リハビリ勤務(試し出勤)制度の社内規定・就業規則の記載事項を解説
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リハビリ勤務(試し出勤)制度は、うつ病や総合失調症等の精神疾患を発症して休職した従業員が復職する際、段階的に通常業務に戻す制度です。リハビリ勤務制度の導入は法律上の義務ではありませんが、近年、精神疾患により休職と復職を繰り返す方が増えていることから、必要性を認識して導入を検討する企業が増えています。厚生労働省が公開している『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』の中でも、本格的な職場復帰の前段階として、試し出勤を実施することが推奨されています。
「リハビリ勤務制度の導入を検討しているけれど、導入時に必要な社内規定や具体的な導入手順がわからない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、今回は、リハビリ勤務制度の趣旨、就業規則に必要な規定、リハビリ勤務制度導入の手順、実施時の注意点などについて解説します。
リハビリ勤務(試し出勤)制度の趣旨
リハビリ勤務制度は精神疾患を発症して休職した従業員の円滑な復職に役立つ制度ですが、具体的にどのような役割を果たすのでしょうか。リハビリ勤務の趣旨や役割について説明します。
1.精神疾患の再発防止
リハビリ勤務制度の主な目的は、復職直後の負荷を軽減して段階的に元の業務に戻すことにより、精神疾患により休職した方の円滑な職場復帰をサポートし、復帰後の再発を予防することです。休職期間を経て職場に復帰する際、本人は大きな精神的プレッシャーを感じています。復職直後は、「周りに迷惑をかけてしまった分、早く挽回しなければ!」「早く休職前と同じ程度の業務をこなせるようにならないと!」など焦ることにより、相当なストレスがかかるため、精神疾患を再発し、再度休職する必要が生じるケースが少なくありません。
リハビリ勤務を行い、午前中だけの勤務など負荷の少ない勤務からスタートして復職当初のストレスを最小限に抑えることができれば、再発のリスクが軽減し、円滑に復職できる可能性が高まります。
2.復職可能な状態かを確認する
リハビリ勤務制度は、精神疾患により休職した方が復職可能なレベルまで回復しているか確認するために重要な役割を果たします。
うつ病などの精神疾患の回復レベルを判断するのは非常に難しく、また、日常生活が送れるレベルと職場復帰が可能なレベルには大きな差がある場合もあります。そのため、主治医による診断書に「職場復帰可能」と記載されていても、実際は職場復帰が可能なレベルに回復しているとは到底言えない状態であることも珍しくはありません。
十分に回復していない状態で復職した場合、再び休職が必要になるケースが多く、本人は強い焦りや不安を感じて、さらに症状を悪化させてしまうこともあります。そのような状況に陥らないためにも、リハビリ勤務の期間内に、本当に職場復帰が可能なレベルまで回復しているかを慎重に見極める必要があるのです。
社内規定が必要な理由
現時点ではリハビリ勤務に関する法律上の規定はありませんので、リハビリ勤務の内容については各企業が自由に決めることができます。リハビリ勤務に関する社内規定がなくてもリハビリ勤務を行うことは可能ですが、事前に社内でルールを決めておかないと将来的にトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。リハビリ勤務に関する社内規定が必要な理由について説明します。
1.説明の根拠が必要
リハビリ勤務を行う場合、具体的な内容について事前に対象者に説明する必要があります。説明の内容が曖昧だと、誤解が生じてトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。特にリハビリ勤務中の給与の支払い、リハビリ勤務の期間は、対象者にとって重要な項目なので、必ず事前に明確にしておく必要があります。リハビリ勤務の内容については、個別に調整が必要な点もありますが、期間や給与の支払い等については事前にルールを決めて就業規則等に定めておくことで、対象者に説明する際の明確な根拠として用いることが可能です。
2.トラブル回避のためにも重要
リハビリ勤務を実施した際に、対象者が実際は復職できるレベルまで回復していないことが判明する場合もあります。その場合、対象者が復職できるレベルまで回復していないと会社側が判断した場合にはリハビリ勤務を中断できる旨、就業規則等に規定してあれば、その規定を根拠として会社側はリハビリ勤務を中断できます。しかし、規定がない場合は、精神疾患を抱えたままでも職場復帰を実現したいと考える従業員と、会社側が対立する場合もあり、労使間トラブルに発展するリスクがあります。
また、リハビリ勤務に関する社内規定は、リハビリ勤務を実施する際、周囲の従業員から必要な理解を得るためにも大切です。リハビリ勤務の期間が定められていないと、周りの従業員から「あの人が短時間勤務している分の仕事をいつまでカバーしなきゃいけないんだろう」との不満が生じることもありますが、就業規則等で期間が定められていれば、「その期間だけ我慢すればいいんだ」という安心感につながります。
リハビリ勤務制度導入時の検討事項
リハビリ勤務制度を導入する際、社内規定を設けるために、どのような点について検討する必要があるのでしょうか。特に重要な検討事項について説明します。
1.制度設計
リハビリ勤務制度は、各企業が自由に設計することが可能です。厚生労働省が公開している『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』では、以下のような例が挙げられています。
- 模擬出勤:通常の勤務時間と同じ時間帯または短縮された時間帯に、リワークプログラムを実施しているデイケア施設等に通う、または図書館などで時間を過ごす
- 通勤訓練:自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動を行い、そのまま職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する
- 試し出勤:通常の勤務時間と同じ時間帯または短縮された時間帯に、職場に一定期間継続して出勤する
リハビリ勤務の制度設計を行う際は、規則正しい生活リズムを取り戻すことができるよう配慮することが大切です。模擬出勤や試し出勤で勤務時間を短縮する場合、午後からの勤務等にするのではなく、開始時間を通常の出勤時間と同じ時間に設定するとよいでしょう。
2.リハビリ勤務中の給与
上記3つの制度のうち、模擬出勤や通勤訓練の形態を採用する場合、労務の提供は行われないため、給与の支払いは不要です。ただし、試し出勤で、会社側の指揮命令のもと、会社の業務を行わせた場合には、労務の提供が行われたとみなされ、給与を支払う必要があります。メールチェック、会議の議事録の作成等の簡単な業務に限定した場合でも給与を支払わなければいけないという点はしっかり認識しておきましょう。
給与を支払う場合は、給与の計算方法を明確にする必要があります。通勤手当、資格手当等の諸手当の支払いの有無についても検討しておきましょう。
3.リハビリ勤務の期間
リハビリ勤務に必要な期間には個人差がありますが、社内規則として一定の期間を定めておくことは大切です。期間の定めがなければ、リハビリ勤務を終了するタイミングを決めることが難しくなるからです。
リハビリ勤務の期間は、1ヶ月~3ヶ月程度としている企業が多いかと思います。最初の1~2週間は午前中3時間など短い時間の勤務からスタートし、段階的に勤務時間を長くして最終的には通常の勤務時間とするような設計にするとよいでしょう。
4.リワークプログラムの活用
うつ病などの精神疾患により休職した方の円滑な復職を支援する制度として、社内で行うリハビリ勤務の他に、社外の医療機関や公的機関で実施されるリワークプログラムがあります。
前述した3つの制度のうち、模擬出勤では、リワークプログラムが活用されています。リワークプログラムには、認知行動療法やアサーショントレーニングなどの専門的なプログラムが含まれます。リワークプログラムを受けて自身の考え方の傾向を修正することにより、以前と同じ状況下でもストレスを感じにくくなり、再発防止効果が期待できるので、必要に応じて活用を検討するとよいでしょう。
リハビリ勤務とリワークプログラムの具体的な内容やメリット・デメリットなどについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしていただければと思います。
就業規則に必要な規定と注意点
リハビリ出勤を導入する際に、就業規則等にはどのような規定を設ける必要があるのでしょうか。就業規則等で定める必要がある項目、規定を設ける際の注意点などについて説明します。
1.定義・目的
会社が「リハビリ勤務」をどのような制度として定めているか、及びどのような目的でリハビリ勤務を実施するか明記します。
目的には、円滑な職場復帰を支援するため、休職期間中の従業員の職場復帰の可否を判断するため等、可能な限り具体的に記載しましょう。
2.対象者
リハビリ勤務の対象となる者の条件について記載します。トラブルを回避するために、以下の2点を含めておくとよいでしょう。
- 職場復帰が可能な程度まで回復したと会社が判断したこと、及び
- 本人がリハビリ勤務の実施を希望していること
リハビリ勤務を開始できる状態か否かの判断は会社が行うことを明記することが重要です。主治医が復職可能と判断したことを条件とした場合、本人が復職可能なレベルまで回復していない状態なのに主治医に頼んで「復職可能」と記載してもらった診断書が提出される可能性があるからです。
また、将来的なトラブルを回避するためには、リハビリ勤務は本人の意思により実施するものであり、会社が強制するものではない旨を明記することも大切です。
3.リハビリ勤務の期間
リハビリ勤務の期間を記載します。
リハビリ勤務の必要期間については個人差があるため、原則として○か月を超えない期間とすると規定した上で、但し書きとして、「会社が特に必要と判断した場合はこの限りではない」と記載するなど、柔軟性を持たせておくとよいでしょう。
4.リハビリ期間中の賃金の支払い
リハビリ勤務の期間中の賃金の支払いについて記載します。
賃金の支払いについて個別に設定したい場合、「リハビリ勤務中の賃金については、個別に通知するものとする」旨、規定しておきましょう。その場合、リハビリ勤務実施前に当事者との話し合いで明確に決定し、同意書等を交わす必要があります。
5.リハビリ勤務の終了
リハビリ勤務を終了する条件について記載します。トラブルを回避するためには、以下の2点を含めることが望ましいでしょう。
- 復職可能な状態ではないと会社が判断した場合、または
- 職場の業務運営に支障を来すおそれがあると会社が判断した場合
復職可能な状態まで回復していない状態でリハビリ勤務を開始した場合、無断欠勤を繰り返す等の問題が起きる可能性もあります。その場合、早急にリハビリ勤務を終了し、治療・休養に専念する等の対応が必要となります。本人が、経済的な不安を抱えて、リハビリ勤務の続行を希望していたとしても、他の従業員に迷惑がかかる場合もあるので、会社の判断によりリハビリ勤務を終了できる旨を明確に定めておくことが大切です。
6.リハビリ勤務終了後の復職の判断
リハビリ勤務期間の終了後、該当者の復職が可能かの判断を会社が行うことができる旨を記載します。
リハビリ勤務期間の終了後の復職の可否については、リハビリ勤務期間中の勤務状況および主治医の診断書を参考にしつつ、会社が最終的な判断を下す旨を規定しておくとよいでしょう。また、会社が指定した産業医の診断を参考にしたい場合は、必要に応じて会社が指定した産業医の受診を指示する場合がある旨を定めておきましょう。
対象者の規定と同様に、最終的な判断は会社が下すことを明記することが大切です。
リハビリ勤務制度導入の手順と留意点
リハビリ勤務を導入する際、どのような手順を踏む必要があるのでしょうか。導入の手順と留意点について説明します。
1.制度設計
リハビリ勤務を導入する際は、最初に綿密な制度設計を行うことが大切です。自社でリハビリ勤務を導入する目的、制度の内容、リハビリ勤務の期間、給与の支払い等を明確に決定しましょう。制度設計をする際は、対象者に対するサポートを充実させるだけではなく、周囲の従業員への影響とのバランスも考慮することが大切です。例えば、リハビリ期間が長過ぎると周囲の従業員への負担が大きくなるので、原則として必要最小限な期間を定めておく等の配慮が必要です。
2.就業規則の変更
制度設計が完了したら、制度の内容を就業規則等に定めます。必要な項目については前述しましたが、各項目について可能な限り明確に定めることが大切です。また、給与の支払い等、個別調整が必要な項目については、「個別に通知するものとする」等と規定し、柔軟な対応ができる余地を残しておくとよいでしょう。
就業規則を変更した際は、労働者代表から意見聴取を行って意見書を作成し、労働基準監督署に届出を行うという手続も忘れずに行ってください。
3.従業員への周知
就業規則を変更後、リハビリ勤務制度の内容や就業規則の変更内容について、必ず従業員に周知して下さい。就業規則の変更内容が従業員に周知されていない場合、就業規則の規定は無効とみなされる可能性があるため注意が必要です。
また、リハビリ勤務を成功させて復職を実現させるためには、周囲の関係者の理解と協力が不可欠です。うつ病等の精神疾患について誤解や偏見を持つ従業員が、リハビリ勤務中の従業員に対して嫌みを言うなどの行為をした場合、リハビリ勤務中の従業員に余計なストレスを与えるおそれもあります。
リハビリ勤務を導入する際は、必要に応じて全従業員に対するメンタルヘルス研修等を併せて行う等、周囲の理解と協力が得られる環境作りのための施策も検討するとよいでしょう。
リハビリ勤務実施時の注意点
リハビリ勤務を実施する際は、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。実施時の注意事項について説明します。
1.本人の希望を確認すること
リハビリ勤務を実施する際、最初に行うべきことは、本人がリハビリ勤務の実施を希望しているか確認することです。対象者が「職場復帰する際は強制的にリハビリ勤務をさせられるのだ」と誤解している可能性もあるので、リハビリ勤務の実施前に必ず面談を行い、リハビリ勤務は本人が希望する場合のみ行うことを明確に伝えることが大切です。
また、精神疾患により休職した従業員は「長い間休んで周りに迷惑をかけてしまった」「職場の皆と顔を合わせるのが怖い」などという罪悪感や不安を抱えていることが多いです。そのため、面談では、本人の心理面に十分配慮して、不安を取り除くことを心がけるとよいでしょう。
2.明確な説明をすること
リハビリ勤務を実施する際は誤解が生じないよう、制度の内容、給与の支払いの有無、業務内容等を明確に説明することも大切です。リハビリ勤務中に給与を支払う場合は、給与の算出方法についても詳しく説明しましょう。給与を支払わない場合は、リハビリ勤務はあくまでも本人の自由意思により行うものであり、リハビリ勤務中において対象者は会社側の指揮命令下にあるものではなく、会社側は対象者から労務の提供を受けないことを説明し、理解してもらうことが大切です。
将来的なトラブルを回避するためには、リハビリ勤務中の給与の支払い、リハビリ勤務の期間、業務内容等を明記した合意書等の書面を交わしておくことが望ましいでしょう。
まとめ
今回は、リハビリ勤務制度の趣旨、就業規則に必要な規定、リハビリ勤務制度導入の手順、実施時の注意点などについて解説しました。
リハビリ勤務制度を導入する際は、対象者に対するサポートを充実させることに目が行きがちですが、周りの従業員が受ける負荷等も考慮しながら慎重に検討する必要があります。また、将来起こり得るトラブルを想定し、就業規則等にトラブル回避のための規定を設けることも大切です。
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- 企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
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- 青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所