労働条件通知書のひな型と記載事項|雇用形態別の注意点も解説
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労働条件通知書は、法律で交付が義務付けられており、違反すると罰則もある重要な書類です。会社の業務内容や雇用形態によって記載内容や注意すべき点が異なるので、作成する際は雇用形態ごとの注意点を理解し、内容を十分に精査することが求められます。
今回は、労働条件通知書の概要、雇用契約書との違い、労働条件通知書の記載事項とひな型、雇用形態別の注意点などについて解説します。
労働条件通知書に関する基礎知識
まずは、労働条件通知書の概要や目的、交付するタイミング等の注意点など、基本的な内容について説明します。
1.労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、事業主(会社)と労働者(従業員)が雇用契約を結ぶ際に、事業主から労働者に対して交付する、労働条件を記した書類のことをいいます。
事業主に比べて立場が弱い労働者を保護するために、労働基準法第15条で、雇用契約の締結に際し、事業主に対して、労働者が働く条件を示すことが義務付けられています。労働条件の明示を怠った場合は30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
そのため、労働条件は正確に記載する必要があります。
なお、近年、労働力不足などの理由から、外国人労働者を雇用する会社が増えていますが、当然のことながら、外国人労働者にも労働条件通知書の交付は必要です。その際は、後のトラブルを防止するため、労働者の母国語を使って記載するのが望ましいでしょう。
2.労働条件通知書の交付に関する注意点
労働条件通知書は、交付するタイミングに注意が必要です。
平成30年1月の職業安定法改正により、新卒採用をする場合は、正式な内定までに労働条件通知書を交付する必要があります。内定通知書とともに労働条件通知書を交付するのがベストでしょう。
他方、パート、アルバイト、契約社員、正社員(中途採用)の場合は、内定までという制約はありませんが、雇用契約を結ぶ以上は労働条件通知書を交付しなければなりません。
なお、労働条件通知書を発行した場合、労働者が勤務している間だけでなく、退職後も3年の保管義務があるので注意が必要です。
次に、交付の方法ですが、従来、労働条件通知書は書面で交付しなければならないことになっていましたが、2019年4月以降は、労働者の同意があれば、FAX、メール、SNSのメッセージなどの電磁的方法による労働条件通知書の交付も可能となりました。厚生労働省は、印刷や保存がしやすいよう添付ファイルで送ることを推奨しています。また、後から労働者が内容を把握していたかどうかの問題が生じる可能性もあるので、必ず確認の連絡を取りましょう。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と似た書類に雇用契約書がありますが、交付の目的等が異なります。混同されることが多い労働条件通知書と雇用契約書の違いについて説明します。
1.雇用契約書とは
雇用契約書は、事業主と労働者が雇用契約を結ぶ際に交わす、契約内容を記した書面のことをいいます。契約の当事者である双方が、契約内容に合意したことを証明するため、それぞれが署名押印して取り交わすのが通常です。
雇用契約書の作成は義務ではありません。雇用契約は、口頭のやり取りだけでも、合意すれば正式に成立するのが原則だからです。
ただし、実務では、雇用後のトラブルを避けるために、雇用契約書を単体で、あるいは労働条件も明記した雇用契約書兼労働条件通知書という形で作成することが多いです。
2.労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書と雇用契約書は、作成が義務であるかどうか、誰が誰に対して交付するものかという点で異なります。
まず、雇用契約書の作成は義務ではありませんが、労働条件通知書の作成は義務です。雇用契約書は、作成しなくても契約は成立しますし、作成しなくても罰則はありません。一方、労働条件通知書の作成は、労働基準法で義務づけられ、作成しなければ罰則の対象となります。
ただし、雇用後に労働者との間でついてトラブルが発生してしまった場合に備え、「労働条件の内容について双方合意のうえ、雇用契約が成立している」という確たる証拠となりうる雇用契約書を作成しておくのが望ましいでしょう。
次に、雇用契約書は、事業主と労働者が同意した上で署名押印をして双方に取り交わす書類ですが、労働条件通知書は事業主が労働者に対して一方的に交付する書類である点でも異なります。そのため、雇用契約書は2枚作成し、それぞれに署名押印して双方が保管しますが、労働条件通知書は事業主が1枚作成して労働者に渡せば足ります。
3.労働条件通知書兼雇用契約書を作る際の注意点
上記のように、雇用契約書と労働条件通知書はそれぞれ役割や意味が異なります。
労働条件通知書の作成だけでも法律上は問題ありませんが、労働条件通知書は、事業主が労働者に対して一方的に通知するものなので、後日トラブルが発生した場合に、労働者から「そんな労働条件は知らなかった、話が違う」などと主張されるおそれがあります。そこで、このようなトラブルを防ぐために、「記載された労働条件の内容について双方合意のうえ、雇用契約が成立している」ことの確たる証拠となる雇用契約書を作成することが望ましいです。
両方の書類を作成しても問題ありませんが、手間やコストの削減のために、両者を兼用した「労働条件通知書兼雇用契約書」を作成する企業も多いです。
労働条件通知書兼雇用契約書を作成する場合は、以下の2点を明記することが大切です。
- 絶対的明示事項(必ず記載しなければいけない内容)
- 相対的明示事項(企業の規則があれば記載しなければならない内容)
また、労働者の住所、氏名は必ず自署してもらうようにして下さい。会社側が労働者の名前を印字するなどして、押印させるだけにすると、後から押印はしたが内容に同意したわけではない等と主張されるおそれがあるため注意が必要です。
労働条件通知書の記載事項
労働条件通知書には、絶対的明示事項と相対的明示事項を記載する必要があります。これらは、労働条件通知書を単独で作成する場合でも、労働条件通知書兼雇用契約書という形で作成する場合でも、網羅しているか確認することが重要です。
絶対的明示事項と相対的明示事項の内容について説明します。
1.絶対的明示事項
絶対的明示事項は、必ず記載しなければいけない内容です。具体的な内容は以下の通りです。
- 労働契約期間
- 就業場所および従事する業務内容
- 始業・終業時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無(残業の有無)
- 休憩時間・休日・休暇に関する事項
- (交代制勤務が発生する場合)交代順序あるいは交代期日
- 賃金(給与)の決定・計算・支払方法、賃金の締め切り・支払日に関する事項
- 退職(解雇の事由を含む)・昇給に関する事項(昇給のみ、書面ではなく口頭による説明でも可)
2.相対的明示事項
相対的明示事項は、企業に該当する規定がある場合に、記載する必要がある内容です。具体的な内容は以下の通りです。
- 退職手当の対象、決定、計算や支払いの方法および支払時期
- 臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当、勤続手当、奨励加給等に関する事項
- 労働者に負担させる食費や作業用品等に関する事項
- 安全衛生や職業訓練に関する事項
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰や制裁に関する事項
- 休職に関する事項
労働条件通知書のひな型
厚生労働省のサイトには、上記内容を網羅した労働条件通知書が、正社員、短期労働者、派遣社員等の雇用形態別に公開されていて、ダウンロードして利用することが可能です。
厚労省の書式は複雑だという声もあるので、労働条件通知書の簡易版のひな型をご紹介します。厚生労働省が公開しているひな型と合わせて参考にしていただければと思います。
労働条件通知書
令和●●年●●月●●日
●●●●殿
株式会社××××
代表取締役社長×××× 貴殿を、以下の条件で[正社員/パート従業員/アルバイト従業員]として雇用します。
以上
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雇用形態別・労働条件通知書に関する注意点
労働条件通知書に記載すべき絶対的明示事項と相対的明示事項は、雇用形態に関わらず共通しています。ただし、雇用契約を締結する際の労働条件の内容は、雇用形態によって注意すべき点が異なります。具体的な注意点について説明します。
1.正社員の場合
正社員の場合、無期雇用となることから、一度契約すると長期間勤務することが想定されます。長期間勤務する中では、人事異動などによる配置転換や転勤等が必要になる可能性もあります。実際に部署異動や転勤があるか、あるとしてもいつ頃かという予測は難しいですが、労働者にとっては、生活の基盤に大きな影響を及ぼす事柄です。そのため、労働条件通知書に「転勤や業務配置の転換を命ずる場合がある」旨の記載をしておくことをおすすめします。
2.契約社員の場合
契約社員の場合は、有期雇用契約となるのが通常です。そのため、絶対的明示事項である労働契約期間について注意が必要です。契約更新の有無、更新される可能性がある場合はその判断基準を明示しましょう。
有期雇用の場合、原則として契約期間は3年以内とする必要があり、契約期間中は期間満了しないと退職できないのが原則です(民法第628条)。なお、1年を超えて継続雇用している場合や、契約を3回以上更新していた契約社員の契約を更新しない場合(雇止め)は、事業主は契約満了日の30日前までに、労働者に対して雇止めの予告をする必要があります。また、契約更新により通算5年以上雇用した場合、契約社員の希望があれば、事業主は無期雇用に転換する義務があります(無期転換ルール)。
3.パート・アルバイトの場合
パート・アルバイトなど、短時間労働者の場合は、雇用契約書に昇給の有無、退職金の有無、賞与の有無を明示しなければなりません(パートタイム・有期雇用労働法第6条)。また、2015年4月の同法の改正により、相談窓口に関する事項も記載することが義務づけられました。なお、このパートタイム労働法の「労働者」は、一般的に「パートさん」「バイト」と言われる労働者だけでなく、フルタイムで働く正社員などの通常の労働者に比べて、所定労働時間が短い労働者全般のことをいいます。会社によっては「準社員」と呼んでいることもあるので、対象になる労働者を確認した上で作成するようにしましょう。
4.派遣社員の場合
派遣労働者の雇用契約は、派遣労働者と派遣元会社の間で締結されています。そのため、派遣労働者の場合は、仕事をする派遣先ではなく、派遣元である派遣会社が就業条件を記載した書類を交付します(派遣法第34条)。そのため、雇用契約書(就業条件明示書)として記載し、交付することが多いです。
記載内容は、派遣先での業務内容や、勤務地、所属部署、派遣期間、就業時間、休憩時間、時間外労働や休日出勤の有無、指揮命令権の所在、派遣元責任者、派遣先責任者、苦情に関する事項などが書かれています。
労働条件通知書と就業条件明示書は別物ですが、記載すべき内容はほぼ同じのため、労働条件通知書兼就業条件明示書として労働者に交付しているところもあります。
労働条件通知書の作成を弁護士に相談するメリット
労働条件通知書は、法律で交付が義務付けられており、違反すると罰則もある重要な書類です。また、記載内容と実際の労働条件が違った場合、労働者は即時に雇用契約を解除することができるため、事業主である会社は記載内容を十分に吟味する必要があります。一方で、会社や社会の情勢が変わり、労働条件に変更を加えざるを得なくなった時に対応できる柔軟な記載も求められます。加えて、法改正によっても、見直しが求められるケースもあり、実際、職業安定法の改正により、2018年からは当初の労働条件を変更する場合は変更内容の明示が義務付けられるなど、労働条件通知書に記載すべき内容にも変更が生じています。そのため、不備や漏れがないよう、厚生労働省のサイトなどで最新の情報を確認して反映させることが必要です。
このような労働条件通知書の作成を弁護士に相談することで、自社の労働条件に即して過不足のない内容か、リーガルチェックを受けられることは大きなメリットになります。加えて、法改正があった場合に、労働条件通知書の内容を精査して変更してもらえるので、安心して雇用契約を結ぶことができます。この点、弁護士と顧問契約を結んでおけば、都度法改正に応じて自ら修正の相談を求めなくても、定期的に弁護士に相談できるので、随時、法改正に照らした労働条件通知書を整備しておくことができるでしょう。
さらに、万一、労働者との間でトラブルが生じた場合も、自社の労働条件や労働条件通知書の内容を把握している弁護にスムーズに対応してもらうことにより、会社が被る損害を最小限に抑えることが期待できます。
まとめ
今回は、労働条件通知書の概要、雇用契約書の違い、労働条件通知書の記載事項とひな型、雇用形態別の注意点などについて解説しました。
労働条件通知書は、企業によって記載内容が大きく異なり、また同じ企業内でも、雇用形態によって記載内容が異なるため、幅広い法律知識が求められます。さらに、昨今、労働環境を巡る法改正も頻繁に行われており、労働条件通知書への反映が求められる点も少なくありません。社内で法改正の内容を把握するのが難しい場合は、企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
東京スタートアップ法律事務所では、豊富な企業法務の経験に基づいて、お客様の会社の状況や労働条件、雇用形態に合った労働条件通知書のひな型作成のご相談に対応しております。また、労働条件通知書のひな型作成だけでなく、個別の雇用契約書、就業規則の整備、万が一労使トラブルが発生した場合の対応など、全面的なサポートが可能です。労働条件通知書をはじめとする相談等がございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。
- 得意分野
- 一般民事
- プロフィール
- 名古屋大学法学部法律政治学科 卒業 名古屋大学法科大学院 修了 弁護士登録 都内法律事務所 勤務 東京スタートアップ法律事務所 入所