派遣契約を中途解約する際の注意点|会社都合の場合に中途解約できる条件は?
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響による業績不振、あるいは派遣労働者の能力不足等の理由で、派遣契約の中途解約を検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、派遣労働者は、派遣先と派遣元の派遣契約に基づいて派遣されているため、安易に中途解約を告げると法律に抵触する可能性があります。また、昨今の労働者派遣法の改正により、派遣契約を中途解約する場合には派遣先にも一定の対応が必要とされるなど、派遣先会社への影響を考慮することも求められます。
今回は、派遣契約を中途解約する場合の注意点、会社都合の場合に中途解約できる条件などについて、派遣先会社・派遣元会社のそれぞれの立場から解説します。
【解説動画】派遣契約を中途解約する際の注意点を弁護士が解説
派遣労働者の労働者派遣契約の中途解約は可能?
派遣労働者は、派遣元会社との間で雇用契約を結び、派遣元会社と派遣先会社の間で結ばれた労働者派遣契約に基づいて、派遣先企業で仕事を行います。
派遣元会社と派遣先会社の派遣契約が中途解約された場合や、派遣先会社の希望で派遣労働者を途中で交代させた場合でも、派遣元会社と派遣労働者との間の雇用契約には影響が及びません。
しかし、派遣先会社がいつでも自由に派遣契約を中途解約できるというわけではありません。
派遣労働者の労働環境の安定を確保するために、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます)第27条には以下のように規定されています。
“労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない”
2012年10月の労働者派遣法改正により、労働者派遣の役務の提供を受ける者は、都合により労働者派遣契約を中途解除する場合は、派遣労働者に新たな職場を紹介する、休業手当相当の金銭を派遣元会社に支払う等の対応が義務化されました(同法第29条の2)。
つまり、派遣先会社は、原則として派遣契約を中途解約できませんが、やむを得ない場合は、派遣法が定める対応を行うことを条件に中途解約が認められることになります。
中途解約する場合に何日前の告知が必要か
派遣労働者の契約を中途解約する場合として、主に2つのケースが考えられます。
1.派遣先会社が派遣元会社との労働者派遣契約を中途解約
1つ目は、派遣先会社が派遣元会社との労働者派遣契約を中途解約するケースです。この場合は、会社間の契約の中途解約となるので、派遣先会社は派遣元会社の合意を得て、あらかじめ相当期間の余裕を持って解約を申し入れることが求められます。同時に派遣労働者に新たな職場を紹介するなどのフォローが必要で、それができない場合は遅くても30日前に予告する必要があります。予告しない場合、派遣元会社に派遣労働者の賃金相当分の損害賠償を支払うことが求められるため注意が必要です(「派遣先が講ずべき措置に関する指針」平成21年厚生労働省告示第245号)。
この場合、派遣先会社と派遣元会社の間の派遣契約が中途解約されますが、派遣労働者と派遣元会社の労働契約は続いています。そのため、派遣元会社は、派遣労働者に対して賃金を支払う必要があり、次の派遣先が見つからずに派遣労働者を休業させる場合は、労働基準法に基づいて平均賃金の6割以上を休業手当として支払う必要があります。
2.派遣元会社が派遣労働者との雇用契約を中途解約
2つ目は、派遣元会社が派遣労働者との雇用契約を中途解約するケースです。この場合は、解雇に該当するため、通常の雇用契約の場合と同様、少なくとも30日前までに解雇予告をする必要があります。解雇予告をしない場合は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければいけません(労働基準法第20条)。
中途解約で解雇する場合は、解雇権の濫用にあたらないように、解雇の理由と手続きを慎重に進めなければいけません。派遣労働者が派遣元会社に正社員として無期雇用契約で雇用されている場合、中途解約(解雇)が権利の濫用に当たる場合は解雇が無効になります。他方で、特に登録型派遣社員などの有期雇用契約の場合、契約期間途中の解雇はやむを得ない場合でなければできず、正社員のような期間の定めのない場合よりも厳しい条件が課されているので注意が必要です。
派遣先会社が会社都合で労働者派遣契約を中途解約する場合
自社の人材を確保するために、派遣労働者を利用している会社は少なくありません。自社の従業員よりも人員調整しやすいというイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、労働者派遣法の改正によって、派遣先が派遣契約を中途解約する場合には一定の条件が課されています。
1.派遣先会社が中途解除できる条件とは
派遣先会社が労働者派遣契約を中途解除できる条件は、派遣元会社との労働者派遣契約において決められているのが通常です。具体的には、倒産リスクや信用不安がある場合、また、一定の猶予期間を設けて派遣先会社が契約解除の申し入れをする場合などです。
そのため、派遣先会社が労働者派遣契約を中途解約するためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 派遣元会社との契約内容に従って、派遣元会社との合意を得ること
- 相当の猶予期間を設けて派遣元会社に契約解除の申し入れをすること
労働者派遣法には、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として労働者派遣契約を解除してはならないと規定されている(同法第27条)ので、該当する可能性がある場合は注意しましょう。
また、派遣労働者の能力が不足しているため辞めさせたい場合、労働者派遣契約自体の中途解約が認められる可能性は低いでしょう。この場合、派遣元会社に対して交替要請を行い、別の派遣労働者を派遣してもらうことを検討して下さい。
2.契約解除の何日前に通知が必要か
派遣先会社が派遣元との労働者派遣契約を中途解約する場合、厚生労働省が定めた「派遣先の講ずべき措置に関する指針」では、あらかじめ相当の猶予期間をもって、派遣会社に契約解除の申し入れをすべきことが求められています。
「相当の猶予期間」の具体的な日数については明示されていませんが、派遣先会社が派遣労働者に対して新たな就業機会を確保することができない場合は、契約解除日の少なくとも30日前に派遣元会社に契約解除の予告をする必要があるとされています。
3.派遣先会社が中途解約する際に求められる2つの義務
派遣先会社が、派遣元との労働者派遣契約を中途解約することにより、派遣労働者の雇用にも多大な影響を与えることになります。そこで、派遣労働者の雇用の安定を図るために、派遣先都合で派遣契約を中途解約する場合には、労働者派遣法の改正により、派遣先会社に対して以下の2つの対応が義務付けられました(同法第26条第1項8号、第29条の2)。
①派遣労働者の新たな就業機会の確保
派遣契約が中途解約されて就労先を失った派遣労働者は、次の派遣先をすぐに紹介してもらえるとは限らず、不安定な立場に置かれることになります。そのため、派遣先会社は、派遣労働者に対して派遣先会社の関連会社等での仕事をあっせんするなど、新たな就業機会を確保することが求められます。
②休業手当などの費用負担
派遣先会社の都合で派遣契約が中途解約され、派遣労働者の就業先がなくなり派遣労働者を休業させた場合、派遣元会社は派遣労働者に労働基準法第26条に基づき、給与の6割の休業手当を支払わなければいけません。もっとも、派遣先会社は、休業手当等の支払に必要な費用を負担するなどの措置をとることが義務付けられています(労働者派遣法第29条の2)。
4.派遣先に求められる厚生労働省の4つの指針
労働者派遣法との規定とは別に、厚生労働省が定める「派遣先が講ずべき措置に関する指針」においても次の4つの対応が派遣先会社に求められています。この指針は法律上の義務ではありませんが、違反すると都道府県の労働局からの指導監督の対象となります。
①派遣契約解除の事前の申し入れ
前述した通り、派遣先会社が派遣契約を中途解約する場合、派遣元会社に対して、あらかじめ相当の猶予期間をもって契約解除の申し入れをすることが必要です。
②派遣労働者の新たな就業機会の確保
労働者派遣法の定めと同様、派遣労働者に派遣先での就業機会を与えることが求められます。
③損害賠償の支払い
派遣先会社が、派遣労働者に対して新たな就業機会を確保できない場合は、派遣元との派遣契約を解除する日の少なくとも30日前に、派遣会社に契約解除の申し入れをすることが求められます。30日を切る場合は、派遣労働者の少なくとも30日分以上の賃金に相当する額を、損害賠償として派遣元会社に支払う必要があります。
④理由の明示
派遣元会社から請求があった際は、中途解除を行った理由を明らかにすることが求められます。
派遣元会社の会社都合で労働契約を中途解約する場合
派遣元会社と派遣労働者との労働契約を中途解約する場合は、自社の従業員を解雇することになるので、解雇権の濫用と判断されないように慎重な対応が求められます。また、派遣先会社は、派遣元会社と十分に協議をした上で、適切な対策を講じることが必要です。
1.派遣元会社と派遣労働者の契約関係とは
派遣労働者は派遣元会社の従業員であり、無期雇用契約を締結した正規雇用の従業員である場合もあれば、有期雇用契約を締結した非正規雇用の従業員である場合もあります。
有期雇用契約の場合の労働契約の期間は、派遣元会社と派遣先会社との間の派遣契約期間に合わせるのが一般的で、派遣先会社への派遣期間の満了と同時に、派遣元会社との労働契約も終了するケースが多いです。
2.派遣元会社が派遣労働者との契約を中途解約できる場合
派遣先会社との派遣契約が中途解約されても、派遣元会社と派遣労働者との労働契約関係は継続します。
派遣元会社と派遣労働者が無期雇用契約を結んでいる場合、労働契約を中途解約して解雇するためには、普通解雇・懲戒解雇・整理解雇のいずれかに該当し、正当な解雇理由があること、客観的に合理的で、社会通念上相当であることが必要です。病気による就業不能や能力不足、経歴詐称、勤務態度不良、業務命令違反などが解雇理由になり得ますが、新たな派遣先が見つからないということだけでは解雇理由として認められないという点には注意が必要です。次の派遣先が見つからないために正社員である派遣労働者を解雇するには、整理解雇と同様に人員削減の必要性があるか、解雇を避ける努力をしたか、人選は合理的か、手続きは妥当かという条件を満たす必要があります。
一方、派遣元会社と派遣労働者が有期雇用契約を結んでいる場合、有期契約期間中に労働契約を中途解約して解雇することは原則として認められず、「やむを得ない事由」がある場合に限られます(労働契約法第17条1項)。「やむを得ない事由」に該当する基準については明示されていませんが、過去の裁判例では、バス運転手が1年に6回事故を起こしたケース、契約社員が同僚に対して暴力を振るったケースで、期間中の解雇が認められませんでした(もちろん、事故の程度や暴力の程度によっては解雇が認められることもあり得ます)。能力不足、派遣先が見つからないなどは解雇理由として認められる可能性はほとんどないと考えるべきでしょう。
また、派遣元会社が、派遣労働者の有期雇用契約を更新しない場合(雇止め)、有期雇用契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続勤務している場合は、少なくとも30日前までの予告が必要です。この手続に則ったとしても、これまでの雇用の状況から判断して、雇止めが認められないケースもあります。過去の裁判例では、ある程度の継続が期待される雇用関係が結ばれており、5回にわたって契約更新がされたケースで、雇止めにあたって解雇に関する法理が類推され、雇止めが無効と判断されたものがあります。
3.派遣契約の中途解約の際に派遣元会社が行うべき対応
派遣先会社と派遣元会社の間の派遣契約が中途解除された場合、派遣元会社と派遣労働者との間の労働契約に影響はありません。この場合、派遣元会社は、派遣労働者に新たな就労先を探して派遣するか、労働基準法第26条に基づく休業手当または賃金全額を支払う必要があります。
次の派遣先が見つからない場合の休業手当は、第一義的には派遣元会社が支払わなければいけませんが、この費用は派遣会社に対して請求することができます。
派遣労働者の自己都合により中途解約する場合
派遣労働者が自己都合で契約関係を中途解約するケースは多くはありません。派遣労働者側からの申し入れによる中途解約の場合、本人の意思による中途解約なので特に問題がないように思えるかもしれませんが、会社がリスクを負う可能性もあるので、対応には注意が必要です。
1.派遣労働者が中途解約できる条件とは
派遣労働者が派遣先でこれ以上働き続けたくないと考えた場合、派遣労働者と派遣先会社との間には契約関係はないので、直接契約解除を求めることはできません。そこで、派遣労働者は派遣元会社に対して、就労先の変更、あるいは労働条件や環境の是正を求めることになります。
派遣労働者が派遣元会社との契約関係を中途解約したい場合は、退職の申し入れと同様に、就業規則の規定に従って、事前に退職の意思表示を行い、退職願を提出するのが一般的です。
2.派遣先・派遣元会社が注意すべきこと
派遣労働者が自己都合で派遣元会社を退職する場合、その背景には「派遣先の業務が思っていたものと違っていた」「労働条件が当初の説明と違っていた」などトラブルの種が潜んでいる場合があります。このような場合、自己都合退職の形式がとられていたとしても、後から不当解雇だと訴えられる等の労働問題に発展するリスクがあります。
上記のようなトラブルは、本来は派遣労働者と派遣元会社との問題です。ただし、派遣労働者の自己都合退職の理由が派遣先会社と派遣元会社との派遣契約の中途解約である場合、派遣先会社にも注意が必要です。リスクを回避するためには、派遣契約の中途解約によって生じる派遣元会社の休業手当の負担を迅速に保証する、新たな就業先のあっせんに努力した経緯を書面化しておくなど、派遣元会社と派遣労働者の労働契約の円満な終了につながるよう一定の役割を果たした事実を証明できるよう形に残すことをおすすめします。
派遣契約を中途解約する際の通知書のひな型
派遣契約を中途解約する場合、法定の書式はありません。派遣契約を中途解約する際の通知書には、契約解除の場合に倣い、元となる労働者派遣契約締結の事実、解約の理由、解約日、根拠となる法令がある場合はその法令、自社が責任を負わない旨を盛り込んでおきましょう。記載すべき内容はケースバイケースで異なりますが、参考までにひな型をご紹介します。
1.派遣先から解除する場合
契約解除通知書
株式会社▼▼(派遣元)
代表取締役▼▼殿 当社は貴社に対し、貴社との間において下記の労働者派遣契約を締結いたしましたが、本書面をもって契約解除を通知いたします。 記
1.契約日 ●●年●●月●●日
2.契約内容 ●●●●業務に係る労働者派遣契約 3.契約解除日 ●●年●●月●●日をもって現契約を解除 4.契約解除理由 ×××(業績不振等、労働者契約派遣契約の解除理由) 以上
●●年●●月●●日
●●株式会社(派遣先)
代表取締役●● |
2.派遣元から解除する場合
契約解除通知書
株式会社●●(派遣先)
代表取締役●●殿 当社は貴社に対し、貴社との間において●●年●●月●●日に締結した労働者派遣契約に基づき労働者を派遣しております。しかるに、貴社は、派遣就業に関し××のように派遣労働者を使用していることが判明いたしました。本件は、労働者派遣法●●条に違反しており、上記労働者派遣契約●●条の契約解除事由に該当します。
したがって、貴社との間の労働者派遣契約を本書面をもって解除いたします。なお、本件では当社は何ら損害賠償等の責任を負わない旨、本契約解除後は貴社に対し労働者派遣を停止する旨通知しますのでご承知おき下さい。 ●●年●●月●●日
▼▼株式会社(派遣元)
代表取締役▼▼ |
まとめ
今回は、派遣契約を中途解約する場合の注意点、会社都合の場合に中途解約できる条件などについて、派遣先会社・派遣元会社のそれぞれの立場から解説しました。
派遣契約は、急な人材調達や業務の補強が必要な際に有効な契約です。派遣先は派遣労働者と直接の雇用契約を結ばないため、自社の状況に合わせてフレキシブルに利用できるイメージをお持ちの方も多くいらっしゃるようです。
しかし、労働者派遣法の改正や、厚労省の指針により、労働者派遣契約を中途解約する場合は、派遣先企業にも派遣労働者の就労先確保や金銭補償など、一定の対応が義務付けられるようになりました。昨今の不景気により、非正規雇用の労働者である派遣労働者を取り巻く環境は厳しく、派遣労働者が就労先を失う等の不利益を被る結果となり、法的紛争に発展した場合には、派遣元会社だけでなく、派遣先会社も巻き込まれる可能性があります。
東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、各企業の状況に合ったサポートを提供しております。
派遣契約の中途解約、派遣元会社との間で締結する契約書作成等のご相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設