可能性があります。想定されるトラブルの具体例としては以下のようなケースが挙げられます。

  • ウイルス感染した私物のパソコンを社内のネットワークに接続したため、社内のネットワークにウイルスが侵入し、会社の企業秘密に関するファイルが外部に流出する
  • 社内ネットワークにアクセスするために使用しているVPN製品の脆弱性を悪用されて、社内のサーバーに保存されている顧客情報が盗まれる
  • カフェで仕事中に背後から会社の重要なプロジェクトの情報を盗み見されて、SNSで拡散される

一度社内の重要な営業秘密や顧客情報が外部に漏れると、元の状態に戻すのは不可能に近いといえるでしょう。情報漏えいのリスクから会社を守るためにも、在宅勤務で起こり得るリスクを想定した上で、セキュリティガイドラインを定めることが望ましいでしょう。セキュリティガイドラインに必要な規定は、会社の方針、業種、保有している情報の種類などによって異なるため、自社に適したルールを定めることが大切です。

在宅勤務の社内規定に定める項目

在宅勤務の社内規定には、どのような項目を定める必要があるのでしょうか。具体的な項目について説明します。

1.在宅勤務・テレワークの定義

在宅勤務を従業員の自宅のみで認めるのか、シェアオフィスやカフェなどの自宅外での場所でも認めるのか、自宅外での勤務を認める場合は事前に申請書を提出することを求めるのかなど、自社における在宅勤務・テレワークの定義を明確に定めます。
情報セキュリティの観点からは、在宅勤務の場所は従業員の自宅のみに限定することが望ましいですが、幼い子供がいる、共働きで夫婦共に在宅勤務をしている等の事情により、自宅での勤務が難しい従業員がいる可能性もあります。会社側の都合だけではなく、従業員側の事情も考慮して決めることが大切です。

2.在宅勤務・テレワークの対象者

在宅勤務を認める対象者を決めて明記します。勤続1年以上等の一定の勤続年数や、自宅での勤務を円滑に遂行できると認められることを要件として、在宅勤務を認める対象者を限定している企業も多いです。また、従業員の意思を尊重し、在宅勤務を希望する者のみを対象としている企業もあります。
ただし、新型コロナウイルス感染防止の目的で在宅勤務を実施する場合など、全従業員に在宅勤務を認める方が望ましいケースもあるので、勤続年数で一律に制限するよりも、職務内容等から判断して実質的に在宅勤務が可能な場合は広く認めることができるような規定にした方がよいかもしれません。

3.労働時間と時間外労働

在宅勤務制度の導入に伴い、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制などの勤務制度を新たに導入する場合は、始業・終業時刻を労働者の決定に委ねる旨などを明記して下さい。
フレックスタイム制を導入する場合、コアタイムを設けるのか、コアタイムを設けない完全フレックスにするのかを決めた上で、コアタイム、フレキシブルタイム、超過時間の取扱い等を明確に定めることが大切です。
在宅勤務では労働時間の算定が困難な場合も多いため、実際の労働時間に関わらず、一定の労働時間働いたものとみなす事業場外みなし労働時間制を導入する企業も多いですが、みなし同労時間制を導入するためには一定の要件を満たす必要があるため、注意が必要です。

また、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制度を導入すると、残業時間の把握が困難になり、会社側が知らぬ間に、労働基準法で規定された時間外労働時間の上限を超える可能性があるという点に注意が必要です。在宅勤務は、仕事とプライベートの境目が曖昧になりがちで、オンオフの切り替えが難しいため、長時間労働を助長するといわれています。

在宅勤務では時間外労働の実体を把握することが難しいため、時間外や休日の労働を原則禁止としている企業も多いです。無許可の残業を禁止して、時間外や休日の労働を許可制にすることにより、時間外労働時間の上限を超える等のトラブルを回避することが可能です。時間外や休日の労働を原則禁止として許可制とする場合、就業規則にもその旨を明記して下さい。

4.通勤手当

通勤手当の支給は、法律で義務付けられているわけではありませんが、通勤手当は一定の額までは非課税となることもあり、多くの企業が従業員に対して通勤手当を支払っています。しかし、在宅勤務制度を導入した場合、通勤が不要になるため、通勤手当を支払う必要もなくなります。

そのため、最近は、通勤定期代などの定額の通勤手当を廃止し、出社した際の交通費は実費精算する方式に切り替える企業が増えているようです。在宅勤務の頻度が従業員によって異なる場合は、在宅勤務の頻度を通勤手当支給の条件としてもよいでしょう。例えば、月15日以上出社する場合は通勤手当を支給し、それ以外は実費精算にするなどという規定を設ける方法があります。

5.費用負担・在宅勤務手当

在宅勤務を行うと、通信費や光熱費などの費用がかかります。また、職種によっては、印刷を印刷に使用する用紙などの消耗品が必要になる場合もあります。労働者に作業用品などの負担をさせる場合は、その負担に関する事項を就業規則に定める必要があります(労働基準法第89条1項5号)。
従業員に在宅勤務の費用を負担させないために、在宅勤務手当として、一律の金額を支給する企業も増えているようです。全従業員に対して一律で支給するのではなく、通勤手当と同様に在宅勤務の頻度を条件とする、あるいは在宅勤務の頻度に応じた支給額を設定するなどとしてもよいでしょう。

6.服務規律・評価制度等

その他、必要に応じて以下のような規定を改定・新設します。

  • 人事評価制度:成果主義型の人事評価制度等を導入する場合等
  • 服務規律:在宅勤務時の情報漏洩リスクを想定した情報管理ルールを新設する場合等
  • 社員教育・研修:在宅勤務に関する研修を実施する場合等
  • 安全衛生:安全衛生上、適切な作業環境での作業を義務付ける場合等

在宅勤務に必要な社内規定の具体例については、経済産業省が公開している『テレワークに関する社内ルール作り』が参考になります。

社内規定作成後に行うべきこと

在宅勤務に関する規定は作成するだけでは不十分です。規定を作成した後に行うべきことについて説明します。

1.従業員への周知と労働基準監督署への届け出

就業規則を変更した際は、従業員への周知が必要です(労働基準法第106条1項)。従業員に周知されていない場合、就業規則の規定は無効とみなされる可能性があるため注意が必要です。就業規則の変更を行わずに、在宅勤務規定を作成した場合も、必ず従業員に周知して下さい。
また、就業規則を変更した場合、労働者の代表から意見聴取を行って意見書を作成して労働基準監督署に届出を行うという手続も忘れずに行うようにして下さい。

2.必要に応じた研修の実施

在宅勤務に関する規定を社内に浸透させるためには、必要に応じて研修を行うことを検討してもよいでしょう。例えば、情報セキュリティ対策に関するルールを定めても、従業員の情報セキュリティに対する意識が低いままでは、ルールが守られない可能性があります。在宅勤務やテレワークで起こり得るトラブルを具体的に提示しながら、具体的にどのような対策を取るべきかを学ぶ研修を実施することが、従業員一人ひとりの情報セキュリティに対する意識を高めることにつながります。

また、時間外や休日の労働を原則禁止とする規定を設けても、仕事量が多いために隠れて長時間労働をする従業員がいるかもしれません。在宅勤務は周囲の目が届かない場所で行われるため、隠れて長時間労働をする従業員の存在に気づくことはほぼ不可能です。そのため、在宅勤務中は、直属の上司が、部下のスキルや仕事のスピードに応じた適切な仕事を割り振り、管理することが非常に大切です。在宅勤務を初めて導入する企業では、管理職が離れた場所で働く部下のマネジメントに戸惑うことも多いので、管理職に対して、在宅勤務に適した業務分担や進捗管理などを学ぶマネジメント研修を行うなどの工夫が必要になる場合もあります。管理職のマネジメントスキルに問題があると、管理職がオンライン会議システムなどで部下を四六時中監視するなどのハラスメント行為が発生するリスクがあるため、注意が必要です。

まとめ

今回は、在宅勤務を導入する際の社内規定の必要性、在宅勤務の社内規定に定めるべき項目、社内規定作成後に行うべきことや注意点などについて解説しました。

在宅勤務に関する社内規定を設ける際は、事前に自社に適した在宅勤務・テレワーク制度の設計を行うことが望ましいですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、十分な準備ができないまま必要に迫られて導入した場合は、ある程度落ち着いてから、制度を見直した上で社内規定を整備してもよいでしょう。

我々東京スタートアップ法律事務所は、当事務所自身がテレワークを導入した経験を活かし、テレワークや在宅勤務を導入する企業の労務管理や情報セキュリティ対策のサポートに積極的に取り組んでいます。テレワークに関する問題や企業法務に関する相談等がございましたら、お気軽にご連絡をいただければと思います。

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執筆者 -TSL -
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