従業員の解雇|解雇予告手当の計算や所得税の扱いを解説
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記事目次
「解雇」とは、使用者(会社)による労働契約の解約をいいます。
会社が従業員を解雇する際、会社は法令に基づいた対応が求められます。
また、理由があって従業員を解雇しなければならないのに、手続に漏れやミスがあると、後々、解雇の不当性や手続の瑕疵を追及され、解雇無効を争われる等、より事態が複雑化してしまう恐れもあります。
とはいえ、会社が従業員を解雇する際にどのような手続をとればいいのか、解雇予告手当はいつ払わなければいけないのか、源泉徴収など所得税の扱いはどうしたらいいのかなど、具体的な対応についてはよく分からないという経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、会社が従業員を解雇する際の解雇予告や、会社が従業員に支払う必要がある解雇予告手当について、計算方法や税金の扱い、その他気を付けるべきポイントについて解説します。
従業員を解雇する場合のルール
使用者(会社)が労働者(従業員)を解雇するには、労働基準法20条1項に基づき、原則として①従業員に対し30日前までに解雇の予告をするか(「解雇予告」といいます)、②従業員に対し30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(「解雇予告手当」といいます)。
もっとも、同法20条1項但書により、例外として㋐「天災事変その他やむを得ない事由のために」会社の事業の継続が不可能となった場合、または㋑従業員の「責めに帰すべき事由」に基づいて解雇する場合には、解雇予告も解雇予告手当もなしに、即時解雇することができます。
会社と従業員の雇用契約は、本来は対等な当事者間の契約であるため、民法が適用されることになります。すなわち、正社員など、期間の定めのない雇用契約で働いている従業員の場合は、会社側も従業員側もいつでも解約を申し入れることができ、解約の申入れの日から2週間後に契約が終了するのが原則です(民法627条1項)。
そのため、従業員側から退職を希望する場合は、退職日、つまり契約終了日の2週間前までに、会社に退職予告をすればいいことになります。
しかし、会社側から従業員を解雇する場合にも、2週間前の予告で足りるとすると、従業員にとっては再就職の準備をする期間がとれず、保護が十分とはいえません。また、実際には会社と従業員は対等な当事者間とはいえず、会社がいつでも従業員を解雇できるとすると、弱い立場の従業員が不利益を被ることになります。
そこで、労働基準法では、会社側から従業員を解雇する場合に、民法のルールを修正して、少なくとも従業員に対し30日前までに解雇予告をするか、または従業員に対し解雇予告手当を支払うことを定めているのです。
解雇予告手当とは
1.解雇予告手当を支払う場合
「解雇予告手当」は、上記のとおり、会社が従業員を解雇する日の30日以上前までにその予告をせずに解雇する場合に、労働基準法で支払が義務付けられている金銭のことです。
具体的には、会社が従業員に解雇を伝えた当日に即日解雇をする場合は、解雇予告手当として、その従業員の平均賃金の30日分を支払います。また、従業員を解雇する日の10日前に解雇予告をした場合は、30日から10日を差し引いた20日分の平均賃金を支払うことになります。
2.解雇予告手当の計算方法
解雇予告手当の金額は、単純化した場合、次の計算式で計算することができます。
「1日分の平均賃金」×「解雇予告期間が30日に足りなかった日数」
具体的には次の手順で考えていきます。
平均賃金の考え方
「1日分の平均賃金」は、次の計算式で算出します。
原則:「直前3か月に支払われた賃金総額÷3か月の総日数」(労働基準法12条1項)
例外:「直前3か月に支払われた賃金総額÷解雇日の直前の賃金締切日から3か月の従業員の出勤日数×60%」(労働基準法12条1項ただし書き)
例外にあたるのは、日給、時間給、出来高払いの場合などです。労働者の賃金を最低保障するため、原則の金額が例外より低いケースでは、例外の金額を平均賃金とします。
例えば、解雇日に応じて次のように計算します。
- 解雇日の当日に解雇を伝える場合
「直前3か月に支払われた賃金総額÷3か月の総日数」×30日 - 解雇日の10日前に解雇予告をした場合、
「直前3か月に支払われた賃金総額÷3か月の総日数」×20日(30日-10日=20日)
賃金総額の考え方
「賃金総額」とは、解雇日直前の賃金の締切日から3か月間の賃金総額をいいます(労働基準法12条1項、2項)。
例えば、給与の支払いが毎月末日締め、翌月15日払いの会社で、従業員が解雇される日が10月10日の場合、解雇日直前の賃金の締切日は9月末日になり、その前3か月間の7月1日から9月30日までの給与が、この従業員の賃金総額になります。
なお、この「賃金総額」は、源泉所得税、雇用保険料、社会保険料を控除前の金額で、役職手当や残業手当は含まれますが、次の5つは含まれません。
- 労災で休業中の期間に該当する給与
- 産休、育休、介護休暇中の期間に該当する給与
- 会社都合で休業する期間に該当する給与
- 試用期間中の給与
- 賞与などの臨時に支払われる賃金(3か月以内ごとに支払われる賞与は含む)
3か月の総日数
解雇日直前の賃金の締切日から3か月間の総日数をいいます。
3.解雇予告手当を支払わなくてもいいケース
労働基準法20条1項但書では、解雇予告や解雇予告手当の支払が不要な場合として、次の2つが定められています(もっとも、以下の2つの事由に該当する場合でも、会社は、その事由があることについて、行政官庁の認定を受けなければなりません)。
天災事変その他やむを得ない事由のために会社の事業の継続が不可能となった場合
この場合、そもそも会社が存続自体できない状況であり、会社が解雇予告手当を支払うことが困難なので、解雇予告や解雇予告手当の対象外となります。
労働者の責に帰すべき事由によって解雇する場合
「労働者の責に帰すべき事由」は、労働者側に明らかな責任があり、会社側から雇用契約を解消して解雇してもやむを得ないと言えるような事情をいいます。もっとも、「労働者の責に帰すべき事由」とは、会社が解雇予告手当を支払わず即時の解雇をすることも正当化されるような事由に限定され、労働者の帰責事由に基づく解雇が全て該当するわけではありません。つまり、労働者の非違行為などが、解雇予告手当による労働者の保護を否定されてもやむを得ないと認められるほど重大・悪質な場合に限られます。
「労働者の責に帰すべき事由」として、具体的には、以下のような事情が該当します。
- 社内で盗みや横領などの犯罪行為(軽微な場合を除く)や、賭け事等をして職場の規律を乱し、他の従業員に悪影響を及ほす場合
- 上記の社外の行為でも、会社の信用などを大きく損ねる、取引関係にも悪影響を与える等、会社との信頼関係を失わせるような場合
- 雇入れの際に、採用条件に関わるような経歴詐称があったような場合
- 他の事業所へ転職した場合
- 原則2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤を促しても応じない場合
- 無断欠勤など勤務態度が悪く、数回注意を受けても改めない場合
また、以下の条件で働く労働者も解雇予告や解雇予告手当は不要です(労働基準法21条)。
- 日雇い労働者(一か月を超えて雇われている場合を除く)
- 契約期間が2か月以内の労働者 (当初の期間内を超えて雇われている場合を除く)
- 4か月以内の季節的業務の労働者 (当初の期間内を超えて雇われている場合を除く)
- 試用期間中の人(14日を超えて引き続き使用されている場合を除く)
解雇予告手当と所得税の関係
所得税法上、通常の給与が「給与所得」に該当するのに対し、解雇予告手当は、退職金と同様に「退職所得」に該当します。
そのため、解雇予告手当を支払う会社側としては、退職金支払時と同様に、解雇予告手当金額の20.42%に当たる額を源泉徴収して「退職所得の源泉徴収票」を作成する必要があります。
そして、この源泉徴収票は、退職後1か月以内に、解雇した従業員に送付しなければいけません。
また、本来の税務手続からすれば、まず会社が従業員に「退職所得の受給に関する申告書」の提出を求めて税金を計算するのが正しい方法です。
しかし、こういったケースでは、解雇される労働者本人から「退職所得の受給に関する申告書」が提出されることはまずないので、会社側が源泉徴収してかまいません。
なお、解雇予告手当は、労働の対償となる賃金には当たらないため、社会保険料、雇用保険料は控除することはできません。
解雇予告手当を会社が支払うタイミング
解雇予告手当の支払時期は、即日解雇か、事前に解雇予告をするかによって異なります。
- 解雇を言い渡したその日に解雇する場合=解雇日当日に解雇予告手当を支払う
- 解雇を言い渡し、後日の解雇日に解雇する=後日の解雇日において解雇予告手当を支払う
とはいえ、実務上は最後の給与の支払と一緒に解雇予告手当を支払うなど、柔軟に対応しているケースも多いです。
従業員が納得すれば、最後の給与と一緒に支払う方法でも問題はありませんが、支払が遅れると、従業員が解雇に納得せず、不当解雇と主張されるおそれもあるので注意しましょう。
解雇における2つの注意点
解雇予告を30日より前にしたというだけでは、正当な解雇に当たるわけではありません。
解雇自体が、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、会社は解雇権を濫用したものとして、解雇が無効とされることになります(労働契約法16条)。
場合によっては、不当解雇として、解雇した従業員との間でトラブルになることもあります。
正当な解雇としてトラブルを防ぐためには、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」という要件に該当しないことが必要となります。具体的には、次の2つの注意点をクリアすることが必要です
1.解雇の理由が客観的に合理的な理由を欠かないこと
一般的には、①労働者の労務提供の不能や適格性の欠如・喪失②労働者の非違行為③会社の経営上の問題④ユニオンショップ協定(労働者が必ず労働組合に加入しなければならないという制度)に基づく組合の解雇要求などの類型があります。
これらの解雇の理由はそれぞれ条件があり、会社側がその条件を立証する必要があります。
例えば、①能力不足を理由として、その業務が未経験の従業員を解雇するケースでは、会社が「必要な指導や、適性を見るための配置転換を行った後も、勤務成績が不良であること」という条件を満たさなければいけません。
2.解雇が社会的に相当だといえること
解雇の社会的相当性の判断は、労働者に有利となり得るあらゆる事情(不法な動機・目的、労働者の情状、他の労働者との処分の不均衡、会社の対応・落ち度、解雇手続の不履践など)をしんしゃくしてなされることになります。
3.解雇手続(手順)がきちんと踏まれていること
また、解雇が社会的に相当だと言えるためには、会社が従業員を解雇するにあたり、解雇の手続がきちんと踏まれている必要があります。解雇する従業員とのトラブルを防ぐために、次の5つの手順を踏んで解雇手続を行いましょう。
解雇に至る経緯を伝える
解雇を伝える際には、上司の意見をヒアリングしていること、解雇に至るまでに従業員側との改善を求める面談や話合いの機会を持ってきたこと、従業員の適性に合った部署を探して配置換えをするなど、会社側も解雇を防ぐために努力をしてきたこと、それでも問題点が改善されなかったことを伝えます。
これらの経緯は、書面化して、解雇を伝える場に持参することをおすすめします。
解雇を伝える
解雇を伝える際は、「何月何日に」という解雇日と、「解雇する」ということを明確に伝えるようにしましょう。ここを曖昧にすると、後々トラブルになる可能性があります。
解雇日までの流れを伝える
解雇を伝えると、従業員からは、より詳細な解雇の理由を求める質問が出ることが予想されますが、①の書面をもとに冷静に回答し、併せて解雇日までの引継ぎなど業務内容についても伝えます。有給休暇の未取得分があり、従業員が取得を希望する場合は、法律上これを認める必要があります。
自主退職を勧める
これまでのように話をしてきても、従業員が納得しておらず不当解雇で争われる可能性があるような場合は、トラブルの深刻化・長期化を防ぐために自主退職を促すことも検討しましょう。
解雇予告通知書を交付する
従業員が自主退職に応じなければ、解雇予告通知書を交付します。解雇予告通知書は2部用意し、受領した旨の署名押印をもらいます。従業員が受け取りを拒否する場合は、自宅に内容証明郵便で郵送しましょう。
まとめ
今回は、会社が従業員を解雇する際の解雇予告や解雇予告手当について、注意すべき点や計算方法、所得税との関係について解説しました。
解雇予告手当を算出するにあたり、雇用形態や解雇を伝えるタイミングによって、いくつかの手順を踏んで考えなければいけないことについて、不安を持たれる経営者や人事の方もいるかもしれません。
従業員を解雇する場面では、トラブルが生じがちです。解雇予告手当という金銭が絡む場面もあります。また、解雇の際には会社と従業員との間に認識の相違も発生しがちです。手順を間違えると、不当解雇を主張され、多額の和解金を支払わなければならない可能性もあります。従業員の解雇を検討しなければならない場面になった際は、弁護士に相談することでこうした不安を解消することができますし、事前に相談しておくことで、解雇時における後のトラブルを回避することができます。従業員の解雇の問題でお悩みの場合は、企業法務・労働問題に強い弁護士に、まずはお気軽にご相談ください。
- 得意分野
- 企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
- プロフィール
- 青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所