労働基準監督署からの通知への対処法・無視した場合のリスクも解説
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労働基準監督署から送られてきた通知を見て、「うちの会社、なにか問題があるのかな?」「従業員の誰かが労働基準監督署に通告したとか?」などと不安な気持ちになったという方は少なくないようです。
労働基準監督署から調査の通知に対して適切に対応すれば(特に法令違反行為がなければ)大きな問題に発展することはありませんが、通知を無視する、調査を拒むなどの不適切な対応をした場合、法令違反を理由に書類送検されるおそれもあります。
今回は労働基準監督署の役割、労働基準監督署から送られてくる通知の内容、労働基準監督署の調査に応じなかった場合のリスク、労働基準監督署の調査への対応手順と留意点などについて解説します。
労働基準監督署とは
労働基準監督署は、厚生労働省が管轄する機関で、労働基準法や労働安全衛生法等の労働関係法規の遵守の確保という重要な役割を担っています。労基署と略されることもあります。
労働基準監督署の主な業務は、労働関係法規に関する各種届出の受付、相談対応、監督是正です。労働者から申告や相談を受けた場合、事業場に立ち入って事情聴取や帳簿の確認などの調査を行い、法律違反が認められた場合には是正指導を行います。重大な事案の場合には、警察と同様に任意捜査や捜索・差押え・逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検する権限も有しています。
また、労災課という部署もあり、労働者が仕事や通勤に際して怪我や疾病を負ったとき、あるいは死亡したときに、被災した労働者や遺族の請求により、労働者災害補償保険法に基づいて労災保険給付を行う業務も行っています。
労働基準監督署から送られてくる通知の内容と注意点
労働基準監督署から送られてくる通知には主に以下の2つの種類があります。
- 労働基準監督署への出頭を命じられる場合の通知
- 労働基準監督署の監督官が事業所を訪問する場合の通知
それぞれの通知書の内容、通知が送られてきた際に注意すべき点などについて説明します。
1.出頭を命じられる場合の通知
労働基準監督署が出頭を要求する場合には、事業主(会社)に対して事前に出頭要求通知書という通知が郵送やFAXで送られてきます。労働基準法第104条の2第2項には、以下のように定められています。
労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、使用者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる
出頭による調査は上記の規定に基づいて行われます。
出頭要求通知書には、出頭の日時、場所、聴取が行われる事項、持参物などが記載されています。出頭する場所はその地域を管轄する労働基準監督署です。持参を求められるのは、雇用契約書、労働条件通知書、法定三帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿)等の人事・労務関連の契約書や帳簿類です。
出頭要求通知書を受け取った場合、指定された日時までに通知書に記載されている書類を全て揃えて、指定された日時に労働基準監督署に出頭して労働基準監督官による調査を受ける必要があります。指定された日時に出頭できない場合は、必ず事前に連絡を入れて下さい。
2.監督官が事業所を訪問する場合の通知
労働基準監督官が事業所を訪問して行う立ち入り調査を臨検監督といいます。臨検と略されることもあります。労働基準法第101条には以下のように定められています。
労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる
臨検監督は上記の規定に基づいて行われます。
臨検監督は、事前に予告通知が送られる場合もありますが、事前の通知なしに監督官が突然事業所を訪問して行われる場合もあります。事前に予告通知が届いた場合は、通知に記載されている訪問予定日を確認し、その日までに指定された書類を用意しておく必要があります。
通知なく行われる臨検監督は、抜き打ち調査と呼ばれています。抜き打ち調査ではその場で書類を準備して提示する必要がありますので、緊急の対応を迫られます。
労働基準監督署による調査が事前の通知なく抜き打ちで行われるのは、証拠の隠滅や改ざん、関係者の口裏合わせなどが行われて調査の実効性が損なわれてしまうおそれがある場合です。例えば、時間外労働の実態や就業規則が適切に周知されているかどうかを調査する場合などが挙げられます。
労働基準監督署の調査が入る理由
労働基準監督署の調査はどのような場合に行われるのでしょうか。調査が入る理由や調査の目的について説明します。
1. 労働基準法違反
労働基準監督署は、労働基準法、労働安全衛生法(安衛法)、労働者災害補償保険法(労災保険法)、最低賃金法など労働関係法令に違反する行為を取り締まっています。違反件数が最も多いのが、労働基準法に違反した行為です。厚生労働省が公表した「労働基準監督年報」によると、平成30年に法違反が確認された事業場の数は93,008件で、そのうち労働時間に関する違反が28,621件で最も多く、次いで割増賃金に関する違反が20,987件、労働条件の明示に関する違反が13,058件、就業規則に関する事項が9,923件となっています。それぞれの違反の内容について説明します。
①労働時間に関する違反
労働基準法には労働者の健康を害さないために一定の労働時間が定められています。これを法定労働時間といいます。法定労働時間を超えた時間外労働を行う場合は労働基準法第36条に基づく労使協定(36(サブロク)協定)を労使間で締結し、所轄の労働基準監督署に届出する必要があります。以前は、特別条項付きの36協定を締結することにより、上限なく残業をさせることが可能でしたが、2019年4月1日より順次施行された働き方改革関連法により、罰則付きの上限規制が設けられました。
36協定の締結・届出を行うことなく法定労働時間を超えて従業員を労働させている、働き方改革で設けられた上限に抵触するような長時間労働が黙認されているなどの疑いがある場合、労働基準監督署が実施する調査の対象となるため注意が必要です。
②割増賃金に関する違反
労働基準法は、法定労働時間を超える労働、深夜・休日の労働に対して、会社が割増賃金を支払うことを義務付けています。割増賃金が適切に支払われていない疑いがある場合、割増賃金の支払いが必要な時間外労働時間を確認するために、賃金台帳やタイムカードの記録等をチェックされることがあります。
③労働条件の明示に関する違反
労働基準法は、労働者を雇い入れる際に労働条件を明示することを求めています。明示すべき労働条件は、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と、定めをする場合は明示しなければならない相対的明示事項があり、明示すべき労働条件を明示していない場合は労働基準法違反となります。労働条件の明示については労使間でトラブルが多発しているため、労働基準監督署による調査の対象となることも多いです。
④就業規則に関する事項
常時働く労働者の数が10人以上の事業所には、就業規則の作成・届出・周知が義務付けられています。周知とは、従業員が見やすい場所に掲示したり、備え付けたりすることをいいます。就業規則の周知の状況は実際に事業場を訪問しないとわからないことが多いため、適切に掲示や備え付けがされていない疑いがある場合には労働基準監督官による臨検監督が行われることがあります。
2. 労働安全衛生法違反
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康の確保するために、労働者の安全と衛生についての基準を定めた法律です。事業者が講ずべき安全衛生管理体制や危険防止策、労働者が定期的に受けるべき健康診断、労働者への安全衛生教育などが定められています。
2019年4月1日より順次施行された働き方改革関連法により労働安全衛生法が改正され、原則として、タイムカードやパソコンを利用した記録等の客観的な方法で従業員の労働時間を把握することが事業者の義務として定められました(労働安全衛生法施行規則52条の7の3)。
労働安全衛生法には罰則が設けられていない規定も多いですが、これらの規定が守られているかどうかは労働基準監督署の調査の対象となります。
労働基準監督署の通知を無視した場合のリスク
労働基準監督署から通知が届いたけれど、仕事が忙しい時期で対応する時間が取れないという場合もあるかもしれません。しかし、労働基準監督署の調査に応じないことは非常に危険な行為です。労働基準監督署からの通知を無視した場合のリスクについて説明します。
1. 強制的な捜査を受けるリスク
労働基準法第102条には以下のように定められています。
“労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う”
司法警察官は、法律違反について捜査し、検察官に送致(送検)する権利を有しています。また、労働基準監督官の通知を無視するなど、捜査に応じない会社に対して、強制的に立ち入り調査を行うことも認められています。
つまり、労働基準監督署からの通知を無視した場合、強制的な捜査を受けるリスクがあるということになります。
2. 悪質な行為は刑事罰の対象となる
また、労働基準法第120条には以下のような罰則が定められています。
労働基準監督官の臨検を拒み、妨げ、若しくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、又は虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者は30万円以下の罰金に処する
労働基準監督官が実施する調査を拒否する、事情聴取で虚偽の陳述をする、改ざんした書類を提出する等の悪質な行為は刑事罰の対象となるということを認識しておきましょう。
労働関連の法令違反により書類送検されたことがメディアで報道されると、企業の信用やブランド価値が著しく低下するおそれもあります。
労働基準監督署の調査の種類
労働基準監督書による調査は、大きく分けて定期監督、申告監督、災害時監督、再監督の4つの種類があります。それぞれの種類について説明します。
1. 定期監督
定期監督とは労働法令違反を未然に抑止することを目的に行われるもので、無作為に選ばれた事業所に対して、労働条件、安全衛生の全般に渡って調査が行われます。
定期監督の対象となる事業所は、厚生労働省が作成する地方労働行政運営方針と、これに基づいて作成される各都道府県の労働基準監督署の監督計画に基づいて選定されます。定期監督は、その事業所に法令違反の疑いがあるという根拠を持って行われるものではありません。
2. 申告監督
申告監督とは、主に労働者の申告により行われる調査をいいます。
労働基準監督署では、賃金、労働時間、解雇などの法令違反や、事故、災害、労災保険などに関する労働者からの相談を受け付けています。このような相談を受けた際に、労働者による申告内容を確認するために行われるのが申告監督です。
申告監督は、定期監督と異なり、特定の法令違反行為の有無を確認するという明確な目的があるため、より厳しい調査が行われます。
会社側としては、労働基準監督署の調査が従業員の申告によって行われたのかどうかは大変気になるところですが、調査が定期監督であるか申告監督であるか教えてもらうことはできません。
3. 災害時監督
災害時監督とは、事業場で労働災害が発生した場合に、災害発生原因の調査、法違反の是正、再発防止指導を目的として行われる調査です。通常、企業が提出した私傷病報告や労災保険の請求などを契機として行われます。
4. 再監督
再監督とは、定期監督、申告監督、災害時監督により何らかの法令違反が認められて是正勧告が行われた後に改善がなされているか確認するために行われる調査をいいます。指定期日までに是正報告書を提出しない場合にも再監督が行われています。
労働基準監督署の調査への対応手順と留意点
労働基準監督署から通知が届いた、あるいは抜き打ちで調査が行われたとき、会社側はどのように対応すべきなのでしょうか。対応の手順と留意点などについて説明します。
1.対応する際の基本的な姿勢
まず、対応する際の基本的な姿勢として、どんなに多忙な時期だったとしても、期日を守り、真摯な姿勢で対応することが大切です。調査を拒否する、証拠隠滅を図るなどということは絶対にすべきではありません。前述した通り、労働基準監督官は労働関連法令違反について警察官と同じように強制的な操作を行う権限や逮捕権を有しています。非協力的な態度を示すことにより、会社が不利な立場に陥る可能性が高くなるということはしっかり認識しておきましょう。
2.要求された資料を用意
労働基準監督官の調査の際に提出を求められる書類はケースバイケースで異なりますが、要求されることが多い主な書類として以下のようなものが挙げられます。
- 組織図
- 従業員名簿
- 就業規則
- 賃金台帳
- 有給休暇の取得状況の管理簿(年休管理簿、有給休暇取得届等)
- 労働条件に関する契約書(労働条件通知書、雇用契約書等)
- 労働時間の記録(タイムカード、出勤簿、勤怠データ等)
- 残業申請書
- 年休管理簿
- 36協定届
- 健康診断個人票
労働災害が発生した場合は、労働者死傷病報告書の提出を求められます。
長時間残業が常習化している事実を隠蔽するために労働時間を書き換える等の書類の改ざんが発覚すると検察庁へ書類送検されることがあります。提出する書類の内容に問題があったとしても、書き換えなどは行わずに提出して下さい。
3.調査への対応
調査の際は必要な書類を提出した上で、事情聴取が行われます。臨検監督の場合は、機械や設備の状況、就業規則の周知状況などを直接確認されることもあります。
調査の結果、法令違反がないと認められた場合はその時点で調査は完了となりますが、何らかの法令違反が認められた場合は是正勧告が行われます。是正勧告とは、法令違反が認められた事業場の事業主に対して改善を指示し、その結果を報告するよう求めるもので、是正勧告書という書面を交付することによって行われます。
4.是正勧告に応じた改善
是正勧告が行われた場合は指定の期日までに指摘された点を改善して報告する必要があります。是正勧告書には法令違反の内容、違反する法律の条項、是正の期限となる期日が記載されているので、その内容を確認した上で対応しましょう。
是正勧告書の指示に従って適切な改善が行われたことが認められた場合、調査は完了となりますが、改善されていない場合や改善が不十分な場合は再監督が実施されます。再監督が実施された場合はより厳しい調査が行われる可能性が高いので、是正勧告書が交付された時点で、期日内に適切な改善ができるように計画的に取り組むことが大切です。
まとめ
今回は労働基準監督署の役割、労働基準監督署から送られてくる通知の内容、労働基準監督署の調査に応じなかった場合のリスク、労働基準監督署の調査への対応手順と留意点などについて解説しました。
労働基準監督署の調査の結果、労働関連法規の違反が明らかになった場合でも、労働基準監督官の是正勧告や指示に対して期日内に適切な対応を行うことにより、書類送検などの深刻な事態を避けることは十分可能です。ただし、労働時間や割増賃金に関する法規制は複雑で、安全衛生の規制は業種ごとに非常に細かく定められているため、適切な対応を行うためには法律の専門知識が求められる場合もあります。適切な対応方法がわからない場合、対応を行う時間的な余裕がない場合などは、法律の専門家に相談してアドバイスを受けることをおすすめします。
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