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更新日: 投稿日: 弁護士 森 哲宏

レピュテーションリスクの回避策~損失を最小限に抑えるためのポイントとは

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昨今、インターネットやSNSの急速な普及などに伴い、企業のレピュテーションリスクに対する意識が高まっています。しかし、一方で、「レピュテーションリスクと言われても、漠然としていて、具体的にどのようなリスクを意味するのかイメージできない」「レピュテーションリスク対策の必要性は感じているが、どのような対策をすればよいかわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、レピュテーションリスクの要因、レピュテーションリスクの顕在化による損失、レピュテーションリスクが顕在化した際の対処法、レピュテーションリスクの回避策などについて解説します。

レピュテーションリスクとは

レピュテーションリスク(reputation risk)とは、企業等に対するネガティブな評判が世間に広まることにより、社会的な信用やブランド価値等が低下し、経営上の損失を被るリスクのことをいいます。

昨今は、インターネットやSNSの急速な普及により、ネットやSNS上に企業の評価や評判が投稿される機会が急増しました。ネットやSNS上の情報は短時間で不特定多数の人に拡散される可能性もあり、時間が経過しても消えないケースもあります。ネットやSNS上に投稿された企業の悪評を放置すると、さらに拡散されて、被害が拡大するおそれもあります。そのため、企業がレピュテーションリスク対策を講じる必要性が高まっているといわれています。

レピュテーションリスクの要因

レピュテーションリスクが生じる要因としては、どのようなものがあるのでしょうか。具体的な事例を交えながら説明します。

1.企業の法令違反や不祥事の発覚

企業の法令違反や不祥事が発覚したことが、レピュテーションリスクの要因となる場合があります。特に、粉飾決算などの重大事実が顕在化すると、企業に対する社会的な信用や評価が大幅に失墜する場合も珍しくありません
実際、2011年に発覚し、重大な社会問題として注目されたオリンパスの不正会計事件により、オリンパスの株価は急落し、一時は上場廃止の危機に追い込まれました。オリンパスの不正会計事件では、バブル期の運用失敗により抱えた巨額の含み損を隠蔽するために、偽装した組織に含み損なしの額で売却する「飛ばし」と呼ばれる巧妙な手法を用いて、10年以上という長期間に渡り、組織ぐるみで損益を隠し続けてきたそうです。

2.従業員による不祥事の発覚

一人の従業員による不祥事が、レピュテーションリスクの要因となり、会社の経営に大きなダメージを与える可能性もあります。
2014年に、個人情報流出事件としてメディアに大きく取り上げられて注目を浴びたベネッセコーポレーションの顧客情報流出事件では、関連会社に勤務する一人の悪意ある派遣社員の犯行により、企業の信用は大きく損なわれ、ベネッセコーポレーションは顧客離れによる経営不振に陥りました。

3.元従業員による誹謗中傷

退職した元従業員がSNSや転職情報サイトなどに、会社の悪評を投稿することにより、レピュテーションリスクが発生する場合もあります。「サービス残業は当たり前だった」、「モラハラ上司にメンタルをやられて退職する社員が続出していた」などという元従業員の投稿が拡散されると、内容の真偽に関わらず、企業イメージの悪化を招きます。

4.一般消費者等による風評被害

一般消費者などによる風評被害が、レピュテーションリスクの要因となる場合もあります。風評被害とは、根拠のない噂や評判が広まることにより受ける被害のことをいいます。
新型コロナウイルスが猛威を振るった2020年には、特定の企業や飲食店などで「新型コロナウイルス陽性者が出た」という情報がSNSで拡散されたことによる風評被害が多発しました。被害を受けた企業や飲食店の中には、問合せや苦情の電話が殺到した、予約のキャンセルが相次いだなど、深刻な被害を受けたケースも少なくなかったようです。

レピュテーションリスクの顕在化による損失

レピュテーションリスクが顕在化すると、企業は大きな損失を被るおそれもあります。具体的にどのような損失を被る可能性があるのか説明します。

1.社会的信用の低下

レピュテーションリスクが顕在化すると、企業の社会的信用が失われます。そのため、取引先から取引を停止されることも少なくありません。重要な取引先との取引が停止することにより、業務に支障が生じるおそれがあります。また、企業の社会的信用が失われると、入社希望者が著しく減少し、企業の採用活動が滞る可能性もあります。

2.顧客離れによる業績の悪化

一般的に、消費者は、商品やサービスの購入を判断する際、企業の評価や評判を参考にすることが多いです。そのため、レピュテーションリスクが顕在化して、企業の信用が失墜すると、急速に顧客離れが進み、業績が悪化することは珍しくありません。最悪の場合、倒産の危機に追い込まれるおそれもあります。

3.経済的損失

一般消費者がSNS上に投稿した情報が、単なる誹謗中傷ではなく事実である場合、企業はより多額の経済的な損失を負う可能性もあります。実際、2014年に、国内で人気の即席焼きそばの商品にゴキブリが混入していたとしてSNSに写真が投稿されたケースでは、投稿がネット上のニュースサイトに掲載されて以来、急速に拡散され、製造元の企業は、多額の経済的損失を負う事態に発展しました。製造元の企業は、商品の自主回収を行っただけではなく、長期に渡り生産を全面停止し、生産工程と設備を刷新したそうです。報道によると、それらの一連の対応による経済的負担は数十億に達する見込みとのことでした。

レピュテーションリスクが顕在化した際の対処法

風評被害が拡散されていることが判明したなど、レピュテーションリスクが顕在化した際は、早急に対処することが大切です。早急な対処により、被害の拡大を食い止められる可能性もあります。具体的な対処法について説明します。

1.公式サイト等で正しい情報を公表

事実無根の風評被害を受けた場合は、自社の公式サイトなどで、速やかに正しい情報を発信することが大切です。どのような経緯や理由により風評被害を受けたか等も、可能な範囲内で、できる限り詳しく記載するとよいでしょう。

2.発信者情報開示請求と削除要求

ネットやSNS上の誹謗中傷が拡散されたことにより、企業が損失を被った場合、名誉毀損等による損害賠償を請求できるケースもあります。しかし、ネットやSNS上の情報は匿名で投稿されることも多いため、誰が投稿した情報かわからないケースも多いです。

そのような場合に、投稿者を特定するためには、プロバイダ責任制限法(正式名称:特定電子通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)第4条の規程に基づく発信者情報開示手続により、プロバイダ等に対して、投稿者の住所、氏名、IPアドレスなどの情報開示を求めることが可能です。

ただし、発信者情報開示や投稿の削除要求に任意に応じてくれる業者は少ないのが現状です。任意で応じてもらえない場合、仮処分の申立てなどの法的措置を講じる必要がありますが、その場合は法律の専門知識が必要となるため、弁護士に相談することをおすすめします。

レピュテーションリスクの回避策

レピュテーションリスクが顕在化すると、時間と共に企業の悪評が広がる可能性があり、元の状態に戻すことは非常に難しいです。そのため、レピュテーションリスクは未然にできる限り回避することが望ましいでしょう。具体的な回避策について説明します。

1.従業員へのネットリテラシー教育

現代社会では、誰もが、ネットやSNSで情報発信をする機会が増え、それに伴い、不適切な内容の投稿による問題も多発しています。従業員の不適切な内容の投稿は、企業のレピュテーションリスクの要因になるので、リスクを最小限に抑えるためには、従業員に対するネットリテラシー教育を行うことが大切です。ネットリテラシーとは、インターネットやSNSの特性やリスクを十分に理解し、適切に活用する能力のことをいいます。
定期的に従業員に対するネットリテラシー教育を行うことにより、ネットやSNSで情報発信する際の心構え、情報が拡散された際の問題の重大性などに関する理解が深まります。
従業員が遵守すべきルールを事前に定めた,ソーシャルメディアポリシー(ガイドライン)を作成し,その内容を教育する方法も考えられます。

2.内部通報制度の整備

企業内で不正・不祥事が発生した場合、最初にその事実を知るのは従業員です。しかし、上司による不正を発見した従業員は、誰に報告するべきかわからず、見て見ぬふりをするかもしれません。また、ネットやSNS上に、匿名で不正の事実を投稿する可能性もあります。そのような事態を防ぎ、企業内の不正行為の早期発見・早期解決を図るために役立つのが内部通報制度です。内部通報制度とは、日常の業務の報告ルートとは全く別に、社内の不正行為を報告するための窓口を設けることをいいます。弁護士など社外の窓口を設けることも効果的です。
内部通報制度について詳しく知りたい方はこちらの記事を参考にしていただければと思います。

3.モニタリングツールの導入

ネットやSNS上に書き込まれた企業に対する誹謗中傷を長期間放置すると、不特定多数の人の目にさらされるリスクがあります。そのため、早期に発見して適切な対策を講じることが大切です。

そのためには、ネットやSNS上に投稿された情報のモニタリングが有効です。企業のレピュテーションリスクに対する意識が高まる中、最近は、レピュテーションリスク対策のための自動監視ツールが次々と発売されています。自動監視ツールを利用すると、システムが24時間・365日、ネットやSNS上に投稿された情報を自動でチェックし、リアルタイムにリスクを検知して、アラートメール等により担当者に通知してくれます。

まとめ

今回は、レピュテーションリスクの要因、レピュテーションリスクの顕在化による損失、レピュテーションリスクが顕在化した際の対処法、レピュテーションリスクの回避策などについて解説しました。

インターネットやSNSが普及した現代の社会では、企業のレピュテーションリスクをゼロにすることはほぼ不可能といえるかもしれません。しかし、適切な対策を行うことにより、最小限に抑えることは可能です。

東京スタートアップ法律事務所では、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しています。レピュテーションリスク対策やネット上の誹謗中傷等に関する相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士森 哲宏 第二東京弁護士会 登録番号52817
日常生活に関わる様々な問題に携わり、相談者の方と同じ目線に立って問題を解決することが大切であることを学ぶ。また、企業の法務部では、コンプライアンス関係の仕事を中心に担当。国内外のグループ会社において、様々な法分野に関する規程作り、モニタリング、教育研修など法令遵守のための体制作りに携わる。こうした経験を踏まえ、問題解決においては、相談者の方との密なコミュニケーションが何より大切だと考える。話しやすく親しみやすい弁護士であることをモットーにしている。
得意分野
借金・債務整理、遺産相続、交通事故等一般民事、人事労務問題、個人情報等企業法務一般
プロフィール
東京都出身 中央大学法学部 卒業 明治大学大学院法務研究科 修了 弁護士登録 都内法律事務所 入所 民間企業にて社内弁護士として執務 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社