新型コロナ関連の休業補償や休業手当の支払義務・企業側の注意点を解説
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新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大防止のために緊急事態宣言が発令され、全国の飲食店や商業施設等が休業を余儀なくされています。休業中も従業員の生活をなんとか守りたいけれど、資金繰りが苦しく、先が見えない状況の中、休業手当を支払うための資金を確保する余裕がないという経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、労働基準法で定められた休業手当の支払義務、新型コロナウイルスの影響により休業要請を受けた場合の休業手当の支払義務の有無、雇用調整助成金の特例措置や小学校休業等対応助成金等の国の休業補償制度、従業員の休業について経営者側が注意すべき点などについて解説します。
労働基準法で定められた休業手当の支払義務
労働基準法では、労働者の生活を保護する観点から、使用者の休業手当支払義務について規定されています。まずは、事業者側が知っておくべき休業手当の支払義務の原則として、労働基準法で定められた休業手当の支払義務について説明します。
1.休業手当の計算方法
労働基準法では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、休業期間中、使用者は従業員に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと定められています(同法第26条)。
休業手当を算出する際の基準となる平均賃金は、算定すべき事由が発生した日以前の3カ月間に従業員に対して支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除した金額です(労働基準法第12条1項)。その期間の起算点は、賃金締切日がある場合においては、直前の賃金締切日から起算します(同条2項)。また、平均賃金は、以下の計算式で算出します。
平均賃金=休業開始前3カ月間に支払われた賃金総額÷休業開始前3カ月間の総日数
休業開始前3カ月間の総日数というのは単純に90日ではなく、その期間内での総日数となり、月毎に異なります。
休業手当は休業中の勤務予定日に対して支払う必要があり、以下の計算式で算出できます。
休業手当=平均賃金×60%×休業期間中に勤務する予定だった日数
2.休業手当の支払いが必要な従業員
休業手当は正社員のみではなく、労働基準法上の労働者に対して支払う必要があります。労働基準法上の労働者の定義は以下のとおりです。
“職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者”
パートタイムやアルバイト(短時間労働者)、派遣社員、契約社員も労働基準法上の従業員に含まれるため、休業手当を支払う必要があるという点はしっかり認識しておきましょう。
雇用調整助成金の特例措置による休業手当補償
新型コロナウイルスの感染拡大防止のために休業を余儀なくされた場合、雇用調整助成金という制度を利用して、休業手当の一部を国に負担してもらうことが可能です。
雇用調整助成金は、従業員の雇用維持を目的とし、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対して休業手当の一部を国が助成する制度です。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、2020年4月1日~6月30日までは緊急対応期間として、支給の要件緩和や助成率アップなどの特例を拡充する措置が取られています。
厚生労働省は、新型コロナウイルスの影響により休業を余儀なくされている事業主を積極的に支援するために様々な施策を進めています。例えば、相談者からの「申請手続きが複雑でわかりづらい」「申請書類を揃えるのが大変」などという声を受け、必要な書類の種類を11種類から6種類に減らし、申請手続きを簡素化しました。また、4月25日には、自治体からの休業要請を受けて休業や営業時間の短縮等に応じた事業者に対して、解雇等を行っていないことを条件として休業手当の助成率を10割に引き上げることを発表しました。ただし、従業員一人につき1日あたり8,330円という上限が設定されているため、支払った休業手当の全額が保証されるとは限りません。
雇用調整助成金の詳細については公式サイトでご確認下さい。
休業要請を受けた場合の休業手当の支払義務の有無
自治体等から休業要請を受けて休業せざるを得ない場合、事業者は従業員に対して休業手当を支払う義務を負うのでしょうか。休業要請を受けて休業する場合の休業手当の支払義務について説明します。
1.支払義務が免除されるケース
前述のとおり、労働基準法第26条には、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、休業期間中、使用者は平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないと規定されています。“使用者の責に帰すべき事由による休業”に該当するか否かは、不可抗力による休業か否かで判断されます。新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(改正特措法)により緊急事態宣言が発令され、都道府県や自治体から休業要請や協力依頼を受けて休業した場合は、不可抗力による休業と判断できます。そのため、労働基準法で定められた“使用者の責に帰すべき事由による休業”には該当しないとみなされ、原則として休業手当の支払義務は発生しません。
例えば、休業要請を受けた飲食店やスポーツ施設、アミューズメント施設等の商業施設が休業する場合は、不可抗力による休業とみなされて、労働基準法上の休業手当の支払義務を負うことはありません。
2.支払義務が免除されないケース
ただし、無条件に休業手当の支払義務が発生しないわけではありません。支払義務が発生しないのは、経営者としての最大の努力を尽くしても休業が回避できない場合のみとされています。
例えば、在宅勤務が可能な状況にも関わらず全面的に休業とした場合、経営者が休業を回避するために最大限に努力しているとは言えません。このようなケースは、“使用者の責に帰すべき事由による休業”とみなされ、休業手当の支払義務が発生する場合もあります。
感染の疑いがある従業員に対する休業手当
従業員やその家族が新型コロナウイルスに感染した場合、他の従業員への感染防止のために事業者側から休むようにお願いすることもあると思います。そのような場合、休業手当を支払う必要はあるのでしょうか?従業員やその家族が新型コロナウイルスに感染した場合の休業手当の支払義務について説明します。
1.休業手当の支払いが不要なケース
発熱や咳などの症状があり、新型コロナウイルス感染の疑いがある従業員が自主的に休みを取得する場合は、休業手当を支払う必要はありません。休業手当は支給されませんが、被用者保険に加入している場合、要件を満たせば傷病手当金が支給される可能性があります。
また、従業員本人ではなく、同居している家族に新型コロナウイルス感染の疑いがあるという理由で従業員が自主的に休みを取得した場合も同様に休業手当を支払う必要はありません。
ただし、他の従業員への感染の危険があることを理由に、有給休暇を利用して自主的に休むことを強要した場合は法律違反になる可能性があるため注意が必要です。労働基準法で、年次有給休暇は従業員が希望する時季に与えなければいけない(同法第39条第5項)と定められているので、違反しないよう注意しましょう。
2.休業手当の支払いが必要なケース
同居している家族に新型コロナウイルス感染の疑いがあるけれど本人は健康上の問題がないため通常勤務を望んでいるという場合、事業者側が自宅待機を指示することは労働基準法第26条の”使用者の責に帰すべき事由による休業“に該当すると考えられるため、休業手当の支払いが必要となります。
また、新型コロナウイルス特有の発熱や咳の症状がある、家族が感染した等の一定の条件に該当する従業員を休業させる場合も、使用者側の判断となるため、休業手当を支払わなければなりません。
学校休校の影響で休む従業員に対する補償
新型コロナウイルスの感染拡大防止策として全国の学校で休校措置が取られたことにより、仕事を休まざるを得なくなった方もいらっしゃいます。子供が中学生・高校生なら親が一緒にいる必要はないかもしれませんが、例えば子供が小学校低学年の場合、一人で留守番させるのは心配という方が多いと思います。
厚生労働省は、小学生の子供を持つ労働者が子供のために安心して仕事を休める環境を提供することを目的として、「小学校休業等対応助成金」という制度を創設しました。対象は、新型コロナウイルス感染拡大防止対策のために臨時休業となった小学校等に通う児童の保護者で、正社員だけではなくパートタイム労働者等の非正規社員も含まれます。
「小学校休業等対応助成金」の詳細については、厚生労働省の公式サイトでご確認下さい。
新型コロナウイルス関連の休業に関する事業者側の注意点
新型コロナウイルス関連の休業保証等について、事業者側はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?従業員の生活を守り、安全に事業を継続するために、事業者側が注意すべきポイントについて説明します。
1.従業員が安心して休める環境を構築すること
事業者には従業員が安全に働くために必要な配慮をする安全配慮義務が課せられています(労働契約法第5条)。従業員を新型コロナウイルス感染の危険にさらすようでは安全配慮義務違反になりかねませんので、可能な限り感染から従業員を守るために職場環境を整備する必要があります。
従業員を感染から守るために重要な施策の一つとして、新型コロナウイルス感染の疑いがある従業員が安心して休暇を取得できる環境を構築することがあります。その際、正規雇用の社員だけではなく非正規雇用の社員も含めた全従業員に対して十分な休業補償を行うことが大切です。休業補償がないと、給料が減ることに対して不安を感じた従業員が感染の可能性を隠して勤務を続けて他の従業員を感染させてしまう可能性があり、大変危険です。
新型コロナウイルスは、感染力が強く、発熱や咳等の症状が全くみられない無症状の人でも感染源となる可能性があると言われています。そのため、少しでも感染の疑いがある場合は休業手当を受給しながら休むことができる体制にすることが望ましいでしょう。就業規則等に休業手当等の規定を設けて周知するという方法も効果的です。その際は、パートタイム等の特定の雇用形態の従業員を休業手当の対象から除外すると、パートタイム・有期雇用労働法に違反する可能性があるため注意が必要です。パートタイム・有期雇用労働法は、雇用形態の違い等による待遇の不合理な格差の是正を目的として制定された法律で、2020年4月(中小企業は2021年4月)から適用されます。
2.差別行為を禁止する従業員教育も大切
従業員の生活を守り、健全な職場環境を維持するためには、感染の疑いが発覚した場合、直ちに上司に報告して休める体制を構築することも大切です。職場内での感染を防止するためにも、本人に咳や発熱等の自覚症状がある場合だけではなく家族が感染して濃厚接触者になった場合も直ちに報告するよう周知徹底しましょう。
また、感染の疑いがある従業員への差別や偏見を防止するために、従業員に対して適切な感染防止教育を行うとともに、感染者に対する差別的な扱いを禁止することも大切です。全国の労働組合には、新型コロナウイルスに関連した職場での差別や嫌がらせの被害を訴える相談が多数寄せられているそうです。差別や偏見を受ける可能性がある職場では、感染の疑いがある従業員が安心して職場に報告することができなくなり、結果的に職場内で感染が広がるリスクが高まる可能性もあります。従業員を感染リスクから守るためには休業規定や報告体制を整えることも大切ですが、休業規定や報告体制が実質的に機能するためには、差別行為の禁止を周知徹底することも重要だということを認識しておきましょう。
まとめ
今回は、労働基準法で定められた休業手当の支払義務、新型コロナウイルスの影響により休業要請を受けた場合の休業手当の支払義務の有無、雇用調整助成金の特例措置や小学校休業等対応助成金等の国による補償制度、従業員の休業について経営者側が注意すべき点などについて解説しました。
新型コロナウイルスの拡大が収まり経済活動再開の目処が立つまでには長い時間がかかるかもしれませんが、政府の支援制度等を活用しながら厳しい状況を乗り切りましょう。
政府の支援制度は申請手続が煩雑で利用しづらいなどという不満の声も多いようですが、政府はそのような声を受けて、手続の簡素化や要件の緩和等の改善策を進めています。
雇用調整助成金や小学校休業等対応助成金は事業者側が申請する必要がありますので、休業補償により従業員の生活を守るためにも積極的に活用することをおすすめします。
我々東京スタートアップ法律事務所は、新型コロナウイルスの影響を受けて資金繰り等に苦しむ中小企業のサポートに全力で取り組んでいます。感染防止のため、お電話やZoom等のオンライン会議システムによるご相談も受け付けていますので、お気軽にご相談いただければと思います。