サブスクリプションサービスに関連する法律・利用規約に関する注意点を解説
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記事目次
サブスクリプションサービスは、所有から利用へと消費者の意識が変革する中で、急成長しているビジネスモデルです。商品やサービスに対する利用料金が継続的に得られることにより、安定した収益を得られるビジネスモデルとしても注目されています。
サブスクリプションサービスは提供する企業と利用者双方にとってメリットの多いサービスですが、利用条件や解約等に関して、企業と利用者との間でトラブルが発生するリスクもあり、抵触するおそれのある法律や規制も多いため、注意が必要です。
今回は、サブスクリプションサービスを提供する企業が理解しておくべき法律や規制等のポイント、利用規約に定めるべき条項や注意点などについて解説します。
【解説動画】TSL代表弁護士、中川が「サブスクサービス」理解しておくべき法律について解説
サブスクリプションサービスとは
サブスクリプションサービスとは、定額料金を支払うことにより、一定期間、サービスを利用できるビジネスモデルのことをいいます。サブスクリプション(Subscription)は、もともとは、雑誌などの定期予約購読を意味する言葉として用いられていました。
以前は、音楽や動画などのコンテンツ配信サービスが主流でしたが、最近は、洋服やアクセサリーなどのファッション、家具や家電、飲食など、さまざまな分野で新たなサブスクリプションサービスが誕生しています。
商品・サービス内容の表示に関わる景品表示法
景品表示法は、サブスクリプションサービスを展開する際、しっかり理解しておきたい法律の一つです。景品表示法の重要なポイントについて、サブスクリプションサービスの事業者が景品表示法違反となった実例を交えながら、説明します。
1.優良誤認表示・有利誤認表示に該当する可能性のある表示
不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)では、以下の不当な表示を禁止しています。
①優良誤認表示(景品表示法第5条1号)
優良誤認表示とは、商品やサービスの品質、規格、その他の内容について、実際よりも著しく優良であると一般消費者に示す表示、または事実に相違して競業事業者が提供するものよりも著しく優良であると一般消費者に示す表示のことをいいます。
消費者庁長官は、優良誤認表示に該当するか否かを判断するために必要があると認めるときは、期間を定めて事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができます。事業者が当該資料を期間内に提出しない場合や、提出された資料が表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと認められない場合は措置命令との関係では不当表示とみなされ、課徴金納付命令との関係では不当表示と推定されます。(不実証広告規制:景品表示法第7条2項・第8条3項)
②有利誤認表示(景品表示法第5条2号)
有利誤認表示とは、商品・サービスの価格その他取引条件について、実際よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示、または競業事業者が提供するものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示のことをいいます。
③その他、一般消費者に誤認されるおそれがある表示
その他、商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ、内閣総理大臣が指定する表示(景品表示法第5条3号)として、消費者庁ガイドラインに以下の内容が挙げられています。
(イ) 無果汁の清涼飲料水についての表示
(ロ) 商品の原産国に関する不当な表示
(ハ) おとり広告に関する表示
(ニ) 消費者信用の融資費用に関する不当な表示
(ホ) 不動産のおとり広告に関する表示
(ヘ) 有料老人ホームに関する不当な表示
2.景品表示法に違反した場合
景品表示法に違反する行為が行われている疑いがある場合、消費者庁は事業者への事情聴取、資料収集等を行い調査を実施します。事業者に対して書面による弁明や証拠提出の機会を与えた上で、第5条1項1~3号に違反する行為を行ったとみなされる事業者に対しては措置命令を発出します(景品表示法第7条1項)。措置命令の内容は、一般消費者に与えた誤認の排除、再発防止策を講じること、違反行為を取りやめること等です。
また、第5条1項1・2号に違反する行為を行い、それにより多大な利益を得たとみなされる事業者に対しては課徴金納付命令を発出する場合があります(第8条1項)。
課徴金の金額は対象商品・サービスの売上額の3%で、対象期間は上限3年です。
サブスクリプションサービスの事業者が景品表示法違反となった実例として、動画配信サービス事業者(株式会社TSUTAYA)が提供する「動画見放題プラン」の3サービスの対象動画が、実際にはサービス全体で配信する動画の一部でしかなく、「見放題」の表示が優良誤認表示に該当するとして1億1,753万円の課徴金納付命令が出された事例があります。
契約申込みに関わる特定商取引法と消費者庁ガイドライン
特定商取引法は、利用者がサブスクリプションサービスの申込みをする際のウェブ上の画面設計をする上で注意が必要な法律です。特定商取引法の規定の内容や、具体的な禁止事項を定めている消費者庁のガイドラインについて説明します。
1.特定商取引法の規定
特定商取引法第14条1項2号は、販売業者又は役務(サービス)提供事業者が「顧客の意に反して売買契約若しくは役務提供契約の申込みをさせようとする行為として主務省令で定めるもの」をした場合において、取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときには、主務大臣が指示を行うことができる旨を定めています。
この規定に基づき、省令第16条第1項では「顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為」の具体的内容を定めています。このうち、以下の共通事項第1号と第2号は、サブスクリプションサービスを含むインターネット通販に対応したもので、いずれかに該当する場合は指示の対象となります。
- 第1号(申込みとなることの表示について)
インターネット通販において、あるボタンをクリックすれば、それが有料の申込みとなることを消費者が容易に認識できるように示していないこと - 第2号(確認・訂正機会の提供について)
インターネット通販において、申込みをする際に、消費者が申込み内容を容易に確認し、かつ訂正できるように措置していないこと
2.消費者庁ガイドラインの禁止事項
上記の省令を受けて消費者庁が制定したガイドラインでは、以下の事項を「意に反して契約の申込みをさせようとする行為」として禁止しています。
①第1号に抵触する可能性のあるケース
以下のような場合、消費者が有料の申込みとなることを容易に認識できない可能性があるため、上記の第1号に抵触するおそれがあります。
- 申込みの最終段階の画面上に、定期購入契約の主な内容の全てが表示されていない場合
- 申込みの最終段階の画面上、定期購入契約の主な内容の全てが容易に認識できないほど、その一部が離れた場所に表示されている場合
②第2号に抵触する可能性のあるケース
以下のような場合、消費者が申込みする際に、申込み内容を容易に確認し、訂正することができない可能性があるため、上記の第2号に抵触するおそれがあります。
- 申込みの最終段階の画面上に定期購入契約の主な内容が全て表示されない場合
- 申込みの最終段階の画面上に定期購入契約の主な内容が全て表示されているが、その一部が容易に認識できないほど離れた場所に表示されている場合
- 申込みの最終段階の画面上に、「変更」「取消」ボタンなど、訂正するための手段が提供されていない場合
利用規約に関する改正民法と消費者契約法の注意点
2020年4月1日施行の改正民法により、定型約款が契約内容となるための要件が設けられました。ウェブ上で提供されるサブスクリプションサービスの利用規約も定型約款に含まれるため、改正民法の規定に注意する必要があります。また、利用規約に関しては、消費者保護を目的とする消費者契約法にも同様に注意が必要です。具体的な注意点について説明します。
1.定型約款に関する改正民法の注意点
定型約款とは、不特定多数の者を相手方とした定型取引を迅速に行うための定型的な取引条項のことをいいます。定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合、個別の条項についても合意したものとみなされます(改正民法第548条の2第1項)。
ただし、利用者の利益を一方的に害する内容の条項については合意したとはみなさない(契約の内容とはならない)ことが明文化されています(同法第548条の2第2項)。そのため、利用規約に、利用者の利益を一方的に害する内容が含まれていないか、利用者の立場から確認することが重要です。
また、利用規約を変更する際、利用者にとって不利益となる変更内容が含まれている場合、利用者の承諾なく、変更することができるのは以下の2つの要件を充たす場合に限られています(同法第548条の4第2項)。
- 変更が契約をした目的に反しないこと
- 変更の必要性・変更内容の相当性・変更する旨の規定の有無などの事情に照らし合理的であること
2.消費者契約法で無効とされる契約条項の例
消費者の利益を不当に害する契約条項は、消費者契約法により無効とされています。具体的には、以下のような条項が無効となります。
①事業者が責任を負わないとする条項
・損害賠償責任の全部を免除する条項(消費者契約法第8条1項1号前段)
・事業者の故意又は重過失による場合に損害賠償責任の一部を免除する条項(第8条1項2号)
・事業者の責任の有無につき、事業者自ら決定する権限を付与する条項(第8条1項後段)
②消費者に契約解除の決定権を与えないとする条項
・消費者の解除権を放棄させる条項(第8条の2前段)
・消費者の解除権の有無につき事業者自ら決定する権限を付与する条項(第8条の2後段)
③平均的な損害の額を超えるキャンセル料等に関する条項
・キャンセル料のうち、契約解除に伴う平均的な損害額を超える部分についての条項(第9条1号)
・遅延損害金につき年利14.6%を超える部分についての条項(第9条2号)
④消費者の利益を一方的に害する条項
・任意規定の適用による場合と比べて消費者の権利を制限し又は義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項(第10条)
例えば、利用者に対して一方的にオプション商品を送りつけて、代金を請求する送り付け商法などが該当します。
ポイントの利用に関わる資金決済法
サブスクリプションサービスの中には、利用者が事前にポイントを購入して、サービス利用料としてポイントを利用するというシステムを採用しているサービスもあります。この場合、資金決済法の「前払式支払手段」に該当する可能性が高いため注意が必要です。
1.資金決済法の「前払式支払手段」に該当する場合の義務
資金決済法の「前払式支払手段」に該当する場合、発行したポイントの未使用残高(総発行金額マイナス既使用ポイント金額)が毎年3月31日または9月30日(基準日:同法第3条2項)において1,000万円を超えた場合は内閣総理大臣から委任を受けた金融庁財務局への届出が必要になります(同法第5条・第104条)。
さらに、事業者は以下のような義務を負います。
① 表示義務(同法第13条)
事業者は、発行するポイントの名称、発行者名称等同法第13条1項1号~5号で定める事項をウェブサイトに表示する義務を負います。
② 供託義務(同法第14条)
ポイントの未使用残高が1,000万円を超えるときには未使用残高の2分の1以上の金額を営業所の最寄りの供託所に供託しなければなりません。
③ 行政庁への定期的な報告書提出義務(同法第23条)
事業者は、上記の基準日ごとに財務局又は財務事務所に同法第23条1項1~4号で定める事項を記載した報告書を提出しなければなりません。
2.資金決済法の法規制を回避するための利用規約の定め方
上記のような資金決済法の「前払い式支払い手段」に該当することによる法規制を回避する手段として、ポイント有効期限を6か月未満に設定するという方法があります。
サブスクリプションサービスの利用規約における条項と注意点
前述した法規制を踏まえた上で、サブスクリプションサービスの事業者が利用規約に制定するべき具体的な項目と注意点について説明します。
1.月額料金・サービス内容
景品表示法違反のリスクや利用者とのトラブルを回避するためには、月額料金とサービス内容を明示することが重要です。月額料金については、以下の内容を明記しましょう。
- 料金発生時期
- 加算される場合は加算開始時期
- 年間一括支払方式がある場合は途中解約の場合の措置(返金しない、〇か月以上利用した場合は返金可能等)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング社がサブスクリプションサービスの利用者を対象に実施したアンケートによると、サービス内容に関して利用者が「困った点」として以下のようなものが挙げられています。
- 商品やサービスの提供数が足りず、利用したい商品やサービスが使えなかった
- 〇〇放題と広告に記載されていたが、別料金が必要なもの、利用できないものがあった
特に後者は優良誤認表示に該当する可能性が高いため、注意が必要です。利用条件は利用規約に明示するだけではなく、ウェブサイト上で利用者が認識しやすい形式で表示することも大切です。
2.解約手段・解約の効果等
利用者との間で発生するトラブルの中で最も多いのは解約に関するトラブルです。
上記のアンケートでも以下のような回答がありました。
- 解約しようと思ったが解約方法・解約条件の説明を探すことが難しかった
- 休止ができなかった
利用者が解約したいと思った時に、いつでも自由に解約できるよう、解約方法と条件を明示することが重要です。また、無料の試用期間を設けている場合、試用期間経過直後に解約を希望する利用者が多いことが想定されるため、利用者とのトラブルを避けるためにも、利用者が容易に解約できるシステムを整備しておくことは大切です。
3.未成年者の利用に関する必要事項
未成年者(18歳未満:民法第4条)のユーザーが保護者の同意を得ずに行った契約は取消しができます(民法第5条2項)。
すなわち、サブスクリプションサービスを利用していた未成年者又はその保護者(制限行為能力者の法定代理人:民法第120条1項)が契約を取消してそれまでに事業者に支払った利用料金の返還を求めた場合、事業者は返還しなければならないことになります(法律行為の取消により無効になった行為に基づく給付を受けた者の原状回復義務:民法第121条・第121条の2第1項)。
そこで、事業者としては未成年の利用を想定した上で、この事態を避けるために以下のような対策を講じる必要があります。
① ユーザーの年齢確認
サービス申込み時に年齢確認をすることにより、未成年者が18歳以上であると偽ってサービスを利用した場合には上記の取消をすることができなくなります(制限行為能力者の詐術:民法第21条)。
2020年8月発行の経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」では、事業者が有料サービスの決済画面上で「未成年者の場合には親権者の同意が必要である」と明確に表示した上で生年月日を入力させた場合には、それが虚偽の生年月日であったとしても当該未成年者は取消すことができなくなるとされています(同準則Ⅰ章Ⅰ-4 未成年者による意思表示)。
ただし、この準則では、未成年者が成年者と偽るために虚偽の生年月日を入力することが民法第21条の「詐術」にあたるか否かの判断に際しては、その入力の事実そのものの他に、サービスの内容、当該未成年者の年齢、サイト上の表示の明確性や年齢確認の仕組みの厳密さ等の個別具体的な事情を総合的に考慮されることになります。
② 保護者(法定代理人)の同意確認
未成年者が有料のサブスクリプションサービスの契約を行うには、法定代理人である保護者の同意を必要とするという方法もありますが、この同意が本当にあったかどうかを確認することは困難です。また、法律上、未成年者がお小遣いの範囲内でサブスクリプションサービスの契約を行う場合には保護者の同意が必要ないという解釈もあり得ます(法定代理人が処分を許した財産の処分:民法第5条3項)。
そこで、未成年者に対しては有料のサービスの利用上限金額を定めてもよいでしょう。これにより、未成年者が契約後に取消を請求してきた場合に「利用上限金額の〇〇円はお小遣い、つまり法律上未成年者本人が処分することが可能な財産の範囲内です」と主張する余地が出てくることになります。
4.プラン変更の可否の明示
複数の定額制サービスを提供している場合は、途中からのプラン変更が可能であるか、可能である場合は、どの時点からできるのかを明示する必要があります。
5.補償及び弁償に関する事項
サービスの対象が商品の利用である場合は、提供した商品に欠陥等がある場合の補償、利用者の過失により商品を毀損してしまった場合の弁償に関する事項を明記する必要があります。
その他、利用規約作成時の注意点や改正民法に対応させるためのポイントについては、こちらの記事にまとめていますので、参考にしていただければと思います。
まとめ
今回は、サブスクリプションサービスを提供する企業が理解しておくべき法律や規制等のポイント、利用規約に定めるべき条項や注意点などについて解説しました。
利用者との間のトラブルや法律に抵触するリスクを回避するためには、関連する法律を理解した上で、利用者保護の観点から自社のサービスを丁寧に確認することが大切です。
東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。サブスクリプションサービスなどの新しいビジネスモデルの検証や既存サービスのリーガルチェックなどにも積極的に取り組んでおりますので、お気軽にご相談いただければと思います。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設