著作権の侵害をした場合、された場合の対処法
全国20拠点以上!安心の全国対応
記事目次
「自分のマンガが盗用された!」、「他社のwebコンテンツを知らずに勝手に利用していた」などの行為をしてしまったような場合に、著作権を侵害したとしてトラブルになることがあります。
常識的に他人のコンテンツを自分のものかのように利用してはいけない、という事は想像つきます。でも実際に「著作権」というとどんな権利が保護されていて、具体的に何をして良いのか、何をしてはいけないのか、といったことについて正確に把握するのは難しいですね。
そこで、このページでは、著作権とは具体的にどのようなものなのか、著作権を侵害するとはどのようなことを言うのか、及び著作権を侵害しないためにはどのような注意が必要なのかについて述べます。
著作権の概要
まずは、著作権の概要について知りましょう。
著作権は、著作権法という法律がベースとなった権利です。
著作権法の歴史は古く、日本では1896年に制定された「出版条例」において保護された権利ですが、1899年の「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」への加盟に合わせて旧著作権法が制定され、1970年にこの旧著作権法の全部を改正して現在の著作権法に至っています。
著作権は、著作物に関する著作者の権利のことで、著作権法の第2章に規定されている権利を言います。
著作物・著作者という用語が出てきましたが、この用語についてはこの著作権法で規定されています。
著作物とは、著作権法2条1号で「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされており、著作者とは「著作物を創作する者」とされていいます。
事業者が著作権侵害をしたときのリスクを知る
著作権侵害の詳しい内容を知る前に、著作権を侵害した者に対しては、どのようなペナルティが課されるリスクがあるのかを知りましょう。
1. 著作権侵害に対する民事上の責任
著作権の侵害をする事によって、民事上の責任を負わされます。具体的には以下の通りです。
損害賠償請求
著作権の侵害をした場合には、民法709条所定の損害賠償請求がされることになります。
最近の事例では、漫画を無料で読めるようにした海賊版の公開先サイトへ誘導する「リーチサイト」というものを作成していた者に対して、約1億6,000万円の損害賠償請求を求める訴えがされています。
当然ながら損害賠償請求に応じない場合には個人の財産を差押えすることになります。
また、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求であると裁判で判断されれば、自己破産手続でも免責されない債権となり、消滅時効が成立しない限りは請求がつきまとうことになります。
差止
著作権侵害がインターネット等で公開をすることによって発生している場合には、その行為の差止めを行うことになります。
裁判で掲載中止を命じられた場合でも自動で消えるわけではないので、「掲載を続ける場合には○○円の支払義務が発生する」という形での強制執行(間接強制)をする必要が出てくる場合もあります。
謝罪広告
著作者に保護される著作者人格権の侵害をした場合には、名誉・声望を回復するための措置をするように請求する権利があります(著作権法第115条)。
その措置として、例えば謝罪広告を掲載するように求めることができます。謝罪広告は、新聞紙面上で行われるものを指すことが多いですが、それ以外に、ホームページのトップページ等に謝罪の文章を記載するように求められることなども考えられます。
2. 刑事責任
「お金を支払えばそれで終わりなのか?」というと、そういうわけではなく、悪質なものについては刑事責任が問われることになります。
著作権法109条が適用されると、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金刑が法定されており、これは併科することができます。
10年以下の懲役刑というのは、刑法でいうと窃盗罪・業務上横領罪と同等のものです。
また、法人の違反行為があった場合には、法人に最大3億円の罰金を課される可能性もあります。
たとえば、2019年7月17日には、教員向けの指導書13冊を約1年間にわたって無断で複製し販売していた男性に対して、懲役1年6ヶ月、執行猶予3年、罰金80万円の有罪判決が言い渡されました。
3. 報道がされるなど社会的責任
上記のような著作権侵害行為がされると、新聞やニュースなどで大きく報じられることがあります。
報道により会社にマイナスのイメージがついてしまうと、企業間での取引・金融機関からの融資・人材の採用などに不利に働くことが想定されます。
著作権の侵害行為は企業にとって致命的な行為になりかねないという事を知りましょう。
著作権侵害といえる要件
それでは、どのようなことを行うと「著作権侵害」といえるのでしょうか。
著作権侵害といえるためには、5つの要件が必要とされています。
1. 侵害の対象が著作物であること
著作権は著作物を守るものですので、侵害されている対象が「著作物」でなければなりません。
対象が工業デザインのようなものであるような場合には、原則としては意匠法違反を主張すべきものになるので気を付けましょう。
2. 著作権の存在すること
侵害の対象が著作物であっても、著作権が存在することが必要です。
著作権については登録などの制度がありますが、それらの制度が著作権の成立に影響することはなく、著作権は著作物を作成した段階で発生する権利です。
ただし、著作権は一部の例外を除き、創作者の死後70年で消滅することになっています(著作権法51条~54条)。
たとえば、モーツァルトやバッハなどの曲については、著作権の存続期間にないため、曲を使ったとしても著作権侵害にはなりません。
また、日本の著作権法が適用される著作物でなければなりません。
3. 依拠性がある
依拠性というのは、すでに発表されている著作物を参考にして作られたものである、という事を意味します。
偶然に一致をしたような場合には、著作権を侵害したとはいえないとされています。
4. 類似性がある
当然ながら、著作物に類似したといえるようなものでなければならないのが、類似性の要件です。
5. 権限なく著作物を利用している
以上の要件を満たす場合でも、著作権者が他人に対して利用許諾をしているような場合には、当然ながら著作権の侵害には該当しません。
ですので、利用者が著作権者からの使用許諾を得ていないことも、著作権侵害の要件となります。
著作権侵害をしないためには
では、著作権侵害をしないために、企業がすべき対策はどのようなものでしょうか。
1. 社員教育を行う
当然ながら、著作権侵害をしないための社員教育は必須です。
とはいえ、何も弁護士などの法律専門家並みの理解を求める必要はありません。専門家が学習するように、難解な法律の専門書を読み込ませるのも効率的なものであるとはいえません。
自社の業務で著作権・著作物当をどのように扱っているかを理解・定義した上で、著作権法に抵触する行為がある可能性がある業務に即した知識を教育することによって、効率的に役員・従業員に周知を図るようにしましょう。
研修などで行われる従業員教育においては、著作権法も含めた関係法律に関する教育は必須でしょう。
特に、侵害行為に直接かかわるような部署に配属される人については、配属前に研修を受けさせ、確認テストをするなどして、実践的な知識が備わっていることを確認するのが望ましいといえるでしょう。
また、著作権に関する理解を促すために、著作権に関する資格の取得をした者に対してインセンティブを与えるなども有効な方法です。
著作権に関しては、ビジネス著作権検定、知的財産管理技能士、ビジネス実務法務検定、弁理士などの資格が関連しています。
よくある方法としては、取得した者に一時金を与える、月給を上乗せする、一定の昇進条件として取得をさせる、などの方法があります。
2. 社内体制
著作権法をはじめ、著作権に関連する法令を頭に入れて行動するのは、多くの場合困難が伴います。
会社の業務には様々な立場の人が関わっており、すべての人が著作権周りの法令をきちんと理解し、遵守してくれるとは限りません。
ですので、法令の完璧な理解を求めるのではなく、著作権侵害をしない社内体制を構築する、ということを徹底する事が必要であると考えます。
たとえば、webコンテンツの公開にあたって外部ライターを利用している場合には、記事の納品の際にはコピペチェックツールを利用して著作権侵害がないかどうかを確認し、疑われるものについては目視での記事のチェックを行うような業務フローを徹底することを行います。
また、第三者から提供された写真などの著作物を利用する際には、事前にその第三者が別の第三者にその著作物の著作権を譲渡していないことを誓約させるなどして、知らず知らずに第三者の著作権を侵害してしまう行為が発生しないようにしておくことが考えられます。
このような社内体制の構築にあたっては、自社のどのような業務に著作権侵害の可能性があるのかを判断してもらうため、後述する著作権に関する専門家に相談をしておく必要があります。
著作権侵害をされた場合
逆に、著作権侵害をされた側の立場になった場合に、侵害者に対して何を言うことができるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
1. どんな法律関係になるのか
まず、法律上はどんな主張が、どんな根拠によって行うことができるのかを知りましょう。
著作権は法律上保護されるべき権利ですので、その権利を侵害した者に対しては、民法709条に法定されている不法行為による損害賠償請求をすることができます。
損害賠償請求をするにあたっては、「いくらの損害が発生しているのか?」という損害額の算定を自分でしなければなりません。
そして、ほとんどのケースではそもそも損害が発生しているか、その額が妥当なものなのかが争いになります。裁判に発展した場合には原則として請求をする側で請求金額の根拠について主張・立証をしなければなりません。
ただし、著作権の侵害をされた場合には、損害の額に関する推定の規定があるので(著作権法114条)、その金額での請求をするのが基本になります。
もし証拠が出せないような場合でも、推定されると立証責任が加害者にうつることになるので、加害者が反証(損害の不発生を立証)できない場合には、推定規定に基づく損害額が認定されることになります。
もしこれらの推定規定に規定された以上の損害が出ていると主張するのであれば、具体的な立証が必要です。
また、著作権法112条を根拠に、これ以上侵害をしないように差止めの請求をすることもできます。
2. 手続を知る
では、実際に著作権侵害がされている場合には、どのようにして相手に請求をしていくのでしょうか。
内容証明郵便の送付などによる任意の請求
まずは、相手が任意に金銭の支払い、侵害行為をやめるのを促すことが考えられます。
口頭での交渉が奏功する場合もないわけではありませんが、請求の内容や、請求したという事実を書面に残しておくことが大切です。
書面での交渉の方法としては、実務的では「内容証明郵便」という郵便法に規定のある特別な郵便物を利用することが多いです。
内容証明郵便とは、送った内容の文書が、いつ、誰から誰に向けて差し出されたかを日本郵便株式会社が証明してくれるサービスです。
内容証明郵便自体に特別な法律上の効果があるわけではないですが、内容証明郵便は定められた様式で、厳しい文言での請求をすることが多く、しかもその内容の請求を行ったということ自体が記録として残るため、相手への威圧になります。
裁判手続による紛争解決
任意での支払いや差止めに応じない場合には裁判を行う必要が出てきます。
裁判は、管轄の裁判所への訴状を提出することによって行います。
140万円以下の金銭請求を行うのみの場合には、簡易裁判所が管轄になります。
140万円を超える請求をする場合や、差止めを求める場合には地方裁判所が管轄になります。
請求にあたっては相手方の住所地を管轄する裁判所に提起するのが通常ですが、不法行為が行われた場所での提起も認められます。
裁判をすると判決をもらう、というイメージが強いかもしれませんが、多くの裁判は「和解」という形で双方が歩み寄る形で終わるのが通常です。
和解や判決で終わると、その内容について書面(和解調書・判決正本)が作成されますので、相手から支払いがない場合には、それらを使って強制執行をすることになります。
刑事告訴
著作権侵害の内容が著作権法所定の刑罰規定に触れる場合には、刑事告訴も検討しましょう。
犯罪被害を受けた場合には、被害届の提出や刑事告訴というものが一般的に知られています。
この2つには違いがあり、被害届は単なる被害を受けたことの報告であるのに対して、刑事告訴は処罰を求める意思表示として刑事訴訟法に規定されています。
ただし、現実には警察はこの告訴を受理しないことも少なくありません。
著作権侵害に関する専門家
著作権侵害からの回復をするためには専門家の力を借りることも選択肢なのですが、著作権侵害に対応してくれる専門家にはどのような人がいるのでしょうか。
1. 弁護士
著作権侵害に関する損害賠償請求や差止めを求める行為は、弁護士法72条所定の「法律事務」にあたりますので、報酬を得て代理行為を行うことができるのは、基本的には弁護士だけになります。
ただし、弁護士にも得意分野と不得意分野があり、著作権をはじめとする知的財産権に関しては企業法務に携わっている弁護士や、知的財産権に強い弁護士が対応してもらうことをお勧めします。
2. 弁理士
特許権や商標権など知的財産権に関する専門家としてのイメージの強い弁理士ですが、特許の出願サポートなどの業務を行うことが想定されており、著作権の侵害に関しては力を入れて取り組んでいるわけではないことも多いので注意が必要です。
まとめ
このページでは著作権侵害についての基礎知識についてお伝えしてきました。
インターネットの普及にともない、著作物を扱う機会が増えたことに伴って、著作権侵害、もしくはその疑いがあるケースが増加してきています。
著作権を侵害する行為をしてしまうと、大きな額の損害賠償責任や、罰金などの刑事罰が課される可能性があります。
著作物を取り扱う企業は、専門家に事前に相談し、著作権侵害が起こらないように注意深く事業を進めていくことが肝要です。
- 得意分野
- ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
- プロフィール
- 京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設