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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

資金決済法2020年改正で資金移動業が3種類に!第一種・第三種新設による影響は?

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2020年6月5日、資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」という。)の改正を含む「金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」が成立しました。今回の改正では、顧客の潜在ニーズや既存の資金移動業者の実情等を踏まえて資金移動業が3つの種類に分類されたことにより、新しいサービスが誕生する可能性が広がり、各方面から注目を集めています。

今回は、資金決済法の規制対象である資金移動業の概要、資金決済法の改正により資金移動業が3つの種類に分類された理由、第一種から第三種までの各資金移動業の送金可能額の上限や規制内容、第一種資金移動業と第三種資金移動業の新設による影響などについて解説します。

資金移動業とは

資金移動業は、国や銀行の独占業務とされていた決済システムの一部を民間企業に広く開放すること等を目的として2009年6月に成立した資金決済法により誕生した業種です。資金決済法では、以下のように定義されています(同法第2条2項3項)。
「銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むこと」
為替取引について、現時点で法律上の定義は存在しませんが、以下のように解されています。
「顧客から、隔地者間(離れた場所)で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」(最高裁判所平成13年3月12日決定)
上記の定義からは具体的にイメージしづらいかもしれませんが、要するに、現金の受け渡し以外の方法で決済を行うことです。近年、急速に利用者が増えているPayPay(ペイペイ)やLINEペイも資金移動業者です。キャッシュレス化が進む中、資金移動業者数や資金移動業者が取り扱う送金件数は、資金決済法の制定以降、右肩上がりに増加しています。

資金決済法の2020年改正で3種類に分類

従来の資金決済法では、資金移動業者が取り扱うことができるのは1回あたりの金額が100万円に相当する金額以下の送金に限定されていました。しかし、2020年の改正では、資金移動業が3つの種類に分類され、送金可能額の上限がない第一種資金移動業も誕生しました。2020年の改正で資金移動業が3つの種類に分類された理由や3つの種類の違いについて説明します。

1.3つの種類に分類された理由

2020年の改正により資金移動業が3つの種類に分類された背景には、日本国内でキャッシュレス化が急速に進み、資金決済法が成立した2009年当時よりも顧客ニーズが多様化したことがあります。
海外送金や企業間の決済等で100万円を超える高額送金を手軽に行いたいというニーズが存在する一方で、既存の資金移動業者が取り扱っている送金額は1件あたり1万円未満のものが約7割を占めているという実態がありました。そこで、多様な顧客ニーズに応えた利便性の高い送金サービスの誕生を促進するために、送金額に応じた規制が整備されることになったのです。

2.第一種から第三種までの資金移動業の違い

2020年の改正で、資金移動業は第一種から第三種までの3種類に分類されました。第一種から第三種までは、送金可能な金額の上限が異なり、上限額に応じた異なる規制が課されています
第一種から第三種までの送金可能な金額の上限と規制の概要を表にまとめてみました。

資金移動業の種類 送金可能な金額の上限 規制の概要
第一種資金移動業 上限なし 認可制・高額送金にはリスクが伴うことから厳しい要件が課される
第二種資金移動業 1回あたり100万円未満 登録制・法改正前とほぼ同じ要件が課される
第三種資金移動業 数万円程度(政令で指定) 登録制・規制緩和により従来よりも負担の少ない規制が課される

第一種から第三種までの資金移動業の定義や具体的な規制の内容について、さらに詳しく説明します。

第一種資金移動業の送金可能額の上限と規制

第一種資金移動業は、100万円を超える高額送金のニーズに応えるために、2020年の法改正で新たに創設された類型です。改正資金決済法では、以下のように定められています。
「資金移動業のうち、第二種資金移動業及び第三種資金移動業以外のものをいう」(同法第36条の2第1項)
第一種資金移動業が取り扱うことが可能な送金額や規制の内容について説明します。

1.送金可能額の上限がなく100万円以上の送金も可能

第一種資金移動業が取り扱う送金限度額は定められておらず、100万円以上の高額送金を取り扱うことが認められています。だだし、各事業者が送金可能額の上限を定めることも可能です。

2.内閣総理大臣の認可を受ける必要あり

第一種資金移動業については、高額送金の取り扱いに伴うマネーロンダリング等のリスクを踏まえ、従来の登録制よりも厳しい認可制が採用されました。具体的には、業務実施計画を定めた上で、内閣総理大臣の認可を受けなければならないとされています(改正資金決済法第40条の2第1項)。業務実施計画には、犯罪による収益の移転防止やテロに対する資金供与の防止等を確保するために必要な体制に関する事項等を記載することが求められています。

3.厳しい滞留規制

高額送金を取り扱う第一種資金移動業が破綻した場合、利用者は多大な損害を被るおそれがあります。そのようなリスクを回避するために、第一種資金移動業には、厳しい滞留規制が課されています。
具体的には、送金額や送金日など具体的な送金指図を伴わない資金を受け入れること、資金移動に必要とされる期間を超えて資金を滞留させることが禁止されています(改正資金決済法第第51条の2)。

第二種資金移動業の送金可能額の上限と規制

第二種資金移動業は、改正前の資金決済法で定められていた資金移動業とほぼ同等の扱いで、改正資金決済法では、以下のように定められています。
「資金移動業のうち、少額として政令で定める額(100万円)以下の資金の移動に係る為替取引のみを業として営むこと(第三種資金移動業を除く。)をいう」(同法第36条の2第2項)
取り扱い金額の上限は改正前と同じですが、改正により新たな規制が加わりました。第二種資金移動業が取り扱うことが可能な送金額や規制の内容について説明します。

1.100万円以下の送金が可能

第二種資金移動業は従来の資金移動業をそのまま引き継ぐ形になるため、送金額の上限100万円以下という制限についても変更はありません。既に資金移動業の登録を受けている事業者は、第二種資金移動業を営む資金移動業者として登録を受けたとみなされることになります。

2.資金の滞留規制が追加に

第二種資金移動業を営むには、従来と同様に内閣総理大臣の登録を受けることが求められます。また、従来の規制と同様に、要履行保証額(送金途上にある滞留資金の相当額)を供託・信託する、または銀行との保全契約を締結することも求められています。
また、改正後の新たな規制として、資金の滞留を防止するために、利用者から受け入れる資金のうち為替取引に用いることがないと認められるものを保有しないための措置を講ずることが求められます(改正資金決済法第51条)。

第三種資金移動業の送金可能額の上限と規制

第三種資金移動業は、数万円程度までの少額送金に特化したサービスを提供する事業者に対する規制を緩和するために新たに創設されました。改正資金決済法では、以下のように定められています。
「資金移動業のうち、特に少額として政令で定める額以下の資金の移動に係る為替取引のみを業として営むことをいう」(同法第36条の2第3項)
第三種資金移動業が取り扱うことが可能な送金額や規制の内容について説明します。

1.数万円程度までの少額送金に特化

第三種資金移動業が取り扱い可能な送金金額の上限は数万円程度に限られています。具体的な上限額については政令で指定されるとされていますが、5万円程度と考えられています。

今回の改正により、収納代行スキームを採用していても実質的に個人間送金サービスに該当する場合には資金移動業として資金決済法による規制を受けることになりましたが、少額の送金のみを取り扱う割り勘アプリや投げ銭サービスのような個人間送金サービスは第三種に分類されることになります。

2.資産保全義務は緩和

第三種資金移動業を営むには、第二種と同様に内閣総理大臣の登録を受けることが求められますが、取り扱い可能な送金金額が少額に限定されていることから、資金の保全義務に関する規制は緩和されました。
具体的には、利用者から預かった資金について、供託・信託等の従来からの資金保全方法に代わり、自己資金と分別した金融機関の預貯金により管理することが新たに認められました(改正資金決済法第45条の2)。ただし、預貯金による管理を選択した場合は、公認会計士や監査法人等による外部監査が義務付けられています。このように規制緩和されたのは、各利用者の送金額が少額に限定されるため、リスクも限定的であり、高額送金を扱う事業者と同レベルの資金保全は不要であると判断されたためです。

2020年度法改正がビジネスや経済活動に及ぼす影響

今回の資金決済法改正は、日本のビジネスや経済にどのような影響を及ぼすのでしょうか。想定される影響や期待される効果などについて説明します。

1.高額送金が可能な第一種資金移動業新設による影響

今回の法改正で送金額に上限がない第一種資金移動業が新設されたことにより、新しいサービスの展開が期待されている分野の一つが海外送金です。
2020年12月、ローソン銀行は、資金移動業者のウニードスとATMサービスを提携し、全国のローソン店舗に設置している銀行ATMでウニードスが提供する海外送金サービス「キョウダイレミッタンス」の取り扱いを開始し、話題になりました。「キョウダイレミッタンス」は日本で就労する外国人の郷里送金等のニーズに応えるために2010年6月に開始したサービスで、世界200以上の国や地域に対して、1回あたり100万円を上限とした送金が可能です。ローソン銀行のATMサービスと提携する前の2020年11月時点で、累計送金取扱件数は530万件を超えていたそうです。グローバル化が進む中、利便性の高い海外送金サービスの需要は将来的にも拡大することが想定されるため、今後もフィンテック企業などをはじめとした新たな企業の参入が増えるのではないでしょうか。
また、高額送金が可能となったことから、企業間の資金決済など法人間送金をターゲットとした利便性の高い新サービスの誕生も期待されています。

2.規制緩和された第三種資金移動業新設による影響

改正前は、全ての資金移動業者に対して、送金途中の金額全額相当額を供託しなければない等の厳格な要件が課されていたため、十分な資金力を持つとはいえないベンチャー企業や中小企業が参入するにはハードルが高すぎることが問題視されていました。しかし、今回の法改正で、規制緩和された第三種資金移動業が創設されたことにより、少額送金を取り扱う資金移動業に参入するハードルが低くなりました。そのため、エールマネー(応援金)や寄付金の送金とメッセージ機能等を連携したサービス、離れて暮らすお孫さんなどにお小遣いやお年玉を手軽に送れるサービスなど、ユニークなビジネスアイデアを持つベンチャー企業や中小企業の参入が増加し、市場全体が活性化されることが期待されています。

まとめ

今回は、資金決済法の規制対象である資金移動業の概要、資金決済法の改正により資金移動業が3つの種類に分類された理由、第一種から第三種までの各資金移動業の送金可能額の上限や規制内容、第一種資金移動業と第三種資金移動業の新設による影響などについて解説しました。

今回の法改正と直接的な関係はありませんが、2021年春から、政府は給与のデジタル払いを解禁する方針であることが報道されました。資金移動業者が発行するペイロールカード(給与支払いのためのプリペイドカード)に振り込む方式が認められる可能性もあります。ペイロールカードは米国等の諸外国では既に普及していますが、日本でもペイロールカードの普及が進むことにより、キャッシュレス決済の普及がさらに加速するのではないかと期待されています。

資金決済法改正やペイロールカードの普及により、多くの企業が決済サービスに参入することが期待される一方で、利用者保護の確保などの安全面に課題が残るという指摘もあります。将来、さらに厳しい規制が課される可能性もあるので、今後の法規制の動向を注視しておくことをおすすめします。

東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。改正資金決済法や関連する法規制に則ったビジネスモデルの検証等に関するご相談にも数多く対応しておりますので、お気軽にご連絡をいただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社