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更新日: 投稿日: 弁護士 後藤 亜由夢

リハビリ勤務(試し出勤)制度とは?給与支払いの必要性と適切な期間

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近年、職場に関連するストレスが原因で、うつ病等の精神疾患を発症し、会社の休職制度を利用して休職する方が増えています。精神疾患は身体的な怪我などとは違い、回復状態の判断が非常に難しく、復職後に症状が悪化して再度休職が必要になるケースも少なくありません。そのため、最近では、精神疾患を発症して休職した従業員のスムーズな復職を支援するために、リハビリ勤務(試し出勤)制度を導入する企業も増えています。

リハビリ勤務制度は、精神疾患などで休職した従業員が復職する際、段階を踏んで通常業務に戻す制度です。リハビリ勤務の実施は自宅療養後のスムーズな復職に役立ちますが、リハビリ勤務時の給与などの処遇や期間などを明確に取り決めておかないと、従業員との間でトラブルになる場合もあるため注意が必要です。

今回は、リハビリ制度の導入を検討中の方、リハビリ制度の具体的な内容や導入・実施時の注意点を知りたいという方に向けて、リハビリ勤務制度の意義、リハビリ勤務のメリットとデメリット、適切な期間の目安、リハビリ勤務中の給料、リハビリ勤務制度導入の手順、実施時の注意点などについて解説します。

リハビリ勤務制度とリワークプログラムの概要

うつ病などの精神疾患により休職した従業員の復職を支援する制度として、社内で行うリハビリ勤務と、社外の施設で実施されるリワークプログラムの2つの種類があります。リハビリ勤務とリワークプログラムの具体的な内容やメリット・デメリットなどについて説明します。

1.リハビリ勤務制度(試し出勤制度)とは

リハビリ勤務制度は、うつ病などの精神疾患により休職した従業員が復職する際、勤務時間の短縮や作業負荷の軽減を行い、段階的に元の業務に戻す制度です。リハビリ勤務制度の主な目的は、休職者の円滑な職場復帰をサポートし、復帰後の再発を予防することです。復職可能な状態かどうか見極めるためのお試し期間という意味合いもあり、試し出勤制度とも呼ばれています。

リハビリ勤務制度の導入は法律などで義務付けられているものではありません。導入しなくても法律上の問題にはならないため、導入していない企業もあります。また、導入している企業の間でも制度の名称や内容は異なります。慣らし勤務、復職支援プログラムなどという名称を付けている企業もあります。

以下は、リハビリ勤務制度の一例です。

  • ステップ1:午前中3時間勤務(最初の2週間)
  • ステップ2:午前中3時間+午後2時間勤務(次の2週間)
  • ステップ3:通常勤務(しばらくの間は残業なし)

上記は勤務時間のみ短縮する例ですが、勤務時間の短縮とともに業務内容を負荷の少ない作業に限定しながら、本人が通常業務に戻れる状態であるかを慎重に見極める方式をとっている会社もあります。

2.専門機関が実施するリワークプログラム

リワークプログラムは、医療機関や公的機関が提供している、うつ病の方の復職をサポートするリハビリプログラムのことで、復職支援デイケアなどと呼ばれることもあります。リワークプログラムとリハビリ勤務は、精神疾患による休業者の円滑な復職支援を目的としているという共通点がありますが、以下のような点で異なります。

  • リワークプログラムには再発防止を目的とした認知行動療法などの専門的なプログラムが含まれていることが多いが、リハビリ勤務にはこのようなプログラムが含まれているケースはほとんどない
  • リワークプログラムでは、精神疾患で休職するという同じ体験をした仲間と出会うことができるが、リハビリ勤務の場合、そのような機会はほとんどない
  • リハビリ勤務は各企業が独自に定める社内制度なので無料で利用できるが、リワークプログラムは医療機関や公的機関など社外の施設で実施されているプログラムのため費用がかかる

リワークプログラムを利用する最大のメリットは、復職支援を目的とした専門的なプログラムを受けることにより、復職後の再発を予防できる可能性が高まることです。特に認知行動療法とアサーショントレーニングの併用は、職場復帰後の再発予防に役立つといわれています。認知行動療法とアサーショントレーニングの目的と内容について説明します。

①認知行動療法

認知行動療法とは、自分の物事の捉え方や考え方(認知)の癖や歪みを自覚して修正し、現実的で幅広い考え方を習得することを目的とした精神療法です。認知行動療法はうつ病の再発防止に効果を発揮するといわれています。うつ病の患者の多くは、物事を悲観的に捉えがちである、自責の念が強いなどの傾向がありますが、認知行動療法を行うことにより、自分の考え方の傾向を修正し、以前と同じ状況に直面してもストレスを感じることなく現実的で柔軟な対応がとれるようになるのです。

②アサーショントレーニング

アサーショントレーニングは、相手の気持ちや意見を尊重した上で自分の気持ちや意見を上手に伝えるという対人関係の基本的なスキルを学ぶためのトレーニングです。復職支援を目的としたリワークプログラムの中では、職場でよくあるシチュエーションを想定したロールプレイが取り入れられていることも多いです。例えば、忙しい時に仕事を頼まれた時の上手な断り方などをシミュレーションすることにより、相手に伝えることができずに無理をしてストレスを溜めてしまうという状況に陥らずに済むようになります

リワークプログラムでは、職場に近い環境で作業を行うオフィスワーク、課題を役割分担しながら進めるグループワーク、テーマを決めたディスカッションなどが行われることも多いです。

リハビリ勤務のメリット・デメリット

うつ病などで休職した従業員が復職する際に、リハビリ勤務を行うことにより具体的にどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。リハビリ勤務のメリットとデメリットについて説明します。

1.最大のメリットは円滑な復職に役立つこと

リハビリ勤務の最大のメリットは、円滑に職場復帰できる可能性が高まることです。
自宅療養生活からフルタイム勤務に戻る際は、想像以上にエネルギーが必要になります。休職以前は日常的にフルタイム勤務をしていた方でも、会社に行くだけで気疲れし、帰宅したら疲れ果てて身体が動かないという現実に直面することも珍しくありません。
リハビリ勤務を行うことにより、午前中だけの勤務など負荷の少ない勤務からスタートすれば、徐々に身体を慣らして、休職前と同じレベルの体力や集中力を自然に取り戻すことが可能になります。

2.他の従業員への影響などのデメリットも

リハビリ勤務により時短勤務や作業負荷の軽減を行う際、その分、他の従業員が負担を負う場合があります。特に人手不足の職場では、他の従業員の負担が増えて、「あの人だけ特別扱いされて、ずるい」などという不満の声が上がり、モチベーションの低下につながるおそれがあります。

また、リハビリ勤務中の賃金の支払いや計算方法に関する取り決めが不明確な場合は誤解が生じてトラブルに発展しやすいという点もリハビリ勤務のデメリットといえるでしょう。

リワークプログラムのメリット・デメリット

社外の専門施設で実施されるリワークプログラムには、社内で行うリハビリ勤務とは異なるメリット・デメリットがあります。リワークプログラムならではのメリットとデメリットについて説明します。

1.再発リスク軽減が最大のメリット

職場に起因するストレスによりうつ病などを発症した場合、復職後に発症前と同じ考え方、同じ働き方をしていると、ストレスが溜まり、再発するリスクが高くなります。しかし、リワークプログラムで認知行動療法やアサーショントレーニングなどを受けることにより、ネガティブな考え方の癖を修正し、良好な対人関係を築くことができるようになれば、今まで職場で感じていたストレスが軽減される効果が期待できます。そのため、以前と同じ負荷の業務を担当しても、ストレスを蓄積することなく働き続ける可能性が高まります。リワークプログラムの受講は職場でうつ病を発症した根本的な原因を取り除くことにつながるため、再発リスクの軽減に役立つのです。

また、リワークプログラムには、自分と同じように精神疾患に悩まされている仲間と出会えるというメリットもあります。同じ疾患を患っている者同士が交流し、互いに支え合うことをピアサポートといいます。同じような症状の辛さを経験した者同士だからこそ理解し合えることは多く、ピアサポートは大きな心の支えとなることが知られています。

2.最大のデメリットは費用がかかること

リワークプログラムのデメリットは社内で行うリハビリ勤務と違い、費用がかかるという点です。ただし、リワークプログラムを利用する場合、自立支援医療制度を利用することにより、自己負担額を抑えることが可能です。自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療にかかる医療費の自己負担額を軽減する公的制度で、リワークプログラムを利用する際も適用されます。

休職者の多くは経済的な不安を抱えています。会社側が休職中の従業員に対して、リワークプログラムの利用を勧めた際、「悠長にリワークプログラムなどを受けている経済的な余裕はない。生活費を稼ぐために早く復職したい。」などと反発される可能性もあります。休職中の従業員の経済的な不安を軽減するためにも、自立支援医療制度などの公的支援制度について調べて、しっかり説明することが大切です。

また、リワークプログラムは基本的にうつ病やそれに準ずる症状を持つ方向けのリハビリプログラムであり、パニック障害や強迫性障害等の不安障害の方に向いているとは限らないという点も認識しておきましょう。

自宅療養後すぐにフルタイム勤務に戻す場合のリスク

リハビリ勤務やリワークプログラムを行うことなく、自宅療養からフルタイム勤務に戻した場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。具体的なリスクについて説明します。

1.再発して再度休職が必要になる場合が多い

うつ病などの精神疾患は、日常生活を普通に送れる状態まで回復しても、職場復帰が可能な状態とは限りません。そのため、主治医が診断書に「職場復帰が可能」と記載した場合でも、復職した途端、症状が悪化して、朝起きることさえできなくなるようなケースも少なくありません。

復職当初に本人が感じる不安や緊張感は想像以上に大きいものです。周りの人からの気遣いをプレッシャーに感じる方も多くいらっしゃいます。休職以前は問題なくできていたフルタイム勤務により大きなストレスを感じて、症状が再発し、再び休職せざるを得ない状況に陥ることは珍しいことではありません。

2.休職期間満了により退職となる場合のリスク

厚生労働省が公開している資料によると、うつ病の再発率は約60%と高く、再発を繰り返す度に以下のように高くなるそうです。

  • 2回罹患した場合:約70%
  • 3回罹患した場合:約90%

つまり、復職後に再発した場合、再発のリスクはさらに高まることになります。再発により、休職と復職を何度も繰り返した場合、他の従業員への影響や業務への支障などが大きくなることが懸念されます。そのような場合、会社側は退職勧奨を検討することになりますが、従業員が会社の対応に対して不満を持つ場合も多く、トラブルに発展するリスクが伴うため注意が必要です。

給料支払いの必要性と注意点

リハビリ勤務中あるいはリワークプログラムに通っている従業員に対して、会社は給与を支払う必要があるのでしょうか。給与支払いが必要となる要件、給与支払いに関する注意点などについて説明します。

1.給料の支払いが必要となる要件

以下の要件のいずれかに該当する場合、原則としてリハビリ勤務中の従業員に対して給料を支払う必要があります。

  • 休職期間中ではなく復職後にリハビリ勤務を行う場合
  • 使用者(会社側)の指揮命令下で会社の業務を行わせる場合

リハビリ勤務中の業務内容がメールチェックや議事録・報告書の作成等の軽作業のみに限定されていても、上記のいずれかに該当する場合は賃金を支払わないと労働基準法に抵触する可能性が高いため注意が必要です。

2.給料を支払う場合の注意点

リハビリ勤務中、勤務時間の短縮や業務の制限等を理由として給与を減額する場合、給与の算出方法を明確に取り決め、本人に説明する必要があります。本人がリハビリ勤務中の給与について誤解していた場合、「どうして、こんなに給料が安いんだ!」などと反発されて、トラブルに発展する可能性があります。したがって、本人が十分理解するまで説明して下さい。将来的なトラブルを回避するためには、リハビリ勤務中の勤務時間、業務内容、給与の算出方法を明記した契約書や同意書などの書面を交わしておくことが望ましいでしょう。
また、リハビリ勤務中に給与を支払う場合は傷病手当の対象から外れるので、その点についても説明する必要があります。

3.給与を支払わない場合の注意点

休職期間中に、本人の意思により社外のリワークプログラムに通う場合、あるいは本人が自主的に職場に慣れるため本人の意思によりリハビリ勤務を行う場合、原則として給与を支払う必要はありません。もっとも、この場合は、あくまでも本人が自主的に行うものであり会社側の指揮命令下にはないこと、その間は会社は労務の提供を受けないため給与は発生しないことを本人に対して十分に説明し、理解してもらうことが大切です。
また、復職が可能な状態かどうかを確認するためにリハビリ勤務を行う場合、復職が可能か否かについては、会社側が判断するという点も説明しておきましょう。

必要な期間の目安と留意点

リハビリ勤務やリワークプログラムを行う場合、どの程度の期間が必要なのでしょうか。適切な期間の目安、適切な期間を判断する際の留意点について説明します。

1.リハビリ勤務・リワークプログラムの期間の目安

リハビリ勤務を行う場合、最初のうちはできる限り負荷を抑えて、状況を確認しながら段階的に通常のフルタイム勤務に戻すことが大切です。ただし、負荷を抑えた勤務が長期間続くと、その勤務に体が慣れてしまう可能性があるため注意が必要です。例えば、午前中のみの勤務を1ヶ月間継続した場合、昼食を食べた後は眠くなってしまい、午後の勤務が非常に辛く感じるかもしれません。そのため、各段階は1~2週間程度に設定し、本人の状況を確認しながら、次のステップに進むことが望ましいでしょう。

医療機関や公的機関で実施されているリワークプログラムの期間は、数週間から年単位とかなり幅がありますが、一般的には3~6ヶ月程度の場合が多いようです。

2.必要な期間には個人差がある

うつ病などの精神疾患の症状や経過は人それぞれ異なります。そのため、リハビリ勤務やリワークプログラムが必要となる期間についても個人差があります。
厚生労働省が公表している『心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き』という資料では、主治医や産業医から十分な情報を得た上で、個人の状況に合わせた職場復帰支援プログラムを作成することが推奨されています。詳しく知りたい方は下記のリンクからご確認下さい。

まとめ

今回は、リハビリ勤務制度の意義、リハビリ勤務のメリットとデメリット、リハビリ勤務中の給料、適切な期間の設定と留意点などについて解説しました。

リハビリ勤務やリワークプログラムを行う際は、本人の経済的・将来的な不安などの心理面にも配慮し、復職までの間の給与や公的な経済支援制度等について丁寧な説明を行うことが大切です。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務のスペシャリストが、様々な企業のニーズに合わせたサポートを提供しております。リハビリ勤務制度の導入や、うつ病等の精神疾患を発症した従業員との労務トラブルの解決などに関するアドバイスも行っておりますので、お気軽にご相談いただければと思います。

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執筆者 弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会 登録番号57923
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。
得意分野
企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
プロフィール
青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社