収納代行の一部が改正資金決済法の規制対象に!シェアリングエコノミー、CtoCへの影響は?
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記事目次
「収納代行が資金決済法の規制対象になったと聞いたけれど、シェアリングエコノミー業界も影響を受けるって本当?」
「割り勘アプリなどの個人間送金サービスが資金決済法の規制対象とされたのはなぜ?」
そのような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
2020年の資金決済法改正に先立って行われた金融制度スタディ・グループによる議論では、全ての収納代行を一律に規制対象とするという方向性が示されたこともありましたが、最終的には、実質的に個人間送金に該当する一部のサービスのみが資金移動業として改正資金決済法の規制対象となりました。
今回は、収納代行サービスの定義と具体例、2020年の資金決済法改正により収納代行の一部が資金移動業として規制対象とされた経緯、割り勘アプリが規制対象とされた理由、エスクロー決済サービスが規制対象外とされた理由、収納代行に対する法規制の今後の動向などについて解説します。
収納代行サービスの定義と具体例
収納代行サービスについて漠然と理解しているものの、どのようなサービスを意味するのか正確に理解しているか自信がないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回のメインテーマについて理解するための前提となる収納サービスの定義や具体的なサービスの事例について説明します。
1.収納代行サービスとは
収納代行サービスは、債務者が商品の購入やサービスへの対価の支払いをする際に、第三者が債権者の代理として債務者から代金を受領するサービスのことをいいます。収納代行サービスを提供する事業者は、債権者である販売店などから代金の代理受領権を委託されています。
収納代行サービスを利用することで、債権者と債務者が直接代金の受け渡しを行う場合と比較して、双方に以下のようなメリットがあります。
- 債権者:集金業務の負担や未回収リスクが軽減される
- 債務者:支払い方法を選択できる、24時間支払いができる等支払いの利便性が高まる
2.収納代行サービスの具体例
収納代行サービスは、現代人の生活における様々な場面で便利な決済システムとして活用されています。代表的な例として、以下のようなものが挙げられます。
- バーコード付き払込票を使用した公共料金やネットショップ利用代金のコンビニ払い
- フリマアプリ、シェアリングエコノミーサービス等のCtoC(個人間取引)において利用者間のトラブル防止とスムーズな決済のために利用されているエスクロー決済
- 割り勘アプリ、投げ銭サービス等の個人間送金サービス
収納代行の一部が改正資金決済法の規制対象に
収納代行サービスは従来、資金決済法による規制の対象外とされていましたが、2020年の法改正により、収納代行の一部が規制対象となりました。資金決済法の概要、規制対象の資金移動業に課されている義務、収納代行の一部が規制対象とされた経緯などについて説明します。
1.資金決済法とは
資金決済法は、国や銀行に独占されてきた決済システムの一部を民間企業に開放しようとする規制緩和の流れで、2009年に制定(2010年に施行)された法律です。資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的としており、日本国内における資金決済ビジネスの健全な発展を支える役割を担っています。
資金決済法の誕生により、民間企業が資金移動業者として登録を受けることで、1回につき100万円を上限とした資金移動業を行うことが可能になったため、フィンテック企業をはじめとした幅広い業種の企業が資金移動業に参入しました。
2.規制対象の資金移動業に課される厳しい義務
資金決済法により、民間企業が資金移動業を行うことが可能になりましたが、資金移動業者は、従来、銀行のみが取り扱ってきた為替取引を行うため、事前に内閣総理大臣の登録を受けることが求められます。また、利用者保護のために、以下のような義務も課されます。
- 利用者から預かった資金と同額以上の額を供託等によって保全する義務(資金決済法第43条)
- 取引時の本人確認を行う義務(犯罪収益移転防止法第2条2項30号)
資金移動業者は、犯罪収益移転防止法における特定事業者に該当するため、犯罪収益移転防止法に規定された義務も負うことになります。
資金移動業者には、このような厳しい義務が課されるため、中小企業やベンチャー企業にとっては参入障壁が非常に高いといえます。そのため、資金移動業に該当することを回避するためのビジネススキームとして、資金移動業と類似したスキームである収納代行が採用されるケースもありました。
3.収納代行が資金移動業に該当しないとされていた理由
収納代行は2009年の資金決済法の制定当時は、資金移動業に該当しないとされましたが、実は当時から、「収納代行は資金移動業に該当するのではないか」、「資金決済法により資金移動業として規制すべきではないか」「利用者に二重払いのリスクがあるのではないか」などという指摘はありました。
しかし、利用者が代金を支払った時点で代金債務が決済されるという理由から、二重払いのリスクは否定されました。また、社会的に重大な問題が発生していないことから、性急に制度整備を図る必要はなく、将来の課題とすることが適当と判断され、収納代行は資金決済法による規制対象外とされました。
4.法改正により収納代行が規制対象となった経緯
2009年の資金決済法の制定当時、収納代行に関する議論は、主にコンビニの収納代行や運送業者による代金引換を念頭に行われていましたが、その後、スマートフォンの普及やIT技術の進化により、新しいタイプのサービスが続々と誕生しました。中には、割り勘アプリや投げ銭サービスなど実質的に個人間送金を行うことができるサービスや、収納代行というスキームを採用しながら事実上の送金ビジネスを提供する企業等も出現し、再び、収納代行に対する規制の必要性について見直しを行う必要が生じました。
また、異業種から金融サービスへ参入する企業も増え、従来の業態別の金融規制では十分に規律できない可能性が高まったことから、2017年、金融を取り巻く環境変化を踏まえた金融制度のあり方について検討することを目的とし、金融審議会は金融制度スタディ・グループを設置しました。
同グループがまとめた「『決済』法制及び金融サービス仲介法制に係る制度整備についての報告≪基本的な考え方≫ (案)」には以下のような記載がありました。
“債権者が一般消費者である場合については、一般消費者が『収納代行』業者の信用リスクを負担することとなる。そのため、こうした『収納代行』については、利用者保護等の観点から、資金移動業として規制の対象とすることが適当である。”
この数行の記載は、シェアリングエコノミー業界を震撼させました。収納代行が資金移動業として資金決済法の規制対象となった場合、多くのシェアリングサービスが決済システムとして利用しているエスクロー決済が資金決済法の規制対象となり、資金移動業としての厳しい要件を満たせない事業者が一斉に淘汰される可能性もあるからです。
5.最終的にCtoCの一部のサービスが規制対象に
その後、金融制度スタディ・グループで慎重な議論が重ねられた結果、最終的には、全ての収納代行を一律に規制するのではなく、実質的に個人間送金に該当する一部のサービスのみが資金移動業として改正資金決済法の規制対象となることが決まりました。
ただし、個人間送金には該当しないもののCtoC(個人間取引)を対象とした収納代行については、今後、実態について把握した上で、資金移動業の規制の潜脱と評価されるか、きめ細かに検討していくことが重要だとされています。
割り勘アプリが規制対象とされた理由
割り勘アプリは、改正資金決済法の規制対象とされることが決まりました。割り勘アプリの機能や活用される場面、割り勘アプリが改正資金決済法の規制対象とされた理由について説明します。
1.割り勘アプリとは
割り勘アプリとは、複数人が集まる飲み会や食事会などで支払いをする際、参加者(債務者)が幹事(債権者)に対してオンラインで送金することにより、キャッシュレス決済を行うサービスです。現金で徴収する場合、計算間違いや集金漏れが発生するなどのトラブルが発生することも珍しくありませんが、割り勘アプリを使用することによりトラブルを回避し、スムーズな決済が可能となります。
2.改正資金決済法の規制対象とされた理由
割り勘アプリは、実質的に個人間送金に該当するサービスとして、改正資金決済法の規制対象となることが決まりました。規制対象とされた主な理由として、以下の2点が挙げられます。
- 送金機能に特化したサービスであり、資金移動業と同視できる
- サービスを提供する事業者が破綻した場合、債権者・債務者双方が損害を被るおそれがあり、利用者保護を確保する必要性が高い
改正資金決済法では、資金移動業が3つの種類に分類されて、送金額に応じた規制が整備されました。少額の送金のみを取り扱う割り勘アプリや投げ銭サービスのような個人間送金サービスは第三種資金移動業に分類されるため、サービスを提供する企業は、改正前から規制されていた類型と比較すると、より軽い負担でサービスを提供することができます。
エスクロー決済サービスが規制対象外とされた理由
エスクロー決済サービスについても、改正資金決済法の規制対象とすべきではないかという議論はありましたが、最終的には規制対象外とされました。エスクロー決済サービスの役割、改正資金決済法の規制対象から外された理由について説明します。
1.エスクロー決済サービスとは
エスクロー決済サービスは、物品やサービスの売買を行う際に、第三者が決済を仲介することにより、取引の安全性を保証するサービスをいいます。ネットオークション、フリマアプリ、クラウドソーシング、シェアリングエコノミーサービス等のCtoC(個人間取引)で安全な取引を保証する役割を果たしています。
個人間取引では、取引相手は見ず知らずの個人なので、「商品は本当に提供されるのだろうか?」「サービスを提供しても対価が支払われないこともあるのでは?」等の不安がつきものです。エスクロー決済サービスを利用することにより、このような個人間取引の不安を解消することが可能です。
2.規制対象から外された理由
エスクロー決済サービスは、割り勘アプリなどの送金機能に特化したサービスとは違い、個人間の物品やサービスの売買における取引当事者の安全性を保証するためのサービスです。サービス自体が利用者保護を確保することを目的としているため、利用者保護の観点から法規制をする必要性は低いのではないかと指摘する声もありました。
また、現段階で、エスクロー決済サービスを提供する事業者の破綻等、社会的・経済的に重大な問題とされるような被害が発生していないことも、規制対象から外された理由の一つです。
収納代行に対する法規制の今後の動向
今回の法改正では、収納代行のうち、実質的に個人間送金に該当する一部のサービスのみが資金移動業として資金決済法で規制されることになりましたが、今後、規制対象が拡大する可能性はあるのでしょうか。収納代行に対する法規制の今後の動向について説明します。
1.将来、資金決済法の規制対象が拡大する可能性は?
前述の通り、2020年の資金移動業改正では、実質的に個人間送金に該当する一部のサービスのみが資金移動業として資金決済法で規制されることが決まりましたが、決定までの過程では、収納代行を一律で規制すべきとの議論もありました。
金融審議会は、収納代行に関連するサービスを取り巻く環境の変化を踏まえた上で、「それぞれのサービスの機能や実態に着目した上で、為替取引に関する規制を適用する必要性の有無を判断していくことが適当と考えられる」としています。つまり、今後も決済サービスの機能や実態を把握した上で、必要に応じてさらなる法規制が整備される可能性があるということです。
2.基準は利用者保護の観点
規制の必要性を判断する重要な基準の一つとして、適切な利用者保護が図られているかという点が挙げられます。金融制度スタディ・グループの議論の中でも、「利用者保護」「消費者の安全・安心」というワードが頻繁に用いられています。
今回は規制対象外とされたエスクロー決済サービスや今後新しく誕生するサービスのうち、適切な利用者保護が図られていないサービス、一般の利用者が損害を被る等のトラブルが発生したサービスについては、将来的には規制の対象となる可能性が特に高いといえるでしょう。
まとめ
今回は、収納代行サービスの定義と具体例、2020年の資金決済法改正により収納代行の一部が資金移動業として規制対象とされた経緯、割り勘アプリが規制対象とされた理由、エスクロー決済サービスが規制対象外とされた理由、収納代行に対する法規制の今後の動向などについて解説しました。
将来的な法改正に備えるためには、利用者保護の観点から自社のサービスを入念にチェックすることが大切です。
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