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更新日: 投稿日: 弁護士 宮地 政和

是正報告書の書き方と添付資料・虚偽の記載をした場合のリスクも解説

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「労働基準監督官による調査の結果、是正勧告を受けて是正報告書の提出を求められたけれど、是正報告書の書き方がよくわからない」
「是正報告書をどのようなフォーマットで記載すればよいかわからない」
「是正報告書を期日内に提出できそうにない場合はどうすればよいのだろうか」
そのような疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、是正報告書の書式と記載すべき内容、添付が必要な資料、是正報告書の提出期日、是正報告書に虚偽の記載をした場合のリスクなどについて解説します。

是正報告書とは

是正報告書とは、労働基準監督官から交付された是正勧告書に従って法令違反の是正を実施したことを報告するための報告書のことをいいます。是正勧告書は、労働基準監督官による調査(臨検監督)の結果、労働基準法、労働安全衛生法などの労働関連法規に対する違反が発覚し、是正勧告が出された場合に交付されます。

労働基準法では、労働基準監督官は労働基準法を施行するため必要な場合に使用者又は労働者に対し必要な事項を報告させ、又は出頭を命じることができると規定されていて(同法第104条の2)、是正報告書はその必要事項を報告するための書類に該当します。

是正報告書の書式、記載内容、添付資料

是正報告書を作成する際はどのようなフォーマットを使用し、どのような内容を記載すればよいのでしょうか。是正報告書の書式、記載する内容、添付資料などについて説明します。

1.書式に関する法律上の規定はない

是正報告書の書式に関する法律上の規定は存在しません。
是正勧告書交付時に労働基準監督官から所定の用紙を手渡されるので、この用紙に手書きをしてもよいですし、労働局の公式サイトからダウンロードした用紙を利用して、パソコンで作成してもかまいません。また、所定用紙の書式を参考にして作成したものでも認められます。

2.是正報告書の記載内容

是正報告書には、以下の事項を記載します。

  • 宛名(XX労働基準監督署長殿)
  • 提出年月日
  • 事業場所在地・事業場名・電話番号
  • 代表者氏名
  • 違反法令条項
  • 違反事項
  • 是正期日
  • 是正年月日
  • 是正内容(是正状況、是正事項など)

宛名、違反法令条項、違反事項、是正期日については、是正勧告書が交付された時に労働基準監督官から手渡された所定の用紙に記載されている内容を記載して下さい。
各違反事項の是正年月日には、違反事項の是正に必要な書類を提出した日等、是正を実施したことを客観的に証明できる年月日を記載します。

3.是正内容の記載例

是正報告書で最も重要なのは、是正内容を具体的に記載していることです。

是正内容としては、違反事項に対処するために実際に行った事について、いつどのようなことを行ったのかを記載すれば足り、違反に対する再発防止策を記載することまでは求められていません。参考までに具体的な記載例をいくつかご紹介します。

①深夜労働の割増賃金不払いの場合

深夜労働の割増賃金の不払期間を従業員に確認し、○年○月まで遡って不足額を計算して、○月○日に支払いました。振込明細書のコピーを添付してご報告致します。

②就業規則の記載漏れの場合

就業規則に、ご指摘いただきました〇〇の項目を追加し、○月○日に労働基準監督署に届出を行いました。訂正後の就業規則のコピーを添付してご報告致します。

③パート職員の健康診断を実施していなかった場合

ご指摘いただきました従業員に対して健康診断の受診を促し、○年○月に○○病院にて、健康診断を受診したことを確認しました。健康診断書のコピーを添付してご報告致します。

なお、現時点で違反事項に対処できていない場合は、「今後、労働安全衛生法に定める年1回の定期健康診断及び入社時の健康診断を実施し、健康診断個人票を5年間保存致します。」など、実施を予定している是正措置について記載してもかまいません。

4.是正報告書に添付すべき資料

是正報告書には、違反事項の是正を実施したことを証明できる資料を添付する必要があります。具体的には以下のような資料です。

  • 深夜労働に対する割増賃金等の不払いを指摘された場合:精算額一覧表、振込明細書、領収書等
  • 就業規則の記載漏れを指摘された場合:訂正後の就業規則のコピー
  • パート労働者等の定期健康診断が行われていないことを指摘された場合:健康診断の診断書のコピー

必要な添付資料は、是正勧告の内容によって異なり、労働基準監督官から具体的に指示される場合もあります。どのような資料を添付すればよいかわからない場合は、労働基準監督官に確認するとよいでしょう。

是正報告書の提出期日

是正勧告を受けた企業は、労働基準監督署から交付された是正勧告書に記載された是正期日までに是正報告書を作成し、労働基準監督署に提出することが求められます

是正勧告を受けた日から、是正期日までの期間は、通常1か月程度という短い期間なので、期間内に是正のための措置を行うことが難しい場合もあるかもしれません。その場合は、必ず事前に、期限内に是正のための措置を行うことができない可能性があることを労働基準監督官に伝え、期限の延長について相談しましょう。

是正報告書に虚偽の記載をした場合のリスク

是正報告書に虚偽の記載をした場合、労働基準法第104条の2違反に対する罰則を定める第120条5号に該当し、労働基準監督署から書類送検される可能性があります。起訴されて有罪となった場合、30万円以下の罰金刑に処せられます。また、送検された場合、不起訴処分になったとしても企業の信用低下は免れません。

労働基準法第120条5号が適用される場合、直接虚偽記載をした者が従業員である場合は、従業員本人に加えて事業主(法人の場合は代表者)に対しても同号が適用されます(両罰規定:同法第121条)。また、従業員以外の外部の専門職者が代理人として当該書類を作成していた場合はその者と事業主が書類送検の対象となります。

虚偽報告による書類送検事例

実際に是正報告書に虚偽の内容を記載し、書類送検された企業は少なくありません。虚偽報告により、書類送検された事例をいくつかご紹介します。

1.残業代不払いの事案で残業代を支払ったとする虚偽報告

2017年8月25日、長野県の小諸労働基準監督署は、機器・部品メーカーの信州工場で定期監督をしたところ、長時間労働の事実が認められたため、同年9月~11月の労働時間を報告するよう命じました。
同社は、労働基準監督署の命令を受け、取締役の指示により、一人の従業員に対して2枚のタイムカードを作成しました。1枚は監督指導を逃れるために作成した報告用のもので、労働基準法第36条に基づく労使協定の範囲内の時間外労働時間を記録していました。同社は、報告用に作成したタイムカードに基づき、実際の労働時間よりも過少な時間を報告しました。しかし、小諸労働基準監督署の調査により、タイムカードが報告用に作られたものだということが明らかになり、報告が虚偽であることが発覚しました。

なお、同社は、同年11月の1か月間、労働者4人に対して36協定の限度時間を超える時間外労働をさせており、時間外労働は最長で156時間46分に上りました。さらに同年10月26日からの1か月間、時間外・深夜割増賃金を支払わなかったとされています。

2.労働者の労働時間を短く改ざんした虚偽報告

鳥取県の労働基準監督署は、2019年2月と4月の二度に渡り、一般貨物運送業者に臨検監督を行い、労働基準法第32条等違反の是正勧告をし、自動車運転業務に従事する従業員の労働時間を短くするよう求めました。
この従業員の1日の拘束時間は16時間を越え、自動車運転者の改善基準告示に違反していたとのことです。
同社の代表取締役は2019年5月に是正報告を行いましたが、報告書の内容は、運転時間が実際より少なく記載されている虚偽のものでした。報告内容について不自然な点があると感じた監督官が再度臨検監督した際も、トラックの運行回数を少なく記載した明細書を提出していました。

3.深夜労働の事実を隠蔽した虚偽報告

学習塾を3つ運営している鳥取県米子市の会社に対し、鳥取労働基準監督署は、2017年11月8日に臨検監督を行い、正社員一人に深夜労働の割増賃金が支払われていない疑いがあることから、実労働時間を報告するよう求めました。
しかし、同社は、深夜労働の事実を隠すために、同年8月から9月末の労働時間を改ざんし、労働基準監督官に対して、深夜労働の事実がなかったとする虚偽の報告を行っていました。
同社の運営する3つの学習塾には正社員が1人ずつ配置されており、アルバイト講師の統括をしていました。立件対象ではない2人の正社員に対しても、深夜割増賃金が支払われていない疑いがあるとされています。
そこで、鳥取労働基準監督署と米子労働基準監督署は、深夜の割増賃金を支払わず、労働基準監督官に虚偽の報告を行ったとして、同社と同社の代表取締役、取締役の2人を労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)違反などの疑いで鳥取地検に書類送検しました。

まとめ

今回は、是正報告書の書式と記載すべき内容、添付が必要な資料、是正報告書の提出期日、是正報告書に虚偽の記載をした場合のリスクなどについて解説しました。

労働基準監督署から是正勧告を受けている場合は、既に何らかの労働関係法令違反の事実があります。是正を行っていないのに、行った等の虚偽の報告をすることは、刑事罰の対象となるので、必ず事実を報告して下さい。指摘された法令違反に対する具体的な是正方法や、期日までに間に合わない場合の対処法などがわからない場合は、労働基準監督官に相談しましょう。労働基準監督官には相談しづらいという場合は、企業法務に精通した弁護士に相談してもよいでしょう。

東京スタートアップ法律事務所では、企業法務に関する専門知識と豊富な経験に基づいて、様々な企業のニーズや方針に合わせたサポートを提供しております。労働基準監督署から是正勧告を受けた際の対応や是正報告書の作成等に関するご相談にも応じておりますので、お気軽にご連絡いただければと思います。

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執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
弁護士登録後、都内の法律事務所に所属し、主にマレーシアやインドネシアにおける日系企業をサポート。その後、大手信販会社や金融機関に所属し、信販・クレジットカード・リース等の業務に関する法務や国内外の子会社を含む組織全体のコンプライアンス関連の業務、発電事業のプロジェクトファイナンスに関する業務を経験している。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業 明治大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内の法律事務所に所属 大手信販会社にて社内弁護士として執務 大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社