従業員の給料が払えない場合の対処法|分割払いや減額等の違法性も解説
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記事目次
新型コロナウィルスの影響を受けて資金繰りが悪化し、従業員の給料の支払いに苦慮している経営者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
従業員の給料が支払えない場合に分割払いはできないのか、国の制度で利用できるものはないか等、お悩みの方もいらっしゃるかと思います。しかし、勝手に分割払いにしたり、支払いを先延ばしにしたりすると、違法性を問われる可能性があるため注意が必要です。
今回は、従業員の給料が払えない場合に会社側が注意すべきこと、取るべき対策、経営難に陥った企業が利用できる国の支援制度などについて解説します。
【解説動画】TSL代表弁護士、中川が従業員の給料が払えない場合の対処法について解説
従業員の給料が払えない場合の違法性
従業員に給料を支払うことは、労働基準法で使用者の義務として定められています。違反すると刑事罰の対象となり、雇用主が逮捕される、罰金刑などの刑罰を受ける等の可能性もあります。会社が留意すべき給料支払いの基本ルールと違法性が問われる可能性があるケースについて説明します。
1.給料の支払いの4つの義務
従業員に給料が全額確実に支払われるようにするため、給料の支払い方には決まりがあり、以下の4つの原則が定められています(労働基準法第24条)。
①通貨払いの原則
給料は現金で支払うのが原則です。従業員の同意を得た場合は、銀行振込等の方法で支払うこともできます。労働協約で定めた場合を除き、会社の商品などの現物で支払うことはできません。
②直接払いの原則
給料は従業員本人に支払わなければいけません。未成年者のアルバイトの給料であっても、親などに代わりに支払うことはできません。また、給料の受け取りを依頼されたという弁護士に代わりに支払うこともできません。
③全額払いの原則
賃金は全額支払わなければいけません。積立金、親睦費等の名目で賃金の一部を強制的に天引きすることは禁止されています。天引きができるのは、従業員の過半数を代表する労働者代表や労働組合と労使協定で定めた場合に限られます。ただし、法律で定められた税金や社会保険料などについては、従業員の便宜のために天引きが認められています。
④定期払いの原則
給料は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要があります。資金繰りが苦しいからといって、今月はパスして来月2か月分まとめて支払うことは認められません。また、毎月第三金曜日に払うなど、月によって変動する指定もできません。ただし、臨時の賃金や賞与は例外として不定期に支払うことができます。
2.違法性が問われる可能性があるケース
会社はどのような状況でも必ず給料を支払わなければいけません。天災事変があっても、賃金支払義務を減免する規定はないのです。勝手な判断で以下のような措置を行うと違法性が問われる可能性があるため注意が必要です。
①勝手な給料減額
資金繰りが苦しくて従業員への給料の支払いが難しい状況に陥ったとしても、勝手に給料を減額してはいけません。給料の減額は、従業員が職場の規律に違反した場合に、懲戒処分として行う場合のみ認められています。具体的には、就業規則に規定があり、頻繁な無断欠勤や遅刻、業務命令違反等の規律違反があった場合です。また、減給できる金額も、1回につき平均賃金の1日分の半額を超えてはならないという制限があります。何度も規律違反を繰り返した場合でも、減給総額は1回の支払賃金額の10分の1以下にする必要があります。(労働基準法第91条)
②分割払いや給料天引き
給料は全額まとめて支払わなければいけません。そのため、分割払いにする、払えない分を別名目で給与天引きするなどの措置は、賃金全額払の原則に反し、労働基準法違反になります。従業員の所得税や社会保険料の支払いを簡便化するために天引きする場合を除き、会社都合で天引きをする場合は、従業員の過半数の同意を得て労使協定を結ぶ必要があります。
③まとめて一括払い
給料の支払いが厳しい月があるなどの理由で、翌月に2か月分まとめて支払うなどしてはいけません。生活の困窮やローンの支払いが滞るなどの事態を避けるために、給料には毎月払いの原則があり、会社は従業員に対して最低でも毎月1回は給料を支払わなければならないからです。最低月1回以上の支払いなので、給料を月2回支払いにするなど回数を増やすことは問題ありませんが、給料日は明確にしておく必要があります。
給与未払いの場合の罰則とリスク
従業員への給料の支払いは、会社の必要経費の支払いの中でも最も優先順位が高いものです。給料の未払いは法律に違反するということはしっかり認識しておきましょう。給与未払いの場合の罰則規定と告訴または逮捕される可能性について説明します。
1.労働基準法と最低賃金法の罰則規定
給与の未払いについては、労働基準法と最低賃金法で罰則が規定されています。
- 労働基準法:給料支払いの4原則(通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則、毎月1回以上の定期払いの原則)に違反した場合に、30万円以下の罰金刑(同法第24条、同法第120条1号)
- 最低賃金法:地域や業種別の最低賃金の支払いが義務づけられており、都道府県ごとの最低賃金に違反した場合に、50万円以下の罰金刑(同法第4条1項、第9条、第40条)
給料が全額未払いの場合、一部は支払われたものの支払額からみて最低賃金を下回っている場合などは、労働基準法違反と最低賃金法違反が成立し、特別法にあたる最低賃金法の罰則が優先されます。
なお、給料は従業員を雇用している会社(使用者)が払うものですが、責任逃れを防ぐために、会社と事業主の双方が処罰されます(両罰規定:労基法第121条1項、最賃法第42条)。
加えて、未払い給料の中に残業代などの割増賃金も含まれる場合、割増賃金の未払いには6か月以下の懲役刑も定められているので、一層の注意が必要です(労基法第37条、119条1号)。
2.給料未払いで告訴・逮捕される可能性
会社が従業員の給料を支払えない場合、以下のような流れで、告訴または逮捕される可能性があります。
まず、給料が支払われない従業員が、労働基準監督署に告訴状を提出して相談すると、労働基準監督署が会社に対して支払いを促します。その後、支払いがなければ、労働基準監督署が会社に立ち入って調査を行い、行政指導を行います。それでも支払われない場合は告訴状が正式に受理されて、捜査が開始され、証拠を集めた上で検察官に書類送検されます。
労働基準監督署は、給料を未払いの使用者側を逮捕することもできますが、実際逮捕されるのは逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に限られます。しかし、検察官に事件が係属すると、呼び出しを受け、取調べを受けることになります。検察官は、取調べの結果や証拠から、事件を起訴する(刑事裁判にかける)か不起訴にするかを決定します。
書類送検から1か月ないし数か月で起訴か不起訴かの判断がされ、起訴された場合は略式手続(罰金等の刑の軽い罪で行うことができる非公開の裁判手続)を経て略式命令が出され、罰金を納付して終了することが多いです。
このように、従業員が告訴状を持って労働基準監督署に相談に行っても、すぐに告訴状が受理されて裁判になるわけではありません。しかし、指導に応じない場合や、いつまでも不払いを続けている場合は、裁判になる可能性も否定できません。
また、この段階まで至らなくても、給料未払いで送検された場合、厚生労働省の公式サイトで公表されることがあります。また、割増賃金等については未払金額と同額の付加金の支払いが命じられる等、使用者のリスクは増大します。
従業員の給料が支払えない場合は、放置せずに早急に対応を取ることが重要です。
従業員の給料が払えない場合の4つの対処方法
前述した通り、従業員の給料が支払えない場合に会社が負うリスクは甚大です。給料が払えない場合は、以下の対応を検討するとよいでしょう。
1.役員報酬の減額
従業員の給料を支払えない状況に陥った場合、会社が最初に検討すべきことは、社長や取締役、監査役などの役員報酬の減額です。
本来は、役員報酬の減額は、原則として事業年度の開始日から3か月以内に株主総会で決定する必要がありますが、業績の悪化等のやむを得ない事情がある場合は特別に期の途中での減額が認められています。ただし、トラブルを避けるためには、役員報酬の減額について取締役会で決議を取り、詳細な説明をして役員全員から賛同を得ることが望ましいでしょう。また、役員報酬は損金に算入できるので、減税のためにも損金算入しておきましょう。
2.経営者による会社への貸付
中小企業では、資金繰りが悪化した場合に、経営者が自ら会社に貸し付けを行うことがあります。会社の資金繰りは厳しいけれど、経営者個人の資産が十分にある場合は、経営者からの私財の投入で現状を乗り切るのも一つの方法です。
3.取引先との交渉
資金繰りが難しい場合、取引先と交渉して買掛金の支払いを猶予してもらう、売掛金がある場合は支払いを早めてもらうよう依頼するという方法も検討するとよいでしょう。支払いを遅らせてもらう場合は事情を正直に話し、支払期日をいつまで延長してほしいか、今後の見通しも含めて誠実に交渉することが大切です。一方的に支払いを遅らせる通知をしただけでは、信頼関係が破壊され、契約が打切られる、債務不履行責任を問われる等の可能性もあるため注意が必要です。
4.ローンの利用
従業員の給料は、最も優先されるべき支払い項目です。不払いを回避するためには、金融機関などのローンを利用することも検討しましょう。
従業員への給料は事業資金に該当するので、ビジネスローンを利用することも可能です。ビジネスローンは、最低10万円から利用できるので最低限の金額だけ借りれば返済負担も少なくて済みます。
また、カードローンも、最短で即日融資を受けられる、書類審査が簡易、法人カードローンの場合は極度額が高いなどのメリットがあります。ただし、利息が高いので、利用する場合は今後の資金繰りを十分に検討することが大切です。
最近は、売掛金がある場合に、来月以降の余剰分から現在不足している資金を補充できるファクタリングを活用する企業も増えています。ファクタリングには、即日資金調達ができる、保証人や担保が不要、決算上赤字が増えない、売掛先が倒産しても共倒れしないなどのメリットがあります。ただし、悪質なファクタリング業者も存在するため、ファクタリングを利用する際には十分に気を付ける必要があります。
5.社員に事情を説明して承諾を得る
あらゆる手段を講じても給料日に給料が支払えない場合は、必ず全従業員に状況の説明を行ってください。給料が支払えない理由、支払予定日、謝罪の意思の3つを真摯に伝えることが重要です。全額ではなく一部の支払いを遅らせる場合も同様です。
なお、給料の支払いが遅れる場合は、年利6%(新民法適用の場合3%)の遅延損害金を支払う義務が生じるので、会社の負担が増えることに留意しておきましょう。
資金繰りが苦しい場合に利用できる国の補助制度
経済的理由によって従業員の給料の支払いが難しい場合、国の制度を利用できる場合があります。都道府県により異なる制度もありますが、主な制度について説明します。
1.雇用調整助成金制度
雇用調整助成金制度は、経営難等で事業の縮小を避けられなくなった事業主が、従業員に一時的な休業、教育訓練、出向等を行い、雇用の継続を図った場合に、休業手当や賃金等の一部を補助する制度です。
新型コロナウィルス感染症の影響に対応するために、令和2年4月1日から9月30日までの期間を1日でも含む賃金締切期間を対象として、以下のような特例措置が取られています。
- 対象企業
・新型コロナウィルスの影響で経営環境が悪化し、事業活動が縮小している事業主
・最近1か月間の売上高または生産量などが前年同月比5%以上減少している事業主
・労使協定に基づき休業などを実施し、休業手当を支払っている事業主 - 対象労働者
・事業主に雇用された雇用保険被保険者に対する休業手当
・学生バイトなど上記以外の従業員は「緊急雇用安定助成金」の助成対象 - 助成金額
(平均賃金額×休業手当の支払率)×助成率<1日1人15,000円上限
・大企業の場合:通常3分の2、解雇しない等の上乗せ要件を満たす場合4分の3
・中小企業の場合:通常5分の4、解雇しない等の上乗せ要件を満たす場合全額
事業所がある都道府県の労働局またはハローワークで受付ができ、郵送での申請にも対応しています。詳しく知りたい方は、公式サイトをご確認ください。
2.未払賃金立替制度
業績悪化で倒産が避けられない場合、一定の条件を満たす必要はありますが、国の未払賃金立替払制度を利用できる可能性があります。未払賃金立替払制度は、会社の倒産によって給料未払いのまま退職した従業員に対して、国が未払賃金の一部を立て替えて支払う制度です。
未払給料を放置していると遅延損害金の額が膨らむので、倒産が避けられない場合は利用を検討してみることをおすすめします。
ただし、未払賃金立替払制度で立て替えてもらえるのは、未払い賃金の8割までで、退職時の年齢に応じて88万円〜296万円の間で上限が設けられています。また、立替えてもらった金額は労働者健康福祉機構に対して返済する必要があります。
未払賃金立替払制度について詳しく知りたい方は公式サイトをご確認ください。
3.セーフティネット保証
セーフティネット保証(経営安定関連保証)とは、経営の安定に支障が生じている中小企業に対して、市町村の認定を受けることで、信用保証協会を通じて、通常の信用保証(2.8億円)とは別枠で最大2.8億円の融資を利用できる保証制度です。
大型倒産の発生により影響を受けている(1号)、特定地域の災害等により影響を受けている(4号)、全国的に業況が悪化している業種を営む(5号)など、8つの条件に該当する企業が、経営の安定に必要な運転資金や設備資金のために利用できます。
保証枠を利用したい場合は、認定書を事業所所在地の商工担当課等の窓口に提出する必要がありますが、必要書類は各市町村によって異なります。本社所在地のある市区町村の担当窓口に確認してください。
4.危機関連保証
危機関連保証とは、昨今の新型コロナウィルスの影響により経済活動が低下したことを受けて、通常の信用保証枠(2.8億円)とは別枠のセーフティネット保証枠(2.8億円)に加え、さらに特別の信用保証枠(2.8億円)を使えるようにする保証制度です。
全国・全業種を対象として、最近1か月間の売上高等が前年同月比15%以上減少し、かつ、その後2か月間を含む3か月間の売上高等が前年同期比で15%以上減少が見込まれること、市町村長等の認定を受けることが条件になります。
融資を受けられる保証枠が一気に拡大するメリットがありますが、該当条件、保証率など事前に検討すべき内容も多いので、金融機関や市町村の商工課などに相談してみましょう。
従業員の給料が払えない場合に整理解雇できるか
経営難で従業員の給料が払えない場合、整理解雇を検討する経営者の方もいらっしゃるかと思います。しかし、整理解雇は条件を満たさないと違法と判断される可能性があります。整理解雇が認められる条件について説明します。
1.整理解雇が認められる4つの条件
整理解雇は、経営状況が悪化して給料が払えない状況に陥ったという理由のみで認められるわけではなく、以下の4つの条件を満たす必要があります。
①人員整理の必要性
整理解雇をする際は、経営上の相当の必要性が認められなければいけません。会社の存続が難しい場合だけでなく、客観的に経営危機にある場合も認められる傾向にありますが、判断は慎重に行う必要があります。
②解雇回避の努力義務を尽くしたこと
従業員の解雇をする前に、役員報酬の減額、新規採用の停止、希望退職者の募集など、解雇を避けるための経営努力、従業員の解雇回避努力を尽くして、それでも整理解雇せざるを得ないと判断される必要があります。
③解雇者選定の合理性
解雇する従業員の選定が合理的であり、人選の方法が公平で合理的であることが必要です。気に入らない社員だからという理由で整理解雇することは認められません。
④手続きの適正
整理解雇する際は、従業員への説明や話し合いを尽くし、できるだけ納得してもらうように適切な手順を踏むことが重要です。手続きの適性を欠く整理解雇は、無効と判断され、未払賃金や損害賠償請求の対象になる可能性があるので注意してください。
2.従業員の整理解雇で注意すべきポイント
従業員を整理解雇する場合は、上記の4つの条件を満たす以外にも、以下の2点に注意してください。
①解雇制限を受ける期間
法律で解雇が禁止されている以下の2つの期間は、「解雇制限期間」として整理解雇も禁止されています(労働基準法第19条)。
- 労働者が業務または通勤を起因とする負傷や疾病の療養のために休業する期間およびその後30日間
- 女性で産前産後休業を取得している期間およびその後30日間
ただし、会社側が打切補償を支払う場合、または天災事変その他やむを得ない事由によって事業が継続できない場合は例外です。
②男女差の禁止
整理解雇する従業員を選定する際に、性別を理由に差別的な取扱いをすることは禁止されています。具体的には、女性だけを対象とする、対象年齢に男女差を設ける等の場合です。
整理解雇は、会社の経営状況が大きく影響するため、従業員に理解してもらえるのではないかと考えがちです。しかし、従業員の生活基盤にも関わるため、会社の対応に問題があるとトラブルに発展するおそれがあり、慎重な検討が求められます。
まとめ
今回は、従業員の給料が払えない場合に会社側が注意すべきこと、取るべき対策、経営難に陥った企業が利用できる国の支援制度について解説しました。
従業員の給料が払えない場合、会社は大きなリスクを負いますが、取るべき対応を適切な手順を踏んで行うことにより、経営難の状況を打破できる可能性が高まります。
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