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更新日: 投稿日: 弁護士 後藤 亜由夢

取締役辞任・解任の際に注意すべきリスク、円満辞任を促す方法も解説

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大手企業の不祥事により、取締役の辞任や解任に関するニュースが連日のように報道されています。しかし、中小企業でも、経営責任の追及や経営方針の不一致等の理由で、取締役の退任を求める事例は多発しています。

取締役の解任は株主総会の普通決議で行うことが可能です。すなわち、議決権の過半数を有する株主は、原則として取締役を自由に解任することできます。しかし、株主総会で正当な理由なく取締役を任期の途中に解任した場合には、会社側が損害賠償責任を負う可能性があるため、注意が必要です。

今回は、「取締役を解任する際の具体的な手順や注意点を知りたい」という方に向けて、取締役の解任と辞任の違い、取締役を解任する手順、取締役解任に必要な「正当な理由」の典型的な例と裁判例、トラブルを避けるために注意すべきポイントなどについて解説します。

取締役の解任と辞任の違い

企業の取締役が退任する際、メディアでは“解任”と“辞任”の2通りの表現が使用されて報道されていますが、法的にも、“解任”と“辞任”が区別され規定されています。両者にはどのような違いがあるのでしょうか。まずは、“解任”と“辞任”の違いについて説明します。

1.解任と辞任の定義

“解任”と“辞任”はどちらも取締役の地位を退くことには変わりありませんが、実は大きな違いがあります。それぞれの定義は以下のとおりです。

  • 解任:会社側の意思により、取締役の職務を解くこと
  • 辞任:取締役自らの意思により、取締役の職務から退くこと

解任は辞任と違い、取締役本人の意思に反して行われる場合が多いため、後々、損害賠償などのトラブルに発展する可能性が高いです。

2.解任の場合は損害賠償請求を受けるリスクがある

取締役が任期途中で解任された場合、その解任について正当な理由がある場合を除き、取締役は会社に対して損害賠償を請求することが可能です(会社法第339条2項)。訴訟では、正当な理由は会社側に立証責任があり、会社がこれを立証できない場合は、解任した取締役に対して損害賠償を支払う必要があります。損害賠償の範囲は、任期満了までに得られたと想定される役員報酬に相当する金額に加え、場合によっては、賞与、退職慰労金に相当する金額も含む場合もあります。

正当な理由がある場合の例とは、取締役に心身の故障があった場合、取締役が法令や定款に違反する行為を行った場合、取締役がその職務について著しい不適任がある場合などです。例えば、業務上横領や背任などの違法行為により会社の財産を費消し、多大な損害を与えた取締役を解任する場合などが挙げられます。その取締役に明らかな落ち度がある場合には、会社が正当な理由を立証することは十分可能です。しかし、取締役の経営判断のミスや経営方針の違いによる意見の対立・派閥争いなどが理由の場合、正当な理由とはいえないケースもあるため注意が必要です。

円満辞任を促す方法

取締役の解任することで損害賠償を請求されるリスクを減らすためには、どのような方法を取ればよいでしょうか。以下では、円満に取締役を退いてもらう方法について説明します。

1.任期満了まで待てるか検討する

経営方針に関する意見の対立等があるものの、法令や定款違反などの落ち度がない取締役を退任させたい場合、最もトラブルが起こりにくい方法は任期満了まで待つことです。
取締役の任期は原則として2年以下(会社法第332条1項)とされています。
(なお、公開会社ではない株式会社(定款で株式の譲渡につき会社の承認が必要とされている会社)の取締役の任期は、会社法第332条2項により、定款で10年以下にすることが可能です。)
取締役の任期満了後は、会社は定時株主総会を開催して、新しい取締役を選任することになります。そのタイミングで新しい取締役を選任することにより、退任させたい取締役に退いてもらうという方法が最もスムーズです。まずは退任させたい取締役の任期を調べて、任期満了まで待てるかどうか検討すると良いでしょう。

2.本人を説得して辞任してもらう

任期満了まで待てない場合、退任させたい取締役が自ら辞任するよう説得するという方法もあります。もっとも、取締役が退任を望んでいない場合、会社側と対立することになるため、慎重に進める必要があります。基本的な進め方として、以下の手順をおすすめします。

  1.  取締役就任期間の業績の低下や経営判断の失敗等、十分に説得力のある原因を見つけ、取締役に対する問題点と改善すべき点をまとめた文書を作成する。
  2. 作成した文書を提示して話し合いをする機会を設ける。
  3. 一定期間経過後、問題点が解決できていないことを理由として、辞任を求める。
  4. 辞任を受け入れてもらえたら、辞任の時期や金銭面の処遇を決めて、辞任届を提出してもらう。

3.辞任を促す際の注意点

取締役に辞任を促すための話し合いの際、取締役が攻撃的に反論してくる可能性もありますが、感情的にならず落ち着いて冷静な対応をとるよう心がけましょう。後からトラブルに発展した場合の証拠として、話し合いの内容は録音しておくことをおすすめします。

また、辞任届は本人が辞任を承諾したことを示す決定的な証拠となるので、必ず提出してもらうようにしましょう。ただし、取締役本人に辞任の意思がないのに強制的に辞任届の提出を求めた場合、後日、当該取締役から辞任は無効であると主張される場合もあります。そのため、一方的に辞任を迫ることは控えましょう。

株主総会の多数決により解任する方法

1.取締役は株主総会の決議でいつでも解任できる

退任させたい取締役が辞任に応じなかった場合、株主総会決議で解任するという方法があります。会社法第339条1項には、取締役などの役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができると定められています。

そして、迅速に取締役を株主総会で解任する方法として、定時株主総会を待つのではなく、一定の要件を満たす株主が臨時株主総会の招集を会社に請求することができます。すなわち、総株主の議決権の3%以上の株式を所有する株主は、臨時株主総会の招集を請求し、当該取締役の解任を議題とすることができます(会社法第297条1項2項。なお、公開会社の場合は、「6か月以上株式を有していること」という要件が加わります)。
また、総株主の議決権の3%以上の株式を所有していなかったとしても、その1%以上の株式を所有する株主であれば、次回の定時株主総会で取締役解任の議題を提案することができます(会社法第303条2項)。

ただ、前述のとおり、会社が取締役を任期途中で解任した場合、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社は取締役から損害賠償を請求される可能性があることに注意しましょう。

2.取締役の解任は普通決議により可能

株主総会の決議方法には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があります。取締役の解任は、旧商法では特別決議で行うものと定められていました。しかし、2006年5月に施行された会社法では、定款に別段の定めがない限り、普通決議で解任することが可能となりました。普通決議の決議は、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席して、出席した株主の議決権の過半数の賛成によって可決されます(会社法第309条1項)。会社法により特別決議から普通決議へと要件が緩和された趣旨は、過半数の株主の支持を失った取締役はもはや在任させるべきではない、という考え方によります。

取締役解任の訴えの手続き

もっとも、取締役は多数派株主によって選任されるのが通常であるため、不正な行為を行った取締役の解任決議が否決され、不適格な取締役を排除できないような事態が生じるおそれがあります。そこで、株主総会で解任決議が否決された場合でも、少数派の株主を救済するため、役員解任の訴えが認められています。総株主の議決権か発行済株式の3%以上の株式を所有する株主は、解任決議が否認された株主総会から30日以内であれば、解任の訴えを裁判所に提起することが可能です(会社法第854条1項。ただし、公開会社の場合は、「6か月以上株式を有していること」という要件が加わります。)。

ただし、この訴えが認められるのは、当該取締役が重大な不正行為を行ったと認められる場合に限られます。例えば、当該取締役が会社に大きな損害を与えるような不祥事を起こした場合は、この要件が認められる可能性があります。しかし、単に経営方針の不一致等の理由では、この要件は認められない可能性が高いです。

取締役解任に必要な「正当な理由」の典型例と裁判例

前述のとおり、株主総会で解任決議が可決されて、取締役が任期の途中で解任された場合には、解任に正当な理由がない場合を除き、その取締役は会社に対して損害賠償請求ができると定められています(会社法第339条2項)。そのため、正当な理由の有無は、会社が損害賠償責任を負うか否かの重要なポイントとなります。ここでは、正当な理由として認められる典型的な例や裁判例をご紹介します。

1. 取締役の職務遂行上の法令・定款等に違反したこと

取締役の解任時に正当な理由として認められる典型例として、取締役が職務を遂行するにあたり、法令や定款に違反したことが挙げられます。例えば、業務上横領や背任などの違法行為により会社の財産を費消した場合や、取締役が社内の情報を外部へ流出させたような場合があたります。取締役は株主から会社の経営を委任されている立場であり、会社に対して善管注意義務及び忠実義務法令を負う立場にあるため、法令・定款違反が解任の正当な理由にあたるのは当然といえます。

また、社内で規定された行動規範や倫理綱領に違反したことも、正当な理由として認められる余地があります。
一般的に、会社を代表する取締役などの役員には高い倫理性が求められており、社内規定で役員に対する厳しい行動規範を定めている企業もあります。2019 年11月、米国の大手ファストフードチェーンとして知られるマクドナルドの最高経営位責任者(CEO)の解任が報道され、日本でも話題になりました。報道によると、解任の理由は当該CEOが従業員と関係を持ったところ、このことが社内規定に違反していたからとのことでした。
日本人の感覚としては少し厳しすぎるように感じられるかもしれませんが、アメリカでは役員や管理職に対して社内恋愛を禁止する社内規定を設けている企業は多いです。幹部クラスの社内恋愛は社内の風紀を乱す場合もありますし、重大な企業秘密の漏洩につながる可能性もあるからです。日本でもグローバル化が進み、コンプライアンスの意識も高まっているため、今後は社内恋愛禁止の規定を設ける企業も増えるかもしれません。

2.病気により業務に支障を来す場合

取締役が病気を患ったために職務を遂行できなくなった場合も、取締役解任の正当な理由として認められる場合があります。持病の悪化により療養に専念することを余儀なくされた取締役の解任について、「正当な理由がないとはいえない」とされた裁判例もあります(最高裁判所昭和57年1月21日判決)。

ただし、病気が正当な理由として認められるのは、病気の治療のために長期の療養が必要になるなど、取締役としての職務が遂行できなくなった場合に限られます。もっとも、職務が遂行できないレベルか否かという判断が難しい場合もありますので、本人が辞任に応じる余地がある場合は、本人と話し合う機会を設けて辞任届を提出してもらう方が良いでしょう。

3.著しい経営能力の欠如が認められる場合

取締役として業務を遂行するための能力が著しく欠如している場合も、取締役を解任する正当な理由として認められる可能性があります。
実際、経営能力の欠如を理由とする取締役の解任に関する判決で正当な理由が肯定された事案もあります(横浜地方裁判所平成24年7月20日判決)。これは、ボウリング事業を展開させるために就任した取締役の就任から約1年の間の収益が7万円のみで、収益を上げるための努力も認められなかったという事案です。裁判では、取締役の経営能力不足が解任のための正当な理由として認められるかが主な争点となりましたが、裁判所はこれを正当な理由として認めました。

この裁判例のように、経営能力の不足により、会社に大きな損失を与えたなどの事実がある場合は認められる可能性が高いかもしれません。ただし、取締役としての能力が著しく欠如しているかどうか客観的な判断が難しい場合も多々あります。派閥争いなどで取締役を解任したい場合にも、理由として能力不足を挙げるケースは多いですが、客観的な視点から証明できなければ、認められる可能性は低いでしょう。

取締役辞任・解任の際の注意事項

取締役の辞任・解任にあたり、特に注意が必要な点について説明します。

1.辞任の場合は後任者を決めておくこと

退任させたい取締役を説得して辞任してもらう場合、後任者を決めておくことが大切です。取締役の辞任により、法定の取締役の人数を満たさなくなる場合、後任者が就任するまでの間は、会社法第346条1項により辞任した取締役が、辞任後も取締役としての権利義務を有することになり、退任する取締役の辞任の登記も受理されないからです。
法定の取締役の人数は、原則として取締役会設置会社の場合は3名以上、取締役会非設置会社では1名以上です。辞任により取締役の人数が欠ける場合、次の取締役を速やかに選任する必要がある点は認識しておきましょう。

2.登記簿に解任の事実が記載されることによる影響

取締役を解任する場合に注意したい点は、代表取締役が解任された事実が、取締役の退任原因として商業登記簿に記載されることです。登記簿に記録されるということは、信用調査等で登記事項証明書を取り寄せられた場合に、取締役の解任の事実が明らかになるということです。

取締役解任の記録があることにより、取引先や金融機関から社内に派閥争いなどの紛争があり、場合によっては経営が不安定な状態だと判断される可能性もあります。取引先から経営が不安定だと判断されると取引を見送られる可能性もありますし、金融機関からは融資を打ち切られる可能性もあります。

まとめ

今回は、取締役の解任と辞任の違い、取締役を解任する手順、取締役解任に必要な「正当な理由」の典型例と裁判例、トラブルを避けるために注意すべきポイントなどについて解説しました。

取締役の解任は将来的なリスクを伴う行為なので慎重に進めましょう。

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執筆者 弁護士後藤 亜由夢 東京弁護士会 登録番号57923
2007年早稲田大学卒業、公認会計士試験合格、有限責任監査法人トーマツ入所。2017年司法試験合格。2018年弁護士登録。監査法人での経験(会計・内部統制等)を生かしてベンチャー支援に取り組んでいる。
得意分野
企業法務、会計・内部統制コンサルティングなど
プロフィール
青森県出身 早稲田大学商学部 卒業 公認会計士試験 合格 有限責任監査法人トーマツ 入所 早稲田大学大学院法務研究科 修了 司法試験 合格(租税法選択) 都内法律事務所 入所 東京スタートアップ法律事務所 入所
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社