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更新日: 投稿日: 代表弁護士 中川 浩秀

実用新案権とは|特許権・意匠権との違い、侵害された時の対処法を解説

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昨今、知的財産権の重要性が高まっています。インターネットを通じて、世界中から製品の技術や開発に関する知識を得やすくなりましたが、一方で自社が有している知的財産権が侵害されるリスクも増大しているのが実情です。

知的財産権の中でも、実用新案権は、特許権などと比較して安価でかつ短期間で権利を取得しやすいというメリットがありますが、保護される期間が短い等のデメリットもあります。自社の発明や考案を保護するためには、どの知的財産権を取得するかという判断も重要です。

今回は、実用新案権と特許権や意匠権との違い、実用新案権の身近な例、実用新案権の保護対象と保護期間、実用新案権の登録出願の流れと費用、実用新案権が侵害された場合の対処法と注意点、実用新案権侵害の事例などについて解説します。

実用新案権の定義と役割

最初に、実用新案権の定義と役割について説明します。

1.実用新案権とは

実用新案権とは、自然法則を利用した技術的アイデアのうち、物品の形状、構造または組み合わせに関する考案を保護するための権利です。特許庁に考案を実用新案出願し、審査を通過した後に登録することで、権利を取得できます。
考案とは、自然法則を利用した技術的思想の創作、つまり、経験的に見いだされる科学的な法則を利用した、第三者に伝達できるアイデアのことをいいます。実用新案権は、考案の中でも、物の形態に関する工夫を保護するものです。

2.実用新案権の役割

実用新案権を取得すると、その考案を独占的に生産、使用、販売することが可能になります。また、実用新案権が侵害された場合には、侵害者に対して差止めや損害賠償を請求できます。
自社が製造・販売する商品を他社が真似した模倣品が市場に出回ると、消費者から正規品と誤認され、自社製品の売上が減少する、商品や企業のブランドイメージが毀損されるなどのおそれがあります。そのようなリスクから自社を守るためには、実用新案権等の知的財産権を取得することは非常に大切です。

実用新案権と他の知的財産権との違い

実用新案権以外にも知的財産権には様々な種類がありますが、実用新案権と他の知的財産権にはどのような違いがあるのでしょうか。知的財産権の種類や、実用新案権と類似点が多い意匠権や特許権との違いについて説明します。

1.知的財産権の分類

知的財産権は、人間が創造的活動によって生み出した成果について、一定期間、独占権を与えるものです。知的財産権の代表的な権利は以下のとおりです。

  • 実用新案権:自然法則を利用した技術的アイデアのうち、形状、構造、組合せの工夫を保護する権利
  • 特許権:自然法則を利用した技術的アイデアのうち、新規かつ高度な発明を保護する権利
  • 意匠権:見た目で判断できる、独創的な物品の形状、模様、色彩等のデザインを保護する権利
  • 商標権:商品やサービスを区別するために使用する、文字や図形などのマークを保護する権利
  • 著作権:思想や感情等を創作的に表現した著作物を保護する権利
  • 商号:法人格を表現するための名称を保護する権利
  • 営業秘密:顧客リストやノウハウなどの営業秘密
  • 回路配置権:独自に開発された半導体の回路配置を一定範囲で独占的に利用できる権利
  • 育成者権:種苗法に基づいて登録した植物の新品種を育成者が独占的に利用できる権利

上記の知的財産権のうち、特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを産業財産権といい、特許庁が所管しています。

2.実用新案権と意匠権の違い

意匠権は、物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合、建築物の形状または画像であって、視覚を通じて美感を起こさせる意匠を保護する権利です。
意匠とは、物品・建築物・画像の、形状・模様や色で構成されるデザインのことをいいます。特許庁に意匠を意匠登録出願し、審査を通過した後に登録することにより、権利を取得できます。

実用新案権も意匠権も、物品の形状に関する権利である点は共通しています。しかし、実用新案権は、物品の形状に関する自然法則による技術思想の創作、つまり製品に関する工夫を保護する権利なのに対し、意匠権は、物品の形状に関する視覚的なデザイン、つまり製品の外見の美しさを保護する権利であるという点で異なります。

3.実用新案権と特許権の違い

特許権は、自然法則を利用した技術的アイデアのうち、新規かつ高度な発明を保護する権利です。発明に該当するか否かは、新規性・進歩性・産業上の利用可能性があるかという視点から総合的に判断されます。特許庁に特許を出願し、審査を通過すれば、特許料を支払うことにより、特許権を取得できます。

実用新案権と特許権は、自然法則を利用した技術的アイデアであるという点では共通しています。しかし、実用新案権と特許権は以下のような点で異なります。

物品の形状、構造又は組合せ、プログラムを含む物や方法

実用新案権 特許権
技術的レベル 技術的に高度である必要はない 技術的に高度である必要がある
保護対象 物品の形状、構造又は組合せ 物品の形状、構造又は組合せ、プログラムを含む物や方法
審査の内容 形式的・基本的審査のみ 審査請求手続による実体的な審査
権利化までの期間 6か月程度 最短でも1年以上

実用新案権の身近な例

実用新案権は、小発明と呼ばれることもあり、ちょっとしたアイデアや発明を保護する権利ということができます。
そのため、生活用品が実用新案権の対象になりやすく、具体的な事例は身近にも多くあります。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 開けやすいペットボトルの蓋
  • 使い捨てウェットティッシュを装着できるモップ
  • 朱肉のいらない印鑑(シャチハタ印)
  • 消しゴム付きの鉛筆

ペンを例に他の知的財産権と比較すると、以下のような商品が想定されます。

  • 実用新案権:指にフィットして持ちやすい六角形のペン
  • 意匠権:流線型の美しいペンのデザイン
  • 特許権:こすれば消せるインクを利用したペン

実用新案権の保護対象と保護期間

実用新案権で保護される対象や保護期間には限りがあります。保護対象と保護期間について説明します。

1.保護対象となる条件

実用新案権で保護されるのは、産業上利用可能な物品の形状、構造または組合せに係る考案、製品の形状に関する工夫です。
この条件を満たさない以下のようなものは実用新案権の保護の対象とはなりません。

  • 方法の創作(マシンや新薬の製造方法、ホームランを打つ方法など)
  • 化合物自体の創作
  • 美術品の創作

また、実用新案権を取得するためには、考案について特許庁に実用新案を出願し、審査を通過した後に登録する必要があります。特許権の審査は、新規性があるか、高度であるか、産業場利用できるか等の内容面まで含めた実体的な審査であるのに対し、実用新案権の審査は、様式のチェック(方式審査)と、実用新案権の保護対象であるかどうかのチェック(基礎的要件の審査)にとどまるのが特徴です。

2.保護期間は10年間

実用新案権は、出願日から10年が経過するまで保護されます。ただし、実用新案権として保護され続けるためには、毎年登録料を特許庁に納付する必要があります

なお、特許権の場合は、出願日から20年が経過するまで存続します。特許料を毎年納付する必要がある点は実用新案権と同じです。
前述した通り、実用新案権は実体審査を行わないため権利化が早い一方、特許権と比較して権利の保護期間が短いので、サイクルが早い技術に利用されるケースが多いです。これは、実用新案権が日用品に用いられることが多い理由の一つともいえます。

実用新案権の登録出願の流れと費用

実用新案権は、特許庁に実用新案登録を出願し、審査を通過後に登録することにより、権利として付与されます。具体的な流れと必要な費用を時系列で説明します。

① 実用新案登録出願
出願者が「実用新案登録願」に、明細書、図面、要約書を添えて、特許庁長官に提出します。実用新案の出願では、図面の提出は必須です。出願は、弁護士や弁理士が代理して行うことも可能です。
なお、出願する際には、出願料(14,000円)と3年分の登録料を同時に納付する必要があります。3年分の登録料は(2,100円+請求項の数×100円)で計算します。
② 方式審査・基礎的要件審査
特許庁は、提出された書類に不備がないか等の形式的な要件、出願対象が物品の形状、構造又は組み合わせについての考案であるか等の基礎的な要件を満たしているかについて審査されます。
③ 補正命令
上記の、提出書類や基礎的要件に不備があった場合は、特許庁は出願者に補正命令を出します。出願者が補正命令に応じない場合は、出願は却下されます。
④ 手続補正
出願者は、出願書類の内容を訂正または補充することができます。
⑤ 設定登録
出願に際して提出した書類や基礎的要件に不備がない場合、特許庁により実用新案が設定登録され、実用新案権が発生します。
⑥ 実用新案公報発行
実用新案権の内容は、「実用新案公報」に掲載されて、一般に公開されます。

このように、実用新案権の出願については、方式審査・基礎的要件審査のみが行われ、新規性や産業上の有効性等について審査されることはありません。そのため、通常は、出願から約6か月という短い期間で実用新案権を取得することが可能です。

なお、特許権の場合は、実質的な要件まで審査されるため、出願してから早くて1年、通常は1年半~2年程度かかります。また、特許の出願に際しては、出願とは別に審査請求料(138,000円+請求項の数×4,000円)がかかります。

上記に記載した産業財産関係に係る手数料は、将来、変更される可能性もあります。最新の情報を知りたい方は特許庁の公式サイトでご確認ください。

実用新案権が侵害された場合の対応と注意点

実用新案権が侵害された場合、侵害者に対して差止めや損害賠償を請求することが可能です。差止めや損害賠償を請求する際の条件や注意点などについて説明します。

1.差止めや損害賠償を請求する際の条件

差止めや損害賠償を請求するためには、事前に実用新案技術評価書を特許庁から取り寄せた上で、警告を行う必要があります(実用新案法第29条の2)。実用新案技術評価書とは、考案の新規性や進捗性などを特許庁の審査官が評価した書類のことをいいます。

2.差止請求

権利者は、侵害者に対して、今後は実用新案権を侵害する製品の製造や販売等をしないよう、差止めを請求することが可能です。また、差止請求と同時に、既に製造された侵害品の廃棄等も求めることができます(除却請求)。差止請求により、他社が製造した模倣品が市場に出回り、自社のブランドイメージを毀損されるリスクを軽減できます。

3.損害賠償請求

権利者は、侵害者に対して、実用新案権を侵害されたことにより生じた損害について、賠償を請求することができます。損害賠償請求に加えて、新聞に謝罪広告を掲載する等の信用回復のための対応を請求することも可能です。
ただし、損害賠償を請求する際には、侵害者が権利を侵害したことを知っていた(故意)または不注意で知らなかった(過失)ことが必要です。
特許権や意匠権の侵害については、特許法で以下のように定められています。
“他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する(同法第103条)“
企業が新しい製品やサービスを開発する際は、開発に用いる技術や製造方法等が他社の権利を侵害しないか調査する義務があるとされています。そのため、「既に特許権が登録されているとは知らなかった」等の言い分は通用せず、侵害者側が自身に故意・過失がなかったことを証明しなければ損害賠償の責任を免れることはできません。これを、過失の推定といいます。
しかし、実用新案権の場合、過失の推定は適用されません。そのため、実用新案権が侵害されたことを理由に損害賠償を請求する場合は、権利者側が、侵害者に故意・過失があったことを証明する必要があります。

実用新案権侵害の事例

実用新案権の侵害が主張されて争われた事例を二つご紹介します。

1.足先支持パット事件

最初にご紹介するのは、足先支持パット事件(大阪地方裁判所平成28年3月17日判決)です。この事件では、侵害者が製造・販売したボディメイクパッドが、権利者の足指間パッドの実用新案権の技術的範囲に含まれるとして、商品の製造、販売等の差止め、廃棄と、実用新案権侵害に基づく損害賠償が請求されました。
裁判では、侵害者のボディメイクパッドの特性は権利者の考案の本質的部分に属する等として、実用新案権の侵害が認められ、差し止めと1億6,000万円を超える損害賠償の支払いが認められました。また、この事件では、商標権の侵害も認められています。

2.目隠しシール事件

次にご紹介するのは、目隠しシール事件(東京地方裁判所平成13年10月29日判決)です。この事件では、侵害者である国(社会保険庁)が、年金の支払通知ハガキ等の表面に目隠しシールを使用していることが、権利者の考案である文字隠蔽用複層化アタッチメントの実用新案権を侵害するとして、損害賠償が請求されました。
裁判では、既に世間で知られている技術を組み合わせて文字隠蔽用複層化アタッチメントを考案することは簡単なので、権利者の考案は規定に違反して登録されたので実用新案権は無効となる理由があり、損害賠償を請求することは権利の濫用にあたり認められないと判断されました。

実用新案権は、特許権や意匠権に比べると出願件数が少なく、2019年の出願件数は、特許権が307,969件、意匠権が21,489件であるのに対し、実用新案権は5,241件でした。しかし、実用新案権も、足先支持パッド事件のように、侵害の差止めや高額な損害賠償請求を認めてもらえる可能性はあります。

弁護士に実用新案権の相談をするメリット

実用新案権は、知的財産権の一つとして独占的な権利を持ち、侵害された場合には差止請求や損害賠償請求をすることもできる権利です。また、特許権よりも少ない費用で短期間に権利を取得できるというメリットもあります。一方で、侵害に対して対抗しようとする場合は、事前に実用新案技術評価書を取り寄せて警告を発しなければいけない、特許権の半分である10年で期間が切れるなどのデメリットもあります。
そのため、権利の取得にかけられる期間、金銭的な負担、権利の保護が必要な期間など、多角的な観点から考察し、どの知的財産権として保護を受けるべきかを決めることが重要です。

企業法務や知的財産権に精通した弁護士に相談することにより、自社内で考案されたアイデアや製造方法等について、どの知的財産権として保護を受けるべきか、的確なアドバイスを受けることが可能です。また、出願の際の手続上の要件についてリーガルチェックを受けることも可能です。さらに、自社の知的財産権が侵害された場合には、侵害の排除のための法的措置に関するアドバイスを受ける、訴訟の代理人を依頼するなど、全面的なサポートを受けることができます。弁理士も知的財産権を扱う専門家ですが、訴訟に対応できるのは弁護士だけです。

まとめ

今回は、実用新案権と特許権や意匠権との違い、実用新案権の身近な例、実用新案権の保護対象と保護期間、実用新案権の登録出願の流れと費用、実用新案権が侵害された場合の対処法と注意点、実用新案権侵害の事例などについて解説しました。

自社独自のアイデアや製造方法等を知的財産権として適切に保護することは、自社製品の模倣品が市場に出回るリスクを防ぎ、企業の信頼性を維持することにもつながります。どの知的財産権を取得すべきか迷う場合は知的財産権や企業法務に精通した弁護士に相談することをおすすめします。

我々東京スタートアップ法律事務所は、豊富な企業法務の経験を生かし、各企業の状況や方針に応じたサポートを提供しております。実用新案権、特許権、意匠権などの知的財産権に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡をいただければと思います。

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執筆者 代表弁護士中川 浩秀 東京弁護士会 登録番号45484
2010年司法試験合格。2011年弁護士登録。東京スタートアップ法律事務所の代表弁護士。同事務所の理念である「Update Japan」を実現するため、日々ベンチャー・スタートアップ法務に取り組んでいる。
得意分野
ベンチャー・スタートアップ法務、一般民事・刑事事件
プロフィール
京都府出身
同志社大学法学部法律学科 卒業
同大学大学院 修了
北河内総合法律事務所 入所
弁護士法人アディーレ法律事務所 入所
東京スタートアップ法律事務所 開設
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
『スタートアップの人事労務ガイド』中央経済社