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売掛金回収のための法的手段と回収不能を回避する方法を解説

売掛金回収のための法的手段と回収不能を回避する方法を解説
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企業間の取引では、一般的に月末締めで1ヶ月分をまとめて請求する掛売り方式という請求方式が採られています。掛売り方式では、売掛金が支払われるまでに支払サイトと呼ばれる期間があるため、その期間に取引先の財務状況が悪化して支払いが滞るリスクがあります。

取引先の財務状況が悪化すると最悪の場合は倒産のリスクもありますので、売掛金の入金が遅れた場合はできるかぎり早く売掛金を回収する必要があります。

今回は、売掛金を回収するための法的手段、内容証明の送付方法、仮差押えと支払督促の手続、売掛金の時効、回収不能に陥らないための予防策などについて解説します。

売掛金を回収するための法的手段

最初に、入金が遅れた際にやるべきことと売掛金を回収するための法的手段の概要について説明します。

1.入金が遅れた際にやるべきこと

取引先から入金が遅延した際、最初に行うべきことは相手側の担当者への連絡です。担当者のケアレスミスなどにより入金が遅れてしまっただけという可能性もあるので、まずはメールや電話などで入金が遅れているという事実を伝えて、入金が遅れた理由と新たな支払い予定日について確認しましょう。そして、新たな支払い予定日には約束どおり入金されたかを忘れずに確認してください。

2.売掛金回収のための法的手段の基本

相手側の担当者が指定した支払い予定日を過ぎても入金がない場合は、再度、連絡を入れて遅延の理由と支払い予定日を確認しましょう。繰り返し連絡しても入金されない場合は、取引先の財務状況が悪化していて支払いができない状況に陥っている可能性もあるため、早めに法的な手続きに移ることをおすすめします。
売掛金の回収は基本的に以下の手順で行ないます。

  1. 内容証明郵便を送付
  2. 仮差押えによる保全
  3. 支払督促

各手順の詳細について順番に説明します。

内容証明郵便の送付方法

内容証明郵便の送付は、債権回収の法的手続に入る前の準備段階として一般的に利用されている方法です。
内容証明郵便の役割、催告書の記載内容、便利に利用できる電子内容証明郵便について説明します。

1.内容証明郵便の役割

内容証明郵便は、誰から誰宛に、いつ、どのような内容の郵便を送付したのかを郵便局が証明する制度です(郵便法第44条1項、同第48条、内国郵便約款第120条以下)。内容証明郵便には、相手に支払いを強制する法的効力はありませんが、郵便配達員から直接渡されるため、通常の郵便物とは違うという認識を相手に与えることができます。受け取った相手は「このまま放置すると訴えられるかも」という心理的なプレッシャーを感じて、支払いに応じる可能性もあるのです。
また、支払いに応じてもらえず訴訟に発展した場合は、内容証明郵便は有力な証拠としての役割を果たすことになります。

2.催告書の記載内容と注意事項

内容証明郵便で送る催告書には、以下の内容を必ず含めるようにしましょう。

  • 売掛金額
  • 弁済期日
  • 期日までに入金がない場合の措置

売掛金額

売掛金額についてはしっかり確認して正確な金額を記載してください。金額に誤りがあると、将来的に訴訟に発展した際に、相手側から「金額が間違っている」などの指摘を受け、不利な立場に追い込まれる可能性もあるため注意が必要です。

弁済期日

既に支払われるべき期日が指定されている場合はその期日を弁済期日としても良いですし、内容証明郵便が届いた日から何日後かを弁済期日とすることもできます。
弁済期日は必ず明記すべきであり、これを明記することにより、期日を過ぎても入金がない場合に債務不履行による遅延損害金を請求することが可能となります。

期日までに入金がない場合の措置

期日までに入金がない場合、一般的には法的措置を取ることになります。
内容証明郵便を受け取った時点で、相手は訴訟を起こされる可能性を感じて不安になるかもしれませんが、「上記の期日までにお支払いいただけない場合、法的措置を取らせていただきます。」などと明記することで、より明確に請求や法的措置への移行可能性の意思を伝えることができます。相手への心理的プレッシャーも大きくなるため、支払いが難しい場合でも分割払いの相談などの、前向きな反応につながる可能性もあります。

3.電子内容証明郵便が便利

内容証明郵便を送付する際は、電子内容証明郵便を利用すると郵便局に足を運ぶことなく、短時間に送付できて大変便利です。電子内容証明郵便はインターネット上で文書データを送信して内容証明を送付するオンラインシステムです。内容証明郵便では、同文の文書が3通(自分用、相手方用、郵便局用)必要となりますが、電子内容証明郵便を利用すると、自動的に3通作成されます。料金は基本的にクレジットカード払いとなります。
電子内容証明郵便について詳しく知りたい方は公式サイトをご確認ください。

仮差押えの手順

法的な手続によって債権者による強制執行が認められたとしても、債務者に支払能力がない場合は売掛金を回収できません。そのような事態を防ぐためには「仮差押え」という制度を利用して、相手方が財産を処分できないように先手を打つことが有効です。

1.仮差押えとは

仮差押えは、債権者が確実に資金を回収できるよう、訴訟で請求を認める判決が下される前に債務者が自分の財産を処分することを阻止するための保全手続です。債権を巡る訴訟では債権者側が勝訴して強制執行手続をとる権利を取得しても、その前に債務者が所有する不動産の名義を変更したり預金口座からお金を引き出されたりして、債権者が回収できなくなる場合もあります。しかし、事前に仮差押えの手続をしておけば債務者は財産を処分することができなくなるため、債権が回収できる可能性が高まります。

2.仮差押えの手続の方法

仮差押えの手続は、原則として訴えを起こす裁判所で行います(民事保全法第12条1項)。
訴えとして支払督促を行う場合は債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する簡易裁判所となります。
仮差押申立書の提出は郵送でも受け付けていますが、直接窓口に持参して提出した方が優先的に処理されて、より迅速に審査終了となる可能性があります。
申立てに必要な手数料は2千円で、申立書に印紙を貼付する形で納付します。
仮差押えの申立てを行う際は、

  • 保全すべき権利又は権利関係(売掛金の存在等)
  • 保全の必要性(取引先の財務状況の悪化や破産・再生手続きを行う可能性等)

を明記する必要があります(民事保全法第13条1項)。
また、仮差押えの際は裁判所が指定した金額を担保として預ける必要があります。金額の目安は債権額の1~3割程度です。

支払督促手続の流れ

仮差押えにより債務者の財産を暫定的に差し押さえた後は、支払督促により売掛金回収の実現を目指します。
以下では、支払督促の法的効力、申立書の記載内容、注意点などについて説明します。

1.支払督促の法的効力

支払督促とは、民事訴訟法第382条以下で規定されている金銭債権の回収を目的とした制度です。債権者からの申立てを受け、簡易裁判所の裁判所書記官が債務者に対して金銭等の支払いを命じます。
債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に異議申立てをした場合は通常の訴訟手続に移行するため異議の限度で効力を失いますが、債務の内容について債権者と債務者の認識に相違がない場合には、債務者が異議申立てをしないこともあるため、通常の訴訟を提起しなくても債権回収が実現する可能性が高まります。異議申立てがない場合、裁判所書記官は、債権者の申立てにより、支払督促に手続の費用額を付記して仮執行の宣言をし、これに対しても債務者が送達を受けてから2週間以内に異議の申立てがなければ、支払督促は裁判での判決と同一の効力を持ち(同法第396条)、債権者は強制執行の申立てを行うことが可能となります。

2.申立書の記載内容と添付書類

支払督促の申立書は裁判所の公式サイト内の以下のページからダウンロードできます。

支払督促申立書は以下の3つから構成されています。

  • 表題部:事件名や申立人の住所・指名などを記載
  • 当事者目録:債権者(申立人)と債務者(相手方)の住所・氏名などを記載
  • 請求の趣旨及び原因:請求金額、遅延損害金の金額、請求の対象となる商品やサービスの名称などを記載

申立書を提出する際は、添付書類として法人の登記事項証明書も必要です。また、弁護士や司法書士に依頼する場合は委任状も必要となります。

3.仮執行宣言の期限に要注意

相手方の異議申立ての期限である2週間が経過すると、相手方は異議申立てができなくなります。申立人は、その期限から30日の間、仮執行宣言の申立てをすることができます
仮執行宣言の申立て後、裁判所書記官が内容を審査して支払督促に仮執行宣言を付し、債務者が仮執行宣言付きの支払督促を受け取ってから2週間以内に異議申立てをしなければ、申立人は強制執行手続をとることが可能になります。申立人が相手方の異議申立て期限から30日以内に仮執行宣言の申立てをしなかった場合には支払督促は失効となるので、注意しましょう。

4.督促手続オンラインシステムが便利

支払督促は、債務者の本店所在地を管轄する簡易裁判所で手続をする必要がありますが、督促手続オンラインシステムという裁判所が提供しているシステムを利用すれば、インターネット上で支払督促の申立てができます。インターネットバンキングやATMで手数料や郵便料などを収めることも可能で、自分が申立てをした事件の進行状況もオンライン上で確認することができます。
督促手続オンラインシステムについて詳しく知りたい方は公式サイトをご確認ください。

売掛金の時効

売掛金には時効がありますが、支払督促の仮執行宣言により時効を中断することも可能です。
売掛金の時効と時効の中断について説明します。

1.売掛金の時効は通常5年

2017年の民法改正前は、旧民法170条~174条で職業別の短期消滅時効が定められていましたが、2017年5月26日に成立した「民法の一部を改正する法律」により廃止され、消滅時効期間が統一されました(施行は2020年4月1日)。
改正後の民法では、以下の2つのうち早い方が消滅時効期間となります。

  • 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年(民法第166条1項1号)
  • 債権者が権利を行使することができる時から10年(民法第166条1項2号)

企業間での売掛金の場合、一般的に5年となる場合が多いです。

2.支払督促の仮執行宣言による時効中断

支払督促の仮執行宣言には、時効中断の効力があります(民法第150条)。
ただし、時効の起算点をリセットする効力はなく、6ヶ月間の猶予が与えられるだけなので、時効完了が間近の場合は速やかに強制執行手続を行う必要があります。

売掛金回収の代行サービス

売掛金回収を迅速かつ確実に行うためには、法的根拠に基づく主張が求められ、一般企業で働く方には難しい面も多く、専門家に代行を依頼したいと思われる方もいらっしゃるかと思います。

日本で売掛金などの債権回収を代行できる(代理権がある)のは、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)に基づく認可を受けた業者、認定司法書士、弁護士のみです。法律の専門知識を駆使した迅速な債権回収を目指したい方は、認定司法書士か弁護士に依頼するとよいでしょう。

ただし、認定司法書士が代行できるのは債権額が140万円以下の事案に限られます。また、訴訟に発展した場合、地方裁判所や高等裁判所が扱う事件の代理人になることができません。債権額が140万円を超える場合や将来的に訴訟に移行する可能性がある場合は弁護士に代行を依頼した方が迅速な解決が望め、依頼費用の点でも結果的に経済的と言えるでしょう。

売掛金回収不能の予防策

法的手段を講じても、債務者である企業が支払不能の状態に陥り、破産や再生手続などに着手した場合、売掛金全額の回収は困難です。
売掛金の回収ができないという事態を避けるための予防策について解説します。

1.売掛金回収状況の可視化と管理

売掛金の回収不能に陥らないためには、売掛金の入金状況を可視化して、入金の遅延にすぐに対応できる体制を築いておくことが大切です。会計システムなどを利用して、取引先別の売掛金の発生や回収に関する情報を記録するとよいでしょう。入金遅延が発覚した場合、即座に相手側の担当者に連絡して遅延の理由と入金予定日を確認することが確実な売掛金回収に向けた最初のステップとなります。

2.信用調査・与信限度枠の設定

売掛金を確実に回収するためには、取引先の財務状況等の信用調査や与信限度枠の設定などの管理も重要です。営業活動の中で新規取引先の獲得に注力しすぎて信用調査や与信限度枠の管理を疎かにすると、支払能力の低い取引先に商品やサービスを提供して売掛金の回収が困難になるというリスクがあります。
営業担当者を対象とした売掛金回収に関する教育を実施し、売掛金回収の重要性を意識した営業活動を目指すことも大切です。

まとめ

今回は、売掛金を回収するための法的手段、内容証明の送付方法、支払督促の手続、仮差押えの手順、売掛金の時効、回収不能に陥らないための予防策などについて解説しました。

取引先の財務状況が悪化して売掛金の入金が遅れている場合、確実に回収するためには、迅速に法的な手段を講じることが大切です。そのためには法的根拠に基づく正当な主張が必要となります。

確実かつ迅速に売掛金を回収するためには、速やかに法律の専門家に債権回収の代行を依頼することをおすすめします。

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