創業株主間契約書の必要性と注意点・共同経営者間のトラブル回避に必要な視点とは
全国20拠点以上!安心の全国対応
記事目次
「友人と起業する際に創業株主間契約を結ぶ必要があると聞いたけれど、どのような契約なのかよくわからない」、「創業株主間契約を結ばなかった場合に、どのようなリスクがあるのか具体的にイメージできない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
今回は、創業株主間契約の必要性、契約書の主な項目と留意点、雛形を利用する際の注意点、共同経営者間のトラブル事例などについて解説します。
創業株主間契約とは
創業株主間契約は、特に友人や元同僚等と一緒に起業する際に締結されることが多いですが、創業時に複数人が株を所有する場合に、将来起こり得るリスクを軽減するために創業者時の株主間でする契約のことです。
創業株主間契約の主な目的は、創業時の株主の誰かが退職する際に、退職者が保有している株式を社長または会社に残る株主が買い取れる旨の合意すること、および創業者間の意見が一致しない場合の決定方法を決めることです。
創業株主間契約の必要性と意義
昔からの親友に声をかけて2人で起業する、学生時代の仲間が3人集まってベンチャー企業を立ち上げるなどというケースは多いかと思います。そのようなケースでは、付き合いも長くて十分な信頼関係が構築できている間柄なので、「私達は強い絆で結ばれているから契約なんて不要」と思われるかもしれません。しかし、信頼関係が十分と思われている場合でも創業株主間契約は必要です。創業株主間契約が必要な理由とその意義について説明します。
1.創業株主間契約が必要な理由
複数人が共同で起業した場合、途中で意見が対立して創業メンバーの誰かが辞めるというのはよくあることです。仲良しだった創業者の一人が考え方の相違により会社を去るのは、バンドを組んでいたメンバーの一人が音楽性の違いから脱退するようなものと思われるかもしれませんが、会社の株式を所有しているメンバーが退職する場合はバンドのように簡単に関係性を切れるわけではありません。なぜなら、退職したメンバーが所有する株式は、会社の重要な意思決定を行う際の議決権を伴うからです。議決権を伴う株式を所有したまま誰かが辞めてしまうと、会社は重要な意思決定ができなくなる可能性があるのです。そのため、創業メンバーが会社を退職する際に保有している株式を手放すことなどを予め合意しておくことは非常に重要です。
創業時に、創業メンバー全員が「私達は途中で意見が対立したとしても、ずっと一緒に会社を続けていくんだ」という強い意思を持っていたとしても、病気や事故、家族の事情などにより、退職を余儀なくされる可能性もあります。また、若い方でも病気や事故により、突然亡くなるという可能性はゼロではありません。
創業メンバー全員が5年後も10年後も協力し合って会社を発展させるというのは理想的ですが、理想通りにならないことの方が多いということの認識は必要です。創業したばかりのスタートアップやベンチャー企業はどんなに綿密な事業計画書を作成しても、事業計画通り順調に進むことは稀です。軌道修正が必要な場面で、創業メンバーの間で意見が対立して、メンバーが離脱することは珍しいことではありません。
2.リスクマネジメントの重要性を認識する
将来起こり得るリスクを想定して、可能な限りリスクを回避できるように合意するというのは契約の基本です。企業活動を営む上では、取引先等と契約を締結する機会は頻繁にあります。創業株主間契約は創業者が締結する最初の契約となる可能性が高いですが、創業株主間契約を通じて、将来のリスクを想定して可能な限り回避するというリスクマネジメントの基本的な考え方を学ぶことは、企業活動を営む上で非常に意味のあることです。
近年は非上場企業でも、コンプライアンス(法令遵守、広義では社会規範の遵守等を含む場合がある。)強化への取り組みが求められる時代です。創業間もない時期でも法的なトラブルに巻き込まれる可能性はあります。法的なトラブルに巻き込まれると、トラブル対応のために余計な時間と手間が取られ、ビジネスの成長の妨げになることもあります。
法的なトラブルを避けてビジネスを順調に進めるためにも、将来起こり得るリスクを予見して可能な限り回避するという視点を持つことは非常に大切なことなのです。
創業株主間契約前に必要な準備
創業株主間契約を締結する前に、まずは将来を見据えた資本政策を策定する必要があります。創業株主間契約を締結する前に必要な準備について説明します。
1.資本政策を策定する
創業株主間契約を締結する前に、創業メンバーの誰にどれだけの株式を分配するかという点を決める必要があります。前述の通り、株式は会社の重要な意思決定を行う際の議決権を伴い、原則として一株につき一議決権が与えられています(一株一議決権の原則:会社法第308条1項)。つまり、保有している株式の量に応じて、意思決定の際に自分の意見を通せるかどうかが決まるというわけです。そのため、創業メンバーに対して株式を分配する際は、持株比率を意識して慎重に決めなければなりません。
こちらは一般的に重要な分岐点とされている持株比率です。
- 3分の2超:株主総会の特別決議を単独で可決する権限(会社法第309条2項)
- 2分の1超:株主総会の普通決議を単独で可決する権限(会社法第309条1項)
- 3分の1超:株主総会の特別決議を単独で否決する権限
スタートアップやベンチャー企業は、成長ステージに合わせて複数回の投資を受けて資金調達を行うケースも少なくはありません。資金調達する際には、新しく株式を発行して投資家に渡すため、創業メンバーの持株比率が下がる(希薄化する)可能性があります。
例えば、創業時に、社長が2分の1超ぎりぎりの51%の株式を所有していたとします。その後、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けることになり新株を発行して割り当てると、社長の持株比率は51%未満になり、普通決議を単独で可決する権限を失います。
資本政策を策定する際は将来的な希薄化の可能性も考慮しつつ、重要な意思決定の妨げにならないよう配慮することが大切です。
2.投資家からアドバイスを受ける
スタートアップやベンチャー企業は、エンジェルと呼ばれる個人投資家やベンチャーキャピタルから出資を受けるケースが多いと思います。その場合、創業株主間契約を締結する前に、資金政策について必ず投資家に相談してアドバイスを受けるようにしましょう。ベンチャーキャピタルでは、ハンズオンと呼ばれる経営に直接参画するケースも多く、そのような場合には資本政策に関するアドバイスも受けられます。ハンズオンをしない場合でも、投資家は資本政策についての知識を持っていることが多く、過去の投資経験に基づき、リスクを軽減する方法について有益なアドバイスを提供してくれることがあります。
ただし、起業家と投資家の間で意見が対立する場合もあるので注意が必要です。例えば、3人で創業する際に、3人が等分に33.3%ずつ株式を所有したいと考えている場合、多くの投資家は反対すると思います。なぜなら、51%以上の株式を所有するメンバーが誰もいないことになり、株主総会の普通決議を単独で可決する権限を持つ者が存在しないため、意思決定がスムーズに進まない、場合によっては何も決められないというリスクがあるからです。意思決定がスムーズにできなければ、スピードが重要な創業期の企業の成長が妨げられることを経験豊富な投資家は知っているのです。
友人同士で企業する際、公平性を保つためにも創業メンバー全員が平等に株式を所有するべきだと考える起業家は多いですが、多くの投資家は、株主総会の特別決議を単独で可決する権限を持つ3分の2超の持株比率を社長が保有していることが理想的だと考えているかと思います。リーダーである社長が単独で意思決定できる権限を持っていないと、企業の成長に不可欠な迅速な意思決定が妨げられる可能性があるからです。
しかし、創業メンバーが平等に株式を所有するのが必ずしも悪いこととは限りません。実際、2~3名の共同創業者が同比率の株式を保有する形で成功している事例もあります。投資家からのアドバイスを参考にしつつ、創業メンバー全員が納得できる結論を出せるまで話し合って決めることが大切です。ただし、投資家の意見を無視して自分たちの方針を貫いた場合、出資してもらえなくなる可能性もあります。投資家の視点を理解することは、スムーズに資金調達する上で重要だということは認識しておきましょう。
創業株主間契約書の主な項目と留意点
創業株主間契約書で規定すべき主な項目と留意点について説明します。
1.株式譲渡
創業株主間契約書の中核となる規定です。
創業株主が会社の取締役または従業員の地位をいずれも失った場合に保有している株式を譲渡する旨を明記した上で、株式数、譲渡価格、譲渡を受ける者等を定めます。
①株式数
退職時に譲渡する株式数を規定します。主に以下の2つのパターンがあります。
- 保有している全ての株式
- 功績に応じたリバースべスティング(Reverse Vesting)
リバースべスティングは、退職者の在籍期間に応じて株式を保有する権利を確定する仕組みのことです。シリコンバレーでは在籍年数1年ごとに25%の株式保有権を確定し、4年在籍すると全ての株式保有権が確定されるというリバースべスティングが主流だと言われています。この方式を採用した場合、2年間在籍した創業メンバーが退職する際は、残されたメンバーが買い取ることができるのは退職者の保有株式の50%のみとなります。
退職者の在籍年数を会社への貢献度と捉えるのは理に適っているように思えるかもしれませんが、1年以上在籍した創業メンバーが株式を保有したまま退職すると、会社の重要な意思決定がスムーズに行えなくなる可能性があるという点には留意が必要です。
トラブルを回避しつつ貢献度に応じた権利を付与したいという場合、病気等のやむを得ない理由で退職する場合のみリバースべスティングを採用し、それ以外の場合は全ての保有株式を譲渡対象とすると定めてもよいでしょう。
②譲渡価格
株式を譲渡する際の価格またはその算定方法を規定します。
創業メンバーが退職する際に、譲渡価格を巡って揉めることは多いので、譲渡価格を定めることは非常に大切です。創業株主間契約書では、株式取得時の価格と規定するのが通常です。ただし、譲渡時に取得時よりも時価が上っている場合は、時価よりも低額で譲渡することになるため、譲渡を受ける側に贈与税が課税されるという点は認識しておきましょう。
③譲渡を受ける者
退職者の保有株式を誰が買い取るかを規定します。
一般的には社長が買い取ることと定められますが、社長自身が退任する可能性もあるという点も考慮する必要があります。原則として社長が買い取ることと定めた上で、社長が退任した場合は残された創業メンバーが買い取れる旨、規定しておくとよいでしょう。
2.相続
創業株主が死亡した場合に、相続人に対して譲渡請求が可能となる旨を規定します。
創業株主が死亡した場合、株式の所有者はその相続人となるため、事業について理解していない相続人に意思決定の重要な部分が託される可能性があります。
このため、相続人に対して譲渡請求できるように定めておくことは大切です。
3.譲渡等の禁止
保有株式を書面による承諾なく、譲渡、担保設定等の処分を行うことを禁止する規定です。株式の保有者は会社の意思決定権を持つので、株式の保有者を無断で変更できないように定めることは重要です。
4.協議義務
創業株主間で意見が異なった場合に、意見を一致させるための仕組みを設けることは重要ですが、その一つの方法が共同創業者間で協議することを義務付けることです。
協議とは話し合いのことなので、協議をしたところで意味がないと思う方がいらっしゃるかもしれませんが、会社をよくしようと思う者同士であれば、妥協点を見出したり、相手を自分の意見で説得したりできる可能性があります。
協議を義務付ける条項がなければ、意見の異なる創業株主にそもそも話し合いのテーブルにもついてもらえず、異なる意見を持ったままビジネスを進めていかなければならないこともあります。そのような状況になることは、会社にとって様々なリスクが生じることになり、望ましくありません。
5.その他の事項
その他の項目として、一般的に以下のような内容を定めます。
- 譲渡手続:退職者は株式譲渡に必要な手続を行う旨を規定
- 秘密保持:本契約の存在と内容を第三者に開示しない旨を規定
- 準拠法:日本国の法律に準拠する旨を規定
- 合意管轄:契約に関連して生じた紛争の管轄裁判所を規定
創業株主間契約書締結のタイミング
創業株主間契約を締結するタイミングは、創業メンバーに株式を渡す時です。
創業間もないシード期から、「誰かが辞めたときにどうする」などという内容の契約を結ぶのは気が進まないかもしれません。また、創業したばかりの頃は、ビジネスモデルや事業の発展に向けてやるべきことが山積みで、ビジネスに直接関係ない契約などの手続は後回しにしたいと思われるかもしれません。しかし、創業株主間契約を後から結ぼうとしても、既に関係性が悪化していて話し合いができなかったり、資金調達によってベンチャーキャピタルなどが株主になっていると同意を得なければならなかったりする可能性がある等、現実的に締結が難しくなる場合もあるので、後回しにしてはいけません。
雛形を使用する際の注意点
創業株主間契約書は、ネット上で検索すると雛形やテンプレートが見つかります。契約書を一から作るのは大変なので、ネット上で公開されている雛形を参考にしたいと思われる方は多いかと思いますが、使用する際は注意が必要です。
雛形は一般的な内容が記載されていますが、契約書に盛り込むべき内容は創業者同士の関係性等によって異なります。全員が納得するまで話し合い、その結果、合意した内容を契約書に落とし込むことが大切です。
共同経営者間のトラブル事例
創業株主間契約を締結しないと、どのようなトラブルが起きる可能性があるのでしょうか?典型的なトラブルの事例をご紹介します。
1.株式を買い取れなくなる
創業株主間契約を締結しなかった場合に起こり得る典型的なトラブルは、株式を保有したまま退職した創業メンバーと音信不通になり、株式を買い取れなくなるというケースです。
その場合、会社法で全株主の合意が必要と定められている決議ができなくなるという問題が発生します。
創業メンバーの誰かが、他のメンバーとの方向性の違い等を理由に途中で退職することは珍しいことではありません。創業株主間契約を締結していない場合は、退職と同時に株式を手放す必要はないため、ほとんどの場合は株式を保有したまま退職します。退職したメンバーは残りのメンバーとの関係性が悪化している場合も多く、連絡が取れなくなる可能性もあります。
2.買取価格を巡って揉める
退職した創業メンバーが、保有株式を残りのメンバーに譲り渡すことに同意した場合でも、買取価格を巡って揉めることは珍しいことではありません。
スタートアップやベンチャー企業は、順調に成長を遂げた場合、短期間で企業価値が急上昇します。契約を結んでいない場合、株式の買取価格が純資産価額ベースで計算されることがありますが、純資産価額ベースで計算すると高額過ぎて、譲り受ける側が資金を準備するのが困難となる場合もあります。
例えば、500万円の資本金で起業した会社が、数年後には1億円の純資産価額となっていたとします。その時点で、33.3%の株式を所有している創業メンバーが退職した場合、保有している株式を純資産価額ベースで計算して3,330万円で買い取ってほしいと言われる可能性が高いです。3,330万円という大金を現金で用意できない場合、残りのメンバーが借金をして買い取らなければいけなくなるのです。
企業が成長した場合に、創業者がその上昇した価値を株式の対価として還元してほしいと考えることは不合理ではないので、買取価格またはその算定方法については最初に決めておく必要があるのです。
まとめ
今回は、創業株主間契約の必要性、契約書の主な項目と留意点、雛形を利用する際の注意点、共同経営者間のトラブル事例等について解説しました。
創業メンバーが退職する際に保有している株式を巡ってトラブルになることは珍しいことではありません。将来起こり得るトラブルを回避するためには、創業株主間契約を締結することは非常に大切です。また、創業メンバー間で資本政策や契約の内容について、しっかり話し合う機会を持つことは、ビジネスを進める上で不可欠なリスクマネジメントという意味でも有益です。
私たち東京スタートアップ法律事務所では、私たち自身が法律事務所を立ち上げた経験を活かし、法律面、経営面、会計面から、スタートアップ・ベンチャー企業のニーズに応じたサポートを提供しています。資本政策や資金調達などに関するアドバイスも行っておりますので、お気軽にご相談ください。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設