不正競争防止法の概要と罰則|改正による保護対象の拡大についても解説
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「他社の人気商品と形状が似た商品を新商品として発売したいが法律上問題ないだろうか」
「飲み屋でうっかり社内の営業秘密に関する話をしてしまったが大丈夫だろうか」
このような疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。これらの疑問は、法律的には、不正競争防止法に関する問題です。
不正競争防止法は、昨今の情報のデータ化や多様化を反映して2018年に法改正されたことにより、対応範囲が広がりました。それだけに、対応に苦慮される方も少なくありません。
今回は、不正競争防止法の概要、法改正の内容、不正競争防止法違反になる具体的な事例、違反した場合の罰則などについて解説します。
不正競争防止法の概要
不正競争防止法は、事業者間の公正な競争を妨げる一定の行為を禁止することで適正な競争を維持し、公正な市場を確保することを目的とした法律です。
不正競争防止法では、事業者間の公正な競争を妨げる一定の行為を「不正競争行為」と定義され、不正競争行為が行われた場合は差止請求や損害賠償請求権ができること、及び重大な違反行為に対しては刑事罰が適用されることが規定されています。意匠登録等をしていなくても差止請求ができるなど、柔軟な対応を可能としている点も特徴の一つです。
不正競争防止法の改正点
2018年に不正競争防止法が改正され、データの保護が重視される内容になりました。主な改正点について説明します。
1.データの不正取得等に対する措置の強化
ID・パスワードなどの技術的な管理を施して特定の人に限定的に提供され、商業的価値が認められるデータを「限定提供データ」とし、これを不正に取得・使用等する行為を、新たに不正競争行為としました。また、限定提供データの不正取得等に対しては、差止請求権と損害賠償請求の民事措置が可能になりました。
2.技術的制限手段保護の強化
技術的制限手段(音楽、映像、写真、ゲーム等のコンテンツの不正視聴や不正記録を防止するための手段)についての規制に関して、改正前は、法の保護対象が映像やプログラムに限られていましたが、法改正により保護対象に「(電磁的記録に記録された)情報」が含まれることになりました。
また、規制対象になるのは、技術的制限手段を無効化する装置やプログラムの提供行為でした。しかし、技術的制限手段を無効化する装置やプログラムの提供行為等に加え、技術的制限手段無効化装置等に改造するサービス、技術的制限手段の無効化等を代行するサービス等の提供行為が増加している背景を踏まえ、技術的制限手段を無効化する役務の提供行為が不正競争に追加されました。
さらに、技術的制限手段を無効化する機能を有する不正なシリアルコード等がネットオークションで販売されている等の実態を踏まえ、技術的制限手段を無効化する指令符号の提供行為が不正競争に追加されました。
警察の摘発を受けた事例
改正後は、ゲームソフトに関連する問題が多発しました。警察の摘発を受けた事例もあります。
2019年7月、ゲームソフトのセーブデータの改造代行をしていた男性らが、不正競争防止法違反の容疑で警察に摘発されたニュースを記憶されている方もいらっしゃるかもしれません。男性らは、ネットオークション等で自らのスキルを出品し、購入者のセーブデータの改造代行を行い、ゲームソフトに設定された技術的制限手段(音楽・映画・ゲームソフト等のコンテンツの無断コピーや無断視聴を防止する技術)を回避するサービスを提供していました。
これらの行為は、2018年の不正競争防止法の改正により、保護対象が情報(ここでいうセーブデータ)に拡大され、規制行為も技術的制限手段の効果を妨げる指令やサービスの提供等(セーブデータの改ざん)も含むようになったため、違法とされたものです。
不正競争防止法違反になる具体例
不正競争防止法によって禁止される不正競争行為の事例について、裁判例を交えながら説明します。
1.混同惹起行為
混同惹起行為とは、一般に周知されている商品の商品名やパッケージに似せた自社商品を販売し、消費者が認知度の高い商品だと勘違いして購入することを促す行為をいいます。過去の裁判例では、有名なソニーのウォークマンと同一の表示を包装紙や看板に商号として使用した有限会社ウォークマンに対して、表示の使用禁止や商号の抹消請求が認められたケースがあります(千葉地方裁判所平成8年4月17日判決)。
2.著名な商品等表示の冒用行為
冒用行為とは、著名な商品の商品名を、自社の商品やサービス名として利用する行為をいいます。裁判では、有名ブランドのシャネルが千葉の飲食店「スナックシャネル」を不正競争防止法違反で訴えた事件で、「スナックシャネル」の名称の使用が認められなかったケースがあります(最高裁判所平成10年9月10日判決)。
3.他人の商品の形態等を模倣した商品を提供する行為
他社の商品の形態を模倣した商品を販売する行為も不正競争防止法違反となります。過去には、ヒットした卵型ゲーム機のデザインを模倣した商品を輸入・販売した業者に対して、商品の輸入販売の差し止め、廃棄、損害賠償が認められた裁判例があります(東京高等裁判所平成10年7月16日判決)。
4.営業秘密の侵害行為
顧客情報や技術、ノウハウ等の営業秘密を不正に取得する営業秘密の侵害行為も不正競争防止法違反となります。ただし、営業秘密として保護される情報は、以下の3つの条件をすべて満たすものに限られます。
- 秘密として管理されている
- 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報である
- 公に知られていない
秘密として管理されているという条件については、会社が当該情報を秘密として管理していることだけではなく、秘密情報を扱う従業員や取引先もそのことを認識していることが必要です。
5.技術的制限手段に対する不正行為
音楽・映画・ゲームソフト・ビジネスソフト等のコンテンツの無断コピー・無断視聴を防ぐ技術を無効化する行為や、効果を阻害する機器やプログラムを提供する行為なども不正競争防止法違反となります。前述したゲームソフトのセーブデータ改造代行事件が該当します。
6.ドメイン名の不正取得行為
他人に損害を与える、不正な利益を得る等の目的で、他者 と類似したドメインを取得する行為も不正競争防止法違反となります。具体的な事例として、既存の有名なドメインに似せたアダルトサイト等の立ち上げが挙げられます。
7.品質内容等の誤認を招く行為
商品やサービスの品質や産地等について、消費者に誤解を生じさせる表示をする行為も不正競争防止法違反となります。商品やサービス名の表示、容器、包装、説明書等への表示や広告、注文書等の取引書類や電話、メールも含みます。過去の事例では、アルコール度数等の基準がみりんに満たない調味料を「本みりんタイプ調味料」としてラベルに表示していた商品が、品質内容等の誤認惹起行為にあたるとして、容器の廃棄と販売の差し止めが認められた裁判例があります(京都地方裁判所平成2年4月25日判決)。
8.信用を害する行為
顧客や取引相手が共通する可能性がある相手(競争関係にある相手)の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為、あるいは広める行為も不正競争防止法違反となる可能性があります。相手は特定の個人か団体であれば足りますが、特定の業界全体のような広範囲な場合は該当しません。行為の結果として相手の信用が低下する等の実害を与えることまでは求められません。
不正競争行為の適用除外
不正競争行為の適用対象から除外されるケースについて説明します。
1.普通名称・慣用商標の使用
普通名称とは、一般的に使われている名称をいい、慣用商用とは、他人の商品やサービスが同業者間で広まり一般化されるようになった名称をいいます。前者の例としては「スマホ」「ドーナツ」「フライパン」等、後者の例としては「羽二重餅(餅菓子)」「政宗(清酒)」等があります。
2.自己氏名
不正を目的としない自分の氏名の使用は不正競争行為には該当しません。例えば、同じ町内において、同じ苗字の医者が「田中クリニック」「高橋医院」等、苗字を掲げたクリニックを開設するような場合です。
3.先使用
他人の商品やサービスが社会的に知られる前から、同一・類似の表示を使用していた場合も不正競争行為には該当しません。
4.形態模倣商品の善意取得者
他人の商品の形態を模倣した商品を、故意・重過失なく譲り受けた者が、その商品を他人に譲渡等をした場合は不正競争行為にあたりません。
5.営業秘密に関する例外
不正開示行為ではない、または不正開示行為であっても、故意・重過失がない者が、その取引で取得した権限の範囲内において営業秘密を使用または開示する行為は、不正競争行為にあたりません。
不正競争防止法違反が認められた場合の効果や罰則
不正競争防止法違反の行為が発生した場合、民事上と刑事上の2つの効果が生じます。民事上の効果としては違反者(加害者)への状況改善(差止など)と損害回復(損賠賠償及び信用回復措置)、刑事上の効果として違反者への罰則があります。
1.民事上の効果
不正競争行為が行われた場合に、被害者が加害者に対して取りうる民事上の効果として、差止請求、損害賠償請求、信用回復措置請求の3つの手段が考えられます。
①差止請求
不正競争行為によって、営業上の利益を侵害された場合、あるいは侵害されるおそれがある場合、侵害の停止または予防を「差止請求」として請求できます(不正競争防止法第3条第1項)。
なお、差止請求と同時に、侵害行為から生じた物や、侵害行為に利用した設備の廃棄を求めるなど「廃棄請求」を行うことにより、侵害行為の差止請求を具体化することが可能です。
②損害賠償請求
加害者が、故意または過失により不正競争を行い、被害者の営業上の利益を侵害した場合は、加害者は損害賠償責任を負います(同法第4条)。損害賠償請求では、請求する被害者側が損害額を立証するのが原則ですが、不正競争防止法違反の場合、取引の性質から損害額の立証が困難な場合があります。そこで、法律では、一定の不正競争行為について、加害者が利益を得た額を損害額と推定するなど、立証責任が軽減されています(同法第5条)。
③信用回復措置請求
加害者の不正競争行為によって営業上の信用を害された被害者は、加害者に対して、信用を回復するために必要な措置を請求できます(同法第14条)。具体的には、新聞やホームページへの謝罪広告の掲載や、取引先への謝罪文の送付などが考えられます。
2.刑事上の罰則
不正競争行為の中でも違法性が高い行為に対しては刑事罰が科される可能性があります。個人に対する罰則、法人に対する罰則について説明します。
①個人に対する刑事罰
- 営業秘密侵害罪(不正競争防止法第21条第1項)
自分や第三者の利益を図る行為、あるいは他人に損害を与える目的で詐欺的な行為や任務違背行為等で営業秘密を不正に取得する行為、及び不正に取得した営業秘密を使用・開示する行為などに対しては、10年以下の懲役又は2,000万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
- その他の罪(同法第21条第2項)
不正の目的で、営業秘密侵害以外の不正競争行為を行った場合、秘密保持命令違反、外国国旗等を商業的に使用(同法第16条、17条)、外国公務員に贈賄行為をした場合(同法第18条1項)は、5年以下の懲役又は500万円以下の罰金またはこれらが併科されます。
②事業主に対する刑事罰
法人の代表者、法人の代理人、及び従業者などが、業務に関して営業秘密侵害罪に当たる行為をした場合、行為者個人に対する刑事罰に加え、法人に対しても罰金刑が科されます(同法第22条第1項)。このように、従業員が事業活動の一環として違法行為をした場合に、法人も処罰される規定を両罰規定と言います。
まとめ
今回は、不正競争防止法の概要、法改正の内容、不正競争防止法違反になる具体的な事例、違反した場合の罰則などについて解説しました。
昨今、情報のデータ化が進み、不正競争防止法で問題になる行為も多様化しています。業務の拡大や商品・サービスを開発する中で、自社や従業員の行為が知らないうちに不正競争行為に該当している可能性もあります。また、反対に自社の権利が侵害されているかもしれません。それだけに、どのような行為が不正競争防止法で規制されるのか、最新の法令や判例をキャッチアップし、自社の権利が侵害された場合にどのような救済措置がとれるのかを知っておくことは非常に大切です。万一、トラブルが発生した場合は、早急に専門家の助けを借りて対応をすることが、損失を最小限に食い止めることにつながります。
東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況に合ったサポートを提供しております。不正競争防止法に関するトラブルの対処法や、具体的にどのような行為が不正競争防止法に抵触するか、自社の権利は侵害されていないか等のご相談にも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。
- 得意分野
- 企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
- プロフィール
- 青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所