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工事請負契約書とは?記載条項や作成時のポイント、工事標準請負契約約款について解説

工事請負契約書とは?記載条項や作成時のポイント、工事標準請負契約約款について解説
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工事請負契約書とは?利用シーンは?

「工事請負契約書」とは、注文者が請負人に対し、例えば建物の建築等の工事を注文し、請負人がこれを受注して報酬の支払いを受けることを目的とする内容の契約書です。

この契約において、請負人は、契約内容に則り、建物等の工事を完成し、注文者に引き渡す義務を負います。

設計図等についても、通常、建設工事請負契約書に添付される等して契約の内容となるため、請負人は設計図等に則り建設工事を行う必要があります。

一般的な契約においては口頭での契約の締結・成立が認められています。

しかし、建設工事請負契約については、建設業法19条の定めによって、契約が成立した場合は、契約書を当事者双方が署名又は記名押印をして作成の上、相互に交付する義務があります。

さらに、契約書に記載しなければならない内容についても建設業法19条1項に列記されています。

1. 工事請負契約書の利用シーン

工事請負契約の対象として一般的にまず想定されるのは、一戸建て・マンション等の住宅、ビルディング、店舗施設等の建物に関する工事を行うケースです。

そこで、これらの建物の新築工事、内装や外周部を改装整備する工事、増改築工事等の工事の受発注が行われる際に、建設工事請負契約書が利用されるシーンが多いものといえるでしょう。

2. 工事請負契約成立の条件とは

民法上の請負契約自体は、請負人による仕事の完成と注文者による報酬支払の約束の意思が合致することで成立します(民法第632条)。

もっとも、建設工事の場合には、建設業法19条1項各号の事項(工事内容、代金額、工期、内容・工期の変更に関する定め等)を全て契約書に定める必要があり、上記のとおり、工事請負契約書の作成、相互交付、双方の署名又は記名押印をしなければなりませんので、これらを備えることは、契約が有効に成立するための条件といえます。

3. 工事請負契約の義務内容とは

工事請負契約においては、民法上の請負契約における義務が課されることになりますので、請負人の義務内容は、工事という仕事の完成となります。

そのため、例えば注文住宅の建設工事の場合、請負人は設計図等に則り住宅の建設工事を完成させる必要があります。

これに対し、注文者の義務内容は、仕事の結果に対する報酬の支払いであり、具体的には、完成した建築工事の代金支払いが中心的な内容となります。

工事請負契約書が必要な理由

上記のとおり、建設工事請負契約においては、建設業法19条の規定により、契約書の作成・交付等が義務付けられています。

なお、紙の契約書の作成等の措置に代えて、電子契約の利用による締結も認められますが、この場合にも政令・省令の定めに則る必要があります(建設業法19条3項)。

このような義務が定められている理由としては、以下のようなものが挙げられます。

  1. 工事の内容を明確にすることでトラブルを防止する
  2. 万が一トラブルが発生した場合のルールを明確化する
  3. 契約当事者双方の公平を確保する

①工事内容を明確にすることでトラブルを防止する

仮に契約書において工事内容や建築建物の使用が明確になっていない場合には、請負人が完了した工事の結果が、注文者の希望した内容と異なってしまう事態が懸念されます。

このような事態により後日トラブルが発生することを防止するためには、外装内装に用いる建築材料や建築デザイン・配置等について、可能な限り詳しく建設工事契約書に定めることが有益です。

また、契約書で明示された工事内容は、完成品が契約の目的に適合しているか否かの判断基準となるため、防火防水耐震性能の水準、建築資材の種類、造作等の設置場所や壁面素材等の建築建物の仕様について、契約書の中に詳細に規定しておくことがトラブル防止の観点から必要となります。

②万が一トラブルが発生した場合のルールを明確化する

建築費の高騰等の契約当初予測困難な事情が発生した場合、当初予定していた工事内容や工期では完成が困難となることもあります。

このような事態のために後日万が一トラブルが発生した場合に備えて、トラブルを早期かつ円滑に解決するためのルールを予め契約書の中に明示しておくことが重要となります。

たとえば、請負人・注文者に損害が発生した場合の損害の範囲や違約金の規定、契約不適合責任に関する規定、契約を解除する場合における解除要件及び手続に関する規定、裁判管轄に関する規定等が挙げられます。

③契約当事者双方の公平を確保する

ビジネスシーンにおいては、契約当事者の取引上の力関係の優劣に差がある場合があります。

例えば、請負人よりも注文者の方が会社の規模として大きく業界内において大きな競争力を有している場合や、元請業者と下請業者の関係が恒常的に継続している場合には、注文者や元請に過度に有利な内容の契約が締結される事態も想定され、力関係から、下請負人がそのような内容の契約を受け入れて契約を締結してしまうことも懸念されます。

一方当事者に過度に有利な契約内容となることを防止し契約当事者の公平を確保するために、上記のような義務を建設業法及び建設業法令遵守ガイドライン等で定めているものと理解できます。

建設業法も、「建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない」(建設業法18条)と定めております。

工事請負契約書に必要な条項

建設工事の請負契約の当事者は、建設工事請負契約書の中に、以下の事項を記載しなければなりません(建設業法19条1項1号から16号)。

  1. 工事内容
  2. 請負代金の額
  3. 工事の着手の時期及び工事完成の時期
  4. 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
  5. 請負代金の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
  6. 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法
  7. 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法
  8. 価格等の変動若しくは変動に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
  9. 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における、第三者に対して支払う損害賠償金の負担
  10. 注文者が工事用の資材を提供し、又は建設等の機械を貸与するときは、その内容・方法
  11. 注文者による完成確認のための検査の時期・方法、引渡しの時期
  12. 工事完成後の請負代金の支払の時期・方法
  13. 工事の目的物が契約の内容に適合しない場合の担保責任、又はその契約不適合責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
  14. 各当事者の債務不履行の場合における遅延利息・違約金その他の損害金
  15. 工事請負契約に関する紛争の解決方法
  16. その他国土交通省令で定める事項

工事請負契約書作成時に定めた方が良い条項

建設業法で記載が必要とされる上記の事項を踏まえつつ、工事請負契約書作成時に定めておくべき条項としては、以下の例が挙げられます。

工事内容や工期の変更について、請負人としては、建築費の高騰等によって変更する必要が契約後に発生した場合において、注文者に協議を求めることを可能とする条項を定めることは重要といえるでしょう。

また、注文者は、請負人が仕事を完成しない間は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができ(民法641条)、その他、当事者は、相手方に債務不履行責任がある場合に契約を解除することが可能です。

とはいえ、債務不履行がどのような場合に認められるのかについては一義的に明確ではありません。

そこで、契約書において、解除できる事由を明確に特定することが重要となります。

①工事内容の変更

請負人は、注文者に対して、工事内容の変更及び変更に伴う請負代金の増額又は減額を提案することができるものとする。

このとき、請負人は、注文者及び監理者と協議の上で、注文者の書面による承諾を別途得た場合には、工事内容を変更することができるものとする。

②工期の延長

請負人は、注文者に対して、工事の追加又は変更、不可抗力、関連する工事の調整、近隣住民との紛争その他正当な理由がある場合には、当該理由を示して工事完成のために必要な工期の延長を求めることができるものとする。

③注文者による中止・解除

請負人が次の各号のいずれかに該当する場合、注文者は、何らの催告なくして工事を中止し又は本契約を解除することができる。

  1. 本契約●条の規定に違反したとき
  2. 工事の着工日を過ぎても工事に着手しないとき
  3. 工事が工程表より著しく遅れ、工期内に工事を完成する見込みがないとき
  4. 建設業の許可が取り消され又は建設業の許可が失効したとき
  5. 事業若しくは取引を停止し、又は強制執行を受け、手形・小切手の不渡りを出し、破産・民事再生・会社更生・特別清算の申立をしたとき

工事標準請負契約約款とは?

建設業法により、建設工事の請負契約の適正化のための規制の一環として、中央建設業審議会には、建設工事の標準請負契約約款を作成してその実施を勧告する権限があります(建設業法34条2項)。

中央建設業審議会は、この条項に基づき、標準請負契約約款を作成し、国土交通省のウェブサイトにおいて公開しています。

工事標準請負契約約款が必要な理由

建設業法では、建設工事請負契約の適正化を図り、建設工事の適正な施行を確保し、建設業の健全な発展を目的としています。

建設業法19条以下で請負契約の内容に関して様々な規律を定めておりますが、中央建設業審議会に建設工事標準請負契約約款を作成し、その実施を勧告する権限を与えることで、上記の目的を実現することを図っています。

同約款は、建設工事請負契約当時者双方の権利義務を守る重要な役割を担っているといえるでしょう。

工事標準請負契約約款の種類

工事標準請負契約約款には以下の4つの種類があります。

①公共工事標準請負契約約款

主に、国の機関や地方公共団体等の公共発注者から発注される請負契約が対象になりますが、これのみならず、電力、ガス、鉄道、電気通信等の常時建設工事を発注する民間企業の工事についても利用できるように作成されています。

公共工事標準請負契約約款は、国の期間、都道府県、政令指定都市や公共法人に加えて、電力会社、JR、ガス会社等の民間企業に対しても中央建設業審議会からの勧告が行われています。

②民間建設工事標準請負契約約款(甲)

民間建設工事標準請負契約約款は、請負契約の片務性の是正と契約関係の明確化・適性化のために、請負契約における当事者間の具体的な権利義務関係を規律するものとして作成されたものです。

同約款(甲)については、民間の比較的大規模な工事の発注者と建設業者における契約を対象としております。

③民間建設工事標準請負契約約款(乙)

約款(乙)については、民間の個人住宅等、比較的小規模の工事の発注者と建設業者との請負契約が対象です。

④建設工事標準下請契約約款

公共工事や民間工事を問わず、建設工事の下請契約全般を対象に作成され、同約款に則り工事が行われています。

工事請負契約書締結時の注意点

①現場代理人を選任する場合の通知

建設工事に際して工事現場に現場代理人(実際の工事を管理する担当者)を置くことがあります。

現場代理人は、請負人が請負契約を履行する際に、工事現場の取締り、工事の施工、契約関係事務に関する事項等を処理する者として、建設現場に置かれる者です。

請負人が工事現場に現場代理人を置く場合、「現場代理人の権限に関する事項」及び「現場代理員の行為についての注文者の請負人に対する意見の申出の方法」を書面により注文者に通知する必要があります(建設業法19条の2第1項)。

そこで、このような事項についても建設工事請負契約書に規定しておくことが有益と考えられます。

②請負代金の定め方

注文者は、請負人に対する自己の取引上の地位を不当に利用して、注文した建設工事の施工のために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金と定めて契約を締結してはならないと定められています(建設業法19条の3)。

この規定は、取引上の力関係に差がある当事者において、一方に過度に有利な片務的な請負契約が締結されることを是正し、契約関係の明確化・適性化を図ることを目的としています。

③工期の定め方

注文者は、注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して、著しく短い工期を設定してはならないと定められています(建設業法19条の5)。

改正建設業法は、建設業の働き方改革の促進を図るべく、長時間労働の是正や現場の処遇改善に関する措置を新設しており、その一環として規定された条項です。

この規定の実行性を確保するために、違反した注文者に対しては、国土交通大臣又は都道府県知事が勧告することができ(同法19条の6第2項)、勧告に従わない場合はその旨を公表することができると定められています(同条3項)。

④建設工事の見積り等

建設業者は、建設工事の請負契約を締結するに際して、工事内容に応じて、以下の点を明らかにして建設工事の見積りを行うよう努めなければならないと定められています(建設業法20条1項)。

  • 工事の種別ごとの材料費・労務費その他の経費の内訳を明らかにすること
  • 工事の工程ごとの作業及びその準備に必要な日数を明らかにすること

⑤一括下請について

請負契約における請負人の本質的義務は仕事の完成にあります(民法632条)。

そうすると、仕事自体の完成という目的を達成するための手段・方法については、請負人側が自由に選択できるものと考えられます。

しかし、注文者の立場からすると請負人が誰かということも重要な要素として契約を締結する場合が多いため、請負人が工事をせず、全て一括して下請けされた場合には、注文者の信頼を害してしまいます。

また、工事の責任主体が曖昧になってしまう懸念もあります。

そこで、建設業法では、原則として、注文者から受注した建設工事を、請負人である建設業者が下請事業者に対して全て丸投げする「一括下請負」は、原則として禁止されています(建設業法22条1項、2項)。

もっとも、例外的に、多数の者が利用する施設及び共同住宅の新築工事を除いて、注文者の書面による事前の承諾を得ている場合には、一括下請負も認められるものと定められています(同条3項、建設業法施行令6条の3)。

一括下請負の利用を予定する工事の場合には、建設工事請負契約書において、事前に注文者の承諾を取得する条項を定めておくことが有益と考えられます。

工事請負契約書の内容変更は可能?

契約後、工事内容の変更が必要となる場合もあり、事情の変更に応じて、当初の契約書の内容に基づき、注文者と請負人との間で協議した結果、契約内容を変更すること自体は一般的に見受けられるところです。

そして、変更内容に応じて、工事請負契約の一部変更合意契約や追加変更工事請負契約を締結することが考えられます。

もっとも、この場合、建設業法第19条第2項は、「請負契約の当事者は、請負契約の内容で前項に掲げる事項に該当するものを変更するときは、その変更の内容を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。」と定めていることから、変更内容に関する契約書の作成が必要となります。

その際に「工事請負変更契約書」等のタイトルの書面を作成することが一般的です。

工事請負契約書未作成による罰則

以上で見てきたように、建設工事請負契約の締結にあたり、契約書の作成、交付は義務として定められています(電子契約が認められる場合もあります)。

このような建設業法上の規定にもかかわらず、工事請負契約書を作成しなかった場合、監督官庁による行政指導や処分を受ける可能性や、違反の程度によっては、建設業許可の取消し等の不利益処分がなされる可能性もないとはいえないでしょう。

仮に許可が取り消されたにもかかわらず事業を継続した場合、「建設業法第3条第1項の規定に違反して許可を受けないで建設業を営んだ者」については「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する」との罰則も定められているため(同法47条1項1号)、注意を要するといえるでしょう。

工事請負契約書に印紙は必要?

工事請負契約書は印紙税法上の「課税文書」に該当します。

そのため、印紙税法上、印紙の貼付義務があります。貼付すべき金額は、契約書の内容によって異なりますが、工事請負契約書の場合は、下記の表の通りです。

(金額が100万円を超えるもので、2024年3月31日までに作成される契約に関しては軽減税率が適用されます。)

契約金額 本則税率 軽減税率
100万円を超え 200万円以下のもの 400円 200円
200万円を超え 300万円以下のもの 1千円 500円
300万円を超え 500万円以下のもの 2千円 1千円
500万円を超え 1千万円以下のもの 1万円 5千円
1千万円を超え 5千万円以下のもの 2万円 1万円
5千万円を超え 1億円以下のもの 6万円 3万円
1億円を超え 5億円以下のもの 10万円 6万円
5億円を超え 10億円以下のもの 20万円 16万円
10億円を超え 50億円以下のもの 40万円 32万円
50億円を超えるもの 60万円 48万円

まとめ

一般的に建設工事は金額も大きく、工事の追加変更は珍しくないためトラブルが発生することもあります。

「工事請負契約書」にて取り決めるべき事項は多数ありますが、法令に則り、詳細に各条項を吟味する必要があるといえるでしょう。

さらに、契約後、事情の変更によって工事内容等を変更する必要が発生した場合には、変更に関する契約書を交わす必要があります。

この点も予期しつつ、当初の契約時に各種の条項を盛り込んでおくことでトラブルを回避できる場合もあります。

今回は、工事請負契約書を作成する際の注意点、工事請負契約書が必要な場合や工事請負契約書に定めるべき内容等について解説しました。

工事請負契約書は、契約内容に含まれる個別の事情に応じて内容をカスタマイズしていくことが必要です。

契約書の漏れや不要な記載があると、損害が発生した場合に損害を填補できなかったり、問題になる部分が無効になったりするおそれもあります。

後々のトラブルを防ぐためにも、企業法務に精通した弁護士に相談して、適切なアドバイスを受けることをおすすめします。

我々東京スタートアップ法律事務所は、豊富な企業法務の経験を活かし、数多くの企業の顧問弁護士として、日々、様々な業種の契約書の作成やリーガルチェックを行っています。

スポットでの契約書の作成やリーガルチェックにも対応しておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

 

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